外交青書・白書
第2章 しなやかで、揺るぎない地域外交

第7節 中東と北アフリカ

1 概観

中東・北アフリカ地域(以下「中東地域」という。)は、欧州、サブサハラ・アフリカ、中央アジア及び南アジアの結節点という地政学上の要衝に位置する。世界の石油埋蔵量の約5割、天然ガス埋蔵量の約4割を占め、世界のエネルギーの供給地としても重要であることに加え、高い人口増加率も背景に、湾岸諸国を中心に経済の多角化や脱炭素化を進めており、市場としても高い潜在性を有している。

同時に中東地域は、歴史的に様々な紛争や対立が存在し、今も多くの不安定要因・課題を抱えている。近年では、イスラエルと一部のアラブ諸国との国交正常化を始め、域内で関係改善に向けた情勢の変化が見られていたが、10月に発生したハマスなどによるイスラエルに対するテロ攻撃を発端とする一連の動きにより、イスラエル・パレスチナ問題の不安定性が再び顕在化した。人質の即時解放、ガザ地区の危機的な人道状況の改善、そして事態の早期沈静化が急務となっており、日本も、関係国と緊密に連携しつつ、人道支援や外交上の働きかけなど、精力的に取り組んでいる。

ほかの一部の国・地域においても、緊張関係や厳しい人道状況が根強く残っている。近年は、イランをめぐり地域の緊張が高まっていることに加え、シリアにおける内戦も終息せず多くの難民・国内避難民が生まれ、周辺国を含む地域全体の安定に大きな影響を及ぼしている。イエメンにおいても、イエメン政府、ホーシー派などの当事者間で4月に全土での一時的な停戦が実現したものの、10月にはこれが失効し、厳しい人道状況が継続しているほか、11月以降、紅海を始めとするアラビア半島周辺海域を航行する民間船舶に対するホーシー派による攻撃が相次いで発生している。前述のイスラエル、パレスチナ情勢の飛び火により、更にこれらの事態が悪化し、地域が一層不安化することも懸念されている。さらに、アフガニスタンでは、2021年8月のタリバーンによるカブール制圧以降、深刻な人道状況が更に悪化している。

2021年1月に成立した米国のバイデン政権は、特に直近においては、ガザ情勢をめぐる地域の緊張の高まり、危機的な人道状況への対応に向け、イスラエルを始めとする関係国への働きかけなど、精力的に取り組んでいる。また、中国も中東地域との関係強化を進めており、3月には、同国の仲介により、2016年以降断交状態にあったイランとサウジアラビアが外交関係の正常化に合意したことが発表された。

日本は、原油の9割以上を中東地域から輸入しており、日本の平和と繁栄のためにも、中東地域の平和と安定を促進し、中東地域諸国との良好な関係を維持、強化していくことが、極めて重要である。こうした観点から、日本は、近年、経済、政治・安全保障、文化・人的交流を含めた幅広い分野で、中東地域諸国との関係強化に努めている。岸田総理大臣は7月にサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)及びカタールを訪問した。各国首脳などとエネルギーや脱炭素分野を始めとする様々な分野での協力に加え、地域・国際情勢や二国間関係など、幅広い議題について議論した。林外務大臣は9月にヨルダン、エジプト及びサウジアラビアを訪問した。エジプトでは二国間行事に加えて、第3回日・アラブ政治対話を開催し、アラブ連盟加盟21か国・1機関との間で更なる協力強化を確認したほか、地域・国際情勢について意見交換を行った。サウジアラビアでは第1回日・GCC(湾岸協力理事会)1外相会合を開催し、二国間関係のみならず、地域協力機構との関係強化に努めた。また、イスラエル・パレスチナ情勢を受けて、上川外務大臣は10月にエジプトを訪問してカイロ平和サミットに出席11月にはイスラエル、パレスチナ及びヨルダンを訪問し、12月にはジュネーブでイランヨルダンレバノンと外相会談を実施し、事態の早期沈静化、一般市民の安全確保や人道状況の改善に向けて各国との間で会談を行い、地域の安定に向けた緊密な連携を確認した。加えて、ウクライナ情勢を受けてエネルギー市場が不安定化する中、湾岸諸国に対しては、電話会談も含め、国際原油市場の安定化に向けたハイレベルでの働きかけを繰り返し行った。

第1回日・GCC外相会合に出席する林外務大臣(9月7日、サウジアラビア・リヤド)
第1回日・GCC外相会合に出席する林外務大臣
(9月7日、サウジアラビア・リヤド)

2023年には、トルコ南東部を震源とする地震(2月)モロッコ中部における地震(9月)リビア東部での洪水(9月)アフガニスタン西部における地震(10月)を始めとする複数の自然災害が中東地域において発生し、甚大な被害をもたらした。これらの被害について、日本は国際機関を通じたものを含め、様々な形で人道支援を決定、実施している。

1 Gulf Cooperation Council(GCC)湾岸協力理事会:1981年にサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートによって設立された。防衛・経済を始めとするあらゆる分野における参加国間での調整、統合、連携を目的としている。

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