第3節 経済外交
1 経済外交の概観
国際社会においては、政治・経済・軍事の各分野における国家間の競争が顕在化する中、パワーバランスの変化がより加速化・複雑化し、既存の国際秩序をめぐる不確実性が高まっている。新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)は、経済活動の抑制を通じて世界的に急速な景気の悪化をもたらした。その後、新型コロナの影響の緩和に伴い、世界経済全体としては緩やかな持ち直しの動きがみられるものの、足元では需要回復やウクライナ情勢の影響なども相まって、物価の高騰が進行している。先行きについても、金融資本市場の変動を始め、新型コロナ対策で膨らんだ政府債務、海運を始めとする物流コスト増、エネルギーやコモディティ価格の上昇などにより、依然として不透明感が漂っている。
こうした中、日本は、自由で公正な経済秩序を拡大・発展させる試みを継続した。インド太平洋経済枠組み(IPEF)1は、交渉立上げから1年半を経て、IPEFサプライチェーン協定の署名並びにIPEFクリーン経済協定及びIPEF公正な経済協定の実質妥結など、大きな進展を見た。環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)2については、同協定が発効してから初めてとなる加入交渉が英国との間で妥結し、7月に加入議定書の署名が行われた。
多角的貿易体制の礎である世界貿易機関(WTO)3においては、漁業補助金協定の受諾、日本を含む有志国で進める投資円滑化協定のテキスト交渉の妥結、電子商取引やサービス国内規制の各分野での新たなルール作りに向けた進展、多数国間暫定上訴仲裁アレンジメント(MPIA)4への参加など、WTO体制の機能強化に向けた取組が進んだ。
以上の認識も踏まえ、日本は、(1)経済連携協定の推進や多角的貿易体制の維持・強化といった、自由で公正な経済秩序を広げるためのルール作りや国際機関における取組、(2)官民連携の推進による日本企業の海外展開支援及び(3)資源外交とインバウンドの促進の三つの側面を軸に、外交の重点分野の一つである経済外交の推進を加速するため取組を引き続き進めていく。
1 IPEF:Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity
2 CPTPP:Comprehensive and Progressiove Agreement for Trans-Pacific Partnership
3 WTO:World Trade Organization
4 MPIA:Multi-party Interim Appeal Arbitration ArrangementWTOの上級委員会が20019年から機能を停止していることに伴い、WTO協定が定める仲裁制度をもってその機能を代替させるため、有志国が立ち上げた暫定的な枠組み