5 南アジア
(1)インド
インドは、アジアとアフリカをつなぐインド洋に面し、シーレーン上の中央に位置するなど、地政学的に極めて重要な国である。さらに、世界第2位の人口、巨大な中間所得層を抱え、アジア第3位の経済規模を有している。日本とインドは、民主主義や法の支配等の基本的価値や戦略的利益を共有するアジアの二大民主主義国である。
昨今インドは「メイク・イン・インディア」等の様々な経済イニシアティブを進めており、7%前後の高い経済成長率を維持している。消費や生産も改善し、規制緩和を背景に海外直接投融資も着実に増加している。
外交面では「アクト・イースト」政策を掲げ、アジア太平洋地域における具体的協力を推進する積極的外交を展開し、グローバルパワーとしてますます国際場裏での影響力を増している。
日本との関係では、2005年から行われている年次首脳相互訪問の一環として、2018年10月、モディ首相が首相就任後3回目となる訪日を行い、安倍総理大臣との間で通算12回目となる首脳会談を行った。首脳会談では、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、閣僚級の外務・防衛協議(「2+2」)の新規立ち上げ、連結性向上に係る具体的協力案件特定、日印物品役務相互提供協定(ACSA)の交渉開始、高速鉄道事業の進展、7件の円借款供与の決定、日印通貨スワップ取極締結の基本合意、地球規模課題や地域情勢における更なる連携等、幅広い分野における協力を表明した。また、外国要人としては初めてモディ首相を山梨県の安倍総理大臣の別荘に招く等、特別かつ重層的な日印関係を象徴する訪日となった。
(2)パキスタン
パキスタンは、アジアと中東を結ぶ要衝にあり、その政治的安定と経済発展は地域の安定と成長に不可欠であるとともに、国際テロ対策の最重要国の一つである。また、約2億人の人口を抱え、そのうち25歳以下の若年人口が全人口の約6割を占めており、経済的な潜在性は高い。
内政面では、2018年5月に下院の任期が満了し、7月25日に下院及び州議会選挙が実施された。野党第二党パキスタン正義党(PTI)が与党ムスリム連盟ナワズ派(PML-N)に約50議席の差をつけて勝利し、8月にカーンPTI党首が首相に就任し、カーン新政権が発足した。
外交面では、インドとの関係は、新政権発足後も引き続き緊張状態にある。また、中国との間では「全天候型戦略的協力パートナーシップ」の下、中国の進める「一帯一路」の重要な構成要素である中国・パキスタン経済回廊(CPEC)建設に向けて幅広い分野で関係が強化されている。アフガニスタンとの関係では、両国間には国境管理や難民問題など引き続き多くの課題がある。さらに、米国との関係については、トランプ政権の新南アジア戦略において名指しで批判されるなど停滞している。
経済面では、2017/2018年度の成長率は5.79%で、過去13年間で最高値を記録した。しかしながら、カーン新政権は発足直後から深刻な外貨準備高不足の問題を抱えており、友好国からの支援やIMFプログラムに向けた協議を行うなど、改善に向けた取組を実施している。
日本との関係については、2018年1月に河野外務大臣が日本の外務大臣として9年ぶりにパキスタンを訪問したほか、カーン新政権発足直後の8月には、中根外務副大臣が訪問し、パキスタン政府要人と二国間関係の更なる発展に向けた取組や地域情勢について意見交換を行った。パキスタンからは、12月にダウード商務・繊維・産業・生産・投資担当首相顧問が訪日し、官民合同経済対話に出席するとともに、政府関係者と日・パキスタン経済関係強化に向けた方策についての意見交換を行った。
(3)バングラデシュ
イスラム教徒が国民の約9割を占めるバングラデシュは、ベンガル湾に位置する民主主義国家であり、インドとASEANの交差点としてその地政学的重要性は高い。
2018年12月末に第11次総選挙が実施され、ハシナ首相率いるアワミ連盟が引き続き政権を担うことになった。また、2017年8月以降、ミャンマー・ラカイン州の治安悪化を受けて、同州から新たに70万人以上の避難民が流入し、人道状況が悪化している。ミャンマー政府との間で避難民帰還に向けた協議が行われているが、帰還はいまだ実現していない。
経済面では、繊維品を中心とした輸出が好調で、2017年は約7.24%の経済成長率を維持し、堅調に成長している。人口は約1億6,000万人に上り、安価で質の高い労働力が豊富な生産拠点であるとともに、高いインフラ整備需要など潜在的な市場として注目を集め、進出している日系企業数は2005年の61社から2018年には269社増加している。しかし、外国企業の投資にとって電力・天然ガスの安定した確保やインフラ整備が課題となっている。
日本との関係については、3月の堀井巌外務大臣政務官に続き、8月には河野外務大臣が訪問した。両外相間で「包括的パートナーシップ」の下での日・バングラデシュ関係強化、地域情勢・国際場裏での関係強化を確認したほか、ミャンマー・ラカイン州北部の情勢を受けてバングラデシュに流入してきた避難民の問題への対応について緊密な議論を行った。また、河野外務大臣はコックス・バザールの避難民キャンプも訪問した。
(4)スリランカ
スリランカは、インド洋のシーレーン上の要衝に位置し、その地政学的及び経済的重要性が注目されている伝統的な親日国である。2009年の国内における紛争終結後、治安状況は大幅に改善され、2016年以降日本人観光客は4万人を超え、2008年比で約4倍となった。
内政面では、2015年1月の大統領選挙の結果、就任したシリセーナ大統領が、同年8月の総選挙後に形成した統一国民党(UNP)及びスリランカ自由党(SLFP)による大連立を維持し、ウィクラマシンハ首相(UNP)と共に政権運営を行ってきたが、2018年10月にシリセーナ大統領はUNPとSLFPの連立を解消し、ウィクラマシンハ首相を罷免すると同時に、ラージャパクサ前大統領を首相に任命した後、議会を解散する布告を発した。その後、12月、裁判所がシリセーナ大統領による議会解散は違憲であると判断したことを受け、ラージャパクサ氏は首相職を辞し、ウィクラマシンハ氏が首相に復帰した。
シリセーナ政権は、国内における紛争終結後の重要課題である国民和解に向け、国民和解局を設置したほか、人権侵害疑惑に関する真相追究、正義への権利、補償への権利及び紛争の再発防止に対応する4層体制メカニズムを設置する意向を示すなど、多様な方法で国民和解の促進に取り組んできた。
経済面では、スリランカは国内における紛争終結後、年率7%の経済成長を遂げ、近年も年率3%以上と堅実な経済成長を維持している。一人当たりのGDPは2017年に4,065米ドルを記録し、同国の地政学的重要性やインド市場へのアクセスを踏まえ更なる高成長が期待されている。
日本との関係については、2016年5月に続き、2018年3月にシリセーナ大統領が、大統領就任後、2度目の訪日をし、安倍総理大臣との間で首脳会談が行われ、港湾、運輸及びエネルギー等の分野での「質の高いインフラ」整備に係る協力や能力構築支援、海上自衛隊艦船の寄港への協力や人的交流を通じた防衛・安全保障分野における協力の推進で一致した。
また、2018年1月には河野外務大臣が日本の外務大臣として15年ぶりにスリランカを訪問した。
(5)ネパール
ネパールは、中国・インド両大国に挟まれた内陸国として地政学的な重要性を有している。また、日本はネパールにとって長年の主要援助国であり、皇室・旧王室関係や登山などの各種交流を通じた伝統的な友好関係を有している。
内政面では、2017年に連邦下院・州議会・地方選挙が実施され、2018年2月にオリ新首相が就任し、ネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派(UML)とネパール共産党マオイスト・センター(MC)による連立政権が発足した。5月には、UMLとMCが統合し、ネパール共産党が誕生した。
日本は、長年ネパールにおける民主主義の定着を支援してきており、ネパール政府が掲げる「繁栄したネパール、幸せなネパール人」の実現に向けて後押ししている。
2018年11月、ギャワリ外相が訪日し、日本政府要人との意見交換や農業施設等の視察を行うとともに、投資セミナーを開催し、経済関係の更なる強化に取り組んだ。
(6)ブータン
ブータンでは、2018年10月に民主化移行以来3回目となる下院選挙が行われブータン協同党(DNT)が勝利し、ツェリンDNT党首を首相とする新政権が発足した。ブータンは国民総幸福量(GNH)を国家運営の指針とし、現在、第12次5か年計画(2018年7月から2023年6月まで)の優先課題である貧困削減、医療・教育の質向上、男女平等、環境や文化・伝統の保護、マクロ経済安定、経済多様性、地方分権強化等に取り組んでいる。
日本との関係では、2018年4月にトブゲー首相が首相就任後2度目の訪日をし、安倍総理大臣との間で首脳会談が行われ、経済協力や人的交流の促進を通じて二国間関係を一層強化していくことで一致した。また、同首相は日本滞在中、福島県相馬市等を訪問した。同年6月には河野外務大臣が日本の閣僚として初めてブータンを訪問し、ワンチュク・ブータン国王陛下に拝謁したほか、ドルジ外相を始めとするブータン政府要人との会談を行った。
(7)モルディブ
インド洋の島嶼(とうしょ)国であるモルディブは、GDPの約3割を占める漁業と観光業を中心に経済成長を実現している。2011年には後発開発途上国を卒業し、一人当たりのGDPは南アジア地域で最も高い9,792米ドルに達している。
内政面では、2018年9月の大統領選挙において再選を狙うヤーミン大統領(当時)と野党統一候補であるソーリフ候補の間で争われた結果、ソーリフ候補が勝利し、11月に大統領に就任した。ソーリフ大統領は、インドを始めとする地域の国々との連携を強化し、相互利益を望む全ての国との関係を強化する方針の下で対外政策を進めている。
日本との関係では、2017年に外交関係樹立50周年を迎え、2018年1月には河野外務大臣が日本の外務大臣として初めてモルディブを訪問した。11月に行われたソーリフ大統領の就任式の際には竹下総理特使(日・モルディブ友好議員連盟会長)がモルディブを訪問し、ソーリフ大統領への表敬を行った。12月には、シャーヒド外相がアミール蔵相及びイスマイル経済開発相と共に訪日し、河野外務大臣ほかと会談を行った。一連の会談では、二国間関係の強化や「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて協力していくことを確認した。