2 中央アジア諸国とコーカサス諸国
(1)中央アジア諸国
日本は、地政学的に重要な中央アジアの「開かれ、安定し、自立的な発展」を支え、同地域の平和と安定に寄与することを目的とした開発支援外交を推進しており、①二国間関係の抜本的強化、②「中央アジア+日本」対話を通じた地域協力の促進・地域共通の課題への貢献及び③グローバルな舞台での協力を中央アジア外交の三本柱としている。
2017年、日本は中央アジア5か国と外交関係樹立25周年の節目を迎え、前年に引き続き要人往来等の活発な交流が行われた。中央アジア諸国からは、3月にアブディルダエフ・キルギス外相、4月にヒクマトゥロゾーダ・タジキスタン経済発展貿易相、6月にメレドフ・トルクメニスタン副首相兼外相が訪日し、また、政党間交流では、5月にクルムハメド・カザフスタン与党ヌルオタン党第一副総裁が訪日した。
日本からは、5月に岸田外務大臣が歴代外務大臣として初めてトルクメニスタンを訪問し、首都のアシガバットで、中央アジア5か国の外務大臣の出席を得て「中央アジア+日本」対話・第6回外相会合が開催された。6月から9月にかけては、カザフスタンの首都アスタナで「未来のエネルギー」をテーマにアスタナ国際博覧会が開催され、世耕経済産業大臣、中根外務副大臣、西銘経済産業副大臣、武藤容治経済産業副大臣、平木大作経済産業大臣政務官、小林鷹之防衛大臣政務官ほか、多くの要人が同会場を訪問した。9月及び11月には、堀井学外務大臣政務官がそれぞれ第5回室内競技・格闘技大会及びエネルギー憲章会議出席のためトルクメニスタンを訪問した。さらに、中央アジア文化交流ミッション7が、4月にトルクメニスタン、11月にタジキスタン、キルギス及びカザフスタンを訪問した。


「中央アジア+日本」対話の枠組みでは、2月にビジネス対話を実施し、100人を超える日本企業・経済団体関係者の参加の下、日本と中央アジア各国との経済関係発展に向けた意見交換を行った。また、8月には、「日本と中央アジア関係の今と未来を展望する」と題した第10回東京対話(知的対話)を開催するとともに、文化交流イベント(漫画「乙嫁語り」原画展、中央アジア料理動画配信、漫画家・森薫氏執筆「みんなで作ろう!中央アジアクッキング」配信)を行い、中央アジアの魅力を発信した(コラム「中央アジアの魅力発信~節目の年に漫画や料理から~」105ページ参照)。
トルクメニスタンでは、2月、任期満了に伴う大統領選挙が実施され、現職のベルディムハメドフ大統領が再選された。また、キルギスでは、10月、任期満了に伴う大統領選挙が実施され、ジェエンベコフ前首相が当選し、11月に大統領に就任した。なお、この選挙には日本が提供した生体認証データ登録・確認機器が使用されるとともに、日本から選挙監視団を派遣した。
(2)コーカサス諸国
コーカサス諸国との関係も、ハイレベルの相互訪問等を通じ更に強化された。
欧州との統合を目指し、日本とも自由、民主主義、法の支配など基本的価値を共有するジョージアからは、5月にクムシシヴィリ第一副首相兼財務相がアジア開発銀行(ADB)年次総会出席のため訪日するとともに、5月から6月にかけてジャネリゼ外相が訪日し、岸田外務大臣との外相会談が行われた。また、9月には、カヒシヴィリ矯正相が訪日した。日本からは、1月に田中良生(りょうせい)国土交通副大臣、6月に滝沢外務大臣政務官が訪問し政府要人と会談した。

豊富な天然資源を背景にコーカサス地域の経済を牽引(けんいん)するアゼルバイジャンからは、5月にシャリホフ財務相がADB年次総会出席のため訪日し、11月にハラホフ外務次官が訪日した。日本からは、2月に松村祥史(よしふみ)経済産業副大臣が訪問したほか、9月に堀井学外務大臣政務官が訪問し、アリエフ大統領、アリエヴァ第一副大統領ほか政府要人と会談するとともに、日本企業も参入するアゼリ・チラグ・グナシリ(ACG)油田の開発の生産分与協定(PSA)延長署名式典に出席した。
IT分野を始めとする人材に恵まれたアルメニアからは、1月に衆議院の招待によりサハキャン国民議会議長が訪日し、総理大臣表敬及び衆参両院議長との会談を行った。日本からは、6月に滝沢外務大臣政務官が訪問し、サルグシャン大統領、ナルバンジャン外相を始めとする政府要人と会談した。また、4月、国民議会選挙が行われ、与党アルメニア共和党が与党第一党の地位を維持した。
一方、コーカサス地域には、ジョージアにおける南オセチア・アブハジア紛争8やアルメニアとアゼルバイジャンとの間のナゴルノ・カラバフ紛争9といった領土をめぐる紛争が存在し、依然として関係国間に緊張が生じている。解決に向けた取組は引き続き行われたが、具体的な進展は見られていない(2018年2月現在)。

~節目の年に漫画や料理から~
2017年、日本と中央アジア諸国は外交関係樹立25周年を迎えました。これまで、日本は、中央アジア諸国に対し、経済協力を通じた国造りへの支援や幅広い分野での協力を通じて各国との友好協力関係を強化してきました。日本の中では知名度が高いとは言い難い中央アジアですが、地政学上の重要性から、また、近年は新たな投資先としても、注目が集まっています。
東京対話は、日本が2004年に立ち上げた枠組みである「中央アジア+日本」対話の一環として行う公開シンポジウムです。10回目を迎えた今回のシンポジウムでは、「日本と中央アジア関係の今と未来を展望する」と題して、活発な意見交換が行われました。

今回の東京対話を開催するに際し、三つの文化交流イベントを行いました。
第1弾は、漫画家・森薫氏による19世紀の中央アジアを題材とした漫画「乙嫁語り」の原画展です。森薫氏の人気に加え、外務省内で初の原画展開催で話題になり、SNS等では、「外務省マジ感謝!」や「ここまでやるか外務省、ありがとう!」などの投稿が多く、大変好評を得ました。
第2弾は、中央アジア・クッキング動画の配信です。普段馴染(なじ)みのない中央アジア料理を知っていただくため、家庭で簡単に作ることができる中央アジア料理(プロフ、ディムラマ、ラグマン)の動画を制作・配信しました(外務省ホームページに掲載中:https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ca_c/page23_002183.html)。
第3弾は、森薫氏の書き下ろし漫画「中央アジア・クッキング(全7話)」の公開です。2015年の安倍総理大臣の中央アジア歴訪時に、政府専用機の機体にも描かれたオリジナル・キャラクターが、それぞれ中央アジア料理の作り方を紹介する漫画です(外務省ホームページに掲載中:https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ca_c/page24_000897.html)。外務省ホームページでダントツの閲覧数1位を取り続けるほど人気のコーナーで、SNSやニュースサイトでも話題となり、中央アジア諸国の魅力をより多くの方々に知ってもらうきっかけになりました。流行語大賞にはまだ入りませんが、一部のファンの中で、「お疲れスタン」という言葉も流行りつつあります。


7 国際交流基金は、2015年10月の安倍総理大臣による中央アジア諸国歴訪を受け、中央アジアを「重点地域」の一つと位置付け、この地域における幅広い分野の文化交流事業を集中的に企画・実施している。この一環として、文化、芸術等様々な分野の専門家・有識者で構成される文化交流使節団「国際交流基金中央アジア文化ミッション」を中央アジア5か国に派遣する計画が打ち出された。第1回を2016年8月(ウズベキスタン)、第2回を2017年4月(トルクメニスタン)、第3回を同年11月(タジキスタン、キルギス及びカザフスタン)に実施し、中央アジア5か国の文化・社会事業を視察するとともに、有識者等との意見・情報交換を行った。その成果を同年12月、安倍総理大臣に報告した。
8 2008年8月、ジョージアからの分離独立を目指す南オセチアとジョージアの武力衝突にロシア軍が介入し、ジョージア・ロシア両国の武力紛争に発展したが、紛争発生後約1週間でEU議長国であるフランス等の仲介により停戦が実現した。その際の合意に基づき、関係者間で安全保障及び人道問題に関する協議を行う国際会議がジュネーブで行われている。
9 ナゴルノ・カラバフをめぐるアルメニア・アゼルバイジャン間の紛争。アゼルバイジャン内に所在する同地域の住民の大半はアルメニア人であり、ソ連末期にアゼルバイジャンからアルメニアへの帰属変更要求が高まったため、1991年のソ連解体に伴って、アルメニアとアゼルバイジャン間の紛争へと発展した。アルメニアは、1993年までにナゴルノ・カラバフのほぼ全域及びその周辺7地域を占拠した。1994年、ロシア及び欧州安全保障協力機構(OSCE)の仲介により停戦合意したが、現在まで死傷者を伴う衝突が繰り返されている。2016年4月、1994年の停戦以降最大規模の軍事衝突が発生し、数日後に双方が停戦に合意した。OSCEミンスク・グループによる仲介で、1999年以降、アルメニア・アゼルバイジャン両国首脳・外相など様々なレベルで直接対話が継続して行われているものの、解決のめどは立っていない(2018年2月現在)。