外交青書・白書
第3章 世界と共創し、国益を守る外交

3 国際会議における議論の主導

(1)G7

世界が気候危機、新型コロナ感染拡大、ロシアによるウクライナ侵略といった複合的危機に直面し、国際社会が歴史的な転換点にある中、日本は2023年のG7議長国を務めた(2ページ 巻頭特集参照)。

ロシアによるウクライナ侵略開始から1年となる2月24日、岸田総理大臣はG7首脳テレビ会議を主催した。冒頭にゼレンスキー・ウクライナ大統領が発言し、その後G7首脳間で議論が行われ、ウクライナに寄り添い、支援を必要とする国や人々を支援し、法の支配に基づく国際秩序を堅持することについて、G7の連帯は決して揺らぐことはないことで一致した。

岸田総理大臣は、5月19日から21日までG7広島サミットを主催した23。G7首脳は、分断と対立ではなく、協調の国際社会の実現を大きなテーマとして、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くこと、G7を超えた国際的なパートナーへの関与を強化することという二つの視点を柱とし、G7首脳間で積極的かつ具体的な貢献を打ち出していくことを確認した。

会議にはゼレンスキー大統領も参加した。ウクライナ情勢について、G7首脳は、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続していくことを確認するとともに、ロシア軍の撤退なくして平和の実現はあり得ないことを強調し、ウクライナに平和をもたらすため、あらゆる努力を行うことを確認した。G7首脳は、「ウクライナに関するG7首脳声明」を発出した。

外交・安全保障については、岸田総理大臣から、世界のどこであれ、力による一方的な現状変更の試みは決して認められず、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くというG7の強い意志を示していくことが不可欠であると述べた。また、インド太平洋情勢について、G7首脳は、中国をめぐる諸課題への対応や、核・ミサイル問題、拉致問題を含む北朝鮮への対応において、引き続き緊密に連携していくことを確認した。

核軍縮・不拡散については、被爆地広島で被爆の実相に触れながら、G7首脳間で胸襟を開いた議論が行われ、「核兵器のない世界」へのコミットメントが確認された。G7首脳は、核軍縮に関する初めてのG7首脳独立文書となる「G7首脳広島ビジョン」を発出した。

経済安全保障上の課題に対処する重要性の急速な高まりを受け、経済安全保障についてG7サミットとして初めて独立したセッションを設け、率直な議論を行った。G7首脳は、この課題に関する包括的かつ具体的なメッセージとして、G7で初の独立の首脳声明となる「経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」を発出した。

急速な技術の進展を遂げる生成AIについて、「広島AIプロセス」として、担当閣僚の下で速やかに議論させ、2023年中に結果を報告させることで一致した。

G7首脳は、招待国・機関を交え、食料、開発、保健、気候変動・エネルギー、環境といった国際社会が直面する諸課題について議論を行い、いわゆるグローバル・サウスと呼ばれる途上国・新興国とも協力してこれらの課題に取り組んでいくことの重要性を確認した。

会議の最後に、G7、招待国及びウクライナの首脳間で、世界の平和と安定に関する議論を行い、法の支配や、主権、領土一体性の尊重といった国連憲章の諸原則の重要性につき認識を共有した。

議論の総括として、G7首脳は、G7広島首脳コミュニケ、前述の「ウクライナに関するG7首脳声明」、「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」、「経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」に加え、「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」を発出し、また、招待国の首脳と共同で、「強靱なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明」を発出した。

また、12月には、岸田総理大臣は、G7日本議長年を締めくくるG7首脳テレビ会議を主催した24。会議には、ゼレンスキー大統領も冒頭に参加し、G7のウクライナに対する揺るぎない連帯を改めて確認し、G7首脳は、引き続き結束して対露制裁とウクライナ支援を強力に推進していくことで一致した。

中東情勢については、各首脳からハマスなどによるテロ攻撃への非難、全ての人質の即時解放の要求、現地の人道状況改善の重要性などにつき発言があり、G7首脳は、事態の沈静化や人々への支援を引き続きG7が主導していくことを確認した。

AIについては、G7首脳は、AIについて世界で初めて関係者が遵守すべきルールを包括的に定めた「広島AIプロセス包括的政策枠組」がG7で合意されたことを歓迎し、こうした成果を広く国際社会に拡大していくことで一致した。

G7首脳は、G7広島サミットを始めとする日本議長下の取組を総括しつつ、2024年のイタリア議長下でも更に協力を深めていくことを確認し、会議終了後にG7首脳声明を発出した。

G7外相会合は、2023年に対面で5回、オンラインも含めて計7回開催した。4月16日から18日に開催し、林外務大臣が議長を務めたG7長野県軽井沢外相会合では、G7外相が、5月のG7広島サミットに向けた連携を確認した。また、G7として初めて、日本が重視する法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序へのコミットメントや、世界のどこであれ一方的な現状変更の試みに強く反対することを文書の形で確認し、会合の成果としてG7外相コミュニケを発出した。11月7日及び8日に東京で開催し、上川外務大臣が議長を務めたG7外相会合では、特に中東情勢についてG7外相間で率直かつ踏み込んだ議論を行い、包括的なメッセージを文書の形でまとめた。また、ウクライナ情勢に関し、G7として、現下の国際情勢の中であっても、厳しい対露制裁や強力なウクライナ支援に取り組む姿勢は不変であることなどを確認した。そのほか、戦略的に最も重要なインド太平洋についても議論した。

G7貿易大臣会合については、第1回会合が4月4日にオンラインで、第2回会合が10月28日及び29日に大阪・堺で開催され、それぞれ、林外務大臣及び西村康稔経済産業大臣、上川外務大臣及び西村経済産業大臣が出席し、WTOを中核とする自由で公正な貿易体制の維持・強化に加え、経済安全保障の観点から経済的威圧や、サプライチェーン強靱化などについて率直な議論が行われ、G7貿易大臣声明を採択した。

(2)G20

G20は、主要先進国・新興国が参画する国際経済協力のプレミア・フォーラムである。9月9日及び10日に開催されたG20ニューデリー・サミットでは、議長国インドが掲げた「一つの地球、一つの家族、一つの未来」のテーマの下、議論が行われた。

岸田総理大臣は、ウクライナにおける公正かつ永続的な平和を実現することが重要であると訴え、さらに、G7の成果をG20につなげるとの考えの下、食料安全保障、気候・エネルギー、開発、保健、デジタルといった重要課題について、日本の立場や取組について発信した。

特に食料安全保障について、岸田総理大臣から、G7広島サミットで招待国も交えて具体的な行動計画を取りまとめ、データの充実化に向けたG20の取組や、インドが主導する雑穀研究イニシアティブの重要性を確認したことを紹介しつつ、持続可能で強靱な農業・食料システムの構築に向けて取り組んでいく考えを表明した。また、保健について、岸田総理大臣から、全ての人が基礎的な保健サービスを必要なときに負担可能な費用で受けることができるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成、危機に際する迅速かつ効率的な資金供給などの次なる健康危機への予防・備え・対応(PPR)25の強化を重視していると述べた。特に、G7広島サミットで打ち出した感染症危機対応医薬品など(MCM)26のデリバリーの強化について、今般のG20でも重要性を確認できたことを強調した。

議論の総括として、ロシアを含む全メンバーで合意したG20ニューデリー首脳宣言が発出され、食料、気候変動・エネルギー、環境、保健といった分野でG7広島サミットの成果を踏まえたコミットメントが記載されたほか、ウクライナにおける包括的、公正かつ恒久的な平和への言及、領土一体性及び主権を含む国連憲章の原則の堅持などが明記された。

また、議長国インドの呼びかけにより11月22日にはG20首脳テレビ会議が行われ、岸田総理大臣が出席した。会議では、多国間システムの改革、気候変動、デジタル、女性主導の開発といった重要課題について議論が行われた。岸田総理大臣から、国際社会が直面する諸課題に対処するに当たり、「人間の尊厳」が守られる世界を目指すべきであると強調し、国連や国際開発金融機関といった多国間システムの改革、気候変動、AI、女性主導の開発などの課題について、日本の立場や取組について説明した。

3月2日にニューデリーで行われたG20外相会合には、山田外務副大臣が出席し、多国間主義の在り方、食料・エネルギー安全保障、開発協力などの重要課題について議論が行われた。山田外務副大臣から、日本はG7議長国として国際社会が直面する様々な課題の解決に向けてリーダーシップを発揮していく考えであり、G20とも連携していくことを強調した。

(3)アジア太平洋経済協力(APEC)

APECは、アジア太平洋地域の21の国・地域が参加する経済協力の枠組みである。アジア太平洋地域は、世界人口の約4割、貿易量の約5割、GDPの約6割を占める「世界の成長センター」であり、APECはこの地域の貿易・投資の自由化・円滑化に向け、地域経済統合の推進、経済・技術協力などの活動を行っている。国際的なルールに則(のっと)り、貿易・投資の自由化・円滑化と連結性の強化によって繁栄するアジア太平洋地域は、日本が志向する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の核である。日本がAPECに積極的に関与し、協力を推進することは、日本の経済成長や日本企業の海外展開を後押しする上で非常に大きな意義がある。

2023年は米国が議長を務め、「全ての人々にとって強靱で持続可能な未来を創造する」という全体テーマの下、優先課題として(ア)相互連結、(イ)革新性、(ウ)包摂性が掲げられ、年間を通じて様々な会合で議論が進められた。中でも、前年のAPEC首脳会議で採択されたAPEC地域の持続可能な成長に関する取組を記した文書「バイオ・循環型・グリーン経済に関するバンコク目標」を受けた協力や2020年首脳会議で採択された「APECプトラジャヤ・ビジョン2040」で示された「開かれた、ダイナミックで、強靱かつ平和なアジア太平洋共同体」の実現に向けた議論が進められた。

11月16日及び17日にサンフランシスコ(米国)で開催された首脳会議では、首脳宣言として「ゴールデンゲート宣言」が採択され、自由で公正なルールに基づく多角的貿易体制の重要性や、WTO改革へのコミット、そして、データ流通促進のための協力について明記された。また、首脳宣言とは別に、ウクライナ及び中東情勢に関する議長声明が米国から発出された。ロシアによるウクライナ侵略に関し、岸田総理大臣から核兵器の利用又はその威嚇は許されないことを改めて強調し、この点も議長声明に盛り込まれた。

岸田総理大臣は、首脳会議において、国際社会が複合的な課題に直面している現在、APECの協力の重要性が一層高まっていることを強調した上で、地域の包摂的で強靭な成長には、公正で透明性のある貿易・投資環境の確保が不可欠であると訴えたほか、デジタル経済の推進について、G7広島AIプロセスの取組をG7を超えて幅広く展開していくことや「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)27」の重要性について訴えた。また、岸田総理大臣は、脱炭素化実現に向けて、多様かつ現実的な道筋によるエネルギー移行が重要であると主張し、地域の持続可能な成長のため、日本として様々な形で貢献していく意志を表明した。2024年は、ペルーが議長を務めることとなっている。

23 成果文書を含むG7広島サミット詳細については外務省ホームページ参照:https://www.mofa.go.jp/mofaj/ms/g7hs_s/page1_001673.html

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24 成果文書を含むG7首脳テレビ会議の詳細については外務省ホームページ参照:https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/pageit_000001_00046.html

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25 PPR:Pandemic Prevention, Preparedness and Pesponse

26 MCM:Medical Counter Measures

27 DFFT:Data Free Flow with Trust

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