2022年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 07

国際機関で活躍する日本人職員の声
~ベトナムの社会的弱者の支援~

UNFPAが支援する少数民族地域の産婦人科にて赤ちゃんを抱く筆者

UNFPAが支援する少数民族地域の産婦人科にて赤ちゃんを抱く筆者

ベトナムの国連ビル前に設置された日本政府支援によるDV被害者ホットラインの開設案内

ベトナムの国連ビル前に設置された日本政府支援によるDV被害者ホットラインの開設案内

「国をまたぐ仕事がしたい」「留学したい」。伝統的観念が強い日本の田舎町で、「女は大学に行かなくてもいい」と言われて育った中学生の頃、漠然とそう考えていました。

進学は両親の理解と支援もあり、横浜市立大学国際関係課程へ。「留学してもどうするのだ」という反対の声もある中、米国のインディアナ大学政治学部への留学を決行し、卒業しました。その後、アジア経済研究所開発スクールからの奨学金を得て、ロンドンスクールオブエコノミクスで人口学の修士号を取得。後にスキルアップのために英国のウォーリック大学でMBAを取得しました。

国連に初めて飛び込んだのは、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)派遣制度注1で国連人口基金(UNFPA)ザンビア事務所への赴任がきっかけでした。当時は私も26歳と若く、「あなたは経験が無いですが、国連で何ができるのですか」と面接で聞かれ、「経験が無くフレッシュな私に価値があるのです」と返答したのを覚えています。生意気な口を利く若造だったと反省しています。その後、UNFPAの正規職員として採用され、ニューヨーク本部、南アフリカ事務所次長、モンゴル事務所所長を経て、現在はベトナム事務所の所長を務めています。また、これまでのキャリアパスとして、国連開発計画(UNDP)モザンビーク事務所およびマラウイ事務所への次長職としての出向、JICAでの平和構築およびコンゴ民主共和国の担当なども経験しました。

ベトナムでの仕事は、私にとって「幸福」以外の何ものでもありません。国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の下、「誰一人取り残さない」というスローガンをモットーに、国の成長過程で忘れられがちな社会的弱者を守ることが私の仕事です。例えば、ベトナムの少数民族地域の妊婦は、病院から遠く出産前検診もままならず自宅で出産し、適切な医療ケアを受けられず命を落とすケースが多くあります。また、男性社会が根強いベトナムでの女性に対するDV被害は深刻です。高齢者も、社会保護制度が脆(ぜい)弱なため、貧困状態に陥りやすいです。そのような社会的弱者の「声」に耳を傾け、近年では日本政府からの支援も受けながら、社会的弱者に対して、資金面または技術面からの支援を行っています。また、ベトナム政府が適切な政策を取れるように、国連の中立的な立場をいかし、国際的見解とエビデンスに基づいた政策提言をし、国の決定プロセスに緊密に関与しています。

国連には、とても優秀で経験豊富な職員が数多く在籍しています。そういう先輩や仲間たちに支えられて今の自分があります。また、国連は福利厚生が充実しており、キャリアと子育ての両立に対する理解もあるため、ワーク・ライフ・バランスが取れた働き方ができます。

今日の不安定な世界情勢の中、アジア地域の先進国として、国際社会が日本に求める役割は日増しに高まっていると感じます。日本の若い世代には、世界との距離が近い今、海外への興味を持って世界に羽ばたいて欲しい、と切に願います。


国連人口基金(UNFPA)ベトナム事務所所長 北原直美


注1 図表IV-3を参照。

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