外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

3 朝鮮半島

(1)北朝鮮(拉致問題含む。)

日本は、2002年9月の日朝平壌(ピョンヤン)宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化を図ることを基本方針として、引き続き様々な取組を進めている。北朝鮮は、2022年には、日本の上空を通過するものや複数の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイルを含め、前例のない頻度と態様で、31回、少なくとも59発に及ぶ弾道ミサイルの発射などを行った。このような、事態を更に悪化させる弾道ミサイル発射を含め、一連の北朝鮮の行動は、日本の安全保障にとって重大かつ差し迫った脅威であるとともに、国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦であり、到底看過できない。日本としては、引き続き、米国や韓国と緊密に連携し、また、国際社会とも協力しながら、関連する国連安保理決議の完全な履行を進め、北朝鮮の非核化を目指していく。拉致問題については、北朝鮮に対して2014年5月の日朝政府間協議における合意(ストックホルム合意)11の履行を求めつつ、引き続き、米国を始めとする関係国と緊密に連携し、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を実現すべく、全力を尽くしていく。

ア 北朝鮮の核・ミサイル問題
(ア)北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐる最近の動向

北朝鮮は、累次の国連安保理決議に従った、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄を依然として行っていない。

4月、朝鮮人民革命軍の創建90周年を祝う閲兵式が行われ、演説において金正恩(キムジョンウン)国務委員長は、「我が国家が保有した核武力を最大の急速なスピードで一層強化し発展させるための措置を引き続き講じていく」と述べたと報じられた。同閲兵式では、「最新型戦術ミサイル縦隊」、「超大型放射砲縦隊」、「戦略ミサイル縦隊」、「大陸間弾道ミサイル『火星17』型」などが登場したと報じられた。9月、最高人民会議第14期第7回会議が開催され、法令「朝鮮民主主義人民共和国核武力政策について」が討議・採択された。同会議において金正恩国務委員長は、「我々の核に関して」、「不退の線を引いたこと」に「核武力政策の法化が持つ重大な意義がある」と述べ、また、「いかなる困難な環境に直面しようとも」、「絶対に核を放棄することはできない」と言及したほか、「核戦闘態勢を各方面から強化」し、「先端戦略・戦術兵器体系の実戦配備事業を不断に推し進めていく」旨述べたと報じられた。

2022年、北朝鮮は前例のない頻度と態様で、31回、少なくとも59発に及ぶ弾道ミサイルの発射などを行った。1月5日及び11日には「極超音速ミサイル」と称する弾道ミサイルを発射した。また、14日には「平安北道鉄道機動ミサイル連隊の検閲射撃訓練」として弾道ミサイルを、17日及び27日には「戦術誘導弾」と称する弾道ミサイルを、25日には「長距離巡航ミサイル」を発射したことを発表した。30日には、中距離弾道ミサイル(IRBM)級弾道ミサイル「火星12」とみられるミサイルを、2月27日及び3月5日には、「偵察衛星」開発のための重要試験と称してICBM級弾道ミサイルを発射した。さらに、弾道ミサイルが正常に飛翔しなかったと推定される3月16日の発射からおよそ1週間後の24日には、新型とみられるICBM級弾道ミサイルを発射した。同弾道ミサイルは、飛翔距離約1,100キロメートル、最高高度は6,000キロメートルを超え、北海道の渡島(おしま)半島の西方約150キロメートルの日本のEEZ内に落下したものと推定される。北朝鮮による挑発行動などを受けて、日本政府は4月1日に更なる対北朝鮮措置を実施し、資産凍結等の対象となる4団体9個人を追加指定した。

その後、北朝鮮は、5月4日に弾道ミサイルを、7日には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を、12日には弾道ミサイル3発を、25日にはICBM級弾道ミサイルと弾道ミサイルを相次いで発射した。27日、ICBM級を含む一連の弾道ミサイル発射を受け、米国は、制裁強化の内容を含む新たな国連安保理決議案を提案し、中国・ロシア以外の安保理理事国13か国の賛同を得たが、両国の拒否権行使により否決された。一方、その後6月8日及び10日に行われた国連総会においては、多くの加盟国から北朝鮮の核・ミサイル活動や安保理決議違反に非難の声が上げられた。この間の6月5日にも、北朝鮮は、複数の地点から、8発の弾道ミサイルを発射した。

また、8月17日に巡航ミサイルを、9月25日、28日、29日と短期間で立て続けに弾道ミサイルを発射した。10月には、1日、4日、6日、9日、14日に弾道ミサイルを発射し、うち4日の弾道ミサイルは、日本上空を通過した。日本政府は10月18日、更なる対北朝鮮措置として、北朝鮮の核・ミサイル開発に関与した5団体を資産凍結等の対象として追加指定した。

11月には、2日、3日、9日、18日に、ICBM級の可能性があるものを含め弾道ミサイルを発射した。18日のICBM級弾道ミサイルは、飛翔距離約1,000キロメートル、最高高度約6,000キロメートル程度で、北海道の渡島大島(おしまおおしま)の西方約200キロメートルの日本のEEZ内に着弾したと推定される。日本政府は12月2日、更なる対北朝鮮措置として、北朝鮮の核・ミサイル開発などに関与した3団体1個人を資産凍結等の対象として追加指定した。

12月18日には、「偵察衛星」開発のための最終段階の重要試験と称して弾道ミサイル2発を、その5日後の23日にも、弾道ミサイルを発射した。さらに、31日及び2023年1月1日には、「超大型放射砲」と称する弾道ミサイルを発射した。

これまでの対北朝鮮措置により、日本政府は、合計で137団体・121個人を資産凍結等の措置の対象に指定している。

北朝鮮の核活動について、5月、米国国務省は、北朝鮮が同月中にも北東部豊渓里(ブンゲリ)で核実験の準備を完了する可能性があるとの分析を明らかにした。また、同月、韓国の国家情報院が、北朝鮮が7回目の核実験の準備を全て終え、実施のタイミングを見計らっている段階であると明らかにしたと報じられた。6月、米国国務省も、北朝鮮が核実験の準備を終えたとの見方を示した。9月の国際原子力機関(IAEA)事務局長報告は、豊渓里近郊の核実験場で、北朝鮮が第3坑道を再開放し、いくつかの新しい支援施設を建設した兆候があると指摘した。

(イ)日本の取組及び国際社会との連携

北朝鮮による度重なる弾道ミサイルなどの発射は、日本のみならず、国際社会に対する深刻な挑戦であり、全く受け入れられない。北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄に向け、国際社会が一致結束して、安保理決議を完全に履行することが重要である。日本は、これらの点を、各国首脳・外相との会談などにおいて確認してきている。

日米韓3か国の連携は北朝鮮への対応を超えて地域の平和と安定にとっても不可欠であるとの認識の下、3か国の間では、首脳会合、外相会合、次官協議、そして六者会合首席代表者会合などの開催を通じ、重層的に協力を進めてきている。首脳レベルでは、6月29日には、NATO首脳会合の機会にマドリード(スペイン)において約4年9か月ぶりに日米韓首脳会合が開催された。また、11月13日には、ASEAN関連首脳会合の機会にプノンペン(カンボジア)において日米韓首脳会合が開催され、3首脳は、北朝鮮による前例のない頻度と態様での挑発行為が続き、更なる挑発も想定される中、日米、日韓、日米韓での連携はますます重要であるとの認識を共有し、また、北朝鮮の完全な非核化に向けて、毅然とした対応を行っていくことで一致した。同会合後には、「インド太平洋における三か国パートナーシップに関するプノンペン声明」が発出された。同月18日には、同日の北朝鮮によるICBM級弾道ミサイル発射を受けて、APEC首脳会議の機会にバンコク(タイ)において同首脳会議に出席している日本、米国、韓国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドの首脳級による緊急会合が開催され、同弾道ミサイル発射を最も強い言葉で非難し、断じて容認できないとの点で一致した。また、外相レベルでは、2月12日にはホノルル(米国)、及び7月7日にはG20外務大臣会合の機会にバリ(インドネシア)において、日米韓外相会合が開催された。9月22日には、国連総会の機会にニューヨーク(米国)において日米韓外相会合が開催され、3外相は、核実験を始め、北朝鮮による更なる挑発行為への対応や北朝鮮の完全な非核化に向けた今後の対応についてすり合わせを行ったほか、日米韓3か国による連携を重層的に進めていくことで一致した。会合後には、日米韓外相共同声明が発出された。11月21日には、同月18日の北朝鮮によるICBM級弾道ミサイル発射を受けて、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル発射に関するG7外相声明が発出された。

また、日本は、海上保安庁による哨(しょう)戒活動及び自衛隊による警戒監視活動の一環として、安保理決議違反が疑われる船舶の情報収集を行っている。安保理決議で禁止されている北朝鮮船舶との「瀬取り」12を実施しているなど、違反が強く疑われる行動が確認された場合には、国連安保理北朝鮮制裁委員会などへの通報、関係国への関心表明、対外公表などの措置を採ってきている。「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、米国に加え、カナダ、オーストラリア及びフランスが、国連軍地位協定に基づき、在日米軍施設・区域を使用し、航空機による警戒監視活動を行った。また、米国海軍の多数の艦艇、フランス海軍フリゲート「ヴァンデミエール」、オーストラリア海軍フリゲート「パラマッタ」及び「アランタ」、カナダ海軍フリゲート「バンクーバー」、英国海軍哨戒艦「テイマー」が、東シナ海を含む日本周辺海域において、警戒監視活動を行った。このように、安保理決議の完全な履行及び実効性の確保のため、関係国の間での情報共有及び調整が行われていることは、多国間の連携を一層深めるという観点から、意義あるものと考えている。

イ 拉致問題・日朝関係
(ア)拉致問題に関する基本姿勢

現在、日本政府が認定している日本人拉致事案は、12件17人であり、そのうち12人がいまだ帰国していない。北朝鮮は、12人のうち、8人は死亡し、4人は入境を確認できないと主張しているが、そのような主張について納得のいく説明がなされていない以上、日本としては、安否不明の拉致被害者は全て生存しているとの前提で、問題解決に向けて取り組んでいる。北朝鮮による拉致は、日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であると同時に、基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的問題である。また、拉致問題は、時間的制約のある人道問題である。拉致被害者のみならず、その御家族も御高齢となる中ではあるが、「決して諦めない」との思いを胸にこの問題の解決に向けた取組を続けている。日本は、拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ないとの基本認識の下、その解決を最重要課題と位置付け、拉致被害者としての認定の有無にかかわらず、全ての拉致被害者の安全の確保と即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しを北朝鮮側に対し強く要求している。2023年1月には、岸田総理大臣が施政方針演説で、「最重要課題である拉致問題は深刻な人道問題であり、その解決は、一刻の猶予も許されない。全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、あらゆるチャンスを逃すことなく、全力で果断に取り組む。私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意である。」と表明した。

(イ)日本の取組

北朝鮮による2016年1月の核実験及び2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイル発射を受け、同月に日本が独自の対北朝鮮措置の実施を発表したことに対し、北朝鮮は全ての日本人拉致被害者に関する包括的調査を全面中止し、特別調査委員会を解体すると一方的に宣言した。日本は北朝鮮に対し厳重に抗議し、ストックホルム合意を破棄する考えはないこと、北朝鮮が同合意に基づき、一日も早く全ての拉致被害者を帰国させるべきことについて、強く要求した。

(ウ)日朝関係

2018年2月、平昌(ピョンチャン)冬季オリンピック競技大会開会式の際の文在寅(ムンジェイン)韓国大統領主催レセプション会場において、安倍総理大臣から金永南(キムヨンナム)北朝鮮最高人民会議常任委員長に対して、拉致問題、核・ミサイル問題を取り上げ、日本側の考えを伝えた。特に、全ての拉致被害者の帰国を含め、拉致問題の解決を強く申し入れた。また、同年9月、河野外務大臣は国連本部において、李容浩(リヨンホ)北朝鮮外相と会談を行った。2022年9月、岸田総理大臣は第77回国連総会における一般討論演説において、「私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意である。」と改めて表明した。

(エ)国際社会との連携

拉致問題の解決のためには、日本が主体的に北朝鮮側に対して強く働きかけることはもちろん、拉致問題解決の重要性について諸外国からの理解と支持を得ることが不可欠である。日本は、各国首脳・外相との会談、G7サミット日米豪印首脳会合日中韓サミット日米韓首脳会合、ASEAN関連首脳会議、国連関係会合を含む国際会議などの外交上のあらゆる機会を捉え、拉致問題を提起している。米国については、トランプ大統領が、安倍総理大臣からの要請を受け、2018年6月の米朝首脳会談において金正恩国務委員長に対して拉致問題を取り上げた。2019年2月の第2回米朝首脳会談では、トランプ大統領から金正恩国務委員長に対して初日の最初に行った一対一の会談の場で拉致問題を提起し、拉致問題についての安倍総理大臣の考え方を明確に伝えたほか、その後の少人数夕食会でも拉致問題を提起し、首脳間での真剣な議論が行われた。また、2022年1月22日の日米首脳テレビ会談及び5月23日の日米首脳会談において、岸田総理大臣からバイデン大統領に対して、拉致問題の即時解決に向けた全面的な理解と協力を改めて求め、バイデン大統領から、一層の支持を得た。5月の訪日の際には、バイデン大統領は、拉致被害者の御家族と面会し、拉致被害者を思う御家族の方々の心情や、拉致問題の一刻も早い解決に向けた米国の支援を求める発言にじっくりと真剣に耳を傾け、御家族の方々を励まし、勇気付けた。さらに、10月4日の日米首脳テレビ会談、11月13日の日米首脳会談、2023年1月13日の日米首脳会談において、岸田総理大臣からバイデン大統領に対して、拉致問題の解決に向けた米国の引き続きの理解と協力を求め、バイデン大統領から、全面的な支持を得た。中国についても、2019年6月の日中首脳会談において、習近平国家主席から、同月の中朝首脳会談で日朝関係に関する日本の立場、安倍総理大臣の考えを金正恩国務委員長に伝えたとの発言があり、その上で、習近平国家主席から、拉致問題を含め、日朝関係改善への強い支持を得た。また、2022年11月17日の日中首脳会談においても、岸田総理大臣から習近平国家主席に対して拉致問題の即時解決に向けた理解と支持を求め、両首脳は引き続き緊密に連携していくことを確認した。韓国も、2018年4月の南北首脳会談を始めとする累次の機会において、北朝鮮に対して拉致問題を提起しており、2019年12月の日韓首脳会談においても、文在寅大統領から、拉致問題の重要性についての日本側の立場に理解を示した上で、韓国として北朝鮮に対し拉致問題を繰り返し取り上げているとの発言があった。また、2022年10月6日の日韓首脳電話会談、11月13日の日韓首脳会談においても、岸田総理大臣から拉致問題の解決に向けた韓国の引き続きの理解と協力を求め、尹錫悦大統領から改めて支持を得た。4月には国連人権理事会において、また12月には国連総会本会議において、EUが提出し、日本が共同提案国となった北朝鮮人権状況決議案が無投票で採択された。さらに、12月には、安保理非公式協議において北朝鮮の人権状況について協議が行われ、協議後、日本を含む有志国は、拉致問題の解決、特に拉致被害者の即時帰国を要求するとの内容を含む共同ステートメントを発出した。日本は、今後とも、米国を始めとする関係国と緊密に連携、協力しつつ、拉致問題の即時解決に向けて全力を尽くしていく。

ウ 北朝鮮の対外関係など
(ア)米朝関係

2018年から2019年にかけて、米朝間では2回の首脳会談及び板門店での米朝首脳の面会が行われ、2019年10月にストックホルム(スウェーデン)において米朝実務者協議が行われたが、その後、米朝間の対話に具体的な進展は見られていない。

バイデン大統領は、2021年4月に対北朝鮮政策レビューを通じ、朝鮮半島の完全な非核化が引き続き目標であることや、日本を含む同盟国の安全確保のための取組を強化すると明らかにした。2022年10月には、米国は、新たな「国家安全保障戦略(NSS)」を公表し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて持続的な外交を追求し、また、北朝鮮の大量破壊兵器及びミサイルの脅威に直面する中で拡大抑止を強化することを示した。11月の日米韓首脳会合では、北朝鮮が挑発行為を継続する中、日米韓の協力の重要性はますます重要になっているとし、会合後に発出された「インド太平洋における三か国パートナーシップに関するプノンペン声明」でバイデン大統領は、日本及び韓国の防衛への米国のコミットメントは強固であり、核を含むあらゆる種類の能力によって裏打ちされていることを改めて表明した。同時に、米国は、様々な機会において、米国は北朝鮮に対して敵対的な意図を抱いておらず、北朝鮮側と前提条件なしに会う用意があると発信してきている。

一方、金正恩国務委員長は、9月の最高人民会議第14期第7回会議において行った演説の中で、米国の「対朝鮮敵視政策により、我が人民に強いる苦痛の時間が長くなるのに正比例して我々の絶対的力は引き続き加速的に強化されており、彼らが直面することになる安保上の脅威も正比例して増大している」、「絶対に先んじて核放棄、非核化ということはなく、そのためのいかなる交渉も、その工程で互いに交換する取引物もない」、「核武力はすなわち祖国と人民の運命であり永遠の尊厳だ」と述べたと報じられた。また、9月25日から10月9日まで朝鮮人民軍戦術核運用部隊の軍事訓練を指示し、10月10日には、「敵は軍事的威嚇を加えてくる中でも依然として引き続き対話と交渉を云々しているが、我が方は敵と対話する内容もなく、またその必要性も感じない。」と述べたと報じられた。

さらに、金正恩国務委員長は、12月26日から31日まで開催された党中央委員会第8期第6回拡大総会において、米国は、日本と韓国との「三角共助」を推進し、「『アジア版NATO』のような新たな軍事ブロックを形成することに没頭している」とした上で、軍事力強化の必要性を強調し、「戦術核兵器の大量生産」や、「核弾頭保有量を幾何級数的に増やす」必要がある旨述べたと報じられた。

米国は、北朝鮮による弾道ミサイル発射を含めた一連の挑発行為への対応として、2022年に入り、1月、3月、4月、5月、8月、10月、11月、12月にそれぞれ個人や団体を北朝鮮に対する制裁対象に追加する措置を決定した。

(イ)南北関係

5月、韓国で「南北関係の正常化」を掲げる尹錫悦政権が発足した。尹錫悦大統領は、大統領就任演説において、「北朝鮮が核開発を中断し、実質的な非核化に切り替えるなら、国際社会と協力して北朝鮮経済と北朝鮮住民の生活を画期的に改善できる大胆な計画を準備」すると述べた。8月の光復節演説では、実質的な非核化を条件とした「大胆な構想」を提案し、北朝鮮に対する大規模な食糧供給プログラム、発電と送配電インフラ支援、国際交易のための港湾と空港の現代化プロジェクト、北朝鮮の農業生産性向上のための技術支援プログラム、病院と医療インフラの現代化支援、国際投資及び金融支援プログラムの実施に言及した。これに対し、北朝鮮は、同月、金与正(キムヨジョン)党中央委員会副部長談話を発表し、韓国による「大胆な構想」は、「実現とかけ離れた愚かさの極地」としつつ、李明博(イミョンバク)政権時の対北朝鮮政策である「『非核・開放3000』の焼き直しに過ぎない」と評した。

10月、北朝鮮は、米韓の軍事訓練などを口実として、度重なる弾道ミサイルの発射に加え、多連装ロケットによる砲撃や軍用機による示威活動などの挑発行動を実施した。韓国は、北朝鮮が2018年の南北首脳会談時に採択された「歴史的な『板門店宣言』13履行のための軍事分野合意書」14で定められた軍事演習中止区域への砲撃を繰り返し実施したことを同合意書違反として批判した。また、同月、韓国政府は、一連の北朝鮮のミサイル発射などを理由として、約5年ぶりに北朝鮮に対する制裁対象の追加措置を実施した。11月に北朝鮮が多数のミサイルなどを発射した際には、弾道ミサイル1発が南北分断後初めて北方限界線(NLL)以南の韓国領海近くに着弾し、韓国は同行為を強く糾弾した。また、11月の北朝鮮によるICBM級弾道ミサイル発射を受け、12月、韓国は北朝鮮に対する更なる制裁対象の追加措置を実施した。12月末には、北朝鮮の無人機が韓国領空を侵犯し、うち1機はソウルにまで飛来した。

(ウ)中朝関係・露朝関係

2020年以降、新型コロナの感染拡大などの影響もあり、中朝・露朝間において従前のような要人往来は見られなかったが、中朝間では、両「国」の建「国」記念日などの際、金正恩国務委員長と習近平国家主席との間で祝電の交換が行われたほか、8月には、朝鮮労働党中央委員会が、中国共産党中央委員会宛の連帯書簡の中で、中国の台湾政策への全面的な支持を表明した。露朝間では、両「国」の記念日などに際する祝電の送付に加え、北朝鮮が、2022年7月にウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」・「ルハンスク人民共和国」の「独立」を「承認」したと報じられ、また、10月にはロシアによるウクライナ一部地域の「編入」と称する行為を支持する旨の談話を発出するなど、ウクライナ侵略に関するロシアの立場を擁護するような動きがみられた。

北朝鮮の対外貿易(南北交易を除く。)の約9割を占める中朝間の貿易は、新型コロナの世界的な感染拡大を受けた往来の制限のため、感染拡大前と比較して規模が大幅に縮小した。1月に中国・丹東と北朝鮮・新義州を結ぶ鉄道通関地の貨物列車の運行再開が発表されたものの、4月に再び同運行の一時停止が発表された。その後9月に、中国外交部報道官は、友好的な協議を経て、同運行の再開が決定されたと述べた。結果として、2022年の中朝貿易額は前年を大きく上回ったが、新型コロナ以前の水準を回復するには至っていない。

(エ)その他

2022年、日本海沿岸では、北朝鮮からのものと見られる漂流・漂着木造船などが計49件確認されており(2021年は18件)、日本政府として、関連の動向について重大な関心を持って情報収集・分析に努めている。また、2020年9月には、日本海の大和堆西方の日本のEEZにおいて北朝鮮公船が確認されており、外務省は、このような事案が発生した際には、北朝鮮に対して日本の立場を申し入れてきている。引き続き、関係省庁の緊密な連携の下、適切に対応していく。

エ 内政・経済
(ア)内政

北朝鮮は、2021年1月に、約5年ぶりに朝鮮労働党の最高指導機関である第8回党大会を開催し、金正恩国務委員長が、「人民大衆第一主義政治」を強調しつつ、過去5年間の成果・反省及び今後の課題に係る活動総括報告を行い、核・ミサイル開発の継続、米朝関係を始めとする対外関係、南北関係などについて言及したと報じられた。同年12月の党中央委員会第8期第4回全員会議(総会)では、「人民大衆第一主義政治」の理念の下、経済、非常防疫事業、「国家」防衛力の強化などを2022年の主な課題とすることを決定した。

新型コロナの世界的な流行の中、北朝鮮は、「国」境を「鉄桶のように閉鎖」(2020年8月)したとして、これまで新型コロナの発生は報じられてこなかったが、5月、「オミクロン変異ウイルス」の確認と「国家」防疫事業の「最大非常防疫体系」への移行が報じられ、最も多い時では、1日に40万人近い「新規発熱者」が発生したと報じられた。

6月に開催された党中央委員会第8期第5回拡大総会で、金正恩国務委員長は、「重大保健危機」まで重なった状況は「未曾有(みぞう)の厳酷な辛苦の時期」であるとしながらも、経済政策の執行状況は頑強に推進していると評価し、「国家」防衛力強化にも引き続き注力するとした。このほか、党中央委員会政治局員の選出や崔善姫(チェソンヒ)氏の外相任命などの人事も報じられた。

8月に入ると「新規発熱者」も報じられなくなり、金正恩国務委員長は、全「国」非常防疫総括会議において「最大非常防疫戦」での勝利宣言を行った。

9月には、最高人民会議第14期第7回会議が開催された。2021年に続き金正恩国務委員長が施政演説を行い、「国家と人民の安全を守り抜いた」として新型コロナ対策の成功に改めて言及し、また自負すべき成果として、農業や建設といった課題の推進を挙げ、経済発展と人民の福利増進のための土台が整いつつあるとした。さらに、新型コロナと共にインフルエンザウイルスにも備えるため、ワクチン接種を責任を持って実施し、11月に入ってからは全住民がマスクを着用することを勧告すべきとしたと報じられた。

12月末には、党中央委員会第8期第6回拡大総会が開催され、金正恩国務委員長は、2022年を「決して無意味ではない時間」であったと評価し、2023年を「人民生活の改善において鍵となる目標を達成する年」と規定したと報じられた。また、国際関係が「新冷戦」体系へと転換し、多極化が進展しているとの認識の下、「強対強、正面勝負という対敵闘争の原則」といった対外事業の原則を確認した。

同拡大総会期間中に実施された「超大型放射砲」贈呈式では、金正恩国務委員長が演説を行い、防衛力を強化する上での軍需工業部門関係者の貢献を称えたと報じられた。

(イ)経済

2021年1月の第8回党大会において、金正恩国務委員長は、制裁、自然災害、世界的な保健危機による困難に言及しつつ、自力更生及び自給自足を核心とした新たな「国家経済発展5か年計画」(2021年から2025年)を提示したと報じられた。

特に、一連の国連安保理決議や各国の対北朝鮮制裁に加え、自然災害も重なり、2022年の北朝鮮の経済状況は依然として厳しい可能性がある。金正恩国務委員長自身も「今、我々の前に作り出された経済的難関は厳しい」と認めている(9月の最高人民会議第14期第7回会議での施政方針演説)。

北朝鮮最大の対外貿易相手国である中国との間では、2020年2月以降、新型コロナの世界的な感染拡大を受け、貿易額が大幅に減少していた。2022年の中朝貿易額は前年を大きく上回ったが、新型コロナ以前の水準を回復するには至っていない。

オ その他の問題

北朝鮮からの脱北者は、滞在国当局の取締りや北朝鮮への強制送還などを逃れるため潜伏生活を送っている。日本政府としては、こうした脱北者の保護や支援について、北朝鮮人権侵害対処法の趣旨を踏まえ、人道上の配慮、関係者の安全、脱北者の滞在国との関係などを総合的に勘案しつつ対応している。なお、日本国内に受け入れた脱北者については、関係省庁間の緊密な連携の下、定着支援のための施策を推進している。

(2)韓国

ア 韓国情勢
(ア)内政

3月9日、大統領選挙の投開票が実施され、当時最大野党であった「国民の力」から出馬した尹錫悦(ユンソンニョル)前検察総長が、李在明(イジェミョン)「共に民主党」候補らを破り当選した。5月10日、尹前検察総長は第20代韓国大統領に就任し、就任演説において、自由を始めとする普遍的な価値と国際規範の重要性を強調するとともに、国際社会で責任と役割を果たす国を作ることを表明した。

6月1日、全国同時地方選挙及び国会議員補欠選挙の投開票が実施された。与党「国民の力」は、広域自治体首長選挙において17選挙区のうち12選挙区で勝利し、国会議員補欠選挙において7選挙区のうち5選挙区で勝利した。一方、国会においては、最大野党「共に民主党」が単独過半数を占める、いわゆる「ねじれ」の状態が続く中、与野党は、尹政権の外交・国防政策、北朝鮮軍による韓国公務員射殺事件をめぐる文在寅(ムンジェイン)前政権の対応、李在明「共に民主党」代表及びその周辺をめぐる捜査、2023年度予算案などをめぐって激しく対立した。

10月29日、ソウル市内の梨泰院(イテウォン)において、ハロウィンに際して集まった市民が将棋倒しになる雑踏事故が起こり、この事故により、日本人2人を含む159人もの死者が発生した。この事案をめぐっては、事故発生時の警察や行政の対応に不備があったとの批判が高まり、警察幹部の逮捕などの動きにつながった。

(イ)外政

5月、「南北関係の正常化」を掲げる尹政権の発足により、韓国の対北朝鮮政策は大きく転換した。尹大統領は8月15日の光復節演説において、北朝鮮の実質的な非核化を条件に、様々な経済支援を行うとする「大胆な構想」を提案した。しかし、北朝鮮は同提案を拒否し、様々な軍事的挑発を継続している(南北関係については59ページ(イ)参照)。

対米関係については、尹大統領就任式から間もない5月にバイデン大統領が訪韓し、尹大統領との間で初めての米韓首脳会談が行われ、米韓首脳共同声明が発表された。同共同声明では、北朝鮮がもたらす「脅威」が増大しているとの認識が示され、拡大抑止の再確認、米韓合同軍事演習の範囲・規模の拡大や戦略アセットの展開などが盛り込まれたほか、ルールに基づく国際秩序や経済安全保障の重要性が強調された。4月には米韓連合指揮所訓練が実施された。また、8月には野外機動訓練を含む米韓連合演習が実施されるとともに、同演習を通じて戦時作戦統制権の転換に向けた評価が行われた。

中国との関係では、5月の大統領就任式に王岐山(おうきざん)中国国家副主席が出席し、その後、8月に朴振(パクチン)外交部長官が青島(中国)を訪問して王毅(おうき)中国外交部長との間で外相会談を行った。11月のインドネシアでのG20サミットの機会に、尹大統領は習近平(しゅうきんぺい)中国国家主席と初めての首脳会談を実施し、韓国側は、両国関係を相互尊重と互恵、共同利益に基づいて更に成熟して発展させていくことで意見が一致したとの事後発表を行った。

また、尹大統領は、大統領選挙の公約で「自由・平和・繁栄に寄与するグローバル中枢国家(Global Pivotal State)」を作ることを掲げており、政権発足後、朴外交部長官は、同構想を実現させるため、韓国の「インド太平洋戦略」を策定すると表明した。11月の韓・ASEAN首脳会議に際し、尹大統領は、韓国の「インド太平洋戦略」の概要を発表し、ASEANを始めとする主要国との連帯と協力を通じ、自由・平和・繁栄の3大ビジョンに基づき、包摂・信頼・互恵の3大協力原則の下、同戦略を実施していくと述べた。その後、12月末には、韓国政府は同戦略の全文を発表した。

(ウ)経済

2022年、韓国のGDP成長率は、2.6%と、前年の4.0%から低下した。総輸出額は、前年比6.1%増の約6,839億米ドルで過去最高額を記録したが、総輸入額は、世界的なエネルギー・原材料価格の高騰により前年比18.9%増の約7,312億米ドルとなったため、貿易収支は14年ぶりに赤字へ転じ、貿易赤字額は過去最大の約472億米ドル(韓国産業通商資源部統計)となった。

尹錫悦政権は、5月の発足時、経済政策の方向性として、「民間中心の力強い経済」、「体質改善で飛躍する経済」、「未来に備える経済」及び「共に進む幸福の経済」を掲げ、四つの方向性を主軸として経済政策を進めていくとした。脱原発政策の廃棄及び不動産市場を正常化するため、7月に「新政権のエネルギー政策の方向性」、8月には「国民住居安定実現策」を発表した。また、半導体戦略に関しては、7月に「半導体超強大国の実現戦略」を発表した。

なお、韓国では近年急速に少子高齢化が進んでおり、2022年の合計特殊出生率は過去最低の0.78人を記録し、少子化問題が深刻化している。

イ 日韓関係
(ア)二国間関係一般

韓国は国際社会における様々な課題への対応に協力していくべき重要な隣国である。日韓両国は、1965年の国交正常化の際に締結された日韓基本条約日韓請求権・経済協力協定その他関連協定の基礎の上に、緊密な友好協力関係を築いてきた。しかしその一方で、日韓間では、ここ数年にわたり、旧朝鮮半島出身労働者問題を始めとして、2015年の慰安婦問題に関する日韓合意の趣旨・精神に反する動き、竹島問題などにおいて、日本側にとって受け入れられない状況が継続してきた。ルールに基づく国際秩序が脅かされている現下の国際情勢において、日韓、日米韓の戦略的連携を推進していくことの重要性は言うをまたず、そのためにも懸案を解決して日韓関係を健全な関係に戻し、更に発展させていく必要がある。

このような認識の下、2022年には、韓国における新政権の成立を受け、日韓間で要人の接触が活発に行われた。3月、岸田総理大臣は、第20代韓国大統領への当選を果たした尹錫悦候補と電話会談を行い、当選の祝意を伝え、日韓関係改善に向け協力していくとの考えで一致した。これを受け、4月に次期政権の代表団(韓日政策協議代表団)が訪日して林外務大臣と意見交換を行った。5月には、林外務大臣が尹大統領就任式に総理特使として出席、6月にはNATO首脳会合が行われたマドリードにおいて、日韓首脳が、日米韓首脳会合やNATOアジア太平洋パートナー(AP4)首脳会合などの場で初めて顔を合わせた。

7月、朴外交部長官が、二国間訪問としては4年7か月ぶりに訪日し、林外務大臣は、同長官との間で、旧朝鮮半島出身労働者問題を含め日韓関係全般について幅広く率直な意見交換を行った。また、尹大統領は、8月15日や就任100日目に当たる8月17日の演説などにおいて、日韓関係改善に向けた強い意思を表明し、日本政府としてもこれを歓迎した。9月には、国連総会の機会を捉え、ニューヨークで日韓首脳による懇談が行われた。両首脳は、現下の戦略環境において日韓は互いに協力すべき重要な隣国であり、日韓、日米韓協力を推進していく重要性や懸案の解決に向けて現在行われている外交当局間の協議を加速化するよう指示することで一致した。さらに、11月のASEAN関連首脳会議に際して、岸田総理大臣は、尹大統領との間で日韓首脳会談を約3年ぶりに実施した。両首脳は、北朝鮮問題や「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に関して連携していくことを確認するとともに、旧朝鮮半島出身労働者問題について、9月のニューヨークでの両首脳の指示を受けて外交当局間の協議が加速していることを踏まえ、懸案の早期解決を図ることで改めて一致した。その後、外相間を始めとする外交当局間の緊密な意思疎通を経て、2023年3月6日、韓国政府は旧朝鮮半島出身労働者問題に関する自らの立場を発表した。同日、日本政府は、2018年の大法院判決により非常に厳しい状態にあった日韓関係を健全な関係に戻すためのものとしてこれを評価するとの立場を表明した

日韓首脳会談(11月13日、カンボジア・プノンペン 写真提供:内閣広報室)
日韓首脳会談
(11月13日、カンボジア・プノンペン 写真提供:内閣広報室)

さらに、2022年は、度重なる北朝鮮の弾道ミサイル発射などを受けて日韓外相間の電話会談も随時行われたほか、累次の機会における日韓次官間・局長間の協議を通じて、日韓両政府間の緊密な意思疎通が継続した。

竹島周辺での韓国側による海洋調査活動や軍事演習は、2022年も実施され、日本は強く抗議を行った。引き続き、日本の一貫した立場に基づき適切に対応していく。

(イ)旧朝鮮半島出身労働者問題

1965年の日韓国交正常化の中核である日韓請求権・経済協力協定は、日本から韓国に対して、無償3億米ドル、有償2億米ドルの経済協力を約束する(第1条)とともに、「両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が(中略)完全かつ最終的に解決されたこと」、また、そのような請求権について「いかなる主張もすることができない」(第2条)ことを定めている。

しかしながら、2018年10月30日及び11月29日、韓国大法院(最高裁)は、第二次世界大戦中に日本企業で労働していたとされる韓国人に対する損害賠償の支払を当該日本企業に命じる判決を確定させた。

これらの大法院判決及び関連する司法手続は、日韓請求権・経済協力協定第2条に明らかに反し、日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであるばかりか、国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものであって、極めて遺憾であり、断じて受け入れられない。

日本政府としては、この問題を日韓請求権・経済協力協定上の紛争解決手続に従って解決するため、2019年1月に同協定第3条1に基づく協議を韓国政府に対し要請したが、韓国政府はこれに応じなかった。また、同年5月には、同協定第3条2に基づく仲裁への付託を韓国政府に対し通告し、これに応じるよう要請したが、韓国政府は同協定に規定された仲裁手続に係る義務を履行せず、その結果、仲裁委員会は設置できなかった15

この間も原告側の申請に基づき、韓国の裁判所は、2021年9月27日及び12月30日の日本企業資産に対する売却命令(特別現金化命令)の決定を含め、日本企業の資産の差押え及び現金化に向けた手続を着々と進めてきている。日本政府は、韓国側に対し、仮に日本企業の差押資産の現金化に至ることになれば日韓関係にとって深刻な状況を招くので、避けなければならないことを繰り返し強く指摘し、韓国側が、国際法違反の状態を是正することを含め、日本側にとって受入れ可能な解決策を早期に示すよう強く求めてきている。

2022年5月の尹錫悦政権発足以降、この問題について、両国の外交当局間で緊密な意思疎通を行ってきている。7月に訪日した朴外交部長官は、現金化が行われる前に、望ましい解決策が出るよう努力すると述べ、両外相は、この問題の早期解決で一致した。11月の日韓首脳会談において、両首脳は、9月のニューヨークでの首脳間の懇談に際する両首脳の指示を受けて外交当局間の協議が加速していることを踏まえ、懸案の早期解決を図ることで改めて一致した。その後、外相間を始めとする外交当局間の緊密な意思疎通を経て、2023年3月6日、韓国政府は旧朝鮮半島出身労働者問題に関する自らの立場を発表した。これを受け、同日、林外務大臣は日本政府の立場を表明し、韓国政府により発表された措置を、2018年の大法院判決により非常に厳しい状態にあった日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価する、今回の発表を契機とし、措置の実施とともに、日韓の政治・経済・文化などの分野における交流が力強く拡大していくことを期待すると述べた16

日韓首脳会談(2023年3月16日、東京 写真提供:内閣広報室)
日韓首脳会談(2023年3月16日、東京 写真提供:内閣広報室)

旧朝鮮半島出身労働者問題に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら

https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_004516.html

外務省ホームページ掲載箇所QRコード
(ウ)慰安婦問題

慰安婦問題は、1990年代以降、日韓間で大きな外交問題となってきたが、日本はこれに真摯に取り組んできた。日韓間の財産及び請求権の問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に」解決済みであるが、その上で、元慰安婦の方々の現実的な救済を図るとの観点から、1995年、日本国民と日本政府が協力してアジア女性基金を設立し、韓国を含むアジア各国などの元慰安婦の方々に対し、医療・福祉支援事業及び「償い金」の支給を行うとともに、歴代総理大臣からの「おわびの手紙」を届けるなど、最大限の努力をしてきた。

さらに、日韓両国は、多大なる外交努力の末に、2015年12月の日韓外相会談における合意によって、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した。また、同外相会談の直後に、日韓両首脳間においても、この合意を両首脳が責任を持って実施すること、また、今後、様々な問題に対し、この合意の精神に基づき対応することを確認し、韓国政府としての確約を取り付けた。この合意については、潘基文(パンギムン)国連事務総長を始め、米国政府を含む国際社会も歓迎している。この合意に基づき、2016年8月、日本政府は韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」に対し、10億円の支出を行った。この基金から、2022年12月末日までの間に、合意時点で御存命の方々47人のうち35人に対し、また、お亡くなりになっていた方々199人のうち64人の御遺族に対し、資金が支給されており、多くの元慰安婦の方々の評価を得ている。

しかしながら、2016年12月、韓国の市民団体により、在釜山(プサン)日本国総領事館に面する歩道に慰安婦像17が設置された。その後、2017年5月に新たに文在寅政権が発足し、外交部長官直属の「慰安婦合意検討タスクフォース」による検討結果を受け、2018年1月9日には、康京和(カンギョンファ)外交部長官が、(1)日本に対し再協議は要求しない、(2)被害者の意思をしっかりと反映しなかった2015年の合意では真の問題解決とならないなどとする韓国政府の立場を発表した。2018年7月、韓国女性家族部は、日本政府の拠出金10億円を「全額充当」するため予備費を編成し、「両性平等基金」に拠出すると発表した。また、2018年11月には、女性家族部は、「和解・癒やし財団」の解散を推進すると発表し、その後解散の手続を進めている。韓国政府は、文在寅大統領を含め、「合意を破棄しない」、「日本側に再交渉を要求しない」ことを対外的に繰り返し明らかにしてきているものの、財団の解散に向けた動きは、日韓合意に照らして問題であり、日本として到底受け入れられるものではない。

さらに、2021年1月8日、元慰安婦などが日本国政府に対して提起した訴訟において、韓国ソウル中央地方裁判所が、国際法上の主権免除の原則の適用を否定し、日本国政府に対し、原告への損害賠償の支払などを命じる判決を出し、同月23日、同判決が確定した18。なお、同年4月21日、類似の慰安婦訴訟において、ソウル中央地方裁判所は、国際法上の主権免除の原則を踏まえ、原告の訴えを却下したが、同年5月6日、原告が控訴した。日本としては、国際法上の主権免除の原則から、日本政府が韓国の裁判権に服することは認められず、本件訴訟は却下されなければならないとの立場を累次にわたり表明してきている。上述のとおり、慰安婦問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に解決」されており、また、2015年12月の日韓外相会談における合意によって、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」が確認されている。したがって、同判決は、国際法及び日韓両国間の合意に明らかに反するものであり、極めて遺憾であり、断じて受け入れることはできない。日本としては、韓国に対し、国家として自らの責任で直ちに国際法違反の状態を是正するために適切な措置を講ずることを強く求めてきている。

日韓合意は国と国との約束であり、これを守ることは国家間の関係の基本である。日韓合意の着実な実施は、日本はもとより、国際社会に対する責務でもある。日本は、上述のとおり、日韓合意の下で約束した措置を全て実施してきている。韓国政府もこの合意が両国政府の公式合意と認めているものであり、国際社会が韓国側による合意の実施を注視している状況である。日本政府としては、引き続き、韓国側に日韓合意の着実な実施を強く求めていく方針に変わりはない(国際社会における慰安婦問題の取扱いについては37ページ参照)。

慰安婦問題についての日本の取組に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら:

https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page25_001910.html

外務省ホームページ掲載箇所QRコード
(エ)竹島問題

日韓間には竹島の領有権をめぐる問題があるが、竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も明らかに日本固有の領土である。韓国は、警備隊を常駐させるなど、国際法上何ら根拠がないまま、竹島を不法占拠し続けてきている。日本は、竹島問題に関し、様々な媒体で日本の立場を対外的に周知するとともに19、韓国国会議員などの竹島上陸、韓国による竹島やその周辺での軍事訓練や海洋調査などについては、韓国に対し、その都度強く抗議を行ってきている20。2022年は竹島やその周辺での軍事訓練や海洋調査が行われ、これらにつき、日本政府として、日本の立場に鑑み受け入れられないとして強く抗議を行った。

竹島問題の平和的手段による解決を図るため、1954年、1962年及び2012年に韓国政府に対し国際司法裁判所への付託などを提案してきているが、韓国政府はこの提案を全て拒否している。日本は、竹島問題に関し、国際法に則(のっと)り、平和的に解決するため、今後も粘り強い外交努力を行っていく方針である。

(オ)韓国向け輸出管理運用の見直し

韓国政府は、2019年9月11日、日本が韓国への半導体材料3品目(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)の輸出に係る措置の運用を見直し、個別に輸出許可を求める制度としたこと21は世界貿易機関(WTO)協定に違反するとして、WTO紛争解決手続の下で二国間協議を要請した。同年11月22日、韓国政府は日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)の終了通告の効力停止を発表し、その際、二国間の輸出管理政策対話が正常に行われる間、WTO紛争解決手続を中断すると表明し、2019年12月及び2020年3月には、輸出管理政策対話が実施された。日韓の輸出管理当局間では対話と意思疎通を通じて懸案を解決することで一致していた中で、韓国政府は、2020年6月18日、WTO紛争解決手続を再開させ、同年7月29日、WTO紛争解決機関において紛争処理小委員会(パネル)設置が決定された。

(カ)交流・往来

両国間の往来者数は2018年に約1,049万人を記録したが、2020年初旬以降、新型コロナに係る水際対策の強化により大幅に減少し、2021年は約3万人にとどまった。2022年には両国における査証免除措置が再開され、また、羽田-金浦(キンポ)線を始めとする日韓航空路線の運航が再開したことを受け、旅行件数が増加し、2022年の両国間の往来者数は約131万人に増加した。

日韓両政府は、日韓関係が難しい状況であるからこそ、日韓間の交流が重要である点について一致している。日本では若年層を中心に「K-POP」や関連のコンテンツが広く受け入れられており、韓国のドラマや映画は世代を問わず幅広い人気を集めている。また、日韓間の最大の草の根交流行事である「日韓交流おまつり」は、2022年はソウルで3年ぶりに対面形式で開催された(東京ではオンライン開催)。日本政府は、「対日理解促進交流プログラム(JENESYS2022)」の実施を通じ、青少年を中心とした相互理解の促進、未来に向けた友好・協力関係の構築に努めてきており、2020年度及び2021年度のオンライン交流を経て、2022年の交流事業は対面形式での交流事業を一部再開した。

(キ)その他の問題

日韓両国は、2016年11月、安全保障分野における日韓間の協力と連携を強化し、地域の平和と安定に寄与するため、GSOMIAを締結し、同協定は、それ以降2017年及び2018年に自動的に延長されてきた。しかし、韓国政府は、2019年8月22日、日本による輸出管理の運用見直し(上記(オ)参照)と関連付け、GSOMIAの終了の決定を発表し、翌23日、終了通告がなされた。その後、日韓間でのやり取りを経て、同年11月22日、韓国政府は8月23日の終了通告の効力を停止することを発表した。日本政府としては、現下の地域の安全保障環境を踏まえれば、同協定が引き続き安定的に運用されていくことが重要であるとの考えに変わりはない。

日本海は、国際的に確立した唯一の呼称であり、国連や米国を始めとする主要国政府も日本海の呼称を正式に使用している。韓国などが日本海の呼称に異議を唱え始めたのは1992年からである。また、それ以降、韓国などは国連地名専門家グループ(UNGEGN)会議22や国際水路機関(IHO)を始めとする国際機関の場などにおいても日本海の呼称に異議を唱えてきたが、この主張に根拠はなく、日本はその都度断固反論を行ってきている23

また、盗難被害に遭い、現在も韓国にある文化財24については、早期に日本に返還されるよう韓国政府に対して強く求めてきており、引き続き、韓国側に適切な対応を求めていく。

そのほか、在サハリン「韓国人」への対応25、在韓被爆者問題への対応26、在韓ハンセン病療養所入所者への対応27など多岐にわたる分野で、人道的観点から、日本は可能な限りの支援、施策を進めてきている。

ウ 日韓経済関係

2022年の日韓間の貿易総額は、約11兆5,200億円であり、韓国にとって日本は第4位、日本にとって韓国は第5位の貿易相手国・地域である。なお、韓国の対日貿易赤字は、前年比19.7%増の約2兆6,900億円(財務省貿易統計)となった。また、日本からの対韓直接投資額は約15.3億米ドル(前年比26.3%増)(韓国産業通商資源部統計)で、日本は韓国への第4位(ケイマン諸島を順位から除く。)の投資国・地域である。

また、2020年11月、日本及び韓国を含む15か国は、日韓間での初めての経済連携協定(EPA)ともなる地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名した。2021年12月3日、韓国は同協定の批准書を寄託者であるASEAN事務局長に寄託し、韓国については同協定が2022年2月1日に発効した。

韓国政府による日本産食品に対する輸入規制については、様々な機会を捉えて韓国側に対して早期の規制撤廃を働きかけている。

11 2014年5月にストックホルムで開催された日朝政府間協議において、北朝鮮側は、拉致被害者を含む全ての日本人に関する包括的かつ全面的な調査の実施を約束した。

12 ここでの「瀬取り」は、2017年9月に採択された国連安保理決議第2375号が国連加盟国に関与などを禁止している、北朝鮮籍船舶に対する又は北朝鮮籍船舶からの洋上での船舶間の物資の積替えのこと

13 2018年4月28日に文在寅大統領と金正恩国務委員長との間の南北首脳会談で署名された「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言文」。金正恩国務委員長による北朝鮮の非核化に向けた意思が文書上で確認された。

14 2018年9月の南北首脳会談の結果採択され、本合意書に基づき軍事境界線一帯における各種軍事演習の中止、軍事境界線上における飛行禁止区域の設定、非武装地帯内の監視哨戒所の一部撤収といった措置がとられた。

15 資料編:旧朝鮮半島出身労働者問題 参考資料 参照

16 2023年3月16日、17日の尹大統領の訪日については、外務省ホームページ参照:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page1_001529.html

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17 分かりやすさの観点から、便宜上、「慰安婦像」との呼称を用いるが、この呼称は、これらの像に係る元慰安婦についての描写が正しいとの認識を示すものでは決してない。

18 資料編:慰安婦問題 参考資料 参照

19 2008年2月、外務省は「竹島 竹島問題を理解するための10のポイント」と題するパンフレットを作成。現在、日本語、英語、韓国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語、ロシア語、中国語及びイタリア語の11言語版が外務省ホームページで閲覧可能。また、2013年10月以降、外務省ホームページにおいて、竹島に関する動画やフライヤーを公開し、現在は上記11言語での閲覧が可能になっている。加えて、竹島問題を啓発するスマートフォンアプリをダウンロード配布するといった取組を行っている。外務省ホームページ掲載箇所はこちら:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/takeshima/index.html

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20 5月、7月及び8月に竹島周辺の日本の領海及びEEZ内において韓国海洋調査船による活動を確認した。さらに、7月及び12月、韓国軍が竹島に関する軍事訓練を実施した。日本は、直ちに、竹島の領有権に関する日本の立場に照らし受け入れられず、極めて遺憾であることを韓国政府に伝え、厳重に抗議した。

21 2019年7月1日、経済産業省は、(1)韓国に関する輸出管理上のカテゴリーの見直し(韓国を「グループA」から除外した。そのための改正政令は同年8月28日施行)及び(2)フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目の個別輸出許可への切り替えを発表した。

22 各国の地名や地理空間情報などの専門家らが、地名に関する用語の定義や地名の表記方法などについて技術的観点から議論を行う国連の会議。2017年、これまで5年ごとに開催されていた国連地名標準化会議と2年ごとに開催されていた国連地名専門家グループが統合され、国連地名専門家グループ(UNGEGN)会議となった。

23 日本海呼称問題に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nihonkai_k/index.html

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24 2012年に長崎県対馬市で盗難され韓国に搬出された後、韓国政府が回収し保管している「観世音菩薩(ぼさつ)坐像」について、所有権を主張する韓国の寺院が韓国政府に対して引渡しを求める訴訟を大田(テジョン)地方裁判所に提起し、2017年1月、同裁判所は原告(韓国寺院)勝訴の第一審判決を出した。これに対し、被告である韓国政府は控訴し、2023年2月、大田高等裁判所は一審判決を取り消し、原告の請求を棄却する判決を出したが、原告側は上告した。当該文化財はいまだ韓国政府が保管しており日本に返還されていない(2023年2月末時点)。

25 第二次世界大戦終戦前、様々な経緯で南樺太(からふと)に渡り、終戦後、ソ連による事実上の支配の下、韓国への引揚げの機会が与えられないまま、長期間にわたり、サハリンに残留することを余儀なくされた朝鮮半島出身者に対し、日本政府は、一時帰国支援、サハリン再訪問支援などを行ってきている。

26 第二次世界大戦時に広島又は長崎に在住して原爆に被爆した後、日本国外に居住している方々に対する支援の問題。これまで日本は、被爆者援護法に基づく手当や被爆者健康手帳などに関連する支援を行ってきている。

27 2006年2月、「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」が改正され、第二次世界大戦終戦前に日本が設置した日本国外のハンセン病療養所の元入所者も国内療養所の元入所者と同様に補償金の支給対象となった。また、2019年11月、「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律」が制定され、元入所者の家族も補償対象となった。

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