2022年版開発協力白書 日本の国際協力

第Ⅳ部 多様なアクターとの連携促進および開発協力の発信取組

インドのグジャラート州ガンジナガルの配属先の学校で、ラグビーを指導するJICA海外協力隊員(写真:JICA)

インドのグジャラート州ガンジナガルの配属先の学校で、ラグビーを指導するJICA海外協力隊員(写真:JICA)

1 多様なアクターとの連携強化のための取組

(1)民間企業との連携

日本政府は、日本企業の持つ総合力が、外務省やJICAのODA事業等においてもさらに発揮されるよう、日本の民間企業の優れた技術・知識・経験・資金を効果的に活用するよう努めています。また、民間の知見やノウハウをODAの案件形成の段階から取り入れたり、基礎インフラはODAで整備し、投資や運営・維持管理は民間で行うといったように、官民で役割を分担したりし、民間による投資事業等との連携を促進しています。民間企業との連携を強化して、より効率的・効果的な事業を行うことで開発効果を高めていきます。

ア 事業・運営権対応型無償資金協力

2014年度から、日本政府は、施設建設から運営・維持管理までを民間企業が関与して包括的に実施する公共事業に無償資金協力を供与することを通じ、日本企業の事業権・運営権の獲得を促進し、日本の優れた技術・ノウハウを開発途上国の開発に役立てることを目的とする事業・運営権対応型無償資金協力を導入しました。2022年度にはカンボジアのプンプレック上水道拡張計画に関する交換公文の署名が行われました。

イ 日本の強みを活かす円借款の改善
インドの弱視のこどもたちが視力回復のための訓練装置を使用する様子(中小企業・SDGsビジネス支援事業)

インドの弱視のこどもたちが視力回復のための訓練装置を使用する様子(中小企業・SDGsビジネス支援事業)

日本政府は、日本の優れた技術やノウハウを活用し、開発途上国への技術移転を通じて「顔の見える援助」を促進するため、本邦技術活用条件(STEP:Special Terms for Economic Partnership)を導入し、適用範囲の拡大、金利引き下げなど制度を改善してきました。また、日本企業が参画する官民連携(PPP:Public-Private Partnership)方式を活用したインフラ整備案件の着実な形成と実施を促進するため、途上国政府の施策の整備と活用を踏まえエクイティバックファイナンス(EBF)円借款注1や採算補填(VGF)円借款注2なども導入しています。近年、日本企業の円借款事業の受注が増加しており、日本企業の海外展開の後押しにもなっています。

そのほか、日本政府は、「質の高いインフラパートナーシップ」注3のフォローアップ策として、円借款の手続の迅速化や新たな借款制度の創設など、円借款や海外投融資の制度改善を行っています。例えば、通常は3年を要する円借款における政府関係手続期間を、重要案件については最短で約1年半にまで短縮しました。また、JICAの財務健全性を確保することを前提として、外貨返済型円借款の中進国以上への導入、ドル建て借款およびハイスペック借款注4を創設しました。また、日本政府は、「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」注5において、手続迅速化のさらなる推進を発表し、フィージビリティ調査開始から着工までの期間を最短1年半に短縮するとともに、事業期間の「見える化」を図るなど、迅速な円借款の案件形成ができるよう、引き続き制度改善に努めています。

ウ 民間提案型の官民連携支援スキーム

加えて、日本政府およびJICAは、民間企業の意見や提案を積極的に取り入れるべく、「中小企業・SDGsビジネス支援事業」や「協力準備調査(海外投融資)」といった民間提案型の官民連携支援スキームも推進しています。

■中小企業・SDGsビジネス支援事業

中小企業・SDGsビジネス支援事業解説は、民間企業の自由な発想に基づいたアイデアを開発協力に取り込み、ビジネスを通じた現地の課題解決や多様なパートナーとの連携を進めることを目的としています。JICAホームページで年2回公示を行い、企業から提出された企画書の内容を踏まえJICAが採択します。

2021年度第二回公示では、13か国における合計24件の事業(基礎調査:7件、案件化調査:「中小企業支援型」12件、「SDGsビジネス支援型」2件、普及・実証・ビジネス化事業:「中小企業支援型」1件、「SDGsビジネス支援型」2件)が採択されました。2022年度公示では、より使い勝手が良く、効果の高い事業とするため、試行的な制度改編を行い、従来の「普及・実証・ビジネス化事業」に加え、新たに「ニーズ確認調査」および「ビジネス化実証事業」を募集しました(「案件紹介」、「匠の技術、世界へ」も参照。事業の仕組み、対象分野・国などについては、JICAホームページ注6を参照)。

ザンビア

SDGs1 SDGs2 SDGs12

廃棄物を製品化し貧困削減
(1)東部州ムフエ郡バナナペーパー製造事業拡大計画、(2)バナナの茎を活用した持続可能なパルプ事業基礎調査
(1)草の根・人間の安全保障無償資金協力(2015年12月~2018年4月)、(2)JICA「中小企業・SDGsビジネス支援事業」(2021年11月~2023年1月)

ザンビアの農村部の貧困解消のため、株式会社ワンプラネット・カフェは、廃棄されるバナナの茎に着目し、2011年にバナナペーパーの事業に着手しました。現地の農園から廃棄されるバナナの茎を買い取り、茎から繊維を抽出して、紙の原料にしています。「廃棄物」に価値が付いたことで、バナナ農家の所得向上につながっています。

日本は、ODAを通じて、同社の取組を後押ししています。草の根・人間の安全保障無償資金協力では、ザンビアでの手すきのバナナペーパー作りに向けて、工場の拡張、研修ルームの設置を行いました。中小企業・SDGsビジネス支援事業では、バナナの茎の繊維を、紙の直接的な原料となるパルプに加工するための調査を支援しています。

ザンビアで生産されたバナナ繊維は日本に送られ、1,500年以上の和紙製造の歴史がある越前和紙の工場でバナナペーパーを製造しています。日本の印刷会社や紙製品のメーカーとの協働により、世界中でバナナペーパーの利用が広がっています。製造された「ワンプラネット・ペーパー®」は、紙として日本初のフェアトレード認証を受け、名刺、コスメブランドの包装紙、卒業証書などで幅広く使われています。

また、同社はザンビア農村部の人々の収入向上を目指した研修や野生動物の保護活動にも取り組んでいます。貧困解消により、違法な森林伐採、野生動物の密猟・違法取引の抑制も期待されています。

このようにザンビアでは、官民が連携して新たな雇用創出や収入向上による貧困削減に取り組んでいます。

バナナの茎から繊維を取り出す機械を操作する同社の現地スタッフ(写真:JICA)

バナナの茎から繊維を取り出す機械を操作する同社の現地スタッフ(写真:JICA)

現地の雑貨店で販売されるバナナペーパーを使ったカード(写真:JICA)

現地の雑貨店で販売されるバナナペーパーを使ったカード(写真:JICA)

図表Ⅳ-1 ODAを通じた日本企業の海外展開支援(概要)
■協力準備調査(海外投融資)

近年、官民協働による開発途上国のインフラ整備および民間事業を通じた経済・社会開発の動きが活発化しています。JICAは、海外投融資での支援を念頭に民間資金を活用した事業の形成を図るため協力準備調査(海外投融資)を実施しています。途上国における事業参画を検討している民間企業から事業提案を広く公募し、事業計画策定のためのフィージビリティ調査を支援しています(事業の仕組み、対象分野・国などについては、JICAホームページ注7を参照)。2022年はアジアおよびアフリカ地域において4件の事業が採択されています。

■「JICA海外協力隊(民間連携)」

2012年に創設した「JICA海外協力隊(民間連携)」では、これまでに126名が38か国に派遣され、企業の海外展開を積極的に支援しています。派遣された隊員は、隊員活動を通して、その国特有の商習慣や市場ニーズを把握し、帰国後の企業活動へ還元することが期待されています。

エ 海外投融資

海外投融資注8は、開発効果の高い事業を開発途上国で行う企業に対し、民間金融機関から十分な資金が得られない場合に、JICAが必要な資金を出資・融資するものです。2021年度末までに計60件の出・融資契約を調印しており、多くの日本企業も参画しています(事業の仕組み、対象分野・条件などについては、JICAホームページ注9を参照)。最近の好事例としては、2021年に調印されたベトナムでの陸上風力発電事業(融資事業)やケニアでの廃棄物バイオリサイクル事業(インパクト投資事業)があります。前者は、クアンチ省において再生可能エネルギーの導入促進のためにプロジェクトファイナンスを行うものであり、温室効果ガスの削減に寄与します。また、ベトナムにおける民間主体の風力発電事業のモデルケースとして後続案件への投資の呼び込みも期待されます。後者は、ナイロビにおいて、増加する廃棄物を適切に収集し、飼料・肥料・バイオ燃料等へのリサイクル促進を図る事業に出資を行うものであり、アフリカの多くの国々が抱える廃棄物処理および農業生産性に係る社会課題の解決を目指すものです。また、対ASEAN海外投融資イニシアティブなどを通じ、新型コロナウイルス感染症の影響によって金融アクセスが困難となった女性事業者や中小零細企業に向けた支援にも積極的に取り組んでいます(対ASEAN海外投融資イニシアティブについては東南アジアへの支援も参照)。

日本の開発協力は、多様なアクターとのパートナーシップの下で推進されています。開発協力の実施にあたっては、JICAとその他の公的資金を扱う機関(株式会社国際協力銀行(JBIC)、株式会社日本貿易保険(NEXI)、株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)、株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)等)との間の連携を強化するとともに、政府が、民間部門を含む多様な力を動員・結集するための触媒としての役割を果たすことが重要です。

なお、国連開発計画(UNDP)および国連児童基金(UNICEF)などの国際機関も、途上国における豊富な経験と専門性をいかし、日本企業による包摂的ビジネス解説を支援しています。

図表Ⅳ-2 ODAを活用した官民連携支援スキーム

タンザニア、ケニア、コートジボワール、ガーナ、ナイジェリア一般公募

SDGs1 SDGs2 SDGs8 SDGs9

日系企業のアフリカ進出を後押し
アフリカ地域先進農業技術の導入を通じた機械化振興等にかかる情報収集・確認調査
JICA情報収集・確認調査(2022年2月~2024年2月)

アフリカ諸国で労働人口の多くが従事する農業は、経済成長と貧困削減のために最も重要な分野の一つです。しかし、農家の多くはいまだ伝統的な手法を用いており、機械化を含む農業生産性の向上や農産品の品質向上が大きな課題となっています。

2019年8月に開催されたTICAD 7注1で提唱された「アフリカ農業イノベーション・プラットフォーム構想」注2でも、「先進農業技術の導入促進」が優先アクションの一つとして掲げられました。

これを受けて、農業生産性や農産品の品質向上に貢献することを目的とした日・アフリカ農業イノベーションセンター(AFICAT)注3が設立されることになりました。本事業では、日本企業の進出ニーズが高いタンザニア、ケニア、コートジボワール、ガーナ、ナイジェリアの5か国で、AFICATの稼働に向けた情報収集・確認調査として、コメに関連する農業機械の活用を中心にパイロット活動を実施しています。

ナイジェリアでは、ナサラワ州ラフィアで、本田技研工業株式会社が政府関係者や小規模農家向けにセミナーを実施し、実機でのデモンストレーションを通じて、小型耕うん機の使用方法やメンテナンス方法を紹介しました。参加した農家からは、「労働時間短縮に役立つ」などの感想が寄せられ、農業機械化推進への期待が高まりました。

本事業を通じて得られた知見から、AFICATの本格稼働に向けて必要な実施体制が提案されることになります。AFICATは、今後も、日本の農業関連企業のアフリカ進出の足掛かりとなるとともに、日本の製品・技術によるアフリカ諸国の農業機械化の促進、農業生産性の向上、農産品の品質向上を推進することが期待されています。

ナイジェリアにて、本田技研工業株式会社による、現地農家、農業省関係者向けの耕うん機のデモンストレーションの様子(写真:(株)かいはつマネジメント・コンサルティング)

ナイジェリアにて、本田技研工業株式会社による、現地農家、農業省関係者向けの耕うん機のデモンストレーションの様子(写真:(株)かいはつマネジメント・コンサルティング)

タンザニアにて、株式会社ケツト科学研究所による、農業省関係者向けのオンラインセミナーの様子。同社の農業機械製品について活発な質問・意見交換が行われた。(写真:(株)かいはつマネジメント・コンサルティング)

タンザニアにて、株式会社ケツト科学研究所による、農業省関係者向けのオンラインセミナーの様子。同社の農業機械製品について活発な質問・意見交換が行われた。(写真:(株)かいはつマネジメント・コンサルティング)

注1 TICADについては、「開発協力トピックス」を参照。

注2 生産性向上、農民のエンパワーメント、高付加価値化の農業分野の3本柱の強化・連携促進を目指す構想(Agriculture Innovation Platform in Africa:AIPA)。

注3 アフリカ諸国における先進農業技術の導入や農業機械化の推進を日・アフリカの官民連携で実施するために設置された枠組み。農業資機材の展示・実証や人材育成・イノベーションの拠点となることが期待される。

用語解説

中小企業・SDGsビジネス支援事業
民間企業からの提案に基づき、開発途上国の開発ニーズと企業が有する優れた製品・技術等とのマッチングを支援し、途上国での課題解決に貢献するビジネスの形成を後押しするもの。2022年度公示では、従来の「普及・実証・ビジネス化事業」に加え、新たに「ニーズ確認調査」および「ビジネス化実証事業」を募集。新制度ではJICAがコンサルタントと共に企業によるビジネス化を支援する形態に改編し、企業がビジネス化に向けた調査に集中できる環境整備を図っている。また、本事業は、日本の中小・中堅企業の海外展開を支援するのみならず、日本国内の経済や地域活性化を促進することも期待されている(図表Ⅳ-2も参照)。
包摂的ビジネス(Inclusive Business)
包摂的な市場の成長と開発を達成するための有効な手段として、国連および世界銀行グループが推奨するビジネスモデルの総称。社会課題を解決する持続可能なBOPビジネスを含む。

  1. 注1 : EBF(Equity Back Finance)円借款は、開発途上国政府・国営企業等が出資をするPPPインフラ事業に対して、日本企業も事業運営主体に参画する場合、途上国の公共事業を担う特別目的会社(SPC:Special Purpose Company)に対する途上国側の出資部分に対して円借款を供与するもの。
  2. 注2 : VGF(Viability Gap Funding)円借款は、途上国政府の実施するPPPインフラ事業に対して、原則として日本企業が出資する場合において、SPCが期待する収益性確保のため、途上国がSPCに供与する採算補塡(VGF)に対して円借款を供与するもの。
  3. 注3 : 2015年に発表。日本の経済協力ツールを総動員した支援量の拡大・迅速化、アジア開発銀行(ADB)との連携、国際協力銀行(JBIC)の機能強化等によるリスク・マネーの供給拡大、「質の高いインフラ投資」の国際スタンダードとしての定着を内容の柱としている。
  4. 注4 : 2016年のG7伊勢志摩サミットで「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」を取りまとめたことに基づき、「質の高いインフラ」の推進に資すると特に認められる案件に対し、譲許性の高い円借款を供与するもの。
  5. 注5 : 2016年のG7伊勢志摩サミットで発表。アジアを含む世界全体のインフラ案件向けに、その後5年間の目標として、オールジャパンで約2,000億ドルの資金等を供給すると同時に、さらなる制度改善やJICA等関係機関の体制強化と財務基盤の確保を図っていくことを盛り込んでいる。
  6. 注6 : https://www.jica.go.jp/priv_partner/activities/sme/index.html
  7. 注7 : https://www.jica.go.jp/priv_partner/activities/psiffs/index.html
  8. 注8 : 支援対象分野は、(1)インフラ・成長加速、(2)SDGs・貧困削減、(3)気候変動対策。
  9. 注9 : https://www.jica.go.jp/activities/schemes/finance_co/loan/index.html
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