国際協力の現場から 06一般公募




タイと日本の「学び合い」による高齢化対策
~湯河原町、野毛坂グローカル(NGO)など多団体連携により地域主導の高齢者ケアを普及~

日本の専門家とオンラインでつないで現地でリハビリテーション研修を実施する野毛坂グローカルのスタッフ(写真:野毛坂グローカル)

ブンイトー市の包括的な高齢者ケアを普及するためのネットワーク署名式。ブンイトー市を含むタイの9か所の自治体および湯河原町などが参加した。(写真:野毛坂グローカル)
タイでは、2015年に10%強であった高齢化率が、2022年には14%を超え、急速な高齢化が進んでいます。しかし、国の年金や介護保険などの制度整備だけでは十分な対応が難しいことから、地域・自治体レベルで高齢者ケアの取組を活性化させることが重要となっています。
神奈川県湯河原町は、県内で最も高齢化率が高い一方で、要介護率は比較的低く、「元気な高齢者」が多い町です。国際交流が盛んな同町は、2019年に、タイ・ブンイトー市と高齢者福祉や観光の分野で「相互協力に関する覚書」を交わしました。湯河原町は、高齢者福祉の分野で長年タイに支援を行っているNGO野毛坂グローカルと連携して、ブンイトー市に対し、相互の訪問やオンラインセミナーを通じて、地域ごとの特徴やニーズに根ざした高齢者ケアを活性化させるための協力を行っています。
具体的には、ブンイトー市は、湯河原町、野毛坂グローカル、タイのタマサート大学などとの協力の下、高齢者デイケアセンターを整備するとともに、在宅介護や民間の入居型施設と連携を図り、包括的な高齢者ケアの提供に努めています。湯河原町は、同町が取り組んでいる福祉政策や町内事業者の高齢者ケア関連の知見からアドバイスを行い、野毛坂グローカルは、タイへの支援を通じて築いた人脈やタイの自治体が抱える課題に対する理解をもとに、日タイの自治体や大学間の仲介役として連携を促進するなど、地方自治体とNGOのそれぞれの強みをいかした協力を行っています。また、本協力を通じて、高齢者福祉に関する学び合いの場としてブンイトー市に設立された自治体研修センターには、国内外の様々な機関が見学や研修に訪れ、国を越えた学び合いの場となるとともに、タイの地元住民同士の交流・学び合いの場にもなっています。これらの取組は、日本政府が進めるアジア健康構想の下、日本国際交流センター(JCIE)と東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)が創設したアジア健康長寿イノベーション賞大賞注1を受賞しました。
自治体同士の協力を重視する湯河原町の内藤喜文(よしふみ)参事は、「湯河原町が教えるのではなく、学び合うという柔軟な姿勢で臨んでいます。自治体レベルの取組を相互に学び合うことで信頼関係の構築にもつながっています。」と語ります。こうした取組を通じて築かれた協力関係の下、湯河原町では、観光案内所に日本語と英語に堪能なタイ国籍の2名の職員を迎えています。外国人観光客対応力のある職員の活躍により、同町において国際交流が促進され、観光業のさらなる発展が期待されます。
2022年度からは湯河原町がJICA草の根技術協力を受託して、ブンイトー市で実施されている包括的高齢者ケアを、タイ国内の自治体に普及する活動をしています。タイの自治体ネットワークに湯河原町が加わることで、タイ国内の自治体間の相互の学びネットワークが拡大しています。これからも、タイ・日本の多団体の協力により、地域主導の高齢者ケアがタイ全土に普及することが期待されます。
注1 日本を含むアジア14か国・地域より、高齢化による様々な課題の解決となる革新的な取組(プログラム、サービス、製品、政策)を表彰している。