外交青書・白書
第2章 しなやかで、揺るぎない地域外交

5 南アジア

(1)インド

人口が世界第1位、経済規模が世界第5位となったインドは、国際社会における存在感をますます高めている。経済面では、「メイク・イン・インディア」を始めとした様々な経済イニシアティブを通じ、着実な成長を遂げている。また、外交面では「アクト・イースト」政策の下、インド太平洋地域を中心に積極的な外交を展開しているほか、2023年はG20議長国として、いわゆる「グローバル・サウス」の声を代弁する役回りを自認するなど、グローバル・パワーとしてますます国際場裡(り)での影響力を増している。

日本とインドは、基本的価値や戦略的利益を共有するアジアの二大民主主義国であり、「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の下、経済、安全保障、人的交流など、幅広い分野における協力を深化させてきた。また、インドは「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現する上で重要なパートナーであり、日米豪印といった多国間での連携も着実に進展している。太平洋を臨む日本と、インド洋の中心に位置するインドが二国間及び多国間の連携を深めていくことは、インド太平洋の平和と繁栄に大いに貢献する。日印関係は世界で最も可能性を秘めた二国間関係であり、既存の国際秩序の不確実性が高まる中、その重要性は増している。インド太平洋地域の経済秩序の構築においてもインドは不可欠なプレーヤーであり、その意味でも地域的な包括的経済連携(RCEP)協定への将来的な復帰が期待される。

2023年は、首脳会談を始めとするハイレベルの意見交換が頻繁に行われた。3月にインドで開催された日米豪印外相会合の際には日印外相会談を行った。また、同月にインドを訪問した岸田総理大臣は、モディ首相との首脳会談において、G7及びG20議長国として様々な国際社会の諸課題について議論を重ね、連携していくことを確認し、また、二国間関係に関し、安全保障、経済協力、人的交流の各分野におけるこれまでの進展と今後の協力について議論した。5月のG7広島サミットの際に行われた日印首脳会談では、FOIPの重要性につき認識を共有し、様々な分野で協力を進めていくことを確認した。また、7月にはニューデリーで第15回日印外相間戦略対話が行われたほか、9月のG20ニューデリー・サミットの際には日印首脳会談が、また、同月のニューヨークでの国連総会の際には日印外相会談が行われた。さらに、日印間では多くの実務レベルでの協議が実施されており、9月にはインド高速鉄道に関する第16回合同委員会及び第5回日・インド・サイバー協議が実施された。

日印首脳会談(3月20日、インド・デリー 写真提供:内閣広報室)
日印首脳会談(3月20日、インド・デリー 写真提供:内閣広報室)

(2)パキスタン

パキスタンは、アジアと中東を結ぶ要衝に位置しており、その政治的安定と経済発展は地域の安定と成長に不可欠である。2億人を超える人口のうち30歳以下の若年人口が約65%を占めており、政府の財政状況改善及び低成長からの脱却が課題であるものの経済的な潜在性は高い。

外交面では、インドとの間では依然として緊張状態が継続している。中国との間では、「全天候型戦略的協力パートナーシップ」の下、中国の進める「一帯一路」の重要な構成要素とされる中国・パキスタン経済回廊(CPEC)建設を始め、幅広い分野で関係が強化されている。内政面では、シャリフ首相率いる連立政権が8月に下院を解散したことにより、カーカル首相率いる選挙管理内閣が発足した。2024年2月の総選挙に際しては、和田充広駐パキスタン大使を団長とする選挙監視団をパキスタンに派遣した。

日本との関係では、7月にブットー外相が訪日した際に林外務大臣と日・パキスタン外相会談を行った。会談において、林外務大臣は、パキスタンの外相による訪日としては約4年ぶりとなるブットー外相の訪日を歓迎し、両大臣は、伝統的な友好関係をあらゆる分野で一層発展させていくことで一致した。これに先立つ6月には、第12回日・パキスタン外務次官級政務協議を実施した。

日本は近年パキスタンに対し、保健、水・衛生、教育及び防災などの分野を中心に無償資金協力を行っている。2022年には同年に発生した洪水被害への支援として緊急援助物資の供与や緊急無償資金協力を行ったが、それに加え、1月にジュネーブで行われたパキスタン洪水被害に関する支援国会合において、防災、保健・医療、農業分野を含め約7,700万ドル規模の支援を行っていくことを表明し、着実に実施を進めてきている。

(3)バングラデシュ

イスラム教徒が国民の約9割を占めるバングラデシュは、インドとASEANの交点であるベンガル湾に位置し、近年、持続的な安定成長を遂げている(2022年の経済成長率は7.1%)。人口は約1億7,000万人に上り、質の高い労働力が豊富な生産拠点及び高いインフラ整備需要を備えた潜在的な市場として注目されており、日系企業数は2005年の61社から2022年には302社に増加している。安定した電力の供給やインフラの整備が外国企業からの投資促進に向けた課題となっており、日本も円借款の供与などを通じてその発展を支援してきている。また、バングラデシュには、2017年8月以降、ミャンマー・ラカイン州の治安悪化を受けて、同州から新たに70万人以上の避難民が流入した(2023年12月時点)。避難民の帰還はいまだ実現しておらず、避難の長期化によりホストコミュニティ(受入れ地域)の負担増大や現地の治安悪化が懸念されている。内政面では、2024年1月に第12次総選挙が実施され、ハシナ首相率いるアワミ連盟が引き続き政権を担うことになった。

日本との関係では、4月にハシナ首相が公式実務訪問賓客として訪日し、岸田総理大臣と首脳会談を行った。この機会に、両首脳は、二国間関係を「戦略的パートナーシップ」へと格上げすることを発表した。また、同パートナーシップの下、防衛装備品・技術移転協定締結に向けた交渉の開始、政府安全保障能力強化支援(OSA)の活用を始めとする安全保障分野での協力強化、あり得べき日・バングラデシュ経済連携協定(EPA)に関する共同研究の推進、「ベンガル湾からインド北東部をつなぐ産業バリューチェーンの構築」の下での協力強化、二国間初の友好都市提携、JICA海外協力隊派遣の再開など、様々な分野において協力を進めていくことで一致した。また、7月にインドネシアで開催されたASEAN関連外相会議の際には日・バングラデシュ外相会談を行った。このほか、2月に第4回日・バングラデシュ外務次官級協議を実施したことに加え、5月には髙木啓外務大臣政務官が第6回インド洋会議2023出席のため、10月には高村正大外務大臣政務官がダッカ国際空港第三ターミナル開所式出席のためバングラデシュを訪問した。また、11月には、OSAの初年度案件となる警備艇供与に関する書簡の署名・交換が行われた(203ページ 特集参照)。

日・バングラデシュ首脳会談(4月26日、東京 写真提供:内閣広報室)
日・バングラデシュ首脳会談(4月26日、東京 写真提供:内閣広報室)

(4)スリランカ

スリランカはインド洋のシーレーン上の要衝に位置し、その地政学的重要性が注目されている。経済危機を受けた前大統領の辞任により2022年7月に選出されたウィクラマシンハ大統領は、国際通貨基金(IMF)による支援を受けるため同機関と協議を行った結果、2023年3月、スリランカに対する拡大信用供与措置(EFF)がIMF理事会において承認され、約3.3億ドルの第1回拠出が行われた。現在、スリランカ政府は、EFFプログラムで求められる様々な改革に取り組んでいる。スリランカの債務再編については、4月に日仏印の共同議長の下で債権国会合が立ち上げられ、5月の第1回会合以降、様々なレベルで議論が行われ、11月、債権国会合とスリランカ政府の間で債務再編に係る基本合意がなされた。経済面では、2022年の経済危機から徐々に落ち着きを取り戻しつつあり、インフレ率は2022年9月の70%から2023年9月には1.3%まで低下した。

日本との関係では、2月、武井外務副大臣が第75回スリランカ独立記念式典に出席した。また、5月にはウィクラマシンハ大統領が訪日し岸田総理大臣との間で首脳会談を行い、透明かつ公平な債務再編の重要性について確認した。さらに、7月には林外務大臣がスリランカを訪問した。10月には環インド洋連合(IORA)閣僚会合に参加するために高村外務大臣政務官が同国を訪問した。

(5)ネパール

ネパールは、中国・インド両大国に挟まれた内陸国であり、2015年の新憲法公布以後、民主主義国としての歩みを進めている。内政面では、2022年11月に実施された連邦下院選挙の結果を受け、同年12月にダハル首相が新たに就任した。経済面では、新型コロナの影響によるマイナス成長から徐々に回復し、2021年から2022年の経済成長率は5.6%であるが、依然として低成長からの脱却が課題とされている。

日本との関係では、両国は登山などの民間交流を通じた伝統的な友好関係を築いており、多くのネパール人が日本に在住し、様々な分野で活躍している。4月には、第4回日・ネパール外務省間政務協議を実施した。また、日本はネパールにとって長年の主要援助国であり、長年にわたり、貧困削減、防災及び気候変動対策、民主化の強化の三つの重点分野を始めとする様々な分野において経済協力を実施してきている。特に、民主化の強化に関しては、2008年に王政から連邦民主制へ移行したことを受け、日本はこれまで専門家派遣を通じて法制度整備や平和構築・民主化促進のためのメディア能力強化支援など、ネパールにおける民主化の定着及びガバナンス強化に向けた支援を継続してきている。

(6)ブータン

ブータンは中国とインドの間に位置する内陸国で、日本とは皇室・王室間の交流も深い。国民総幸福量(GNH)を国家運営の指針とし、第12次5か年計画(2018年7月から2023年6月)の優先課題である貧困削減、医療・教育の質向上、男女平等、環境や文化・伝統の保護、マクロ経済安定などに取り組んでいる。内政面では、2024年1月に下院総選挙の本選挙が実施され、国民民主党が勝利し政権交代が行われ、ツェリン・トブゲー首相が2014年以来2期目となる首相に就任した。外交面では、近隣諸国、日本など54か国及びEUとのみ外交関係を保有しており、国防などの分野においてインドと密接な関係を有している。

日本との関係では、7月に西村明宏環境大臣がブータンを訪問した。

(7)モルディブ

シーレーンの戦略的要衝に位置するモルディブは、日本にとってFOIPを実現する上で重要なパートナーである。モルディブは、GDPの約3割を占める漁業と観光業を主産業とし、新型コロナの感染拡大による影響はあったものの、一人当たりのGDPは南アジア地域で最も高い水準に達している。内政面では、9月に実施された大統領選挙の結果、11月にモハメド・ムイズ氏が大統領に就任した。

日本との関係では、4月に第4回日・モルディブ政策対話を実施したほか、5月にはシャーヒド外相が訪日し、林外務大臣と外相会談を行った。7月には林外務大臣がモルディブを訪問し、シャーヒド外相との会談において、幅広い分野で二国間協力を進めていくことで一致した。9月のモルディブ大統領選挙第1回投票に際しては、武井外務副大臣を団長とする選挙監視団がモルディブを訪問した。11月の大統領就任式には岸田総理大臣の特使として高村外務大臣政務官が出席した。

総理特使としてムイズ・モルディブ大統領に表敬する高村外務大臣政務官(11月18日、モルディブ)
総理特使としてムイズ・モルディブ大統領に表敬する高村外務大臣政務官(11月18日、モルディブ)
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