第2節 アジア・大洋州
1 概観
アジア・大洋州地域は、経済規模世界第2位の中国や第3位の日本だけでなく、成長著しい新興国を数多く含み、多種多様な文化や人種が入り交じり、相互に影響を与え合うダイナミックな地域である。同地域は、豊富な人材に支えられ、世界経済を牽(けん)引し、存在感を増している。世界の約79億人の人口のうち、米国及びロシアを除く東アジア首脳会議(EAS)1参加国2には約37億人が居住しており、世界全体の約47%を占めている3。名目国内総生産(GDP)の合計は32.7兆ドル(2021年)であり、世界全体の30%以上を占める4。
また、米国及びロシアを除くEAS参加国の輸出入総額は13兆4,408億米ドル(2021年)で、EUの13兆421億米ドル5に匹敵する。域内の経済関係は緊密で、相互依存が進んでいる。今後、更なる成長が見込まれており、この地域の力強い成長は、日本に豊かさと活力をもたらすことにもつながる。
その一方、アジア・大洋州地域では、北朝鮮の核・ミサイル開発、地域諸国による透明性を欠いた形での軍事力の強化・近代化、法の支配や開放性に逆行する力による現状変更の試み、海洋をめぐる問題における関係国・地域間の緊張の高まりなど、安全保障環境は厳しさを増している。また、整備途上の経済・金融システム、環境汚染、不安定な食料・資源需給、頻発する自然災害、テロリズム、高齢化など、この地域の安定した成長を阻む要因も抱えている。
その中で、日本は、地域において、首脳・外相レベルも含め積極的な外交を展開してきている。2022年は、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の影響下においても積極的に対面外交を実施し、近隣諸国との良好な関係を維持・発展させた。岸田総理大臣は、3月に総理大臣就任後初の二国間訪問として、インド及びカンボジアを訪問したほか、4月から6月にかけて東南アジア各国を訪問し、二国間の首脳会談などを行った。また、5月に日米豪印首脳会合を東京で開催した際には、就任直後のアルバニージー・オーストラリア首相及びモディ・インド首相とそれぞれ会談を行い、6月にはNATO首脳会合の機会に、スペインにおいて、約4年9か月ぶりに日米韓首脳会合を実施した。

(4月29日、インドネシア・ジャカルタ 写真提供:内閣広報室)

(6月29日、スペイン・マドリード 写真提供:内閣広報室)
9月には、故安倍晋三国葬儀の参列のため訪日した多くのアジア大洋州諸国の首脳と会談を行った。10月には、オーストラリアを訪問したほか、11月には、ASEAN関連首脳会議、G20バリ・サミット及びAPEC首脳会議に出席するため、カンボジア、インドネシア及びタイを訪問した。カンボジアでは、日・ASEAN首脳会議、ASEAN+3(日中韓)首脳会議及びEASに出席し、2023年に友好協力50周年を迎える日・ASEAN関係の更なる強化を確認し、また、ロシアによるウクライナ侵略や東シナ海・南シナ海情勢、北朝鮮情勢を含め、地域・国際社会の喫緊の課題などに関する議論を深め、関係国との連携強化を確認した。また、一連の会議の機会を捉え、ASEAN各国の首脳や尹錫悦(ユンソンニョル)韓国大統領、習近平(しゅうきんぺい)中国国家主席などと二国間会談などを行った。
林外務大臣は、2月にオーストラリア及び米国を訪問し、日米豪印外相会合や日米韓外相会合に出席したほか、オーストラリアやインド、韓国の外相と会談した。4月には初となる日・フィリピン外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を東京で開催し、同月末から5月初旬にかけては、モンゴル、フィジー、パラオ及び韓国を訪問し、外相会談などを行った。7月には、インドネシアで開催されたG20外相会合の機会を捉え、参加国外相との二国間会談や日米韓外相会合を実施した。8月にはカンボジアで開催されたASEAN関連外相会議に出席してASEANを中心とした地域における具体的な協力から地域情勢まで幅広く有意義な議論を行い、また、ASEAN各国との外相会談や日米豪閣僚戦略対話にも臨んだ。11月にはタイで開催されたAPEC閣僚会議に出席し、ベトナムやタイ、パプアニューギニアと外相会談を行った。
日本は、アジア・大洋州地域において様々な協力を強化しており、引き続き多様な協力枠組みを有意義に活用していく考えである。
日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、日本のみならず、インド太平洋地域の平和と安全及び繁栄の礎である。地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米同盟の重要性はこれまで以上に高まっている。米国とは、2021年1月のバイデン政権発足以降、電話会談を含め16回の首脳会談及び25回の外相会談(2023年1月時点)を行うなど、首脳及び外相間を始めあらゆるレベルで緊密に連携し、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた協力を進め、また、中国・北朝鮮・ロシアを含む地域の諸課題に対応してきている。
1月、岸田総理大臣は、バイデン大統領と日米首脳テレビ会談を行い、両首脳は、FOIPの実現に向け、強固な日米同盟の下、日米両国が緊密に連携していくこと、また、同志国との協力を深化させることで一致した。また、両首脳は、インド太平洋地域における経済面での日米協力の重要性を踏まえ、閣僚レベルの日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)の立上げで一致し、岸田総理大臣からは、インド太平洋経済枠組み(IPEF)を含む米国の地域へのコミットメントを歓迎した。
5月には、バイデン大統領が大統領就任後初めて訪日し、岸田総理大臣と首脳会談を行った。両首脳は、ロシアによるウクライナ侵略などによりルールに基づく国際秩序が挑戦を受ける中、インド太平洋地域こそがグローバルな平和、安全及び繁栄にとって極めて重要であるとの認識の下、FOIPの実現に向け、日米が国際社会を主導し、同志国と緊密に連携していくことで一致した。バイデン大統領からは、日本の防衛へのコミットメントが表明され、両首脳は、今後も拡大抑止が揺るぎないものであり続けることを確保するため、日米間で一層緊密な意思疎通を行っていくことで一致した。また、バイデン大統領は、IPEFの立上げを表明し、さらに、両首脳は、FOIPの推進へのコミットメントの確認を含む今後の日米同盟強化の方向性を示す共同声明を発出した。また、この機会に岸田総理大臣は日米豪印首脳会合を主催し、会合において4か国の首脳は、FOIPのビジョンが、世界中の様々な地域で共鳴し、各地で主体的取組が進んでいることを歓迎し、各国・地域との連携・協力を更に深めていくことで一致した。
7月に訪米した林外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相会談を行い、日米間の安全保障・防衛協力を拡大・深化させ、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくことを再確認した。また、林外務大臣は、萩生田光一経済産業大臣、ブリンケン国務長官、レモンド商務長官とともに、1月のテレビ会談の際に立ち上げることで一致した経済版「2+2」の初会合を実施し、両国の経済政策、インド太平洋地域を含む経済秩序の構築、経済安全保障などの分野において、国際連携をリードしていく決意を確認した。
9月の故安倍晋三国葬儀に際しては、ハリス副大統領を団長とする日米同盟の幅の広さと深さを反映した超党派の代表団が訪日した。岸田総理大臣は、ハリス副大統領による表敬を受け、その後、米国代表団と夕食会を行い、安倍元総理大臣を偲(しの)んだ。両者は、日米同盟の更なる強化やFOIPの実現に向け、引き続き日米で緊密に連携していくことで一致した。
11月、ASEAN関連首脳会議出席のためカンボジア・プノンペンを訪問した岸田総理大臣はバイデン大統領と首脳会談を行い、IPEF及び経済版「2+2」に係る進展を歓迎し、また、FOIPの実現に向けた取組を推進していくことで一致した。
2023年1月には、米国ワシントンD.C.において、日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)が2年ぶりに対面で開催され、日米双方は、自由で開かれたインド太平洋地域を擁護するとのコミットメントを力強く表明した。
また、同月、ワシントンD.C.を訪問した岸田総理大臣は、バイデン大統領と日米首脳会談を行った。岸田総理大臣は、FOIPの実現に向けた取組を強化していく考えを述べ、バイデン大統領から、米国の地域に対する揺るぎないコミットメントが改めて表明された。その上で、両首脳は、日米でFOIP実現に向けた取組を推進していくことで一致した。会談の成果として発出された日米共同声明においても、今日の日米協力が、自由で開かれたインド太平洋と平和で繁栄した世界という共通のビジョンに根ざし、法の支配を含む日米両国の共通の価値や原則に導かれた、前例のないものであることが確認された。
(日韓間の慰安婦問題については、65ページ 3(2)イ(ウ)参照)
慰安婦問題を含め、先の大戦に関する賠償並びに財産及び請求権の問題について、日本政府は、米国、英国、フランスなど45か国との間で締結したサンフランシスコ平和条約及びその他二国間の条約などに従って誠実に対応してきており、これらの条約などの当事国との間では、個人の請求権の問題も含め、法的に解決済みである。
その上で、日本政府は、元慰安婦の方々の名誉回復と救済措置を積極的に講じてきた。1995年には、日本国民と日本政府の協力の下、元慰安婦の方々に対する償いや救済事業などを行うことを目的として、財団法人「女性のためのアジア平和国民基金」(略称:「アジア女性基金」)が設立された。アジア女性基金には、日本政府が約48億円を拠出し、また、日本人一般市民から約6億円の募金が寄せられた。日本政府は、元慰安婦の方々の現実的な救済を図るため、元慰安婦の方々への「償い金」や医療・福祉支援事業の支給などを行うアジア女性基金の事業に対し、最大限の協力を行ってきた。アジア女性基金の事業では、元慰安婦の方々285人(フィリピン211人、韓国61人、台湾13人)に対し、国民の募金を原資とする「償い金」(一人当たり200万円)が支払われた。また、アジア女性基金は、これらの国・地域において、日本政府からの拠出金を原資とする医療・福祉支援事業として一人当たり300万円(韓国・台湾)、120万円(フィリピン)を支給した(合計金額は、一人当たり500万円(韓国・台湾)、320万円(フィリピン))。さらに、アジア女性基金は、日本政府からの拠出金を原資として、インドネシアにおいて、高齢者用の福祉施設を整備する事業を支援し、また、オランダにおいて、元慰安婦の方々の生活状況の改善を支援する事業を支援した。
個々の慰安婦の方々に対して「償い金」及び医療・福祉支援が提供された際、その当時の内閣総理大臣(橋本龍太郎内閣総理大臣、小渕恵三内閣総理大臣、森喜朗内閣総理大臣及び小泉純一郎内閣総理大臣)は、自筆の署名を付したおわびと反省を表明した手紙をそれぞれ元慰安婦の方々に直接送った。
2015年の内閣総理大臣談話に述べられているとおり、日本としては、20世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を胸に刻み続け、21世紀こそ女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、リードしていく決意である。
このような日本政府の真摯な取組にもかかわらず、「強制連行」や「性奴隷」といった表現のほか、慰安婦の数を「20万人」又は「数十万人」と表現するなど、史実に基づくとは言いがたい主張も見られる。
これらの点に関する日本政府の立場は次のとおりである。
これまでに日本政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった。
「性奴隷」という表現は、事実に反するので使用すべきでない。この点は、2015年12月の日韓合意の際に韓国側とも確認しており、同合意においても一切使われていない。
「20万人」という数字は、具体的な裏付けがない数字である。慰安婦の総数については、1993年8月4日の政府調査結果の報告書で述べられているとおり、発見された資料には慰安婦の総数を示すものはなく、また、これを推認させるに足りる資料もないので、慰安婦の総数を確定することは困難である。
日本政府は、これまで日本政府がとってきた真摯な取組や日本政府の立場について、国際的な場において明確に説明する取組を続けている。具体的には、日本政府は、国連の場において、2016年2月の女子差別撤廃条約第7回及び第8回政府報告審査、2021年9月提出の同条約実施状況第9回政府報告及び2022年10月の市民的及び政治的権利に関する国際規約に基づく第7回政府報告審査を始めとする累次の機会を捉え、日本の立場を説明してきている。
また、韓国のほか、一部の国・地域でも慰安婦像6の設置などの動きがある。このような動きは日本政府の立場と相容(い)れない、極めて残念なものである。日本政府としては、引き続き、様々な関係者にアプローチし、日本の立場について説明する取組を続けていく。
慰安婦問題についての日本の取組に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら
https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page25_001910.html

1 EAS:East Asia Summit
2 東南アジア諸国連合(ASEAN)(加盟国:ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ及びベトナム)、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア及びニュージーランド
3 国連人口基金
4 世界銀行
5 国際通貨基金(IMF)
6 分かりやすさの観点から、便宜上、「慰安婦像」との呼称を用いるが、この呼称は、これらの像に係る元慰安婦についての描写が正しいとの認識を示すものでは決してない。