2023年G7広島サミット 広島から世界へ
─ 分断と対立ではなく協調と平和の世界へ ─

G7*1は、自由、民主主義、人権や法の支配といった基本的価値や原則を共有し、国際社会が直面する諸課題の解決に、連携して指導力を発揮してきています。2023年、日本はG7議長国を務め、5月19日から21日には広島県でG7広島サミット*2を開催しました。日本は議長国として、同サミットにおける首脳間の議論を牽(けん)引し、また、同サミットの成果を着実に実施し、更なる課題に対応するため、積極的にイニシアティブを発揮しました。


1 G7広島サミット(5月)
(1)総論
G7広島サミットでは、分断と対立ではなく協調の国際社会の実現という大きなテーマの下、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くこと、また、G7を超えた国際的なパートナーとの関与を強化することという二つの視点を柱とし、G7による積極的かつ具体的な貢献を打ち出すことができました。また、インド太平洋が様々な議題に通底する重要なテーマとなりました。
G7首脳は、招待国・機関を交え、食料、開発、保健、気候変動・エネルギー、環境といった国際社会が直面する諸課題について議論を行い、いわゆるグローバル・サウスと呼ばれる途上国・新興国とも協力してこれらの課題に取り組んでいくことの重要性を確認しました。また、G7、招待国及びウクライナの首脳間で、世界の平和と安定に関する議論を行い、法の支配や、主権、領土一体性の尊重といった国連憲章の諸原則の重要性につき認識を共有しました。
(2)主要分野の成果とフォローアップ状況
(ア)ウクライナ情勢
G7広島サミットでは、G7首脳は厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続していくことを確認し、「ウクライナに関するG7首脳声明」を発出しました。また、ウクライナのゼレンスキー大統領自身が関連するセッションに対面参加したほか、岸田総理大臣やその他の首脳と会談しました。


12月6日のG7首脳テレビ会議では、冒頭にゼレンスキー大統領の出席も得て、岸田総理大臣から、中東情勢が緊迫化する中でも、G7がロシアによるウクライナ侵略への国際社会の対応を主導する姿勢は不変であることを強調するとともに、公正かつ永続的な平和を実現するため、G7は引き続き結束して対ロシア制裁とウクライナ支援を強力に推進していくとの決意を示しました。

(イ)インド太平洋
G7広島サミットでは、岸田総理大臣から「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のための新たなプラン*3について説明し、G7として東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国や太平洋島嶼(しょ)国を含むインド太平洋地域との協力を強化していくと述べました。G7首脳は、中国をめぐる諸課題への対応や、核・ミサイル問題、拉致問題を含む北朝鮮への対応において、引き続き緊密に連携していくことを確認しました。
(ウ)軍縮・不拡散
被爆地であり平和の誓いを象徴する広島で開催された今回のサミットは、「核兵器のない世界」の実現に向けたG7首脳などのコミットメントを確認する上で歴史的意義を有するものとなりました。G7首脳は、被爆の実相に触れ、これを粛然と胸に刻む時を共有し、また、被爆樹木の植樹を通じ核兵器の惨禍を二度と起こさないとの未来に向けた力強い決意を世界に示しました。G7首脳のみならず、招待国の首脳や国際機関の長も、平和記念公園での献花、資料館訪問、被爆者の声を聞くことを通じ、被爆の実相や平和を願う人々の思いに直接触れ、粛然と胸に刻む時を共有しました。このことは、各々の首脳らが芳名録に記したメッセージにも表れています。
G7首脳は、「核兵器のない世界」へのコミットメントを再確認するとともに、核軍縮に関する初めてのG7首脳独立文書となる「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を発出し、「核兵器のない世界」に向けた国際社会の機運を今一度高めることができました。


「May the stories of this Museum remind us all of our obligations to build a future of peace. Together-let us continue to make progress toward the day when we can finally and forever rid the world of nuclear weapons. Keep the faith!」
仮訳:この資料館で語られる物語が、平和な未来を築くことへの私たち全員の義務を思い出させてくれますように。世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう。信念を貫きましょう!
※各首脳の記帳内容については外務省ホームページ参照:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ms/g7hs_s/page1_001692.html



(エ)食料安全保障
G7広島サミットでは、ロシアのウクライナ侵略が世界の食料安全保障に与えている悪影響も踏まえ、G7首脳は世界の食料安全保障を改善するための取組を継続することにコミットしました。また、G7と招待国の首脳は、共同で「強靱(じん)なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明」を発出し、同声明に示された食料安全保障の危機への喫緊の対応と、強靱で持続可能かつ包摂的な農業・食料システムの構築に向けた中長期の取組をパートナー国と共にとることを約束し、国際社会におけるより広範な協力を呼びかけました。
同声明に基づき、日本は6月に英国・ロンドンで「食料危機に関する輸入国及び輸出国間の対話」を国際穀物理事会と共催しました。その議論の成果文書を9月の国連ハイレベルウィークの機会に日本、イタリア、アラブ首長国連邦(UAE)及び国連食糧農業機関(FAO)が共催したハイレベルイベントで公表しました。
(オ)経済的強靱性・経済安全保障
G7広島サミットでは、経済安全保障に関して、G7サミットでは初めて独立したセッションを設け、G7首脳は、(1)サプライチェーンや基幹インフラの強靱化、(2)非市場的政策・慣行や経済的威圧への対応強化、(3)重要・新興技術の適切な管理を含め、結束して対応していくことを確認しました。また、経済安全保障はG7が緊密な連携の下で取り組んでいくべき戦略的な課題であるとの認識の下、経済安全保障に関する取組について、G7枠組みを通じて包括的な形で協働し、連携していく意思を確認しました。とりわけ、経済的威圧に関しては、「経済的威圧に対する調整プラットフォーム」の立上げを確認しました。G7首脳は、G7として初めて、経済的強靭性や経済安全保障に関する包括的かつ具体的なメッセージを「経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」として発出しました。さらに、クリーン・エネルギー移行のためのサプライチェーン強靱化に関する「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」も発出しました。
こうした成果を踏まえ、10月28日、29日のG7大阪・堺貿易大臣会合では、経済的威圧についてG7として更なる前進を図っていくことで一致したほか、サプライチェーン強靱化に向けて、より広い国際社会との連携や民間セクターへの関与強化の必要性について一致しました。
また、12月6日のG7首脳テレビ会議では、岸田総理大臣から、非市場的政策・慣行や経済的威圧への対応、サプライチェーンや基幹インフラの強靱化、機微技術の管理などにおける連携強化が必要であり、広島サミットでの議論と「経済的強靱性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」はその土台であるとして、この分野におけるG7としての今後の連携強化を呼びかけました。
(カ)気候・エネルギー
G7広島サミットでは、G7首脳は「気候危機」とも呼ぶべき人類共通の待ったなしの課題である気候変動について、G7も太平洋島嶼国もアフリカやその他の地域の国々も一緒に取り組む必要があることを確認し、1.5℃目標*4達成のため、全ての主要経済国が2025年までに世界全体の温室効果ガス(GHG)排出量をピークアウトすることを求めました。また、エネルギー安全保障、気候危機、地政学リスクを一体的に捉え、再生可能エネルギーや省エネの活用を最大限進めつつ、経済成長を阻害しないよう、各国の事情に応じ、あらゆる技術やエネルギー源を活用する多様な道筋の下で、ネット・ゼロという共通のゴールを目指すことの重要性について、共通の認識を確認しました。加えて、気候資金の動員の重要性及び気候変動に脆(ぜい)弱な国や人々への支援の必要性を確認しました。
さらに、G7首脳は、国際エネルギー機関(IEA)に対し、(1)エネルギー及び重要鉱物の供給やクリーン・エネルギー製造をいかに多様化するかの選択肢についての提言書の作成、(2)クリーン・エネルギー製造ロードマップの作成、(3)公的部門、金融、企業、研究及びスタートアップ企業の関係者を集めた国際的なフォーラムの開催を要請しました。この要請を受け、エネルギー及び重要鉱物の供給やクリーン・エネルギー製造をいかに多様化するかの提言書が12月にIEAから発表されました。

(キ)環境
G7広島サミットでは、G7首脳は生物多様性に関する新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」の採択を歓迎し、その迅速かつ完全な実施と各ゴール及びターゲットの達成へのコミットメントを確認しました。また、G7首脳は、2040年までに追加的なプラスチック汚染をゼロにする野心を持ってプラスチック汚染を終わらせることを確認しました。
(ク)国際保健
G7広島サミットでは、岸田総理大臣から、新型コロナウイルス感染症の次の危機に備えることを含め、国際保健の課題に取り組むことを訴えました。G7首脳は、公衆衛生危機対応に対する予防・備え・対応(PPR:Prevention, Preparedness and Response)強化のためのグローバルヘルス・アーキテクチャー(GHA:国際保健の体制)の発展・強化に向けて、国際保健のガバナンス向上、資金面の取組の一層の推進及び国際規範強化に取り組むことを確認しました。また、より強靱、より公平、かつより持続可能なユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)*5達成への貢献のため、G7は官民合わせて480億ドル以上の資金貢献を表明し、日本としても2022年から2025年までに75億ドル規模の貢献を行う考えを表明しました。さらに、GHA強化とUHC達成の鍵となるヘルス・イノベーションの促進に関しても、感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスの確保について基本的な考え方や原則を「MCMへの公平なアクセスのためのG7広島ビジョン」として発表し、「MCMに関するデリバリー・パートナーシップ(MCDP)」*6を立ち上げました。また、9月の国連総会の機会に際しては、UHCハイレベル会合に岸田総理大臣が、パンデミックPPRハイレベル会合に上川外務大臣が出席したほか、日本はG7保健フォローアップ・サイドイベントを主催し、G7、関係国や国際機関などと共にUHC達成とPPR強化のためのコミットメントを再確認しました。

(ケ)ジェンダー
日本は、G7日本議長年を通じて、ジェンダー主流化の推進に向けて各課題に対する政策を一体的に扱うことの重要性を訴え、G7の関係閣僚会合においてもジェンダー平等及びあらゆる多様性を持つ女性及び女児のエンパワーメントについて議論が行われました。このように様々な政策分野にジェンダーの視点を取り入れるジェンダー主流化を更に前進させるために提唱されたのが「ネクサス・アプローチ」であり、G7広島首脳コミュニケにも明記されました。「ネクサス・アプローチ」は、政策間の有機的なつながりを重視するものです。政策を互いに連携・調整し、一体的に取り組むことが重要であり、これにより相乗効果が発揮され、ジェンダー平等の達成に向けた進捗が期待できるという考え方です。
G7広島サミットでは、岸田総理大臣から、ジェンダー主流化の推進に向けて「ネクサス」を作り出すことが重要であることを強調し、防災への適用を含む女性・平和・安全保障(WPS)*7アジェンダの促進、女性の経済的自立などを例に、様々な取組を有機的に連携させていくと発言しました。参加国・機関からは、これに賛同する発言がありました。

ビディビディ難民居住区の女性のリーダーシップ、エンパワーメント、アクセス及び保護(Women LEAP)センター(2021年8月25日、ウガンダ)
(コ)開発
G7広島サミットでは、2023年が持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた中間年であることを踏まえ、G7首脳は開発協力の効果的活用や民間資金の動員に向けた取組を推進していくことを確認しました。
また、G7広島サミットの機会に日本はグローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII:Partnership for Global Infrastructure and Investment)に関するサイドイベントを開催し、初めて民間セクターを招待しました。同イベントでは、G7が多様な主体と連携しながらパートナー国のインフラへの投資において民間資金の動員に取り組むことが表明されました。岸田総理大臣からは、PGIIの取組や同パートナーシップの下での日本の取組を紹介しつつ、日本が5年間で650億ドル以上のインフラ支援と民間資金の動員に向けてアジア、アフリカ、大洋州を含め世界各地でインフラ投資を進めてきていること、質の高いインフラ投資が更に促進されるよう取り組んでいくことを表明しました。



(サ)デジタル、人工知能(AI)
G7広島サミットでは、G7首脳は、生成AIや没入型技術(メタバースなど)に関する、G7の価値に沿ったガバナンスの必要性について確認したほか、生成AIに関する議論を行うための「広島AIプロセス」を立ち上げました。また、G7首脳は、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)*8具体化のための国際的枠組み(IAP)*9の設立を承認しました。
12月1日のG7デジタル・技術大臣会合では、広島AIプロセスを通じて、「全てのAI関係者向けの広島プロセス国際指針」及び「高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際行動規範」を含む、「広島AIプロセス包括的政策枠組」が合意され、12月6日のG7首脳テレビ会議で承認されました。これは、AIについて世界で初めて関係者が遵守すべきルールを包括的に定めた画期的なものであり、急速に進展する生成AIのガバナンスについて、G7が効果的かつ迅速に対応できていることを世界に力強く示しました。
同じくG7デジタル・技術大臣会合では、「DFFTの具体化に関するG7デジタル・技術閣僚声明」及びIAPの組織詳細についてまとめた附属書を採択し、IAPに関する取組の進捗を確認しました。
(シ)貿易
G7広島サミットでは、自由で公正な貿易体制の維持・強化に取り組んでいく必要性についてG7で一致しました。

10月28日、29日のG7貿易大臣会合では、貿易を取り巻く環境が大きく変化する中で、世界経済の持続的な成長、自由で公正な多角的貿易体制の維持・強化や経済安全保障の強化に向けて緊密に議論を行いました。国際社会が直面する新たな課題についてG7としての対応を議論して政策調整が行われただけでなく、G7以外の招待国や国際機関なども交えた議論が行われ、G7を超えた国際的なパートナーとの連携についても改めて確認しました。

*1 G7とは、フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ(議長国順)の7か国及び欧州連合(EU)が参加する枠組み。G7の会議には、G7メンバー以外の招待国や国際機関などが参加することもあり、G7広島サミットでは、オーストラリア、ブラジル、コモロ(アフリカ連合(AU)議長国)、クック諸島(太平洋諸島フォーラム(PIF)議長国)、インド(G20議長国)、インドネシア(ASEAN議長国)、韓国、ベトナム、国際連合(国連)、国際エネルギー機関(IEA)、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行、世界保健機関(WHO)(オンライン参加)、世界貿易機関(WTO)が参加した(※これに加え、一部のセッションにウクライナも参加)。
*2 G7広島サミット概要:https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_005920.html(二次元コード1)

G7広島サミット・ホームページ:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/hiroshima23/(二次元コード2)

*3 3月20日、岸田総理大臣は「インド太平洋の未来─『自由で開かれたインド太平洋』のための日本の新たなプラン─“必要不可欠なパートナーであるインドと共に”」と題する政策スピーチを行い、「平和の原則と繁栄のルール」、「インド太平洋流の課題対処」、「多層的な連結性」、「「海」から「空」へ拡がる安全保障・安全利用の取組」をFOIP協力の四つの柱とする、FOIPのための新たなプランを発表した。
*4 パリ協定で示された、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃高い水準を十分下回るものに抑え、また、1.5℃高い水準までのものに制限するための努力を継続するという目標
*5 UHC(Universal Health Coverage):全ての人々が基本的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる状態
*6 MCMに関するデリバリー・パートナーシップ(MCDP):感染症危機発生時にその対抗手段となるMCMへの公平なアクセス確保のためにMCMのデリバリーに焦点を当てた国際協力の枠組み
*7 女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security:WPS):女性の保護に取り組みつつ、女性自身が指導的な立場に立って紛争の予防や復興・平和構築に参画することで、より持続可能な平和に近づくことができるという考え方。2000年、国連安全保障理事会(国連安保理)において、同理事会史上初めて、国際的な平和と紛争予防、紛争解決には女性の平等な参画や紛争下の性暴力からの保護、ジェンダー平等が必要であると明記した「女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security:WPS)に関する安保理決議第1325号」が全会一致で採択された。
*8 DFFT:Data Free Flow with Trust
*9 IAP:Institutional Arrangement for Partnership