外交青書・白書
第3章 世界と共創し、国益を守る外交

4 日本企業の海外展開支援(日本の農林水産物・日本産食品の輸出促進を含む。)

(1)外務本省・在外公館が一体となった日本企業の海外展開の推進

外国に進出している日系企業は、国内外の経済情勢やそのほかの事情の影響を受けつつも中長期的には増加傾向にある。これは、日本経済の発展を支える日本企業の多くが、海外市場の開拓を目指し、海外展開に積極的に取り組んできたことの現れである。アジアを中心とする海外の経済成長の勢いを日本経済に取り込む観点からも、政府による日本企業支援の重要性は高まっている。

このような状況を踏まえ、外務省では、本省・在外公館が連携して、日本企業の海外展開推進に取り組んでいる。在外公館では、大使や総領事が率先し、日本企業支援担当官を始めとする館員が「開かれた、相談しやすい公館」をモットーに、各地の事情に応じた具体的支援を行うために、日本企業への各種情報提供や外国政府への働きかけを行っている。また、現地の法制度に関するセミナーや法律相談を、2023年度にはアジア・アフリカ地域を中心に、16か国23公館で実施した。また、2022年8月、「技術と意欲のある」日本企業の海外ビジネス投資をサポートするための施策の企画立案や関係省庁との調整を進めることを目的として、海外ビジネス投資支援室が内閣官房に設置され、外務省もその活動に積極的に貢献している。

ビジネスに関する問題の相談だけではなく、天皇誕生日祝賀レセプション、各種イベント・展示会などで、日本企業の製品・技術・サービスや農林水産物などの「ジャパンブランド」を広報することも、在外公館における日本企業支援の重要な取組の一つである。日本企業の商品展示会や地方自治体の物産展、試食会など、日本製品、日本産品を広報・宣伝する場として、また、ビジネス展開のためのセミナーや現地企業・関係機関との交流会の会場として、大使館や大使公邸などを積極的に提供することにより、幅広く広報活動を行ってきている。

(2)インフラシステムの海外展開の推進

新興国を中心としたインフラ需要を取り込み、日本企業のインフラシステムの海外展開を促進するため、2013年に内閣官房長官を議長とし、関係閣僚を構成員とする「経協インフラ戦略会議」が設置され、2023年12月までに56回の会合が実施された。同会議では2013年に作成された「インフラシステム輸出戦略」を毎年改定し、そのフォローアップを行ってきたが、2020年12月に近年の情勢変化を踏まえ、「インフラシステム海外展開戦略2025」(以下「新戦略」という。)を策定し、(1)経済成長の実現、(2)持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献、(3)「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現を3本の柱とし、2025年のインフラシステムの受注額を34兆円とすることが目標として掲げられた。2023年6月には新戦略の追補版を策定し、インフラ海外展開を取り巻く環境の変化を踏まえ、DX(デジタルトランスフォーメーション)など新たな時代の変革への対応の強化、脱炭素社会に向けたトランジション(移行)の加速、FOIPを踏まえたパートナーシップの促進の三つの重点戦略につき具体的取組と共に明示され、外務省も関係省庁と共にこれらの取組を推進している。

また、在外公館においては、インフラプロジェクトに関する情報の収集・集約などを行う「インフラプロジェクト専門官」を指名し(2023年12月末時点で79か国101公館、約200人)、成果を上げてきている。

(3)日本の農林水産物・食品の輸出促進(東日本大震災後の日本産食品に対する輸入規制撤廃)

日本産農林水産物・食品の輸出拡大は政府の重要課題の一つであり、政府一体となった取組を一層促進するため、2020年12月に「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」が策定され、農林水産物・食品の輸出額を2025年に2兆円、2030年に5兆円にするという目標の達成に向け、輸出産地・事業者の育成などを行っていくこととなった。また、輸出額1兆円を突破した2021年末、2022年6月及び12月には本戦略を改訂し、更なる輸出拡大に向けて取組を加速化させている。外務省としても、関係省庁・機関、日本企業、地方自治体などと連携しつつ、輸出拡大に向けた取組を実施しており、特に56か国・地域の計61の在外公館などでは、日本企業支援担当官(食産業担当)を指名し、農林水産物・食品の輸出促進などに向けた取組を重点的に強化している。また、在外公館などのネットワークを利用し、SNSなども活用しながら、日本産農林水産物・食品の魅力を積極的に発信しているほか、各国・地域の要人を招待するレセプションや文化行事などの様々な機会を捉え、精力的なPR活動を行っている。2022年より輸出額の大きい国・地域の4公館に現地事情に精通する農林水産物・食品輸出促進アドバイザーを設置するなど、在外公館の体制強化を図っている。また、在外公館・独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)海外事務所などで構成する輸出支援プラットフォームでは、現地を拠点とする強みをいかし、国内事業者、品目団体、都道府県などに対し、現地発の有益な情報を提供するほか、これらの関係者と海外の事業者とをつなぐ結節点として、また、様々なプロモーション活動をオールジャパンで行うための企画立案を行う主体としての役割を果たしている。

輸出拡大の大きな障壁の一つとして、東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故後に諸外国・地域が導入した、日本産農林水産物・食品に対する輸入規制措置がある。この規制の撤廃及び風評被害対策は政府の最重要課題の一つである。外務省も、関係省庁と連携しながら、一日も早くこうした規制が完全に撤廃されるように取り組んでいる。こうした取組の結果、8月、EU、ノルウェー、アイスランド、スイス、リヒテンシュタインが輸入規制を撤廃し、累計で48か国・地域が規制を撤廃した。

一方、2023年末現在も7の国・地域が規制を維持しており、特に中国、香港、マカオ及びロシアは、8月のALPS処理水の放出(226ページ 第3章第1節4(3)ウ参照)を受けて規制を強化した(輸入停止を含む規制:韓国、中国、台湾、香港、マカオ、ロシア、限定規制:仏領ポリネシア)。日本はWTOにおいて、中国を含む各国の規制につき早期の規制撤廃を一貫して強く働きかけ、SPS28協定に基づき中国などに討議要請を行ったほか、WTOの関連委員会においても日本の立場を説明している。さらに、日中両国が締約国となっているRCEP協定の規定に基づき、中国政府に対して討議の要請を行い、中国が協定の義務に従って討議に応じるよう求めている。このように、引き続き、関係省庁、地方自治体、関係する国際機関などと緊密に連携しながら、科学的根拠に基づく早期撤廃及び風評被害の払拭に向け、あらゆる機会を捉え、粘り強く説明及び働きかけを行っていく。

28 SPS協定(Agreement on the Application of Sanitary and Phytosanitary Measures):衛生植物検疫措置の適用に関する協定

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