新型コロナウイルス感染症への対応
2020年、国際社会は、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の感染拡大と経済の激しい落ち込みという、未曽有の危機に直面した。世界で保護主義や内向き志向が深刻化する中で生じたこの危機は、一国のみでは対処できないものであり、多国間主義の重要性が再確認される契機となった。一方で、世界保健機関(WHO)1を始めとする国際機関の機能や中立性が改めて問われるきっかけともなった。
そのような中、日本は、国内においては、感染拡大の防止と社会経済活動の両立に向けた各種施策を進めてきた。また、海外においては、危機にさらされた日本人の保護に取り組み、医療体制が脆弱(ぜいじゃく)な開発途上国を支援するとともに、世界の人々の命・生活・尊厳を脅かす新型コロナの拡大を、人間の安全保障に対する危機と捉え、国際社会の連帯を呼びかけてきた。
1 新型コロナの発生・拡大と国際社会への影響
2019年末以降、中国から世界に広がった新型コロナは、世界的な感染拡大を見せた。2020年3月には感染の中心がイタリアなど欧州に移り、4月以降は米国、6月から8月にかけてインド、ブラジル、南アフリカなど新興国や開発途上国に拡大した。9月以降は東アジアなどの多くの国で感染が落ち着きつつあった一方で、米国や欧州で感染が再拡大した。
2021年1月末時点で世界の感染者数は約1億232万人(日本国内約38万人)、死亡者約221万人(同約5,600人)を超えた。
2020年12月以降、英国を始め欧州、アフリカ、南米など、日本を含む各国において、より強い感染力を持つとされる新型コロナの変異株の感染拡大が報告される一方、同月には、新たに開発された新型コロナのワクチン接種が欧米で開始され、日本でも2021年2月から医療従事者などから優先的にワクチン接種が開始された。
経済面では、各国でいわゆるロックダウン(都市封鎖)や外出制限といった措置がとられる中、需要が大幅に落ち込むとともに、サプライチェーンの寸断による供給制約が生じ、グローバルな人やモノの流れが急速に収縮した。この影響で、2020年の実質GDP成長率は主要国・地域で軒並み歴史的なマイナス成長を記録した(前年比で米国は-3.5%、ユーロ圏は-6.8%、日本は-4.8%)。また、新型コロナは、各国市民の社会生活も大きく変え、ロックダウンや外出制限措置によって、テレワークやオンライン授業などのデジタルトランスフォーメーションが大きく進んだ。
さらに、新型コロナは、各国の外交活動に対しても大きな制約を課した。感染拡大防止の観点から、国連総会を始めほとんどの国際会議や協議が開催時期の延期やオンライン形式への変更を余儀なくされた。各国首脳・外務大臣などによる相互訪問も大幅に制限され、日本では、安倍総理大臣による1月の中東訪問以降、菅総理大臣による10月の東南アジア訪問まで、また茂木外務大臣の2月のドイツ訪問以降、8月の英国訪問まで、往訪が途絶えることとなった。そのような中でも、テレビ会議や電話会談を活用した外交活動を展開し、新型コロナの感染拡大以降12月までの実施回数は、安倍総理大臣が40回以上、菅総理大臣が30回以上、また、茂木外務大臣が110回以上を数えた。8月の英国訪問を皮切りに外国訪問を再開した茂木外務大臣は、感染防止対策を徹底しつつ、欧州、東南アジア、中東、アフリカ、中南米など、2021年1月までに23か国を訪問した。




日本での開催が予定されていたが、延期された主な国際会議 | 当初予定の開催時期 | 延期後の開催時期 |
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第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス) | 2020年4月 | 2021年3月7~12日 |
第6回国際女性会議(WAW!) | 2020年4月 | 調整中 |
第4回アジア・太平洋水サミット | 2020年10月 | 2022年4月23~24日 |
東京栄養サミット | 2020年12月 | 2021年12月 |
開催形式が変更された主な国際会議 | 当初予定の開催国 | 開催形式 |
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G7外相会合(3月) | 米国 | テレビ会議 |
G20サミット(11月) | サウジアラビア | テレビ会議 |
ASEAN関連外相会議(9月)、ASEAN関連首脳会議(11月) | ベトナム | テレビ会議 |
国連総会ハイレベルウィーク(各国首脳の一般討論演説)(9月) | 米国 | ビデオ録画 |
APEC閣僚会議(11月)、APEC首脳会議(11月) | マレーシア | テレビ会議 |
1 WHO:World Health Organization