日本とモルディブは,2017年に,外交関係樹立50周年を迎えます。青い海と白い砂浜,美しい珊瑚礁…。世界屈指のビーチリゾートとして知られるモルディブとは,いったいどのような国なのでしょうか。今回は,モルディブという国と,日本とモルディブがこれまでに築いてきた友好関係について紹介します。
■モルディブとは - 約1200の島々からなる島国
モルディブは,インドとスリランカの南西に位置する,約1200の島々からなる島国です。面積は全ての島を合わせて約298平方キロメートル,ちょうど東京23区の約半分くらいの大きさに当たる,アジアで最も小さな国です。人口は約40.7万人(2014年国勢調査,モルディブ人約34万人,外国人6万人),言語は「ディベヒ語」が使われており,国教はイスラム教です。国内最大の都市であるマレ(マレ島)は,島全体が首都となっており,総人口の1/3にあたる約10万人が居住する,世界有数の超過密都市となっています。「モルディブ」という名は,サンスクリット語で「島々の花輪」を意味する“Malodheep”に由来するとも言われています。これは島々が26の環礁(アトール)のグループを形成し,輪を描くように連なっている様子を例えたものであり,その昔インド洋を行き来していたアラブや中国,ヨーロッパの人々は,この島々を「真珠の首飾り」と呼んだとされています。
■世界屈指のビーチリゾート
モルディブの最大の魅力は,白い砂浜や抜群の透明度を誇る海など,珊瑚礁を中心とする自然の美しさにあります。世界屈指のビーチリゾートとして有名で,モルディブの推進する「1島1リゾート計画(1つの島にホテルは1つのみ)」に基づき,約200の有人島のうち116島がプライベート感あふれるリゾート島になっています。世界中から毎年多くの人々が訪れており,ダイビングやハネムーンのメッカとして人気を集めています。2015年にモルディブを訪れた観光客は約123万人に上りますが,日本からの観光客はそのうち約4万人と,中国,欧州諸国やインドに次いで第8位となっています。

■私たちの身近にあるモルディブ - “鰹節”と女子サッカー
水産業は,観光業に次ぐモルディブの主要産業であり,輸出産品の98%を魚介類が占めています。水産業が盛んという点では日本との共通点も多く,水揚げされる魚の約5割はカツオ,約4割はマグロであり,さらにはモルディブでは,カツオを燻製にした「鰹節」も生産されています。この「鰹節」は近隣国では「モルディブ・フィッシュ」として知られており,スライスしたり細かく砕いたりしてカレー,スープなどに混ぜたりと,モルディブ国民の毎日の食卓に欠かせない食材となっています。また近年モルディブ政府はスポーツ振興に取り組んでおり,特に女子サッカーは日本人監督として河本菜穂子氏が代表監督就任中に,国際大会で初勝利を挙げるなど目覚ましい躍進を遂げ,今では南アジアの強豪チームのひとつとして名を連ねています。

■モルディブの略史(1)- スルタンによる王政から欧州の間接統治下,そして独立へ
モルディブはインド,アフリカ,アジア,中東を結ぶ洋上通商路の交差点に位置し,古来より海のシルクロードの重要な中継地でした。かつてはインド,スリランカから伝わった仏教が栄える王国でしたが,12世紀に入るとアラブ人がイスラム教を伝来。1153年にモルディブはイスラム教国に改宗し,スルタンによる王制が始まりました。その後16世紀にはポルトガルの支配下に,17世紀にはスリランカを領有していたオランダ東インド会社の間接統治下に,19世紀末にはイギリスの保護領へと,目まぐるしく宗主国が入れ替わりますが,1965年には主権国家として独立,68年にスルタン制から共和制に移行し,現在に至っています。1985年にはイギリス連邦に加盟しました。
■モルディブ略史(2)- モルディブの“今”
1978年に就任したガユーム大統領は,その後6期30年にわたり長期政権を築きました。任期中には,日本をはじめとする国際的な開発援助の受け入れや,観光産業を中心とする外資導入を積極的に推進。住宅や食,水,電力,教育など各分野での国民の生活基盤の整備に努めた結果,かつて最貧国であったモルディブは,2011年には後発開発途上国(LDC)を卒業するまでに発展し,現在の一人当たりの名目GDPは,南アジア最大の8,396ドルに上っています(2015年)。政治的な動きとしては,2004年に民主化改革が始まり,08年8月に民主的な新憲法が制定。2013年11月に行われた大統領選挙でヤーミン政権が誕生し,2016年にはイギリス連邦離脱を宣言しています。
■国際社会における重要性と脆弱性
モルディブは伝統的に非同盟中立外交を貫いており,冷戦時代においても東西両陣営に属さず,独自の経済発展を進めてきました。日本にとってもモルディブは大変重要であり,例えばマレ国際空港は,過去20年以上,日本のPKO関連活動や海賊対処派遣部隊への物資輸送の中継地として利用。また,海上自衛隊によるモルディブ国防軍との親善訓練や寄港が実施されるなど,今では日本が国際平和協力活動を行っていく上で重要な拠点となっています。一方でモルディブは,島国ゆえの脆弱性も抱えており,海抜平均が1.5メートル,最高でも2.4メートルという平坦な地形であるため,地球温暖化を原因とする海面上昇や,津波等の自然災害,また珊瑚礁の死滅等により,国土が水没・消滅する危険にさらされています。
■飛躍的に深化する両国関係
モルディブは日本と,1967年に外交関係を樹立し,以降伝統的な親日国として友好関係を築いてきました。そして1985年以来,日本はモルディブにとって最大の二国間援助供与国のひとつです。小学校の改築支援や青年海外協力隊員の活動など,日本の支援は高い評価を受けていますが,中でも現地で有名なのが,1987年から15年にわたって日本が行ってきた首都マレ島の護岸工事支援 です。2004年のインド洋大津波が発生した際,モルディブ国内は大きな被害を受けましたが,マレ島は日本支援の防波堤のおかげで津波の直撃を避けることができました。こうした護岸工事を含むこれまでの日本の貢献に対する感謝の意味を込めて,2006年にモルディブ政府は日本国民に「グリーン・リーフ賞(環境賞)」を授与。他国の国民全体に対して同賞が授与されるのは,初めてのこととなりました。2011年の東日本大震災に際しては,モルディブの国営テレビにて寄付を募る24時間テレビが放送され,集まった義援金を元にして,ツナ缶(約70万缶)が物資として提供されるなど,心温まる支援をいただきました。

■日・モルディブ外交関係樹立50周年を迎えて
2007年の「日・モルディブ外交関係樹立40周年」に際し,モルディブの在外公館としては東アジア初となる駐日モルディブ大使館が開設されましたが,それからおよそ10年後の2016年,モルディブ現地に念願の日本国大使館が開設され,両国の距離はさらに縮まっています。要人往来も近年活発化しており,2014年4月にはモルディブ大統領としては初めてヤーミン大統領が訪日。安倍総理との間で首脳会談が行われ,「40年以上にわたる友情と信頼に基づく協力の新たな段階に向けて」と題する共同声明を発出しました。2017年の本年,日本とモルディブは「外交関係樹立50周年」を迎えます。両国の国旗と50という数字を組み合わせた「公式ロゴマーク」も決定。文化事業や経済協力事業をはじめ,各種記念事業が両国で行われます。日本とモルディブは,同じ海に囲まれた島国として,これまで行ってきた様々な経済協力や相互の支援を通じ,温かな友情と信頼関係を築いてきました。この50周年の機会に,両国の友好関係が一層強固なものになるよう,さらなる交流を深めていく予定です。
