2022年版開発協力白書 日本の国際協力

(5)文化・スポーツ

国を象徴するような文化遺産は、観光資源として周辺住民の生活向上に有効に活用できます。一方、資金や機材、技術などの不足から、存続の危機に晒(さら)されている文化遺産も多く存在し、このような文化遺産を守るための支援が必要とされています。また、こうした開発途上国の貴重な文化遺産を始めとする文化の保護・振興は、対象国のみならず、国際社会全体が取り組むべき課題でもあります。

スポーツは、国民の健康の維持・増進に寄与するのみならず、相手を尊重する気持ちや他者との相互理解の精神、および規範意識を育むことに貢献するものであり、スポーツの持つ影響力やポジティブな力は、途上国に開発・発展の「きっかけ」を与える役割を果たします。

●日本の取組

ボリビア日系協会連合会に所属するナショナルボランティアグループのメンバーたち。「アニメコンサート2.0」に参加し、折り紙、書道のデモンストレーションを行い、日本文化を発信した。(写真:JICA)

ボリビア日系協会連合会に所属するナショナルボランティアグループのメンバーたち。「アニメコンサート2.0」に参加し、折り紙、書道のデモンストレーションを行い、日本文化を発信した。(写真:JICA)

日本は、文化無償資金協力解説を通じて、1975年から、途上国の文化(スポーツを含む)高等教育の振興、文化遺産の保全などのための支援を実施しています。文化無償資金協力によって整備された施設は、日本に関する情報発信や日本との文化交流の拠点にもなり、日本に対する理解を深め、親日感情を培う効果があります。2022年には、日本語教育を含む教育分野、文化遺産保存分野、スポーツ分野への支援を含む28件の文化無償資金協力を実施しました。

また、日本は、UNESCOに設置した「日本信託基金」などを通じて、文化遺産の保存・修復作業、機材供与や事前調査などを支援しています。2022年度は約3億円を拠出し、その中から文化遺産分野の事業を複数実施しています。特に、将来、自らの手で自国の文化遺産を守っていけるよう、日本は途上国の人材育成に力を入れており、日本人専門家を中心とした国際的専門家の派遣や、ワークショップの開催などを通じて、技術や知識の移転に努めています。また、有形の文化遺産だけでなく、伝統的な舞踊や音楽、工芸技術、口承伝承(語り伝え)などの無形文化遺産についても、同じく日本信託基金を通じて、継承者の育成や記録保存、保護のための体制作りなどを支援しています。

ほかにも、アジア・太平洋地域世界遺産等文化財保護協力推進事業として、アジア太平洋地域から文化遺産保護に携わる若手専門家を招き、文化遺産保護の能力向上を目的とした研修事業を実施しています。木造建築物の保存修復と考古遺跡の調査記録についての研修を隔年で行っているほか、2022年はベトナムの専門家を対象に、考古遺跡の三次元記録に関する研修などをテレビ会議形式で実施しました。

また、日本は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の価値を継承し、スポーツの価値とオリンピック・パラリンピックムーブメントを広めていくためのスポーツを通じた国際貢献策「スポーツ・フォー・トゥモロー」注74を引き続き推進すべく、ODAやスポーツ外交推進事業を活用したスポーツ支援を行っています注75。このほか、2022年は、スポーツ分野において50名のJICA海外協力隊員を派遣しました。

用語解説

紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)
2018年ノーベル平和賞受賞者であるデニ・ムクウェゲ医師およびナディア・ムラド氏が中心となって創設した基金。紛争関連の性的暴力によって傷ついた生存者の多くが公式な償いを受けていないという状況を背景に、生存者に対する償いや救済へのアクセスの促進を目的としている。生存者支援や救済のための司法制度の整備に関する啓発活動を行っている。
文化無償資金協力
開発途上国における文化(スポーツを含む)・高等教育振興、および文化遺産保全に使用される資機材の購入や施設の整備を支援することを通じて、途上国の文化・教育の発展および日本とこれらの諸国との文化交流を促進し、友好関係および相互理解の増進を図るための無償資金協力。途上国の政府機関を対象とする「一般文化無償資金協力」と、NGOや地方公共団体などを対象として小規模なプロジェクトを実施する「草の根文化無償資金協力」の2つの枠組みがある。

  1. 注74 : スポーツ・フォー・トゥモローホームページ:https://www.sport4tomorrow.jpnsport.go.jp/jp/
  2. 注75 : 外務省によるスポーツ外交の取組:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/culture/hito/sports/index.html
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