第6節 中東と北アフリカ
中東・北アフリカ地域は、欧州、サブサハラ・アフリカ、中央アジア及び南アジアの結節点という地政学上の要衝に位置する。また、国際通商上の主要な海上ルートに位置し、原油、天然ガスなどのエネルギー資源を世界に供給する重要な地域でもある。一方、この地域は、「イラクとレバントのイスラム国」(ISIL)などの暴力的過激主義、大量の難民の発生と周辺地域への流入、シリア危機の長期化、イラク情勢、中東和平問題、イランとサウジアラビアとの緊張関係、カタールをめぐる情勢、アフガニスタン、イエメン及びリビアの国内情勢など、同地域を不安定化させる様々な課題を抱えている。同地域の平和と安定を実現することは、日本を含む世界全体にとって極めて重要であり、日本は国際社会と連携し、これら課題の解決に向けて取り組んでいる。また、日本は国際社会と連携し、人道支援や安定化支援、中長期的な観点からの開発協力等を実施しながら、各国に対して同地域の安定の実現に向けた取組を働きかけている。
日本は原油輸入量の8割以上を中東地域に依存するなど、従来から資源・エネルギーを中心に中東・北アフリカ地域諸国(以下「中東諸国」という。)との関係を築いてきたが、現在ではそれにとどまらず、幅広い経済分野における協力、さらには政治・安全保障、文化・人的交流といった多層的な関係を構築していくことを目指している。2012年12月の第二次安倍政権発足以降6度に及ぶ安倍総理大臣の同地域への訪問や2017年8月の河野外務大臣就任以降の4度にわたる訪問のほか、政府ハイレベルの要人往来や会談も活発に行われており、日本は、中東諸国との関係の強化に向けてより積極的に取り組んでいる。
特に河野外務大臣は対中東外交を日本外交の六つの重点分野の一つとして重視しており、2017年9月には、第1回日アラブ政治対話をエジプトで開催し、これまでの日本の実績を踏まえ対中東政策の基本方針として「河野四箇条1」(①知的・人的貢献、②「人」への投資、③息の長い取組及び④政治的取組の強化)を打ち出した。

中東和平は、2014年4月のイスラエル・パレスチナ間の直接交渉が頓挫して以降、停滞している。日本は、中東各国との友好関係をいかし、中東和平問題の解決に向け中立的な立場から支援を行っている。一連の要人往来の際の首脳会談、外相会談を通じて、両者の対話による解決を支持すると表明し、和平交渉の促進を働きかけている。そのほか、「平和と繁栄の回廊」構想や「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)」といった日本独自のパレスチナ支援の取組を着実に進めている。2017年12月にトランプ米国大統領が在イスラエル米国大使館をエルサレムに移転することを表明したことを契機とし、中東和平問題をめぐり複雑な状況が発生している。これを受け、河野外務大臣はイスラエル及びパレスチナを訪問し、両当事者に働きかけた。
ISILの支配領域は縮小しているものの、暴力的過激主義は、依然として中東地域を不安定化させており、国際社会全体にとって重大な課題となっている。日本は、シリア危機発生以降、シリア難民の流入により影響を受けているトルコやヨルダンに対する円借款などを含め、これまでにシリア、イラク及び周辺国に対して総額19億米ドル以上の支援を実施してきた。また、2017年9月の第1回日アラブ政治対話等、様々な機会において、難民・避難民に対する人道支援、経済基盤整備、人材育成等の協力を通じて、暴力的過激主義を生み出さない包摂的な社会の構築を支援する姿勢を示してきた。
イランについては、2016年1月、核問題についての最終合意の「履行の日」が到来し、米国やEUの対イラン制裁が一部停止・終了された。日本は引き続き、国際不拡散体制の強化と中東の安定に資する核合意を支持する立場であり、イランによる最終合意の着実な履行を後押しするための協力や、投資協定の締結等、合意後の両国間の関係強化に向けて取り組んでいる。
2017年6月、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプト等が、カタールのテロ支援等を理由に、カタールとの外交関係断絶を発表した。日本は、中東の平和と安定には、湾岸協力理事会(GCC)の結束の維持が不可欠との認識の下、クウェートによる仲介を支持しつつ、対話による解決を呼びかけている。
近年、中東諸国は、急速に増加する若年人口を背景に着実な経済発展を遂げ、市場や投資先としての存在感も高めている。そのため、日本は、中東諸国との間で、経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)、投資協定、租税協定、社会保障協定など、経済・ビジネス関係の強化の基盤となる法的枠組みの構築やインフラの海外展開などにも取り組んでいる。
1 2017年9月 河野外務大臣の「第1回日アラブ政治対話におけるスピーチ」URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/me_a/me1/page3_002219.html参照