外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

7 人権

(1)国連における取組

ア 国連人権理事会

国連人権理事会は、国連における人権の主流化の流れの中で、国連の人権問題への対処能力の強化を目的に、人権委員会を改組する形で2006年に設立された。1年を通じてジュネーブにて会合が開催され(年3回の定期会合、合計10週間以上)、人権や基本的自由の保護・促進に向けて、審議・勧告などを行っている。

人権理事会議場(写真提供:UN Photo/Jean-Marc Ferre)
人権理事会議場(写真提供:UN Photo/Jean-Marc Ferre)

3月の第31会期ハイレベルセグメントにおいては、濵地外務大臣政務官がステートメントを行った。その中で、同外務大臣政務官は、シリアや北朝鮮等の人権状況への懸念を表明するとともに、世界各国の様々な人権状況の変化や日本政府の立場について述べた。また、これまで日本が実施してきた、過激主義を生み出さない社会の構築支援や難民支援、人権理事会等との協力について紹介した。

同会期では、日本とEUが共同で提出した北朝鮮人権状況決議が無投票で採択された(採択は9年連続)。同決議は、北朝鮮の組織的、広範かつ深刻な人権侵害を最も強い表現で非難し、国連安保理で北朝鮮の人権状況等が議論されたことを歓迎し、国連安保理の継続的かつ積極的な関与を期待するとしている。さらに、人権高等弁務官に対し、北朝鮮における人権侵害に係る説明責任の問題に重点的に取り組む独立した専門家を指名するよう求め、同専門家のグループに対しては、北朝鮮における人道に対する犯罪の被害者のために、正義と真実を確保するための実用的な説明責任メカニズムを勧告することを要請している。

北朝鮮の人権状況に関するパネル・ディスカッションの様子(12月1日、米国・ニューヨーク(国連本部))
北朝鮮の人権状況に関するパネル・ディスカッションの様子(12月1日、米国・ニューヨーク(国連本部))

10月には、ニューヨークの国連総会において、人権理事会理事国選挙が行われ、日本は第1回目の投票において理事国として選出された。今回の選出により、日本は2017年1月1日から3年間にわたり、人権理事会の理事国を務めることになる。

日本は、引き続き、国際社会における人権問題の解決のため、人権理事会における議論に積極的に参加していく。

イ 国連総会第3委員会

国連総会第3委員会は、人権理事会と並ぶ国連の主要な人権フォーラムである。同委員会では、10月から11月にかけて、社会開発、女性、児童、人種差別、難民、犯罪防止、刑事司法など幅広いテーマが議論されるほか、北朝鮮、シリア、イランなどの国別人権状況に関する議論が行われている。第3委員会で採択された決議は、総会本会議に提出され、国際社会の規範形成に寄与している。

日本は、2005年から毎年、EUと共同で北朝鮮人権状況決議案を国連総会に提出している。2016年も第71会期に同決議案を提出し、11月の第3委員会と12月の総会本会議において、無投票で採択された。同決議は、「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書の内容を反映した前年の国連総会決議を基に、3月の人権理事会決議の内容も踏まえた、より強い内容となっている。具体的には、北朝鮮の組織的かつ広範で深刻な人権侵害を非難するとともに、北朝鮮に対し、拉致問題を含む、全ての人権侵害を終わらせるための措置を早急に採ることを要求している。また、北朝鮮による核・ミサイル開発への資源投入が北朝鮮の人権・人道状況に与える影響への深刻な懸念についても表明している。さらに、国連安保理に対し、北朝鮮の事態の国際刑事裁判所(ICC)への付託の検討や人権侵害に最も責任を有すると見られる者を効果的に対象とするための制裁の更なる検討等を通じ、適切な行動をとることを促している。

また、12月1日、国連本部にて、日本、オーストラリア、EU、韓国及び米国の共催でパネル・ディスカッション「北朝鮮の人権状況-現状及び国際社会の取組」が開催され、日本からは加藤勝信拉致問題担当大臣が日本政府を代表してパネリストとして出席し、拉致問題の深刻さや拉致被害者及びその御家族の高齢化が進む中で、拉致被害者の救出が切迫した課題であることを国際社会に訴えた。同パネルでは、全ての拉致被害者の一日も早い帰国の実現を含む、北朝鮮の人権状況の改善に向けた国際連携の在り方に関して活発な議論が行われた。

さらに日本は、シリア、イラン、ミャンマーなどの国別人権状況や各種人権問題(社会開発、児童の権利など)についての議論にも積極的に参加した。これまで同様、女性NGO代表を第71回国連総会第3委員会の政府代表顧問として派遣するなど、市民社会とも連携しつつ、人権保護・促進に向けた国際社会の議論に積極的に参加した。

(2)国際人権法・国際人道法に関する取組

ア 国際人権法

6月、国連本部で開催された第16回児童の権利条約締約国会合において、児童の権利委員会委員選挙が行われ、日本が擁立した候補者の大谷美紀子氏(弁護士)が日本の候補として初めて当選を果たした。さらに6月、国連本部で開催された第9回障害者権利条約締約国会合において、障害者権利委員会委員選挙が行われ、日本が擁立した候補者の石川准氏(静岡県立大学教授)が日本の候補として初めて当選を果たした。

日本は、日本が締結している人権諸条約について、各条約の規定に従い、国内における条約の実施状況に関する定期的な政府報告審査に真摯に対応してきている。6月には、障害者の権利に関する条約に関する第1回政府報告を障害者権利委員会に提出した。7月には、強制失踪からの全ての者の保護に関する国際条約に関する第1回政府報告を国連強制失踪からの全ての者の保護に関する委員会に提出した。さらに3月、6月及び12月には、自由権規約に関する第6回政府報告に関し、自由権規約委員会による最終見解の中で勧告されていた事項について、同委員会に日本の取組状況についての追加的情報を提出した。また、8月及び12月には、人種差別撤廃条約に関する第7回・第8回・第9回政府報告に関し、人種差別撤廃委員会の最終見解の中で勧告されていた事項について、同委員会に日本の取組状況に係る追加情報を提出した。

イ 国際人道法

ジュネーブにおける国際人道法に関する政府間プロセスにおいて、日本は国際人道法の履行強化や自由を剥奪された者を保護する国際人道法の強化に関する議論に積極的に参加した。12月、スイスで開催された国際事実調査委員会の権限受託国会合において、国際事実調査委員会委員選挙が行われ、日本が擁立した候補者の古谷修一氏(早稲田大学教授)が当選(再選)を果たした。また、国際人道法の啓発の一環として、赤十字国際委員会主催の国際人道法模擬裁判大会に2015年に続き講師を派遣した。

(3)二国間の対話を通じた取組

国連など多国間の枠組みにおける取組に加え、人権の保護・促進のため、日本は二国間対話の実施を重視している。2月には第11回日・イラン人権対話(於:テヘラン)、7月には第22回日・EU人権対話(於:東京)を開催した。それぞれ人権分野における両者の取組について情報を交換するとともに、国連などの多国間の場における協力について意見交換を行った。

(4)難民問題への貢献

日本は、国際貢献や人道支援の観点から、2010年度から2014年度まで第三国定住(難民が、庇護(ひご)を求めた国から新たに受入れに同意した第三国に移り、定住すること)により、タイに一時滞在しているミャンマー難民を受け入れた。

2015年度以降は、マレーシアに一時滞在しているミャンマー難民を受け入れるとともに、タイからは相互扶助を前提に既に来日した第三国定住難民の家族を呼び寄せられるものとし、2010年度からこれまでに合計31家族123人が来日している。

第三国定住による難民受入れは、これまで欧米諸国が中心となってきたが、日本がアジアで初めての受入国であることから、難民問題への日本の積極的な取組として、国際社会からも高い評価と期待を集めている。日本における難民認定申請者が近年増加傾向にある中、日本は真に支援を必要としている人々へのきめ細かな支援に引き続き取り組んでいる。

第三国定住難民に対する定住支援プログラムの開講式の様子(10月6日、写真提供:難民事業本部)
第三国定住難民に対する定住支援プログラムの開講式の様子(10月6日、写真提供:難民事業本部)
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