外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

2 中央アジア諸国及びコーカサス諸国など

(1)総論

中央アジア・コーカサス諸国は、東アジア、南アジア、中東、欧州、ロシアを結ぶ地政学的な要衝に位置し、石油、天然ガス、ウランなどの豊富な天然資源を有する。中央アジア・コーカサス諸国を含む地域全体の安定は、テロとの闘い、麻薬対策といった国際社会が直面する重要課題に取り組んでいく上でも高い重要性を有する。日本はハイレベルの対話などを通じてこれら諸国との二国間関係を強化するとともに、「中央アジア+日本」対話の枠組みなどを活用した地域協力促進のための取組を続けている。

2021年は、中央アジア・コーカサス諸国でも新型コロナの感染拡大が続き、人の往来にも影響が出たものの、オンライン形式なども活用して、ハイレベルでの二国間交流が積極的に行われた。こうした中で2022年は日本と中央アジア・コーカサス諸国の外交関係樹立30周年であり、更なる関係強化の機運が高まっている。

(2)中央アジア諸国

2021年に独立30周年を迎えた中央アジア諸国は、自由で開かれた国際秩序を維持・強化するパートナーであり、日本は、中央アジアの平和と安定に寄与することを目的とした外交を推進している。2022年1から2月には、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタンとの外交関係樹立30周年を迎え、岸田総理大臣と林外務大臣が各国首脳・外相と祝辞を交換した。

「中央アジア+日本」対話5の枠組みでは、3月に第6回専門家会合(クリーンエネルギー)を実施し、中央アジア5か国の実務専門家と日本側関係者との間で意見交換を行った。6月には、第14回高級実務者会合(SOM)をオンライン形式で開催し、中央アジア5か国と域内協力の強化に向けて協議した。SOMでは、2020年8月の「中央アジア+日本」対話・外相テレビ会合以降に日本と中央アジア5か国との間で行われた保健、経済、環境(クリーンエネルギー)分野における協力の成果を確認し、次回外相会合に向けた準備作業を進めることで一致した。

8月のタリバーンによるアフガニスタン制圧を受け、アフガニスタンと国境を接する中央アジア諸国、特にウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンの外交的役割が高まっている。10月にはカミーロフ・ウズベキスタン外相、メレドフ・トルクメニスタン副首相兼外相がそれぞれカブールを訪問した。これら両国は、国境の安定やエネルギー、鉄道などでの南アジア方面との連結性強化を念頭にタリバーンとの対話を行っている。一方、タジキスタンは、タリバーンとの対話には慎重な姿勢を取っている。

日本は、中央アジア諸国に対する国境管理能力強化支援を継続しつつ、8月以降のアフガニスタン情勢の悪化を受けた難民の流入に備える緊急人道支援を行った。また、8月に中西哲外務大臣政務官がカザフスタン及びウズベキスタンを訪問し、カザフスタンではヌリシェフ外務第一次官、ウズベキスタンではウムルザーコフ副首相兼投資・対外貿易相、カミーロフ外相及びサファーエフ上院第一副議長とそれぞれ会談してアフガニスタン情勢についても意見交換を行った。

ウズベキスタンでは、10月の大統領選挙の結果、過去5年にわたり改革路線を進めてきたミルジヨーエフ大統領が再選された。日本との関係では、1月の麻生太郎副総理兼財務大臣とウムルザーコフ副首相兼投資・対外貿易相とのテレビ会談5月の菅総理大臣とミルジヨーエフ大統領との首脳電話会談などハイレベルでの政治対話を活発に実施した。首脳電話会談では、菅総理大臣から、ウズベキスタンはルールに基づく自由で開かれた国際秩序を構築する上での重要なパートナーであり、両国の戦略的パートナーシップの深化・拡大を歓迎すると述べたのに対し、ミルジヨーエフ大統領から、2019年の自身の訪日での合意を全て着実に履行したいとの発言があった。

カザフスタンでは、2022年1月に燃料価格の値上げへの抗議に端を発する集会が全国に広がり過激化し、非常事態宣言が発出された。カザフスタンはロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)に支援を要請し、ロシア軍中心の平和維持部隊が派遣され、その後、事態は沈静化した。この騒乱を機に、ナザルバエフ初代大統領が安全保障会議議長から退任し、トカエフ大統領による大規模な国内改革の取組が強化された。日本との間では、5月に菅総理大臣とトカエフ大統領との間で首脳電話会談を行った。両首脳は、政治・経済など幅広い分野での協力に触れつつ、両国の戦略的パートナーシップ関係を一層強化していくことで一致した。また、同月には大島理森衆議院議長とニグマトゥリン下院議長との間でオンラインでの会談が行われた。

キルギスでは、1月の大統領選挙に勝利したジャパロフ大統領による新政権が成立し、5月の憲法改正により大統領権限が強化された。また、2020年の政変を受けて無効となった議会選挙のやり直し選挙が11月に実施され、政権寄りの政党が多数の議席を得た。日本との関係では、11月の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の際、岸田総理大臣とジャパロフ大統領の短時間の会談が行われ、ジャパロフ大統領から人材育成を始めとする日本からのこれまでの支援に対する謝意が述べられた。

タジキスタンとの関係では、3月にオンライン形式での政務協議を行った。双方は、人材育成や国境管理強化の分野での協力など幅広いテーマについて議論するとともに、両国の良好な関係を更に推進していくことで一致した。

トルクメニスタンとの関係では、5月に菅総理大臣とベルディムハメドフ大統領との間で首脳電話会談を行い、両首脳は日本企業が参画する多くの大型案件が実現し、二国間経済関係が発展していることを歓迎した。7月、2020年東京オリンピック競技大会開会式にベルディムハメドフ副首相が出席し、菅総理大臣との間で会談が行われた。

近年、中央アジア諸国及び周辺国の間では、地域協力の推進に向けた動きが活発化している。2021年には、ユーラシア経済同盟(EAEU)首脳会合(5月、10月)、独立国家共同体(CIS)首脳評議会(5月、10月)、上海協力機構(SCO)首脳会合と集団安全保障条約機構(CSTO)首脳会合(9月)、テュルク諸国機構(11月)など、中央アジア諸国の首脳が出席する会合がオンラインやハイブリッド形式で行われた。

さらに、中央アジア5か国に1か国が加わるフォーマットの外相レベルの会合も活発に行われている。2021年には、米国、EU、中国、ロシア、韓国、イタリア、インドが中央アジア5か国との間でそれぞれ外相級会合を行った。

(3)コーカサス諸国

コーカサス地域は、アジア、欧州、中東をつなぐゲートウェイ(玄関口)としての潜在性と国際社会の平和・安定に直結する地政学的重要性を有している。一方で、ジョージアでは南オセチア及びアブハジアをめぐる問題、アゼルバイジャンとアルメニアとの間ではナゴルノ・カラバフをめぐる問題などが依然として存在する。日本は、2018年にコーカサス地域に対する外交の基本方針として、(1)国造りを担う人づくり支援(人材育成)及び(2)魅力あるコーカサス造りの支援(インフラ支援及びビジネス環境整備)の2本柱から成る「コーカサス・イニシアティブ」を発表し、これに沿った外交を展開している。

ナゴルノ・カラバフ問題に関して、2020年11月のロシア、アゼルバイジャン、アルメニア3か国首脳による停戦合意はおおむね遵守されてきたが、アゼルバイジャンとアルメニアの国境地域では、その後も散発的に銃撃戦が発生している。その一方、OSCEミンスク・グループ共同議長やロシアなどの仲介により、アゼルバイジャン・アルメニア外相会談や首脳会談が実現するなど対話の動きが見られた。日本は、OSCEミンスク・グループを始め、対話を通じ、国際法の諸原則に基づき、両国間の紛争に関連する残された問題が平和的に解決されることを期待するとの立場をとっている。

アゼルバイジャンとの関係では、8月に茂木外務大臣とバイラモフ外相との間で外相電話会談を実施した。両大臣は、新型コロナ対策への国際的な協力について意見交換を行うとともに、2022年の両国の外交関係樹立30周年を機に二国間関係を一層発展させていくことで一致した。

アルメニアとの関係では、7月に東京2020大会開会式に出席するため訪日したサルキシャン大統領と菅総理大臣との間で首脳会談を行い、両国の歴史的なつながりを大切にしつつ、ITを含む経済分野での連携を深めていくことで一致した。アルメニアでは2020年秋のアゼルバイジャンとの軍事衝突を受けて内政が不安定化し、6月に前倒し国民議会選挙が行われた。その結果、現職のパシニャン首相が再選された。

ジョージアは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を構築する上での重要なパートナーである。経済分野では、7月、日・ジョージア投資協定及び日・ジョージア租税条約が発効した。また、10月からは、トゥルナヴァ経済・持続的発展相をオンラインで招へいするプログラムを実施し、日本の企業関係者などとの会談を行った。このほか、11月のオンライン形式での政務協議においては、脱炭素化や国際情勢など幅広いテーマについて意見交換を実施した。

(4)ベラルーシ

2020年8月の大統領選挙後に発生した大規模な抗議活動は、当局による厳しい取締りにより徐々に下火となったが、独立系メディアやNGOに対する大規模な捜索や関係者の拘束が行われるなど、人権状況の悪化が継続した。

2021年5月23日、ベラルーシ上空を飛行していた民間航空機がミンスク空港に強制着陸させられ、搭乗していた独立系ジャーナリストらが拘束された。欧米諸国は本件を強く非難し、さらにベラルーシ航空機の自国への乗入れや上空通過を認めないなどの措置を取り、日本も航空分野における措置を取った。

夏頃以降、ベラルーシから隣接するポーランド、リトアニア及びラトビアへの越境者の数が例年と比べて急増し、特に11月以降、シェンゲン域内への越境を試みる者がベラルーシとポーランドの国境地帯に集結した。ポーランド側は当該地域の検問を閉鎖した上で軍を動員して警戒にあたるなど情勢が緊迫化した。これを受け、日本はG7各国と共に、ベラルーシ政権による通常ではない移住の企てを非難するG7外相声明を発出した。また日本は、国際移住機関(IOM)6を通じた人道・医療支援実施のための緊急無償資金協力として50万米ドルを拠出した。

人権状況の悪化に加え、民間航空機強制着陸・記者拘束事案やベラルーシを通じた越境者数急増問題の発生により、ベラルーシと欧米諸国との対立は更に深まった。日本は、2度にわたりベラルーシ情勢に関する外務報道官談話を発出し、ベラルーシ当局に対して、市民の恣意的な拘束や力による弾圧を直ちに停止し、法の支配と民主主義の原則を遵守して国民対話に取り組み、事態に真摯に向き合うよう強く求めてきている。

2022年になると、ウクライナ国境周辺地域においてロシア軍の増強などによりますます緊張が高まる中で、ベラルーシは、2月10日、ロシアとの合同軍事演習を開始し、同月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵略では、自国領域の使用を通じてロシアを支えており、日本として、同国を強く非難した。今回の侵略に対するベラルーシの明白な関与に鑑み、3月3日及び8日、日本は、ルカシェンコ大統領を始めとする個人、団体への制裁措置や輸出管理措置などのベラルーシに対する制裁を決定した。

中西外務大臣政務官によるウムルザーコフ・ウズベキスタン副首相兼投資・対外貿易相への表敬(8月28日、ウズベキスタン)
中西外務大臣政務官によるウムルザーコフ・ウズベキスタン副首相兼投資・対外貿易相への表敬(8月28日、ウズベキスタン)
日・アルメニア首脳会談(7月24日、東京 写真提供:内閣広報室)
日・アルメニア首脳会談(7月24日、東京 写真提供:内閣広報室)

5 日本は、中央アジアの安定と発展には地域共通課題の解決に向けた地域協力が不可欠との観点から、日本が「触媒」として地域協力を促していくために、現在主要諸国が行っている「中央アジア5か国+1か国」の対話の先駆けとして「中央アジア+日本」対話の枠組みを2004年に立ち上げた。これまで7度の外相会合のほか、有識者やビジネス関係者の参加も得て様々な議論を実施してきている。設立から15年以上が経ち、近年は実践的な協力に重点を置いている。

6 IOM:International Organization for Migration

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