2022年版開発協力白書 日本の国際協力

(4)ジェンダー・包摂的な社会

ア 女性の能力強化・参画の促進

開発途上国における社会通念や社会システムは、一般的に、男性の視点に基づいて形成されていることが多く、女性は様々な面で脆(ぜい)弱な立場に置かれやすい状況にあります。一方、女性は開発の重要な担い手であり、女性の参画は女性自身のためだけでなく、開発のより良い効果にもつながります。例えば、これまで教育の機会に恵まれなかった女性が読み書き能力を向上させることは、公衆衛生やHIV/エイズなどの感染症予防に関する正しい知識へのアクセスを向上させるとともに、適切な家族計画につながり、女性の社会進出や経済的エンパワーメントを促進します。さらには、途上国の持続可能で包摂的な経済成長にも寄与するものです。

「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」では、「ジェンダー平等の実現と女性と女児の能力向上は、全ての目標とターゲットにおける進展において死活的に重要な貢献をするもの」であると力強く謳(うた)われています。また、SDGsの目標5において、「ジェンダー平等を達成し、全ての女性および女児の能力強化を行う」ことが掲げられています。「質の高い成長」を実現するためには、ジェンダー平等と女性の活躍推進が不可欠であり、開発協力のあらゆる段階に男女が等しく参画し、等しくその恩恵を受けることが重要です。

●日本の取組

ベトナム「ディエンビエン省における山岳民族の女児と女性に対する人身取引予防事業」で、人身取引の予防について意見交換を行うこどもクラブの女子生徒たち(写真:特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン)

ベトナム「ディエンビエン省における山岳民族の女児と女性に対する人身取引予防事業」で、人身取引の予防について意見交換を行うこどもクラブの女子生徒たち(写真:特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン)

ケニアで女性の現金収入の向上および経済的自立を目指す「難民キャンプとホストコミュニティにおける女性の強靭(じん)性強化計画」でバスケットを制作する女性(写真:UN Women)

ケニアで女性の現金収入の向上および経済的自立を目指す「難民キャンプとホストコミュニティにおける女性の強靭(じん)性強化計画」でバスケットを制作する女性(写真:UN Women)

エチオピア「女性起業家支援事業」で起業を目指す女性が研修を受ける様子(写真:JICA)

エチオピア「女性起業家支援事業」で起業を目指す女性が研修を受ける様子(写真:JICA)

「女性の活躍推進のための開発戦略」注67では、(ⅰ)女性の権利の尊重、(ⅱ)女性の能力発揮のための基盤の整備、(ⅲ)政治、経済、公共分野への女性の参画とリーダーシップ向上を基本原則に位置付け、日本は国際社会において、ジェンダー主流化注68、ジェンダー平等、女性および女児のエンパワーメント推進に向けた取組を進めています。

日本は、2018年、女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)注69に5,000万ドルの拠出を行い、2022年6月時点で、59か国で50,068の女性が経営・所有する中小企業に支援を実施しています。そのうち具体的には、40,378の女性が経営・所有する中小企業が資金援助を受け、13,885が経営に必要な技術や知識習得のための研修を受講しました。また、世界銀行によると、途上国では女性が経営する中小企業の70%が金融機関から資金調達ができない、もしくは劣悪な借り入れ条件を課されてしまうため、We-Fiを通じて、性差別のない法制度整備の促進や、女性経営者が資金や市場に平等にアクセスできるよう支援を行っています。

2022年6月に開催されたG7エルマウ・サミットでは、今後数年間にわたり、ジェンダー平等ならびに女性および女児のエンパワーメントを促進するG7の二国間ODAの割合を、共同で増加させるためにあらゆる努力をする旨が、首脳宣言に盛り込まれました。

2022年12月には国際女性会議WAW!2022を開催しました。「新しい資本主義に向けたジェンダー主流化」をメインテーマに、2023年G7日本議長国下での議論を見据え、(ⅰ)新しい資本主義と女性、(ⅱ)女性の尊厳と誇りを守る社会の実現、(ⅲ)男性の関心・関与の拡大、(ⅳ)意思決定プロセスへの女性の参画、(ⅴ)女性の平和・安全保障への参画、の5つのサブテーマを設定し、国内外の様々な分野で活躍するリーダーや有識者による、より良い社会作りに向けた意見交換を行いました。また、WAW!2022の前後をWAW!ウィークスと位置付け、国際女性会議WAW!の趣旨であるジェンダー平等と女性のエンパワーメントに賛同したサイドイベントを107件実施しました。

このほか日本は、国連女性機関(UN Women)を通じた支援も実施しており、2021年には約2,100万ドル、2022年には約1,400万ドルを拠出し、女性の政治的参画、経済的エンパワーメント、女性・女児に対する性的およびジェンダーに基づく暴力撤廃、平和・安全保障分野の女性の役割強化、政策・予算におけるジェンダー配慮強化などの取組を支援しています。また、2022年はアフリカ、アジアにおいて引き続きジェンダーの視点も取り入れた新型コロナの感染予防にも貢献しました。例えば、ソマリアでは、新型コロナ対策に関して、2,234人の女性を支援、南スーダンでは13,189人の国内避難民およびホストコミュニティの住民がワクチン接種の意義を含む新型コロナに関する正しい知識とともに、新型コロナの感染下において増加傾向にあるジェンダーに基づく暴力についての知識を向上させました。

紛争下の性的暴力に関しては、日本としても看過できない問題であるという立場から、紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所(OSRSG-SVC)との連携を重視しています注70。2022年、日本は同事務所に対し、約39.4万ドルを拠出し、新型コロナの感染が拡大するコンゴ民主共和国において、感染対策をしつつ、性的暴力の被害者を対象に法的支援を実施しています。

また、日本は、紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)解説に対し、2022年に200万ユーロを追加拠出し、これまでに計600万ユーロを拠出しました。理事会メンバーとして、コンゴ民主共和国やイラクを始めとする紛争影響地域での紛争関連の性的暴力生存者支援に積極的に貢献しています。2022年7月、日本は、第50回人権理事会に際し、GSFおよび理事会メンバー(フランス、英国、韓国)、米国、ウクライナなどとウクライナにおける紛争関連の性的暴力生存者への補償に関するサイドイベントを共催しました。同年9月には、国連総会の際に、GSFおよび理事会メンバー、米国、カナダ、ウクライナなどと生存者支援に関するサイドイベントを共催しました。12月に開催したWAW!2022には、GSF創設者であるムクウェゲ医師が、オンラインで参加しました。

2000年に採択された国連安保理決議第1325号(女性・平和・安全保障)、および関連決議の実施のため、日本は行動計画(2015年)を策定し、国際機関や二国間支援を通して紛争影響国や脆弱国の女性支援を実施しています。G7の枠組みではG7WPS注71パートナーシップ・イニシアティブ(2018年)の下、日本はスリランカをパートナー国として2019年から同国の女性・平和・安全保障に関する行動計画策定支援や、その事業として26年間の内戦で取り残された寡婦世帯を含めた女性の経済エンパワーメント支援を行っています。本パートナーシップによる生計支援により経済的に立ち直るきっかけになるとともに、地域の平和構築・回復にも貢献しているとスリランカ政府からも歓迎されています。

イ 脆弱な立場に置かれやすい人々への支援

貧困・紛争・感染症・テロ・災害などの様々な課題から生じる影響は、国や地域、女性やこどもなど、個人の置かれた立場によって異なります。また、新型コロナの感染拡大は、特に社会的に脆弱な立場に置かれている全ての人々の生存と生活に大きな影響を与えています。SDGsの理念である「誰一人取り残さない」社会を実現するためには、一人ひとりの保護と強化に焦点を当てた人間の安全保障の考え方が重要です。

●日本の取組

■障害者支援
パラグアイでの技術協力において、障害者を対象としたタンゴセラピーを実践するJICA専門家(写真:JICA)

パラグアイでの技術協力において、障害者を対象としたタンゴセラピーを実践するJICA専門家(写真:JICA)

社会において弱い立場にある人々、特に障害のある人たちが社会に参加し、包容されるよう、日本のODAでは、障害のある人を含めた社会的弱者の状況に配慮しています。障害者権利条約第32条注72も、締約国は国際協力およびその促進のための措置を取ることとしています。

障害者施策は福祉、保健・医療、教育、雇用など、多くの分野にわたっており、日本はこれらの分野で積み重ねてきた技術や経験を、ODAやNGOの活動などを通じて開発途上国の障害者施策に役立てています(「案件紹介」も参照)。

例えば、日本は、鉄道建設、空港建設の設計においてバリアフリー化を図るとともに、リハビリテーション施設や職業訓練施設整備、移動用ミニバスの供与を行うなど、現地の様々なニーズにきめ細かく対応しています。また、障害者支援に携わる組織や人材の能力向上を図るために、JICAを通じて、途上国からの研修員の受入れや、理学・作業療法士やソーシャルワーカーを始めとした専門家、JICA海外協力隊を派遣するなど、幅広い技術協力も行っています。

■こどもへの支援
日本からの学校給食の支援を受け、感謝の気持ちを手作りのプレートや絵で表現するギニアの児童たち(写真:WFP)

日本からの学校給食の支援を受け、感謝の気持ちを手作りのプレートや絵で表現するギニアの児童たち(写真:WFP)

ホンジュラス「テグシガルバ市教育施設2校改善計画」で増改築された基礎教育学校および幼稚園の引渡式の様子

ホンジュラス「テグシガルバ市教育施設2校改善計画」で増改築された基礎教育学校および幼稚園の引渡式の様子

一般的に、こどもは脆弱な立場に置かれやすく、今日、紛争や自然災害などに加え、新型コロナの影響もあり、世界各地で多くのこどもたちが苛酷な状況に置かれています。また、こどもの難民や国内避難民も急増しており、日本は二国間の支援や国際機関を経由した支援など、様々な形でこどもを対象に人道支援や開発支援を行っています。2022年には、国連児童基金(UNICEF)を通じて、アジア、中東、アフリカ地域などの59か国において、貧困、紛争、自然災害、新型コロナなどの影響を受けるこどもへの支援を実施しました。

また、草の根・人間の安全保障無償資金協力注73では、特に草の根レベルで住民に直接裨(ひ)益する協力を行っており、小・中学校の建設や改修、病院への医療機材の供与、井戸や給水設備の整備などを通じて、こどもたちの生活状況の改善に貢献するプロジェクトを実施しています。

例えば、現在、フィリピンでは、北コタバト州キダパワン市に位置し、強い地震により校舎が倒壊し簡素な仮設教室での授業を余儀なくされていたダトゥ・イグワス先住民学校に対し、中学課程向けの校舎建設に協力しています。この協力によって、安全で適切な学習環境が提供され、基礎教育の質が向上することが期待されます。また、アルメニアでは、ロリ州マーガホヴィト村にある義務教育課程の児童が通う村立学校において遊具や運動施設を整備する協力を行いました。これにより、同学校に通う児童や近隣のこどもたちの心身の健全な発育や発達、運動能力の強化、健康維持などに貢献することが期待されます。

モンゴル

SDGs8

障害者と企業をつなぐ「ジョブコーチ」の育成
障害者就労支援制度構築プロジェクト
技術協力プロジェクト(2021年2月~2025年1月)

2009年に障害者権利条約を批准したモンゴル政府は、2016年に「障害者権利法」を公布するなど、障害者の権利保障と社会参加に向けた施策を推進しています。障害者の経済的・社会的な自立を後押しする施策の一つとして、労働法により障害者の雇用を企業に義務付け、「障害者就労促進プログラム」を実施するなどの取組を行っています。一方で、企業の障害者雇用に対する理解は依然として低く、障害者の特性やニーズに対応した職場環境が整備されておらず、障害者の就労が課題となっていました。

そこでJICAは、モンゴル労働・社会保障省と連携し、「ジョブコーチ」と呼ばれる専門人材の育成に取り組んでいます。ジョブコーチは、障害者の就労実現に向けて、企業と障害者のマッチングや、障害者の職場適応の支援などのサービスを提供します。本協力では、これまでに行政機関、就労支援機関、民間企業の職員を対象に入門セミナーを4回開催し、ジョブコーチの育成が行われました。育成にあたっては、ジョブコーチの基本的な概念やサービス等について講義を行ったり、セミナー受講者がジョブコーチ役を務め、障害者雇用における企業との交渉や、知的障害者に仕事を教えるための具体的な方法を学ぶグループワークを実施するなどの取組を行っています。参加者からは、「障害者雇用において参考になる知識を詳しく学べて満足している」などの声が寄せられています。2022年7月から、ジョブコーチによる就労支援サービスの提供を始めており、これまでに48名の障害者が実際にサービスを受けています。

本協力を通じて、助成金制度に関するガイドラインや人材育成制度が整備されました。今後、ジョブコーチによる就労支援サービスを持続的に提供するための仕組み作りや、企業啓発を進めることで、障害者就労のさらなる促進が期待されています。

ジョブコーチ入門セミナーでグループワークに取り組む就労支援団体の職員と講師(写真:JICA)

ジョブコーチ入門セミナーでグループワークに取り組む就労支援団体の職員と講師(写真:JICA)

企業の意識改革を目指した障害理解研修の様子(写真:JICA)

企業の意識改革を目指した障害理解研修の様子(写真:JICA)


  1. 注67 : 2016年に策定された、開発協力における女性活躍推進のための課題別政策。
  2. 注68 : あらゆる分野でのジェンダー平等を達成するため、全ての政策、施策および事業について、ジェンダーの視点を取り込むこと。開発分野においては、開発政策や施策、事業は男女それぞれに異なる影響を及ぼすという前提に立ち、全ての開発政策、施策、事業の計画・実施・モニタリング・評価のあらゆる段階で、男女それぞれの開発課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセスのこと。
  3. 注69 : 2017年のG20ハンブルク・サミットにて立ち上げを発表。途上国の女性起業家や、女性が所有・経営する中小企業などが直面する、資金アクセスや制度上の様々な障壁の克服を支援することで、途上国の女性の迅速な経済的自立および経済・社会参画を促進し、地域の安定、復興、平和構築を実現することを目的としている。
  4. 注70 : 紛争下の性的暴力防止に関する日本の取組については、外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pc/page1w_000129.html)も参照。
  5. 注71 : G7 Women, Peace and Securityの略。
  6. 注72 : 日本は2014年に締結した。
  7. 注73 : 事業の概要や実績の詳細については、外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/kaigai/human_ah/)に掲載しています。
このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る