2022年版開発協力白書 日本の国際協力

8 アフリカ地域

チュニジアで開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)の開会式において、テレビ会議方式でスピーチを行う岸田総理大臣と総理特使として対面形式で出席する林外務大臣(2022年8月)

チュニジアで開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)の開会式において、テレビ会議方式でスピーチを行う岸田総理大臣と総理特使として対面形式で出席する林外務大臣(2022年8月)

2050年には世界の人口の4分の1を占めると言われるアフリカは、若く、希望にあふれ、ダイナミックな成長が期待できる大陸です。一方、貧困、脆(ぜい)弱な保健システム、テロ・暴力的過激主義の台頭など、様々な課題にも直面しています。こうした課題に対応するため、アフリカ諸国は、アフリカ自身の新たな開発アジェンダである「アジェンダ2063」注24に基づき、持続可能な開発に取り組んでいます。ロシアによるウクライナ侵略など国際社会の根幹を揺るがす動きが続き、これまで以上に国際社会が一致して対応することが重要になる中で、国際社会におけるアフリカの重要性もますます高まっており、アフリカ諸国との協力を一層推進していく必要があります。

●日本の取組

日本はアフリカ開発会議(TICAD)解説などを通じて、長年にわたり、アフリカの発展に貢献しています。2022年8月にチュニジアで開催されたTICAD 8には、岸田総理大臣がオンラインの形で全てのセッションで発言し、林外務大臣も、総理特使として対面で参加しました。この機会を活用し、岸田総理大臣は、サイード・チュニジア大統領、サル・セネガル大統領、ファキ・アフリカ連合委員会(AUC)委員長などと計10か国、林外務大臣は、8名の首脳級を含む計21か国の代表と二国間会談を実施しました。二国間関係に加え、ロシアによるウクライナ侵略、不透明・不公正な開発金融について議論を行いました。また、新型コロナウイルス感染症からの早期の回復や食料安全保障、北朝鮮問題や安保理改革などの問題についても、国際場裡(り)も含めた連携を確認しました。

また、日本は、「人への投資」、「成長の質」を重視し、今後3年間で官民合わせて300億ドル規模の資金を投入し、グリーン投資、投資促進、開発金融、保健・公衆衛生、人材育成、地域の安定化、食料安全保障に取り組むことを表明しました。人材育成においては、産業、保健・医療、教育、農業、司法・行政等の幅広い分野で30万人の育成を目指します。日本は、「共に成長するパートナー」として、「人」に注目した日本らしいアプローチで取組を推進し、アフリカ自身が目指す強靭(じん)なアフリカを実現していきます(TICAD 8について、「開発協力トピックス」を参照)。

■経済
「タンザニア国コメ振興及び普及・研修システム強化に向けた情報収集・確認調査」で実施した農業機械研修で、コンバインハーベスターの操作方法を学ぶタンガ州モンボ地区の農民たち(写真:JICA)

「タンザニア国コメ振興及び普及・研修システム強化に向けた情報収集・確認調査」で実施した農業機械研修で、コンバインハーベスターの操作方法を学ぶタンガ州モンボ地区の農民たち(写真:JICA)

TICAD 8において、日本は新型コロナ、ウクライナ危機からのより良い回復を実現し、人々の生活を守るため、自由で開かれた国際経済システムを強化するとともに、各国のグリーン成長を支援し、強靭で持続可能なアフリカの実現を目指していくこと、また、活力ある若者に焦点を当て、民間企業・スタートアップの進出を後押ししていくことを表明しました。

質の高い成長の実現に向けた「人への投資」として、日本はこれまで、ビジネスの推進に貢献する産業人材の育成を行ってきており、ABEイニシアティブ注25では、JICAを通じてアフリカの若者約2,000人に研修の機会を提供しています。産業人材のほかにも、技術協力を通じたICT人材の育成や、Project NINJA注26によるスタートアップ・起業家支援なども行っています。

また、連結性の強化に向け、3重点地域注27を中心に、質の高いインフラ投資の推進にも取り組んでいます。デジタル・トランスフォーメーション(DX)を活用し、インフラ整備やワンストップ・ボーダーポスト(OSBP)等を通じた物流の改善や、世界税関機構(WCO)と協力して国境管理や関税等徴収の分野での能力構築支援などを実施しています(南スーダンの架橋建設に関する日本の支援については、「国際協力の現場から1」を参照)。

ロシアによるウクライナ侵略の継続により、食料・肥料・エネルギー価格が高騰し、アフリカにおける食料危機が深刻化していることを受け、2022年7月、アフリカ諸国に対して約1.3億ドルの食料支援を決定しました。また、中長期的な食料生産能力の強化のため、コメの生産量の倍増に向けた支援やAfDBの緊急食糧生産ファシリティへの約3億ドルの協調融資、今後3年間で20万人の農業人材育成を目指した能力強化支援などを行っています。日本は、食糧援助等の短期的支援と、農業生産能力向上等の中長期的支援の双方を通じて、引き続きアフリカの食料安全保障強化に貢献していきます(コメ増産支援について、「国際協力の現場から4を、官民連携による先進農業技術の導入支援について、「案件紹介」を参照)。

■社会

TICAD 8では、人口増加が続くアフリカにおいて、一人ひとりを大切にした息の長い取組を通じて、人間の安全保障、SDGs、アジェンダ2063を踏まえ、顕在化した格差の是正と質の高い生活環境の実現を目指していくことを表明しました。

新型コロナ対策は引き続きアフリカの大きな課題です。日本は、COVAXファシリティ注28への財政的貢献やワクチンの現物供与、コールド・チェーン注29整備等のラスト・ワン・マイル支援、ワクチン接種に対する忌避感情改善のための取組、ワクチンの域内製造・供給・調達支援など、包括的かつきめ細かい日本らしい取組を進めています。日本は、ガーナ、カメルーン、ケニア、シエラレオネ、セネガル、ナイジェリアおよびマラウイに対しCOVAXファシリティ経由で約252万回分以上の日本で製造したワクチンを供与しました。また、ポスト・コロナを見据えた経済社会活性化に向け、新型コロナを含む公衆衛生上の脅威に対応するため、アフリカ7か国注30に対し、国連児童基金(UNICEF)を通じてデジタルを活用した予防接種情報管理体制を整備するための支援も実施しています。さらに、新型コロナを含む感染症対策の拠点となる現場への支援を強化すべく、アフリカ疾病対策センター(CDC)などとも連携しながら、医療人材の育成にも取り組んでいます。

TICAD 8の機会に発表したグローバルファンドに対する最大108億ドルのプレッジを始めとする国際機関等を通じた支援や二国間支援を通じ、日本は、引き続きアフリカにおける保健システムの強化に取り組んでいきます。また、将来の公衆衛生危機に対する予防・備え・対応も念頭に、「誰の健康も取り残さない」という信念の下、アフリカにおけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向け貢献していきます(ウガンダでの給水衛生環境改善の取組について、「案件紹介」を参照)。

経済成長には、成長の担い手たる「人づくり」が重要であり、若者や女性を含め、質の高い教育へのアクセス向上に取り組んでいます。TICAD 8では、STEM教育注31を含む質の高い教育を900万人に提供すること、400万人の女子の教育アクセスを改善することを表明しました。日本は、技術協力等を通じて就学促進、包摂性の向上、給食の提供等に取り組んできています。例えば、学校、保護者、地域社会と協働してこどもの学習環境を改善する「みんなの学校プロジェクト」は、2004年の開始以降、アフリカ9か国・約7万校の小中学校に広がっています。

アフリカでは、急速に進む都市化に伴う様々な課題への対応も急務となっています。日本は、「アフリカのきれいな街プラットフォーム」注32の下、廃棄物管理を通じた公衆衛生の改善を推進するとともに、JICA-JAXA熱帯林早期警戒システム(JJ-FAST)による森林の定期監視を行うなど、気候変動対策を含む環境問題にも取り組んでいます(ニジェールでの緑化活動について、「案件紹介」を参照)。

ウガンダ一般公募

SDGs3 SDGs6 SDGs17

日本のNGOによるきめ細やかな難民居住地区への支援
ウガンダ西部におけるコンゴ民主共和国難民・ホストコミュニティ注1への給水衛生環境改善支援事業
ジャパン・プラットフォーム(JPF)注2(2021年2月~2021年10月)

アフリカ最大の難民受入国ウガンダでは、増加する難民と地元住民が共存する難民居住地区での支援が求められています。主にコンゴ民主共和国難民を受け入れているチャカⅡ難民居住地区では、増加する人口に対して必要な給水量が足りておらず、難民と地元住民は川や水たまりなどから水を汲(く)まざるを得ないなど、安全な水へのアクセスが課題となっています。学校でも、増加した生徒数に対しトイレや手洗い場が不足しているほか、生理用品が買えず学校を休んでしまうなどの「生理の貧困」が際立っています。

こうした状況を踏まえ、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)は、JPFの助成を受けて、給水衛生環境改善を支援しました。まず、給水網を延伸し、給水場を設置して、約3,000人が蛇口から水を汲めるようにしました。また、給水設備が適切に維持管理されるよう、住民で構成される水管理委員会に研修を実施しました。

学校ではトイレや手洗い場、更衣室注3の建設に加え、女子生徒400人を戸別訪問注4して月経衛生管理キット注5を配付しました。また、学校衛生クラブの男女の生徒を対象に月経衛生知識や再利用可能なナプキンの作り方などの研修も行いました。生徒からは「新型コロナの影響で生活がますます厳しくなり、生理用品を買ってもらえなかったので嬉しい」、「再利用可能なナプキンの作り方を他の生徒や家族に伝えたい」などの声が聞かれました。

人道危機に迅速に対応するJPF資金を活用し、支援が届いていない人々や喫緊の課題に対してきめ細やかな支援を実施できるNGOの強みをいかした本事業は、難民と地元住民の共存を支え、TICAD注6で掲げる3つの柱の一つ、「平和と安定」にも通じます。ピースウィンズは、今後も世界各地で活動を続けていきます。

月経衛生管理キットを受け取った女子生徒たち(写真:特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン)

月経衛生管理キットを受け取った女子生徒たち(写真:特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン)

再利用可能な生理用ナプキンを作る学校衛生クラブの生徒たち(写真:特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン)

再利用可能な生理用ナプキンを作る学校衛生クラブの生徒たち(写真:特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン)

注1 難民を受け入れている地域で、元々住んでいる人々のことを指す。

注2 JPFについては、用語解説を参照。

注3 女子生徒が月経時に体や服を洗ったり、着替えができる場。女子生徒が周囲の目を気にせずに気軽に利用できるように、女性職員の執務室としても活用し、女子生徒が月経衛生について相談できる場も提供できるよう配慮している。

注4 新型コロナウイルス感染症拡大によるロックダウン中のため戸別訪問を行った。

注5 女子生徒を対象とした再利用可能な生理用ナプキン、ショーツ、洗濯用石鹸(けん)、バケツ。

注6 TICADについては、「開発協力トピックス」を参照。

■平和と安定
無償資金協力により設立された女性と少女の起業家育成エンパワーメントハブで、研修受講後にスタートアップキットの一部としてミシンを受け取るナイジェリアの女性(写真:UN Women)

無償資金協力により設立された女性と少女の起業家育成エンパワーメントハブで、研修受講後にスタートアップキットの一部としてミシンを受け取るナイジェリアの女性(写真:UN Women)

TICAD 8では、「アフリカの平和と安定に向けた新たなアプローチ(NAPSA)」解説の下、経済成長・投資や生活向上の前提となる平和と安定の実現に向けて、アフリカ自身の取組を後押ししていくことを表明しました。

平和で安定した社会や持続可能な成長は、法の支配があって初めて成し遂げることができます。日本は、警察官への研修や国境管理支援等、法の支配の維持・強化に向けた協力を行っています。加えて、司法・行政分野の制度構築、ガバナンス強化のための人材育成、公正で透明な選挙の実施や、治安確保に向けた支援などを行っています。平和と安定の礎となる行政と住民の間の相互理解・協力関係を促進するため、コミュニティ・レベルでの行政と住民が協働する取組支援も行っています。

また、日本は、アフリカ自身の仲介・紛争予防努力を、アフリカのPKO訓練センターにおけるPKO要員の能力強化やアフリカ連合(AU)等の地域機関への支援を通じて後押ししています。2008年以降、アフリカ15か国内のPKO訓練センター等が裨(ひ)益するプロジェクトに対し1.1億ドル以上の支援を行い、約60名の日本人講師を派遣し、施設の訓練能力強化や研修の実施などを支援しています。

サヘル地域においては、NAPSAの下、サヘル諸国の行政制度の脆弱性に焦点を当てながら、治安維持能力強化につながる機材の提供、制度構築に携わる人材育成、若者の職業訓練・教育機会の提供、PKO人材の育成強化などを通じて、同地域の平和と安定に貢献しています。例えば、サヘル地域の安定のため、国連開発計画(UNDP)を通じてリプタコ・グルマ地域注33住民に対する支援を行うなど行政サービスの改善に向けた取組を実施しており、コミュニティの基盤強化に貢献しています。

南スーダンにおいて日本は、2011年の独立以来、同国の国造りを支援しています。現在は、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)の司令部に国際平和協力隊員として自衛官を派遣しています。日本は、東アフリカの地域機構である政府間開発機構(IGAD)などを通じて、南スーダン自身のイニシアティブである和平プロセスへの支援も行っており、インフラ整備や人材育成支援、食糧援助などの支援と並んで、南スーダンにおける平和の定着と経済の安定化に大きな役割を果たしています。

また、国民の融和、友好と結束を促進するため、南スーダン国青年・スポーツ省による国民体育大会「国民結束の日」の開催への支援を、第1回大会(2016年)から毎年行っています。2022年は、3月に第6回大会を開催し、全国を代表する20歳未満の372名が参加しました。また、10月には「スポーツを通じた平和促進プロジェクト」の一環で、南スーダン国青年・スポーツ省、一般教育・指導省、スポーツ競技連盟から計14名を日本に招聘(へい)し、スポーツ庁などの行政機関や教育機関への訪問を含む研修を実施しました。参加者は、視察先での体験や意見交換などを通じて、人々の融和、人材育成等に対するスポーツの力を再認識しました。今後も、平和の定着を同国の国民が実感し、再び衝突が繰り返されないように、国際社会が協力して、南スーダンの平和の定着を支援していくことが重要です。

用語解説

アフリカ開発会議(TICAD:Tokyo International Conference on African Development)
1993年に日本が立ち上げたアフリカ開発に関する首脳級の国際会議。国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC)との共催により、アフリカ開発におけるアフリカ諸国の「オーナーシップ」と国際社会による「パートナーシップ」の理念を具現化するもの。2022年8月には、チュニジアでTICAD 8が開催され、20名の首脳級を含むアフリカ48か国が参加。
アフリカの平和と安定に向けた新たなアプローチ(NAPSA:New Approach for Peace and Stability in Africa)
2019年8月に横浜で開催されたTICAD 7において、日本が提唱した新たなアプローチ。アフリカのオーナーシップの尊重および紛争やテロなどの根本原因に対処するとの考えの下、アフリカ連合(AU)や地域経済共同体(RECs)などによる紛争の予防、調停、仲介といったアフリカ主導の取組、制度構築・ガバナンス強化、若者の過激化防止対策や地域社会の強靱化に向けた支援を行うもの。
日本の開発協力の方針 アフリカ地域(サブサハラ地域を含む)の重点分野
図表Ⅲ 二国間政府開発援助の地域別実績(2021年)
図表Ⅲ 二国間政府開発援助の地域別実績(2021年)
図表Ⅲ 二国間政府開発援助の地域別実績(2021年)
図表Ⅲ 二国間政府開発援助の地域別実績(2021年)

  1. 注24 : 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された2015年、アフリカ連合(AU)首脳会合において採択。
  2. 注25 : 用語解説を参照。
  3. 注26 : 注33を参照。
  4. 注27 : 東アフリカ・北部回廊、ナカラ回廊、西アフリカ成長の環にわたる3地域。
  5. 注28 : 用語解説を参照。
  6. 注29 : 注54を参照。
  7. 注30 : チュニジア、ウガンダ、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ベナン、マラウイ、南スーダンの7か国。
  8. 注31 : 注65を参照。
  9. 注32 : 用語解説を参照。
  10. 注33 : テロ攻撃が頻発しているニジェール、ブルキナファソ、マリの3か国国境地帯。
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