外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

2 朝鮮半島

(1)北朝鮮(拉致問題含む。)

日本は、2002年9月の日朝平壌(ピョンヤン)宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化を図ることを基本方針として、引き続き様々な取組を進めている。

北朝鮮は、2019年に続き、2020年3月に4回の弾道ミサイルの発射を行ったほか、6月には開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を爆破し、また10月の朝鮮労働党創建75周年記念閲兵式では、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の可能性があるものなどを登場させた。こうした中、日本としては、引き続き、米国や韓国と緊密に連携し、中国やロシアを含む国際社会と協力しながら、関連する国連安保理決議の完全な履行を進め、朝鮮半島の非核化を目指していく。

拉致問題については、北朝鮮に対して2014年5月の日朝政府間協議における合意(ストックホルム合意)8の履行を求めつつ、引き続き、米国を始めとする関係国と緊密に連携し、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を実現すべく、全力を尽くしていく。

ア 北朝鮮の核・ミサイル問題

北朝鮮は、累次の国連安保理決議に従った、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄を依然として行っていない。

2019年12月28日から31日まで、朝鮮労働党中央委員会全員会議(総会)が開催された。出席した金正恩(キムジョンウン)国務委員長は「情勢が良くなるのを座して待つのではなく、正面突破戦を展開すべき」としつつ、「世界は遠からず北朝鮮が保有することになる新しい戦略兵器を目撃することになるであろう」と述べたと報じられた。2020年10月10日には、朝鮮労働党創建75周年記念閲兵式が開催され、金正恩国務委員長は「我々が直面したり相対したりする可能性のあるいかなる軍事的威嚇(いかく)も十分に統制、管理することのできる抑止力を備えた」としつつ、「我々は、敵対勢力によって持続的に強まる核の威嚇を含む全ての危険な試みと威嚇的行動を抑止し、統制、管理するために自衛的正当防衛手段としての戦争抑止力を引き続き強化していくであろう。」と述べた。また、2021年1月5日から12日まで朝鮮労働党第8回大会が開催された。同大会において金正恩国務委員長は、侵略戦争の危険が続く限り、防衛力は不断に強化されなければならない旨述べた上で、核兵器の小型化・軽量化・多弾頭化、原子力潜水艦、極超音速兵器、軍事偵察衛星の開発・保有などについて言及したと報じられた。さらに、2020年10月の閲兵式や2021年1月の朝鮮労働党第8回大会記念閲兵式では、新型の大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイルの可能性があるもののほか、2019年に発射実験を行った弾道ミサイルとも見られる兵器などが登場した。

また、北朝鮮は、2019年5月から11月にかけて短距離弾道ミサイルの発射などを繰り返し、2020年3月にも4回短距離弾道ミサイルを発射したのに続いて、2021年3月にも弾道ミサイルを発射した。この中には、通常の弾道ミサイルよりも低空で飛翔するといった特徴を有するものなどが含まれている。こうした発射は、日本のみならず、国際社会に対する深刻な挑戦であり、全く受け入れられない。

北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄に向け、国際社会が一致結束して、安保理決議を完全に履行することが重要である。日本は、海上保安庁によるしょう戒活動及び自衛隊による警戒監視活動の一環として、安保理決議違反が疑われる船舶の情報収集を行っている。安保理決議で禁止されている北朝鮮船舶との「瀬取り」(洋上での物資の積替え)を実施しているなど、違反が強く疑われる行動が確認された場合には、国連安保理北朝鮮制裁委員会などへの通報、関係国への関心表明、対外公表などの措置を採ってきている。加えて、「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、米国に加え、カナダ、オーストラリア及びニュージーランドが在日米軍嘉手納(かでな)飛行場を使用し、航空機による警戒監視活動を行った。また、米国海軍の多数の艦艇、カナダ海軍フリゲート「ウィニペグ」及びオーストラリア海軍フリゲート「アランタ」といった海軍艦艇が、東シナ海を含む日本周辺海域において、警戒監視活動を行った。さらに、安保理決議の完全な履行及び実効性の確保のため、日本、米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、英国及びフランスの間での情報共有及び調整が行われていることは、多国間の連携を一層深めるという観点から、意義あるものと考えている。

イ 拉致問題・日朝関係
(ア)拉致問題に関する基本姿勢

現在、日本政府が認定している日本人拉致事案は、12件17人であり、そのうち12人がいまだ帰国していない。北朝鮮は、12人のうち、8人は死亡し、4人は入境を確認できないと主張しているが、そのような主張について納得のいく説明がなされていない以上、日本としては、安否不明の拉致被害者は全て生存しているとの前提で、問題解決に向けて取り組んでいる。北朝鮮による拉致は、日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であると同時に、基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的問題である。また、拉致被害者の御家族も御高齢となる中、拉致問題の解決には一刻の猶予もない。日本は、拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ないとの基本認識の下、その解決を最重要課題と位置付け、拉致被害者としての認定の有無にかかわらず、全ての拉致被害者の安全の確保と即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しを北朝鮮側に対し強く要求している。2021年1月には、菅総理大臣が施政方針演説で、「政権の最重要課題である拉致問題については、私自らが先頭に立ち、米国を含む関係国と緊密に連携しつつ、全力を尽くす。」と表明した。

(イ)日本の取組

北朝鮮による2016年1月の核実験及び2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイル発射を受け、同月に日本が独自の対北朝鮮措置の実施を発表したことに対し、北朝鮮は全ての日本人に関する包括的調査を全面中止し、特別調査委員会を解体すると一方的に宣言した。日本は北朝鮮に対し厳重に抗議し、ストックホルム合意を破棄する考えはないこと、北朝鮮が同合意に基づき、一日も早く全ての拉致被害者を帰国させるべきことについて、強く要求した。

(ウ)日朝関係

2018年2月9日、平昌(ピョンチャン)冬季オリンピック競技大会開会式の際の文在寅(ムンジェイン)韓国大統領主催レセプション会場において、安倍総理大臣から金永南(キムヨンナム)北朝鮮最高人民会議常任委員長に対して、拉致問題、核・ミサイル問題を取り上げ、日本側の考えを伝えた。特に、全ての拉致被害者の帰国を含め、拉致問題の解決を強く申し入れた。また、9月、河野外務大臣は国連本部において、李容浩(リヨンホ)北朝鮮外相と会談を行った。

2020年9月、菅総理大臣は第75回国連総会における一般討論演説において、「日本の新しい総理大臣として、私自身、条件を付けずに金正恩委員長と会う用意がある。」「日朝間の実りある関係を樹立していくことは、日朝双方の利益に合致するとともに、地域の平和と安定にも大きく寄与する。」と表明した。

(エ)国際社会との連携

拉致問題の解決のためには、日本が主体的に北朝鮮側に対して強く働きかけることはもちろん、拉致問題解決の重要性について諸外国からの理解と支持を得ることが不可欠である。日本は、各国首脳・外相との会談、G7サミット日中韓サミット日米韓外相会合、ASEAN関連首脳会議、国連関係会合を含む国際会議などの外交上のあらゆる機会を捉え、拉致問題を提起している。

米国については、トランプ大統領が、安倍総理大臣からの要請を受け、2018年6月の米朝首脳会談において金正恩国務委員長に対して拉致問題を取り上げた。2019年2月の第2回米朝首脳会談では、トランプ大統領から金正恩国務委員長に対して初日の最初に行った一対一の会談の場で拉致問題を提起し、拉致問題についての安倍総理大臣の考え方を明確に伝えたほか、その後の少人数夕食会でも拉致問題を提起し、首脳間での真剣な議論が行われた。トランプ大統領は、2017年11月の訪日の際に続き、2019年5月の訪日の際にも拉致被害者の御家族と面会し、御家族の方々の思いのこもった訴えに熱心に耳を傾け、御家族の方々を励まし、勇気付けた。また、2020年9月の日米電話首脳会談において、菅総理大臣からトランプ大統領に対して、拉致問題の早期解決に向け果断に取り組んで行く考えであると述べ、同問題の解決に向け、引き続きの全面的な支援を求めたほか、2021年1月のバイデン大統領との電話会談においても、菅総理大臣から拉致問題の早期の解決に向けて理解と協力を求め、バイデン大統領から支持を得た。

中国についても、2019年6月の日中首脳会談において、習近平(しゅうきんぺい)国家主席から、同月の中朝首脳会談で日朝関係に関する日本の立場、安倍総理大臣の考えを金正恩国務委員長に伝えたとの発言があり、その上で、習近平国家主席から、拉致問題を含め、日朝関係改善への強い支持を得た。また、2020年9月の日中電話首脳会談においても、菅総理大臣から習近平国家主席に対して拉致問題を含む北朝鮮への対応について提起し、引き続き日中が連携していくことを確認した。

また、韓国も、2018年4月の南北首脳会談を始めとする累次の機会において、北朝鮮に対して拉致問題を提起しており、2019年12月の日韓首脳会談においても、文在寅大統領から、拉致問題の重要性についての日本側の立場に理解を示した上で、韓国として北朝鮮に対し拉致問題を繰り返し取り上げているとの発言があった。また、2020年9月、日韓首脳電話会談においても、菅総理大臣から拉致問題の解決に向け、引き続きの支持を求めたのに対し、文在寅大統領から拉致問題についての日本側の立場への支持が示された上で、両首脳は、日韓・日米韓の連携の重要性について改めて確認した。

6月には国連人権理事会において、また12月には国連総会本会議において、EUが提出し、日本が共同提案国となった北朝鮮人権状況決議案が無投票で採択された。また、12月には、安保理非公式協議において北朝鮮の人権状況について協議が行われ、その後、日本を含む有志国は、拉致問題の早期解決、特に拉致被害者の即時帰国を強く要求するとの内容を含む共同ステートメントを発出した。

日本は、今後とも、米国を始めとする関係国と緊密に連携、協力しつつ、拉致問題の早期解決に向けて全力を尽くしていく。

ウ 北朝鮮の対外関係など
(ア)米朝関係

2018年から2019年にかけて、米朝間では2回の首脳会談及び板門店での米朝首脳の面会が行われ、2019年10月にはストックホルム(スウェーデン)において米朝実務者協議が行われた。しかし、2020年には、米朝間の対話に具体的な進展は見られなかった。7月10日、金与正(キムヨジョン)朝鮮労働党中央委員会第一副部長は、「米国の決定的な立場の変化がない限り、年内そして今後も朝米首脳会談は不必要であり、少なくとも、我が方にとっては無益だと考える。」との内容を含む談話を発表した。また、2021年1月の朝鮮労働党第8回党大会において行った報告の中で、金正恩国務委員長は「米国で誰が政権につこうが、米国の対朝鮮政策の本心は絶対に変わらない。新たな朝米関係樹立の鍵は、米国が敵対政策を撤回すること」であると述べたと報じられた。

なお、米国は、1月、3月、11月、12月に北朝鮮による海外労働者の派遣やサイバー攻撃に関与したとして、個人や団体などを制裁対象として新たに指定した。制裁対象は北朝鮮の団体のほか、ロシア及び中国を含む第三国の団体・個人を含んだものとなっている。

(イ)南北関係

2018年には3回の南北首脳会談が行われるなど、南北関係は大幅に進展したが、2019年に続き、2020年も南北関係に前向きな動きはみられなかった。

1月末、南北は、新型コロナの危険が完全に解消されるまで、開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を暫定閉鎖することで一致し、韓国側職員は韓国に復帰した。

6月、北朝鮮は、韓国の脱北者団体による対北朝鮮ビラ散布を理由として、韓国への非難を強め、16日に南北共同連絡事務所を爆破した。北朝鮮はさらに、韓国に対する「軍事行動計画」を検討していることを明らかにしたが、金正恩国務委員長が出席した朝鮮労働党中央軍事委員会第7期第5回会議予備会議において、同計画の保留が決定された。

9月には、黄海の北朝鮮側海域で、北朝鮮軍による韓国人公務員射殺事案が発生し、北朝鮮は、金正恩国務委員長による謝罪の意を含む統一戦線部名義の通知文を韓国に伝達した。これを受け、文在寅大統領は、首席補佐官会議において、金正恩国務委員長による謝罪を格別な意味として受け止め、対話と協力の機会を作り、南北関係を反転させる契機としたいと述べた。また、韓国政府は、本件に対応する中で、9月初旬に南北首脳間で親書の交換が行われたとの事実を公表した。文在寅大統領は9月の国連総会一般討論演説においても、「韓国は依然として南北の和解を追求している。」「北朝鮮を含め、中国、日本、モンゴル、韓国が共に参加する『北東アジア防疫保健協力体』を提案する。」「(朝鮮半島の平和の始まりは)平和に対する互いの意思を確認する『終戦宣言』であると信じている。」などと述べた。

10月の朝鮮労働党創建75周年記念閲兵式において、金正恩国務委員長は、「一日も早く保健危機が克服され、南北が再び手を取り合う日が訪れることを願う。」と言及した。

2021年1月の朝鮮労働党第8回党大会において行った報告の中で、金正恩国務委員長は「南北関係は(2018年4月の南北首脳会談で署名された)板門店宣言以前の時期に後戻りした。」としつつも、韓国の「態度次第で、近いうちに平和と繁栄の新たな出発点へと戻ることもあり得る。」と述べたと報じられた。文在寅大統領は、党大会の6日後に行われた新年記者会見で、「南北関係の発展に役立つのであれば、いつでも、どこでも(南北首脳会談は)可能である。」と述べるとともに、人道協力を始めとする南北協力に前向きな姿勢を示した。

(ウ)中朝関係・露朝関係

2019年は、中朝国交樹立70周年の年であった。1月には金正恩国務委員長が訪中し、6月には習近平国家主席が就任後初めて訪朝したほか、中朝双方で国交樹立70周年の記念行事などが行われた。また、ロシアとの間では、2019年4月、金正恩国務委員長が就任後初めてウラジオストク(ロシア)を訪問し、プーチン大統領との間で会談が行われた。

一方、2020年には、新型コロナの感染拡大などの影響もあり、中朝・露朝間において従前のような要人往来は見られなかった。北朝鮮の対外貿易(南北交易を除く。)の約9割を占める中朝間の貿易も、新型コロナの感染拡大を受けた往来の制限のため、規模が大幅に縮小している。

(エ)その他

2020年、北朝鮮からのものとみられる漂流・漂着木造船などが計77件確認されており(2019年は158件)、日本政府として、関連の動向について重大な関心を持って情報収集・分析に努めている。また、9月には、日本海の大和堆西方の日本の排他的経済水域(EEZ)において、北朝鮮公船らしき船舶が水産庁漁業取締船によって確認された。当該公船については、関係省庁による情報収集及び分析の結果、北朝鮮公船と特定され、外務省は、北朝鮮に対して日本の立場を申し入れた。引き続き、関係省庁の緊密な連携の下、適切に対応していく。

エ 内政・経済
(ア)内政

2021年1月5日から12日までの8日間、朝鮮労働党の最高指導機関である第8回党大会が開催された。第8回党大会は、2016年5月に行われた第7回党大会以来、約5年ぶりの開催となった。

党大会では、金正恩国務委員長が、過去5年間の成果・反省及び今後の課題に係る活動総括の中で、核・ミサイル開発の継続、対外関係(米朝関係、南北関係)などについて言及するとともに、新たな「国家経済発展5か年計画」が提示されたと報じられた。また、金正恩朝鮮労働党委員長を「朝鮮労働党総書記」に推戴するなどの人事が公表されるとともに、党大会を5年に1回招集するなどを明記した党規約の改正も発表された。

第8回党大会閉会後の1月14日、第8回党大会を祝う閲兵式が実施されるとともに、17日には、最高人民会議第14期第4回会議が開催され、経済関係の内閣メンバーの任命、「国家経済発展5か年計画」に係る法令の採択などが行われたと発表された。

(イ)経済

北朝鮮の対外貿易においては、中国が最大の貿易額を占めるが、2020年、新型コロナの感染拡大を受けた往来の制限などの影響で、中朝貿易の規模は大幅に減少した。また、台風などの自然災害が相次ぎ、農耕地、住宅、道路、鉄道などに被害が発生したと報じられた。

このような中、10月の朝鮮労働党創建75周年記念閲兵式において、金正恩委員長は、「過酷で長期的な制裁のために全てのものが不足した中で、非常防疫も自然被害復旧もしなければならないという途方もない挑戦と難関に直面」していると述べた上で、「人民が生活上の困難から抜け出すことができずにいる」、「実に面目ない」と言及した。

2021年1月の朝鮮労働党第8回党大会において、金正恩国務委員長は、制裁、自然災害、世界的な保健危機により第7回大会で示した「国家経済発展5か年戦略」で掲げた目標を達成できなかった旨述べ、新たな「国家経済発展5か年計画」(2021年から2025年)が提示されたと報じられた。

(ウ)新型コロナへの対応

北朝鮮は、1月からの新型コロナの世界的な感染拡大を受け、全土で防疫措置を強化した。10月10日の朝鮮労働党創建75周年記念閲兵式では、金正恩国務委員長が「1人の感染者もいない。」と発言するなど、12月時点で、いまだに感染者は発生していないとしている。

1月30日には、新型コロナ対策としてそれまでの「衛生防疫体系」が「国家非常防疫体系」へ転換されると報じられた。その後、中国とロシアとの間の全ての鉄道と航空便の運行が停止され、北朝鮮当局は感染可能性のある者に対する隔離措置などを実施するなど、感染拡大防止策を徹底していることが報じられた。7月には、朝鮮労働党中央委員会政治局非常拡大会議が緊急招集され、「国家非常防疫体系」を「最大非常体制」へと移行することに関する決定が採択された。また、同会議では、開城市へ戻った脱北者1人が新型コロナに感染している疑いがあるとして、同市を完全封鎖したことが報告されたと発表された。その後、同市の封鎖は8月13日の朝鮮労働党中央委員会政治局会議において解除されたが、金正恩国務委員長は同会議において、「国境をさらに鉄桶のように閉鎖し、防疫事業を厳格に実施することを要求する。」と述べたと報じられた。その後の政治局会議などにおいても、防疫事業の徹底や強化の必要性が度々強調されてきており、2021年1月の朝鮮労働党第8回党大会では、金正恩国務委員長が報告の中で「世界的な保健危機にも対処できる防疫措置を堅固に築くべき」と述べたと報じられた。

オ その他の問題

北朝鮮からの脱北者は、滞在国当局の取締りや北朝鮮への強制送還などを逃れるため潜伏生活を送っている。日本政府としては、こうした脱北者の保護や支援について、北朝鮮人権侵害対処法の趣旨を踏まえ、人道上の配慮、関係者の安全、脱北者の滞在国との関係などを総合的に勘案しつつ対応している。なお、日本国内に受け入れた脱北者については、関係省庁間の緊密な連携の下、定着支援のための施策を推進している。

(2)韓国

ア 日韓関係
(ア)二国間関係一般

韓国は重要な隣国であり、日韓両国は、1965年の国交正常化の際に締結された日韓基本条約日韓請求権・経済協力協定その他関連協定の基礎の上に、緊密な友好協力関係を築いてきた。しかしながら、2020年においても、旧朝鮮半島出身労働者問題を始めとして、2015年の慰安婦問題に関する日韓合意の趣旨・精神に反する動きや竹島における軍事訓練など、日本側にとって受け入れられない状況が続いた。

このような中、9月、菅総理大臣の就任に当たり日韓首脳電話会談を実施し、菅総理大臣から文在寅(ムンジェイン)大統領に対し、北朝鮮問題を始め、日韓・日米韓の連携は重要であり、旧朝鮮半島出身労働者問題などにより現在非常に厳しい状況にある両国の関係をこのまま放置してはいけないと考えると述べるとともに、韓国側において日韓関係を健全な関係に戻していくきっかけを作ることを改めて求めた。また、拉致問題の解決に向け引き続きの支持を求めた。

日韓間では、新型コロナの影響により要人往来が大幅に制限される状況下ではありながらも、合計3回の日韓外相会談(電話会談を含む。)や累次の機会における日韓局長協議を始め、外交当局間の意思疎通が継続された。

このような中、2021年1月8日、元慰安婦などが日本国政府に対して提起した訴訟において、韓国ソウル中央地方裁判所が、国際法上の主権免除の原則の適用を否定し、日本政府に対し、原告への損害賠償の支払などを命じる判決を出し、同月23日、同判決が確定した。この判決は、国際法及び日韓両国間の合意に明らかに反し、旧朝鮮半島出身労働者問題などにより既に厳しい状況にある日韓関係を更に深刻化させるものであり、極めて遺憾であり、断じて受け入れることはできない。日本として、韓国に対し、国家として自らの責任で直ちに国際法違反の状態を是正するために適切な措置を講じることを強く求めている。

(イ)旧朝鮮半島出身労働者問題

1965年の日韓国交正常化の中核である日韓請求権・経済協力協定は、日本から韓国に対して、無償3億米ドル、有償2億米ドルの経済協力を約束する(第1条)とともに、「両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が(中略)完全かつ最終的に解決されたこと」、また、そのような請求権について「いかなる主張もすることができない」(第2条)ことを定めている。

しかしながら、2018年10月30日及び11月29日、韓国大法院(最高裁)は、第二次世界大戦中に日本企業で労働していたとされる韓国人に対する損害賠償の支払を当該日本企業に命じる判決を確定させた。

これらの大法院判決及び関連する司法手続は、日韓請求権・経済協力協定第2条に明らかに反し、日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであるばかりか、国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものであって、極めて遺憾であり、断じて受け入れられない。

日本政府としては、この問題を日韓請求権・経済協力協定上の紛争解決手続に従って解決すべく、2019年1月に同協定第3条1に基づく協議を韓国政府に対し要請したが、韓国政府はこれに応じなかった。また、同年5月には、同協定第3条2に基づく仲裁への付託を韓国政府に対し通告し、これに応じるよう要請したが、韓国政府は同協定に規定された仲裁手続に係る義務を履行せず、その結果、仲裁委員会は設置できなかった9

この間も原告側の申請に基づき、韓国の裁判所は日本企業の資産の差押え及び現金化に向けた手続を進めてきている。日本政府は、韓国側に対し、仮に日本企業の差押資産が現金化に至ることになれば、日韓関係にとって極めて深刻な状況を招くため絶対に避けなければならないことを繰り返し強く指摘し、韓国側が、国際法違反の状態を是正し、日本にとって受入れ可能な解決策を早期に示すよう強く求めてきている。

日本政府としては、引き続き、日韓の外交当局間の意思疎通を継続していくとともに、旧朝鮮半島出身労働者問題を含む両国間の問題に関する日本の一貫した立場に基づき、今後とも韓国側に適切な対応を強く求めていく方針である。

旧朝鮮半島出身労働者問題に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら
https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_004516.html

外務省ホームページ掲載箇所QRコード
(ウ)慰安婦問題

慰安婦問題は、1990年代以降、日韓間で大きな外交問題となってきたが、日本はこれに真摯に取り組んできた。日韓間の財産及び請求権の問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に」解決済みであるが、その上で、元慰安婦の方々の現実的な救済を図るとの観点から、1995年、日本国民と日本政府が協力してアジア女性基金を設立し、韓国を含むアジア各国などの元慰安婦の方々に対し、医療・福祉支援事業及び「償い金」の支給を行うとともに、歴代総理大臣からの「おわびの手紙」を届けるなど、最大限の努力をしてきた。

さらに、日韓両国は、多大なる外交努力の末に、2015年12月の日韓外相会談における合意によって、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した10。また、同外相会談の直後に、日韓両首脳間においても、この合意を両首脳が責任を持って実施すること、また、今後、様々な問題に対し、この合意の精神に基づき対応することを確認し、韓国政府としての確約を取り付けた。この合意については、潘基文(パンギムン)国連事務総長(当時)を始め、米国政府を含む国際社会も歓迎している。この合意に基づき、2016年8月、日本政府は韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」に対し、10億円の支出を行った。この基金から、2020年12月末日までの間に、合意時点で御存命の方々47人のうち35人に対し、また、お亡くなりになっていた方々199人のうち64人の御遺族に対し、資金が支給されており、多くの元慰安婦の方々の評価を得ている。

しかしながら、2016年12月、韓国の市民団体により、在釜山(プサン)日本国総領事館に面する歩道に慰安婦像11が設置された。その後、2017年5月に新たに文在寅政権が発足し、外交部長官直属の「慰安婦合意検討タスクフォース」による検討結果を受け、2018年1月9日には、康京和(カンギョンファ)外交部長官が、①日本に対し再協議は要求しない、②被害者の意思をしっかりと反映しなかった2015年の合意では真の問題解決とならないなどとする韓国政府の立場を発表した。2018年7月、韓国女性家族部は、日本政府の拠出金10億円を「全額充当」するため予備費を編成し、「両性平等基金」に拠出すると発表した。また、2018年11月には、女性家族部は、「和解・癒やし財団」の解散を推進すると発表し、その後解散の手続を進めている。韓国政府は、文在寅大統領を含め、「合意を破棄しない」、「日本側に再交渉を要求しない」ことを対外的に繰り返し明らかにしてきているものの、財団の解散に向けた動きは、日韓合意に照らして問題であり、日本として到底受け入れられるものではない。また、日韓合意では、国連など国際社会において、慰安婦問題について互いに非難・批判することを控えることを確認しているにもかかわらず、韓国は、近年、国連人権理事会などの場において、この問題に言及しており、日本は反論してきている。

さらに、2021年1月8日、元慰安婦などが日本国政府に対して提起した訴訟において、韓国ソウル中央地方裁判所が、国際法上の主権免除の原則の適用を否定し、日本国政府に対し、原告への損害賠償の支払などを命じる判決を出し、同月23日、同判決が確定した12。日本としては、国際法上の主権免除の原則から、日本政府が韓国の裁判権に服することは認められず、本件訴訟は却下されなければならないとの立場を累次にわたり表明してきた。上述のとおり、慰安婦問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に解決」されており、また、2015年12月の日韓外相会談における合意によって、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」が確認されている。したがって、同判決は、国際法及び日韓両国間の合意に明らかに反するものであり、極めて遺憾であり、断じて受け入れることはできない。日本としては、韓国に対し、国家として自らの責任で直ちに国際法違反の状態を是正するために適切な措置を講ずることを改めて強く求めていく方針である。

国と国との約束である日韓合意は、たとえ政権が代わったとしても責任を持って実施されなければならない。日韓合意の着実な実施は、日本はもとより、国際社会に対する責務でもある。日本は、上述のとおり、日韓合意の下で約束した措置を全て実施してきている。韓国政府もこの合意が両国政府の公式合意と認めており、国際社会が韓国側による合意の実施を注視している状況である。日本政府としては、引き続き、韓国側に日韓合意の着実な実施を強く求めていく方針に変わりはない(国際社会における慰安婦問題の取扱いについては33ページ参照)。

慰安婦問題についての我が国の取組に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら:https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page25_001910.html

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(エ)竹島問題

日韓間には竹島の領有権をめぐる問題があるが、竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も明らかに日本固有の領土である。韓国は、警備隊を常駐させるなど、国際法上何ら根拠がないまま、竹島を不法占拠し続けてきている。日本は、竹島問題に関し、様々な媒体で日本の立場を対外的に周知するとともに13、韓国国会議員などの竹島上陸、韓国による竹島やその周辺での軍事訓練や海洋調査などについては、韓国に対し、その都度強く抗議を行ってきている14。特に2020年は竹島やその周辺での軍事訓練や海洋調査が行われ、これらにつき、日本政府として、日本の立場に鑑み受け入れられないとして強く抗議を行った。

竹島問題の平和的手段による解決を図るため、1954年、1962年及び2012年に韓国政府に対し国際司法裁判所への付託などを提案してきているが、韓国政府はこの提案を全て拒否している。日本は、竹島問題に関し、国際法にのっとり、平和的に解決するため、今後も適切な外交努力を行っていく方針である。

(オ)韓国向け輸出管理運用の見直し

韓国政府は、2019年9月11日、日本が韓国への半導体材料3品目(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)の輸出に係る措置の運用を見直し、個別に輸出許可を求める制度としたこと15は世界貿易機関(WTO)協定に違反するとして、WTO紛争解決手続の下で二国間協議を要請した。同年11月22日、韓国政府は日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)の終了通告の効力停止を発表し、その際、二国間の輸出管理政策対話が正常に行われる間、WTO紛争解決手続を中断すると表明し、2019年12月及び2020年3月には、輸出管理政策対話が実施された。日韓の輸出管理当局間では対話と意思疎通を通じて懸案を解決することで一致していた中で、韓国政府は、6月18日、WTO紛争解決手続を再開させ、7月29日、WTO紛争解決機関において紛争処理小委員会(パネル)設置が決定された。

(カ)交流・往来

日韓間の往来者数は、2018年に初めて1,000万人を上回る約1,049万人を記録したが、2019年は、日本を訪問する韓国人数の大幅減少により、約885万人にとどまった。また、3月以降、新型コロナに係る水際対策の強化により両国間の往来者数は大幅に減少し、2020年は約92万人にとどまった。そうした中、国際的な人の往来再開に向けた段階的措置に関し、7月22日の国家安全保障会議及び新型コロナウイルス感染症対策本部における決定などに基づき韓国との間で協議・調整を行い、10月8日から、「ビジネストラック」及び「レジデンストラック」を開始した16(2ページ 巻頭特集参照)。日韓両政府は、日韓関係が難しい状況であるからこそ、日韓間の交流が重要である点について一致している。日本では「K-POP」や韓国ドラマなどが世代を問わず幅広く受け入れられており、特に新型コロナの感染が拡大し外出自粛が求められる中、ドラマ「愛の不時着」は流行語大賞の候補にも選ばれるほどの人気を集め、第4次韓流ブームの火付け役になった。そのほか、近年では、韓国料理が広く浸透しているほか、韓国の化粧品やファッションも若い女性を中心に人気を集めている。また、日韓間の最大の草の根交流行事である「日韓交流おまつり」は、新型コロナの影響で観客を集めての実施ができなくなったことから、2020年は東京及びソウルのいずれにおいても初めてオンライン形式で開催された。日本政府としても、「対日理解促進交流プログラム(JENESYS2020)」の実施を通じ、青少年を中心とした相互理解の促進、未来に向けた友好・協力関係の構築に引き続き努めており、2020年は初めてオンライン形式での交流事業を実施した。

(キ)その他の問題

日韓両国は、2016年11月、安全保障分野における日韓間の協力と連携を強化し、地域の平和と安定に寄与するため、GSOMIAを締結し、同協定は、それ以降2017年及び2018年に自動的に延長されてきた。しかし、韓国政府は、2019年8月22日、日本による輸出管理の運用見直し(42ページ(オ)参照)と関連付け、GSOMIAの終了の決定を発表し、翌23日、終了通告がなされた。その後、日韓間でのやり取りを経て、同年11月22日、韓国政府は8月23日の終了通告の効力を停止することを発表した。日本政府としては、現下の地域の安全保障環境を踏まえれば、同協定が引き続き安定的に運用されていくことが重要であるとの考えに変わりはない。

日本海は、国際的に確立した唯一の呼称であり、国連や米国を始めとする主要国政府も日本海の呼称を正式に使用している。韓国などが日本海の呼称に異議を唱え始めたのは1992年からである。また、それ以降、韓国などは国連地名専門家グループ(UNGEGN)会議17や国際水路機関(IHO)を始めとする国際機関の場などにおいても日本海の呼称に異議を唱えてきたが、この主張に根拠はなく、日本はその都度断固反論を行ってきている。18

また、盗難被害に遭い、現在も韓国にある文化財19については、早期に日本に返還されるよう、外交ルートを通じて韓国政府に対して要請を行っており、引き続き、速やかな返還を韓国政府に求めていく。

そのほか、在サハリン「韓国人」への対応20、在韓被爆者問題への対応21、在韓ハンセン病療養所入所者への対応22など多岐にわたる分野で、人道的観点から、日本は可能な限りの支援、施策を進めてきている。

イ 日韓経済関係

2020年の日韓間の貿易総額は、約7兆6,000億円であり、韓国にとって日本は第3位、日本にとって韓国は第3位の貿易相手国である。なお、韓国の対日貿易赤字は、前年比6.1%増の約1兆9,300億円(財務省貿易統計)となった。また、日本からの対韓直接投資額は約7,3億米ドル(前年比49.2%減)(韓国産業通商資源部統計)で、日本は韓国への第5位(香港及びケイマン諸島を順位から除く。)の投資国である。

また、11月、日本及び韓国を含む15か国は、日韓間での初めての経済連携協定(EPA)ともなる地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名した。

WTO紛争解決手続の下では、韓国による日本製空気圧伝送用バルブに対するダンピング防止措置に係る案件につき、2019年9月、上級委員会が日本の主要な主張を認める報告書を公表し、2020年8月、同措置は撤廃された。また、韓国による日本製ステンレス棒鋼に対するダンピング防止措置に係る案件について、パネルは11月、韓国の措置をWTO協定違反と認定し、措置の是正を勧告する報告書を公表した。さらに、韓国による自国造船業に対する支援措置に関し、2018年12月及び2020年3月、WTO紛争解決手続に基づく二国間協議を実施した。

ウ 韓国情勢
(ア)内政

文在寅政権が2020年5月に発足4年目を迎えるに先立ち、4月15日、韓国国会議員総選挙が行われた。同選挙では、韓国国内における2020年初頭の新型コロナの感染拡大を迅速に沈静化させたことにより与党に対する支持が集まり、与党「共に民主党」系の議員が全300議席中180議席を獲得し圧勝した。しかしながら、その後、不祥事を理由に、4月下旬には呉巨敦(オゴドン)釜山広域市長が辞任、7月には朴元淳(パクウォンスン)ソウル特別市長が自殺し、韓国の二大都市において与党所属の首長が失職することとなった。

7月、12月及び2021年1月には文政権において内閣改造が行われた。7月の内閣改造において、文在寅大統領は、国家情報院長として南北関係への対応に取り組んできた徐薫(ソフン)氏の大統領府国家安保室長への任命を始め、南北関係に重点をおいた閣僚人事を行った。また、12月には、一部閣僚人事のほかに、盧英敏(ノヨンミン)大統領秘書室長及び金尚祖(キムサンジョ)政策室長が辞意を表明した。2021年1月には、康京和外交部長官の後任として、鄭義溶(チョンウィヨン)前大統領府国家安保室長が指名され、鄭氏は同年2月に外交部長官に就任した。

文大統領は検察改革を推し進めようと、1月、秋美愛(チュミエ)元「共に民主党」代表を法務部長官に任命したが、その後、秋長官と尹錫悦(ユンソンニョル)検察総長との対立が起きた。11月24日、秋長官が尹総長を職務停止にするとともに、懲戒手続を進めると表明したことを受け、12月15日の懲戒委員会において尹総長に対する停職2か月が議決された。翌16日、文大統領は同議決を裁可し、秋長官は辞意を表明したが、12月24日、ソウル行政裁判所は、尹総長の訴えを認め、職務停止決定の効力を停止させた。2021年1月、高位公職者の不正事件を捜査する機関である高位公職者犯罪捜査処(公捜処)が発足し、韓国では、高位公職者の不正事件の捜査は、検察に代わり、公捜処が担うことになった。

(イ)外交

2020年初頭の新型コロナの感染拡大を受け、韓国政府は、積極的なPCR検査、接触者の追跡、濃厚接触者及び感染者に対する徹底した隔離措置などによって、新型コロナの感染拡大を他国に先んじて抑えると、そのノウハウを「K防疫」と称し国内外にアピールし、各国政府とも共有しようと努めた。韓国と各国との間の要人往来は、新型コロナの感染拡大によって減少したが、韓国政府は、電話やテレビ会議を通じた首脳間、外相間の外交などを積極的に展開するとともに、日本、中国、アラブ首長国連邦、インドネシア、シンガポール及びベトナムとビジネス関係者などを対象とする人的往来再開のための枠組みを作った。なお、2020年、文在寅大統領の外国訪問は行われなかった。

新型コロナの感染拡大を受けたこのような外交的取組を行う一方、北朝鮮への対応は引き続き文在寅政権にとっての最優先課題であったが、6月には開城(ケソン)の南北共同連絡事務所が北朝鮮側によって爆破されるなど、南北関係に前向きな動きはみられなかった(南北関係については37ページ(1)ウ(イ)参照)。

対米関係については、新型コロナの影響により規模が縮小される形で8月に米韓連合指揮所訓練を実施した。また、2019年及び2020年、米韓間では2020年以降の米軍駐留経費に関する第11次防衛費分担特別協定(SMA)についての協議が計7回行われたが、米国側による韓国側に対する負担増の要求もあり、2020年中に交渉は妥結しなかった。そのほか、米国大統領選挙におけるバイデン前副大統領の勝利を受け、11月12日には、文大統領とバイデン次期米国大統領との電話会談が行われた。また、バイデン大統領の就任後、2021年2月4日に米韓首脳電話会談が行われた。

対中関係については、中韓両国政府が調整している習近平(しゅうきんぺい)国家主席の訪韓は、新型コロナの感染拡大のために2020年中には実現しなかったが、8月には楊潔篪(ようけつち)共産党中央政治局委員、11月には王毅(おうき)国務委員兼外交部長が訪韓した。2021年1月26日に中韓首脳電話会談が行われ、中韓両首脳は、2021年及び中韓国交正常化30周年となる2022年の2年間を「中韓文化交流の年」とすることを宣言した。

(ウ)経済

2020年、韓国のGDP成長率は、新型コロナの感染拡大の影響を受け、マイナス1.0%と前年の2.0%よりも低下した。総輸出額は、前年比5.4%減の約5,129億米ドルであり、総輸入額は、前年比7.2%減の約4,672億米ドルとなったため、貿易黒字は約456億米ドル(韓国産業通商資源部統計)となった。

2017年5月に発足した文在寅政権は、国内的な経済政策として、「人中心経済」を掲げ、「所得主導成長」及び「雇用中心経済」を強調し、最低賃金を2018年から2年連続で引き上げたが、急激な引上げが雇用減を招いているとの批判が高まり、2020年8月には2021年の最低賃金を8,720ウォン(前年比1.5%増)とすると発表した。

なお、韓国では近年急速に少子高齢化が進んでおり、2020年の合計特殊出生率は過去最低の0.84人を記録し、少子化問題が深刻化している。

また、文在寅政権はこれまで不動産投資を抑制する政策を実施してきたが、多住宅所有者の投機目的の住宅購入に伴う需要過剰により、政権発足以降の3年間でソウルのマンション価格が約5割上昇し、不動産価格の高騰が続いており、この問題への対応が政権の重要課題の一つとなっている。

7月、韓国政府は、新型コロナの感染拡大以降の世界の変化を主導するため、国家発展戦略として、デジタルニューディール、グリーンニューディール及び雇用セーフティネットの強化を軸とする韓国版ニューディールの総合計画を発表した。

8 2014年5月にストックホルムで開催された日朝政府間協議において、北朝鮮側は、拉致被害者を含む全ての日本人に関する包括的かつ全面的な調査の実施を約束した。

9 資料編:旧朝鮮半島出身労働者問題 参考資料 参照

10及び12 資料編:慰安婦問題 参考資料 参照

11 分かりやすさの観点から、便宜上、「慰安婦像」との呼称を用いるが、この呼称は、これらの像に係る元慰安婦についての描写が正しいとの認識を示すものでは決してない。

13 2008年2月、外務省は「竹島 竹島問題を理解するための10のポイント」と題するパンフレットを作成。現在、日本語、英語、韓国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語、ロシア語、中国語及びイタリア語の11言語版が外務省ホームページで閲覧可能。また、2013年10月以降、外務省ホームページにおいて、竹島に関する動画やフライヤーを公開し、現在は上記11言語での閲覧が可能になっている。加えて、竹島問題を啓発するスマートフォンアプリをダウンロード配布するといった取組を行っている。外務省ホームページ掲載箇所はこちら:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/takeshima/index.html

外務省ホームページ掲載箇所QRコード

14 6月及び12月、韓国軍が竹島に関する軍事訓練を実施。日本は、直ちに、竹島の領有権に関する日本の立場に照らし受け入れられず、極めて遺憾であることを韓国政府に伝え、厳重に抗議した。

15 2019年7月1日、経済産業省は、①韓国に関する輸出管理上のカテゴリーの見直し(韓国を「グループA」から除外。そのための改正政令は同年8月28日施行。)及び②フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目の個別輸出許可への切り替えを発表

16 各国における変異株の感染拡大を受け、水際対策強化に係る新たな措置として、2021年1月14日から運用を停止している(2021年2月末時点)。

17 各国の地名や地理空間情報などの専門家らが、地名に関する用語の定義や地名の表記方法などについて技術的観点から議論を行う国連の会議。2017年、これまで5年ごとに開催されていた国連地名標準化会議と2年毎に開催されていた国連地名専門家グループが統合され、国連地名専門家グループ(UNGEGN)会議となった。

18 日本海呼称問題に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nihonkai_k/index.html

外務省ホームページ掲載箇所QRコード

19 2012年に長崎県対馬市で盗難され韓国に搬出された後、韓国政府が回収し保管していた「観世音菩薩坐像」について、2016年4月に韓国の浮石寺(プソクサ)が韓国政府に対し、浮石寺に返還するよう求め、大田(テジョン)地方裁判所に訴訟を提起していたが、2017年1月、同裁判所は原告側(浮石寺)勝訴の第一審判決を出した。これに対し、被告である韓国政府は控訴し、現在、大田高等裁判所に係属中。「観世音菩薩坐像」はいまだ韓国政府が保管しており日本に返還されていない(2021年2月時点)。

20 第二次世界大戦終戦前、様々な経緯で南樺太に渡り、終戦後、ソ連による事実上の支配の下、韓国への引揚げの機会が与えられないまま、長期間にわたり、サハリンに残留することを余儀なくされた朝鮮半島出身者に対し、日本政府は、一時帰国支援、サハリン再訪問支援などを行ってきている。

21 第二次世界大戦時に広島又は長崎に在住して原爆に被爆した後、日本国外に居住している方々に対する支援の問題。これまで日本は、被爆者援護法に基づく手当や被爆者健康手帳などに関連する支援を行ってきている。

22 2006年2月、「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」が改正され、第二次世界大戦終戦前に日本が設置した日本国外のハンセン病療養所の元入所者も国内療養所の元入所者と同様に補償金の支給対象となった。また、2019年11月、「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律」が制定され、元入所者の家族も補償対象となった。

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