2022年版開発協力白書 日本の国際協力

3 地球規模課題への取組と人間の安全保障の推進

(1)保健・医療

ホンジュラスで実施中の「保健サービスネットワーク(RISS)を通じた保健サービスデリバリー強化プロジェクト」にて、新型コロナに対応する医療従事者に対して個人防護具を供与する様子

ホンジュラスで実施中の「保健サービスネットワーク(RISS)を通じた保健サービスデリバリー強化プロジェクト」にて、新型コロナに対応する医療従事者に対して個人防護具を供与する様子

持続可能な開発目標(SDGs)の目標3は、「あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」ことを目指しています。また、世界の国や地域によって多様化する健康課題に対応するため、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)注51の達成が国際的に重要な目標の一つに位置付けられています。一方、現状では少なくとも世界人口の約半数が基礎的な医療を受けられていない状況にあり、予防可能な病気で命を落とす5歳未満のこどもの数は、年間約500万人注52と推計されています。また、産婦人科医や助産師などによる緊急産科医療が受けられないなどの理由により、年間約29.5万人以上注53の妊産婦が命を落としています。さらに、依然として新型コロナウイルス感染症が地球上の全ての人々に多岐にわたる影響を及ぼしています。新型コロナは、国際社会全体に未曽有の負の影響を与えただけでなく、ガバナンスやファイナンスを含め、現在のグローバルヘルス・アーキテクチャー(国際保健の枠組み)の脆(ぜい)弱性を露呈しました。

岸田総理大臣は、2022年6月のG7エルマウ・サミットにおいて、新型コロナに対するワクチンに関連した日本の支援を紹介するとともに、今回のパンデミックがUHCの重要性を浮き彫りにした旨を指摘しました。また、同年11月のG20バリ・サミットでは、グローバルヘルス・アーキテクチャーの強化の必要性およびより強靱(じん)、公平かつ持続可能なUHCの実現の重要性について述べるとともに、2023年に日本が主催するG7広島サミットにおいても、国際保健を重要課題の一つと位置付けたいとの考えを示しました。

●日本の取組

■新型コロナウイルス感染症対策支援

日本は、新型コロナの発生直後から、二国間および国際機関経由で、総額約50億ドル規模の開発途上国支援を実施してきています。途上国の経済・社会活動を下支えするため、また、保健・医療分野を含む財政ニーズに対処するため、新型コロナ危機対応緊急支援円借款の制度を創設し、2020年7月から2022年12月末までに18か国に対し、総額5,000億円を超える円借款を供与しました。

支援にあたっては、現下の感染症危機の克服、将来の健康危機への備えにも資する保健システムの強化、より幅広い分野での健康安全保障を確実にするための国際的な環境の整備が必要との考えに基づき、協力を実施しています。

世界全体で新型コロナを収束させるためには、あらゆる国・地域において、安全性、有効性、品質が保証されたワクチンや治療・診断への公平なアクセスの確保が重要です。この考えの下、日本はCOVAXファシリティ(COVID-19 Vaccine Global Access Facility)解説などの国際的な枠組みと協調しつつ、各国・地域に対するワクチン関連支援を実施してきました。

日本は、2021年6月以降2022年12月までに、32か国・地域に対し約4,400万回分のワクチンを供与しました(2022年において、直接供与:2か国に約445万回分、COVAXファシリティを通じた供与:11か国に約463万回分)。日本からのワクチンが届いた国・地域では、テレビや新聞等の主要メディアで大きく報じられ、SNSなどを通じてもワクチン供与に対する謝意が示されました。また、ワクチンを接種現場まで届けるための「ラスト・ワン・マイル支援」では、コールド・チェーン注54体制の整備や医療関係者の接種能力強化などを行っています。

2022年2月には、岸田総理大臣が、COVAXの構成機関の一つである感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)が行うワクチンの開発・製造支援に対して、日本政府から、今後5年間で3億ドルの拠出を新たに行うことを表明しました。同年4月には、岸田総理大臣がCOVAXワクチン・サミット2022にビデオメッセージの形で出席し、世界のあらゆる国や地域でワクチンへの公平なアクセスを確保することが鍵となる旨を述べ、国際社会で結束して危機を乗り越えることを呼びかけました。また、これまでに拠出済のCOVAXに対する10億ドルの貢献に追加して、最大5億ドルを拠出することを表明しました。

2022年5月のG7開発大臣・保健大臣合同会合には、鈴木外務副大臣(当時)および佐藤厚生労働副大臣(当時)が出席し、「誰の健康も取り残さない」という理念の下、新型コロナからのより良い回復に向けては途上国の経済・社会の活性化と人的往来の再開が必要であり、そのために日本は、途上国のワクチン接種データ管理、感染症対策を講じた国境管理体制、感染症廃棄物処理の3つの柱に焦点を当てた支援を、インド太平洋地域を中心に最大1億ドル規模で実施していく旨を述べました。

新型コロナからのより良い回復は、8月のTICAD 8注55でも主要テーマの一つとなりました。成果文書として採択された「チュニス宣言」では、人間の安全保障の実現、SDGs達成に向けた強靱で持続可能な社会の構築の必要性、UHCの実現に向けた保健分野での取組の促進の重要性が確認されました。日本は、アフリカに対して、COVAXファシリティを通じた最大15億ドルのワクチン支援、ワクチンを各国内の様々な接種現場に安全に届けるためのコールド・チェーン整備、ワクチン接種に対する忌避感情改善のための取組、ワクチンの域内製造・供給・調達支援などを通じて、包括的な新型コロナ対策の実施を支援しています。

このほか、日本は、世界保健機関(WHO)の健康危機プログラム解説、緊急対応基金(CFE)解説などへの拠出による財政貢献も通じて新型コロナの急性期への対応を行ってきています。

日本は、途上国の保健・医療体制構築を、医療従事者の能力構築支援、地域病院間のネットワーク化、地域の保健システム強化などの観点から、長年にわたり支援してきました。今般の新型コロナ危機においても、それら支援の対象であった医療施設が感染症対策の中核を担っています。

■グローバルヘルス戦略の策定

国際保健(グローバルヘルス)は人々の健康に直接関わるのみならず、経済・社会・安全保障上の大きなリスクを包含する国際社会の重要課題です。新型コロナの拡大など世界の様々な状況変化を踏まえ、日本政府は、2022年5月、健康安全保障に資するグローバルヘルス・アーキテクチャーの構築に貢献し、パンデミックを含む公衆衛生危機に対する予防・備え・対応(PPR)を強化すること、また、人間の安全保障を具現化するため、ポスト・コロナの新たな時代に求められる、より強靱、より公平、かつより持続可能なUHCを達成することを目標とする「グローバルヘルス戦略」を策定しました。同戦略の下、国際機関や官民連携基金、民間企業を始めとする多様なステークホルダーとの連携強化などを通じたPPR強化やUHC達成への取組が進められています。

■健康安全保障に資するグローバルヘルス・アーキテクチャーの構築

新型コロナ対応の経験や教訓を踏まえ、将来の公衆衛生危機に対する予防・備え・対応の強化に対する国際社会の関心がこれまでになく高まっています。

2022年には、世界銀行が主管する新たな基金(パンデミック基金)への5,000万ドルの拠出を表明したほか、日本が世銀グループと連携して立ち上げた保健危機への備えと対応に係るマルチドナー基金(HEPRTF)への追加拠出等を通じ、開発途上国における感染症の備え・対応のための能力強化などの支援を実施しています。

財政的な仕組みの整備に加えて、日本は、国際場裡(り)におけるルール作りにも積極的に貢献しています。2022年2月には、WHOの下で、パンデミックへの対応に関する新たな法的文書(いわゆる「パンデミック条約」)の第1回政府間交渉会議が開催され、以後、2022年末までに計3回の政府間交渉会議が開催されました。日本は政府間交渉会議の副議長に選出され、加盟国としてのみならず副議長としても会議の進捗に貢献しています。また、同時並行で議論が行われている国際保健規則(IHR)の改正についても積極的に議論に貢献しています。

■UHCの推進
日本の支援によってトレーニングを受けたネパールの女性が、コミュニティの保健ボランティアとして母子保健や栄養改善に関する情報共有を行っている様子(写真:WFP/Srawan Shrestha)

日本の支援によってトレーニングを受けたネパールの女性が、コミュニティの保健ボランティアとして母子保健や栄養改善に関する情報共有を行っている様子(写真:WFP/Srawan Shrestha)

日本は、新型コロナによって後退した従来からの保健課題を推し進め、より強靭、より公平、かつより持続可能なUHCを実現していく必要性があるとの認識の下、国際的な協力を進めてきています。

従来から日本は、感染症対策には持続可能かつ強靱な保健システムの構築が基本になるとの観点に立ち、東南アジアやアフリカ各国の保健・医療体制を支援してきました。加えて、新型コロナ等の世界規模でのパンデミックで明らかになった様々な教訓を踏まえ、中核医療施設の整備・ネットワーク化や医療分野の人材育成支援などの保健システムを強化しています。これらはUHCの推進に貢献すると同時に、公衆衛生危機に対する予防・備え・対応にも資するものです。また、上下水道等の水・衛生インフラの整備、食料安全保障の強化など、より幅広い分野で、感染症に強い環境整備のための支援を実施しています。15か国以上の国において、浄水処理用薬品、給水車用燃料、水道事業職員用の感染防護具、配管資材等を供与しているほか、手洗いの励行や啓発活動を実施し、感染症予防に貢献しています。JICAは、安全・安心な水の供給、手洗い設備、石鹸(けん)等の環境整備の支援に加え、開発途上国における正しい手洗いの定着のため、「健康と命のための手洗い運動」などの取組を実施しています。

また、UHCにおける基礎的な保健サービスには、栄養改善、予防接種、母子保健、性と生殖の健康、感染症対策、非感染性疾患対策、高齢者の地域包括ケアや介護など、あらゆるサービスが含まれます(栄養改善については、食料安全保障および栄養を参照)。

特に、途上国の母子保健については、いまだ大きな課題が残されており、2022年、日本は、カンボジア、ラオス、パキスタン、バングラデシュ、アンゴラ、ガーナ、コートジボワール、セネガル、ブルンジ、モザンビークなどを始め、多くの国で母子保健改善のための支援を実施しました。

また、日本は、その経験と知見をいかし、母子保健改善の手段として、母子健康手帳(母子手帳)を活用した活動を展開しています。母子手帳は、妊娠期・出産期・産褥(さんじょく)期注56、および新生児期、乳児期、幼児期と時間的に継続したケア(CoC:Continuum of Care)に貢献できるとともに、母親が健康に関する知識を得て、意識向上や行動変容を促すことができるという特徴があります。具体的な支援の例として、インドネシアでは、日本の協力により全国的に母子手帳が定着しています。また、インドネシアを含め、母子手帳の活用を推進しているカンボジア、東ティモール、ラオス、パプアニューギニア、タジキスタン、ケニア、マダガスカルの間では、各国での経験を共有して学び合う場が持たれています。

日本のNGOも、日本NGO連携無償資金協力の枠組みを利用して、保健・医療分野で事業を実施しています。例えば、2022年には、特定非営利活動法人ロシナンテスが、ザンビアのチサンバ郡において、母子保健サービスを改善するため、小型超音波診断装置の導入、マザーシェルター注57の水および電気供給の整備、医療従事者や地域ボランティアの研修を行っています(ホンジュラスでのNGOの取組について、「案件紹介」を参照)。

日本は、国連人口基金(UNFPA)や国際家族計画連盟(IPPF)、世界銀行などの国際機関と共に、性と生殖に関する健康サービスを含む母子保健を推進することによって、より多くの女性とこどもの健康改善を目指しています。また、Gaviワクチンアライアンス解説や二国間協力を通じて、途上国の予防接種率の向上に貢献しています(UNFPA日本人職員の活躍について、「国際協力の現場から7」も参照)。

また、アジア開発銀行(ADB)では、「ストラテジー2030」において保健を重点分野の一つに位置付け、アジア太平洋地域でのUHC達成に向けたADBと日本との連携の3本柱として、UHCを支える(ⅰ)制度枠組の構築、(ⅱ)人材育成の強化、(ⅲ)インフラの整備を掲げました。日本は、2021年4月から、この3本柱に基づいた取組を後押しする技術支援や小規模のグラント供与を目的としたADBの日本信託基金への拠出を開始しました。

2022年5月、岸田総理大臣はテドロスWHO事務局長との間で電話会談を行い、日本にWHOのUHCセンターを設立することを検討するためのタスクフォースを設置することを確認しました。2022年9月、岸田総理大臣は、第77回国連総会の一般討論演説において、2023年に日本が議長国を務めるG7に向け、国際保健の枠組み強化や、新型コロナを踏まえた新たな時代のUHC達成にも引き続きリーダーシップを発揮する旨を述べました。また、同月、林外務大臣は、ニューヨークにおいてUHCフレンズ閣僚級会合を共催しました。会合において林外務大臣は、新型コロナ危機を通じて、世界は保健システムへの投資が強靭な経済・社会の基盤の強化につながることを実感した旨を述べつつ、このモメンタムを活用し、UHCの達成に向けた取組を維持・強化する必要性を指摘しました。

■三大感染症(HIV/エイズ、結核、マラリア)
ベトナムのバック・ザン省疫病管理センターにおいてインフルエンザと手足口病の検査技術を指導するJICA専門家(写真:JICA)

ベトナムのバック・ザン省疫病管理センターにおいてインフルエンザと手足口病の検査技術を指導するJICA専門家(写真:JICA)

マラウイの地方部にある私立病院で、薬剤師として同僚と共に処方監査と医薬品の在庫・発注管理をするJICA海外協力隊員

マラウイの地方部にある私立病院で、薬剤師として同僚と共に処方監査と医薬品の在庫・発注管理をするJICA海外協力隊員

SDGsの目標3.3として、2030年までの三大感染症の収束が掲げられています。日本は、「グローバルファンド」注58を通じた三大感染症対策および保健システム強化への支援に力を入れており、設立から2022年までに約43億ドルを拠出しました。さらに、2022年8月のTICAD 8および9月のグローバルファンド第7次増資会合において、岸田総理大臣は、今後3年間で最大10.8億ドルの拠出を行うことを表明しました。日本は、三大感染症への対策がより効果的に実施されるよう、グローバルファンドを通じた取組との相互補完的な支援として、保健システムの強化、コミュニティ能力強化や母子保健改善などの二国間協力も実施しています。

二国間協力を通じたHIV/エイズ対策として、日本は、新規感染予防のための知識を広め、検査・カウンセリングの普及を行っています。特にアフリカを中心に、2022年もJICA海外協力隊員が、より多くの人に予防についての知識や理解を広める活動や、感染者や患者のケアとサポートなどに精力的に取り組んでいます。

結核に関しては、2021年改定版「ストップ結核ジャパンアクションプラン」に基づき、日本が結核対策で培った経験や技術をいかし、官民が連携して、2025年までの中間目標として結核による死亡を75%減少(2015年比較)させ、結核罹患率を50%減少(2015年比較、10万人当たり55症例未満)させることを目標に、開発途上国、特にアジアおよびアフリカに対する年間結核死者数の削減に取り組んでいます。

このほか、乳幼児が死亡する主な原因の一つであるマラリアについて、ミャンマーやソロモン諸島において、日本は、地域コミュニティの強化を通じたマラリア対策への取組を支援しています。またグローバルファンドへの拠出を通じ、世界的なマラリア対策も行っています。

アフリカ6か国注1、アジア4か国注2一般公募

SDGs3 SDGs6 SDGs9 SDGs11

国際機関と日本企業の連携による感染症対策
開発途上国の感染症予防に向けたSTePP技術の実証・移転による海外日本企業支援事業注3
国際機関拠出金・出資金(補正予算)(2020年11月~2022年12月)

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るった2020年、アフリカやアジアの開発途上国では、保健・医療に関する技術の遅れや衛生意識の低さにより、医療施設での二次感染が拡大していました。

国連工業開発機関(UNIDO)東京事務所は、日本の外務省の資金協力を得て、途上国の感染症対策につながる日本の技術を移転するプロジェクトを開始し、UNIDOが運営するサステナブル技術普及プラットフォーム(STePP)注4の登録企業の中から、日本企業12社を選びました。

アフリカ・アジアの10か国を対象に、各国のニーズに合わせ、各社は消毒剤製造や抗菌塗装、医療検査設備などの技術移転を行いました。当初は、日本の技術者を現地に派遣する予定でしたが、各国での感染拡大により渡航が困難となりました。そこで、各社は、関連機材を現地に送りオンラインで技術指導を行うなど、工夫しながら取組を進めました。

対象国のケニアでは、医療廃棄物が正しく分別・処理されておらず、感染源の一つとなっていました。そこで、オンラインツールを活用して、技術訓練やワークショップを開催し、医療施設内への医療廃棄物焼却炉の設置や試運転の指導を実施しました。その結果、施設で発生する週1トンの医療廃棄物を全て適切に焼却できるようになりました。ベトナムでは、衛生管理に課題を抱える医療施設や食品加工工場に浄化装置を計8台設置し、維持管理や運用に関する技術指導を遠隔で行い、従業員や入院患者22万人、消費者10万人の衛生環境の向上につながりました。

今回、日本の技術が途上国の感染症対策に貢献し、リモートでも技術移転ができるという新たな発見がありました。この経験を基に、UNIDOは、日本企業との連携をさらに深め、日本企業の海外進出を後押ししていきます。

株式会社キンセイ産業の医療廃棄物焼却炉を導入したケニア・ナイロビの病院。施設内で発生する医療廃棄物を全て処理できるようになった。(写真:UNIDO東京事務所)

株式会社キンセイ産業の医療廃棄物焼却炉を導入したケニア・ナイロビの病院。施設内で発生する医療廃棄物を全て処理できるようになった。(写真:UNIDO東京事務所)

ベトナムの医療施設に浄化装置を導入するため、現地とオンライン会議を行うAGC株式会社の関係者たち(写真:UNIDO東京事務所)

ベトナムの医療施設に浄化装置を導入するため、現地とオンライン会議を行うAGC株式会社の関係者たち(写真:UNIDO東京事務所)

注1 ウガンダ、ケニア、セネガル、ナイジェリア、マダガスカル、モロッコ。

注2 インド、インドネシア、ベトナム、モンゴル。

注3 本事業の詳細は以下を参照。
http://www.unido.or.jp/activities/technology_transfer/stepp-demo-results/

注4 日本の優れた技術を途上国や新興国に紹介するプラットフォーム。ウェブサイトや展示会、途上国の投資促進専門官の招聘(へい)プログラムなどを通じて、包摂的で持続可能な産業開発に資する日本の技術やノウハウを広く紹介している。2022年12月時点で117社135の技術が登録されている。

■感染症の薬剤耐性(AMR)への対応

感染症の薬剤耐性(AMR)注59は、公衆衛生上の重大な脅威であり、近年、対策の機運が増しています。日本は、AMRへの対策を進めるために、人、動物、環境の衛生分野に携わる者が連携して取り組む「ワン・ヘルス・アプローチ」を推進しています。日本は、G20大阪サミットでの「ワン・ヘルス・アプローチ」推進のための合意も踏まえ、2019年に新規抗菌薬の研究開発と診断開発を推進するGARDP(Global Antibiotic Research & Development Partnership)への約10億円の拠出を発表し、AMRグローバルリーダーズグループに参加するなど、AMR対策においてリーダーシップを発揮しています。2022年には、GARDPに対し、約2億円を拠出しました。

■顧みられない熱帯病(NTDs)
パプアニューギニアの東ニューブリテン州にて、フィラリア伝播抑制のための集団投薬の広報活動を行う医療従事者の様子(写真:JICA)

パプアニューギニアの東ニューブリテン州にて、フィラリア伝播抑制のための集団投薬の広報活動を行う医療従事者の様子(写真:JICA)

シャーガス病、フィラリア症、住血吸虫症などの寄生虫・細菌感染症は「顧みられない熱帯病(NTDs:Neglected Tropical Diseases)」と呼ばれています。世界全体で10億人以上が感染しており、開発途上国に多大な社会的・経済的損失を与えています。日本は、2022年までにグローバルヘルス技術振興基金(GHIT)へ総額で143億円を拠出してきており、GHITを通じてNTDs対策支援を行ってきたほか、2022年6月には「顧みられない熱帯病(NTDs)に関するキガリ宣言」に署名し、関係国や国際機関等と密接に連携して対策に取り組んでいます。

また、日本は、技術協力を通じ、1970年代から太平洋島嶼(しょ)国に対してリンパ系フィラリア症の対策支援を行っています。大洋州広域フィラリア対策プロジェクトでは、日本の製薬会社エーザイ株式会社が無償でWHOに提供する治療薬を活用し、日本人専門家の派遣による技術指導を行い、感染地域において伝播(ぱん)を阻止するための駆虫薬の集団投薬などを、官民が連携して支援しています。長期にわたるこれらの支援が功を奏し、太平洋島嶼国14か国のうちの9か国(キリバス、クック諸島、ソロモン諸島、トンガ、ナウル、ニウエ、バヌアツ、パラオ、マーシャル諸島)がリンパ系フィラリア症の制圧を達成しました。今後も専門家の派遣などを通じて太平洋島嶼国におけるリンパ系フィラリア症の制圧に向けた支援を継続していきます。

■ポリオ

ポリオは根絶目前の状況にありますが、日本は、いまだ感染が見られる国(ポリオ野生株常在国:アフガニスタン、パキスタン)を中心に、主に国連児童基金(UNICEF)やGaviと連携し、撲滅に向けて支援しています。2022年には、アフガニスタンにおいて、定期予防接種活動およびポリオワクチン接種キャンペーンに必要なワクチン調達などの支援をUNICEFと連携し実施しています。

用語解説

COVAXファシリティ(COVID-19 Vaccine Global Access Facility)
新型コロナワクチンへの公平なアクセスの確保のため、Gavi主導の下で立ち上げられた資金調達および供給調整メカニズム。ワクチンの購入量と市場の需要の保証を通じ規模の経済をいかして交渉し、迅速かつ手頃な価格でワクチンを供給する仕組み。COVAXファシリティは、2022年12月時点で146か国・地域へワクチンを供給。
健康危機プログラム(WHO Health Emergencies Program)
WHOの健康危機対応のための部局であり、各国の健康危機対応能力の評価と計画立案の支援や、新規および進行中の健康危機の事案のモニタリングのほか、健康危機発生国における人命救助のための保健サービスの提供を実施している。
緊急対応基金(CFE:Contingency Fund for Emergencies)
2014年の西アフリカにおけるエボラ出血熱の大流行の反省を踏まえ、2015年にWHOがアウトブレイクや緊急事態に対応するために設立した感染症対策の緊急対応基金のこと。拠出の判断がWHO事務局長に一任されており、拠出することを決定してから24時間以内に資金を提供することが可能となっている。
Gaviワクチンアライアンス(Gavi、the Vaccine Alliance)
2000年、開発途上国の予防接種率を向上させることにより、こどもたちの命と人々の健康を守ることを目的として設立された官民パートナーシップ。ドナー国および途上国政府、関連国際機関に加え、製薬業界、民間財団、市民社会が参画している。設立以来、8億8,800万人のこどもたちに予防接種を行い、1,500万人以上の命を救ったとされている。日本は、2011年に拠出を開始して以来2022年までに、累計約12億3,000万ドルの支援を実施。

  1. 注51 : 全ての人が、効果的で良質な保健医療サービスを負担可能な費用で受けられること。
  2. 注52 : 国連児童基金(UNICEF)によるデータ(2020年時点)。前回データ集計時は520万人以上。
  3. 注53 : 世界保健機関(WHO)によるデータ(2017年時点)。前回データ集計時は30.3万人以上。
  4. 注54 : 低温を保ったまま、製品を目的地まで配送する仕組み。これにより、ワクチンなどの医療品の品質を保つことができる。
  5. 注55 : 「開発協力トピックス」を参照。
  6. 注56 : 出産後、妊娠前と同じような状態に回復する期間で、産後約1~2か月間のこと。
  7. 注57 : 出産を控えた妊婦が出産日や出産時間まで待機できる施設。
  8. 注58 : 2000年のG8九州・沖縄サミットにおいて感染症対策が初めて主要議題となったことを契機に、2002年に設立された官民連携パートナーシップ。開発途上国における三大感染症(エイズ、結核、マラリア)対策および保健システム強化に対する資金協力を行い、SDGs達成に向けた取組に貢献。
  9. 注59 : AMR(Anti-microbial Resistance)。病原性を持つ細菌やウイルス等の微生物が抗菌薬や抗ウイルス薬等の抗微生物剤に耐性を持ち、それらの薬剤が十分に効かなくなること。
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