(3)万人のための質の高い教育
世界には小学校に通うことのできないこどもが約5,800万人もいます。中等教育も含めると、推定約2億5,600万人(全体の16.8%)注62が学校に通うことができていません。特に、2000年以降、サブサハラ・アフリカでは、学校に通うことのできないこどもの割合が増加しています。とりわけ、障害のあるこども、少数民族や不利な環境に置かれたコミュニティのこども、避難民や難民のこども、遠隔地に住むこどもが取り残されるリスクが最も高くなっています。新型コロナの感染拡大の影響も大きく、学校閉鎖による学習機会の損失に加え、学校が再開した後も学校に戻らないこどもたちがいることも指摘されており、これらに伴うこどもの栄養不足、早婚、ジェンダー平等などへの影響も懸念されています。
SDGsの目標4として、「全ての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」ことが掲げられており、国際社会は、「教育2030行動枠組」解説の目標の達成を目指しています。
●日本の取組

ラオスでの技術協力「初等教育における算数学習改善プロジェクト」において、日本の支援によって作成された算数の教科書で学習するこどもたち(写真:JICA)

ジブチ・ディキル市内の小学校で四則計算の指導を行うJICA海外協力隊員(写真:JICA)
日本は、開発途上国の基礎教育注63や高等教育、職業訓練の充実などの幅広い分野で支援を行っています。
日本は、2019年に発表した「教育×イノベーション」イニシアティブ注64を促進し、3年間で約947万人のこども・若者を支援し、コミットメントを達成しました。2030年までに全てのこどもが質の高い初等・中等教育を修了できるようにするためには、支援を加速化させるイノベーションが不可欠です。日本は、「G20持続可能な開発のための人的資本投資イニシアティブ」(2019年G20大阪サミット)を通じて、基盤的な学力を育む教育やSTEM教育注65、eラーニングの展開などの支援を一層強化しています(ネパールでの取組について、「案件紹介」を参照)。
また、日本は、「教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)」解説に対して、2008年から2022年までに総額約4,622万ドルを拠出しています。2015年以降にGPEのパートナー国が支援したこどもは約3,270万人に及び、これらこどもの4人に3人は初等教育を修了しました。2021年7月に開催された世界教育サミットにおいて、日本は、GPEへの支援継続も含め2021年から2025年までの5年間で15億ドルを超える教育分野に対する支援と、750万人の途上国の女子の教育および人材育成のための支援を表明しました。
2022年8月のTICAD 8注66では、アフリカに対する教育分野(若者や女性を含む人材育成)の取組として、「みんなの学校プロジェクト」など、就学促進、包摂性の向上、給食の提供などの取組を通じてこどもの学びを改善させ、900万人にSTEM教育を含む質の高い教育を提供すること、400万人の女子の質の高い教育へのアクセスを改善することを表明しました。また、日・アフリカ間の大学ネットワークの下での人材育成や留学生の受入れなどを通じて、科学技術分野を含む高度人材の育成に取り組んでいます(エジプトでの支援について、「国際協力の現場から3」を参照)。
これまでに日本は、ニジェールを始めとする西アフリカ諸国を中心として、2004年から、学校や保護者、地域住民間の信頼関係を築き、こどもの教育環境を改善するため、「みんなの学校プロジェクト」を実施しており、世界銀行やGPEなどとも連携して、同プロジェクトの普及を各国全土に拡大しています。2022年10月までに9か国において、70,754校の小学校で導入されています。
アジア太平洋地域においては、国連教育科学文化機関(UNESCO)に拠出している信託基金を通じて、「アジア太平洋地域教育2030会合(APMED2030)」の年次開催や、教育の質の向上、幼児教育の充実、ノンフォーマル教育の普及および教員の指導力向上など、SDGsの目標4達成に向けた取組を支援しています。また、日本は、日ASEAN間の高等教育機関のネットワーク強化や、産業界との連携、周辺地域各国との共同研究、および日本の高等教育機関などへの留学生受入れなどの多様な方策を通じて、途上国の人材育成を支援しています。
■持続可能な開発のための教育(ESD)の推進
「持続可能な開発のための教育解説:SDGs達成に向けて(ESD for 2030)」が、UNESCOを主導機関として、2020年1月から開始されました。ESDは、持続可能な社会の創り手の育成を通じ、SDGsの全ての目標の実現に寄与するものであり、日本は、ESD提唱国として、その推進に引き続き取り組むとともに、UNESCOへの信託基金を通じて、世界でのESDの普及・深化へ貢献しています。また日本は、同信託基金を通じて、ESD実践のための優れた取組を行う機関または団体を表彰する「ユネスコ/日本ESD賞」をUNESCOと共に実施しており、これまでに18団体に授与するなど、積極的にESDの推進に取り組んでいます。
用語解説
- 教育2030行動枠組(Education 2030 Framework for Action)
- 万人のための教育を目指して、2000年にセネガルのダカールで開かれた「世界教育フォーラム」で採択された「万人のための教育(EFA)ダカール行動枠組」の後継となる行動枠組み。2015年のUNESCO総会と併せて開催された「教育2030ハイレベル会合」で採択された。
- 教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE:Global Partnership for Education)
- 開発途上国、ドナー国・機関、市民社会、民間企業・財団が参加し、2002年に世界銀行主導で設立された途上国の教育セクターを支援する国際的なパートナーシップ。2011年にファスト・トラック・イニシアティブ(FTI:Fast Track Initiative)から改称された。
- 持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)
- 持続可能な社会の創り手を育む教育。2017年の第72回国連総会決議において、ESDがSDGsの全ての目標達成に向けた鍵となることが確認され、2019年の第74回国連総会決議で採択された「ESD for 2030」においても、そのことが再確認された。「ESD for 2030」は、「国連ESDの10年(UNDESD)」(2005年から2014年)、および「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」(2015年から2019年)の後継プログラムであり、2020年から2030年までの新しい国際的な実施枠組み。
- 注62 : 「Global Education Monitoring Report 2021/2022」209ページ、413ページ、427ページ。https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000379875
- 注63 : 生きていくために必要となる知識、価値そして技能を身に付けるための教育活動。主に初等教育、前期中等教育(日本の中学校に相当)、就学前教育、成人識字教育などを指す。
- 注64 : 2019年のG20大阪サミットで発表された「G20持続可能な開発のための人的資本投資イニシアティブ」に基づき、日本独自の取組として、2019年から2021年の3年間で、少なくとも約900万人のこども・若者にイノベーションのための教育と、イノベーションによる教育を提供するもの。
- 注65 : Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)のそれぞれの単語の頭文字をとったもので、その4つの教育分野の総称。
- 注66 : 「開発協力トピックス」を参照。