世界貿易機関(WTO)
経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)におけるサービス貿易
EPA/FTAにおけるサービス貿易
WTOの場におけるGATSを基本とする多数国間でのサービス貿易の推進に対して、EPAやFTAでは二国間や複数国間でのサービス貿易のさらなる自由化に対する取り組みが行われています。
日本が締結するEPAでは、一般的に、サービス貿易を規律する章においてサービス貿易に関する市場アクセス、内国民待遇や最恵国待遇の義務を定めます。加えて、日豪EPAやTPP等においては、他の締約国のサービス提供者に対して自国の領域に企業を設立・維持したり居住したりすることを要求することを禁止する規定も設けられています。ただし、第三モードのサービスについては、サービス章と投資章の規定を重複して適用したり、サービス章ではなく投資章において規定したりします。
また、金融サービスや電気通信サービスについては、サービス章とは独立した一つの章の中での規定することもあります。さらに、GATSの「この協定に基づきサービスを提供する自然人の移動に関する附属書」はサービスを提供する自然人を対象とする規定でしたが、EPAの自然人の移動に関する章はサービス提供者に限らない商用目的の人々の移動を促進するものとなっています。
ポジティブリスト方式(GATS型)とネガティブリスト方式(NAFTA型)
サービスの自由化の約束の方法には、GATSにおける約束方法と同様のポジティブリスト方式とNAFTA(北米自由貿易協定)を踏襲した約束方式であるネガティブリスト方式と呼ばれるものがあります。
GATS型のポジティブリスト方式とは、自由化するサービスの分野を書き出す方法であり、対してNAFTA型のネガティブリスト方式とは、原則全ての分野を自由化するという前提の下、自由化を行わない分野をリストアップした上で、それらの分野における市場アクセス、内国民待遇、最恵国待遇等に対する国内法令等の規制を書き出して、これらの義務を留保するものです。例えば、ポジティブリストにおいて、病院サービスの市場アクセスにかかる規制の欄に3) Noneと記載されている場合、その国に所在する拠点を通じた病院サービスの提供への市場アクセスは自由化されており、政府は外国のサービス提供者の参入を禁じるなどの数量制限を課すことができません。一方、3) unbound except that there is no limitation on the participation on the foreign capitalと記載されている場合、外国資本の比率に対する制限はありませんが、それを除けば自由化はされておらず、政府は例えば自国の医師や看護師を雇うことを義務づけるなどの措置をとることができます。内国民待遇にかかる制限の欄に3) Noneと記載されている場合には、外国のサービス提供者が自国のサービス提供者と同等に扱われること(差別的に取り扱われないこと)が約束されています。
ネガティブリストにおいて、現在存在する規制を留保する表に運送に付随するサービスに関する留保があり、当該留保の措置の欄に水先法が引用されている場合、水先法によって外国人による運送に付随するサービスの提供に規制がかけられていることがわかります。一方、将来とり得る措置を留保する表に運送に付随するサービスに関する留保がある場合、現行の規制が存在するかどうかにかかわらず、政府は外国のサービス提供者による運送に付随するサービスの提供に新たに規制をかけることができます。留保の種類には政府がとり得る規制の種類が記載されています。市場アクセスと内国民待遇が記載されている場合には数量制限や外国人のサービス提供者に対する差別的な待遇を課す規制をかけることができるということになります。(ポジティブリスト・ネガティブリストの例とその読み方はこちらから(PDF)。)
これまで日本が署名・締結した18のEPAのうち日・シンガポールEPA、日・マレーシアEPA、日・タイEPA、日・インドネシアEPA、日・ブルネイEPA、日・フィリピンEPA、日・ベトナムEPA、日・インドEPA、日・モンゴルEPA及び日ASEAN・EPAの10個はポジティブリスト方式、日・メキシコEPA、日・チリEPA、日・スイスEPA、日・ペルーEPA、日豪EPA、TPP12(環太平洋パートナーシップ協定)、TPP11(包括的・先進的TPP協定)及び日EU・EPAの8つがネガティブリスト方式(ただし、日・メキシコEPA及び日・チリEPAについて金融サービス分野はポジティブリスト方式)となっています。
スタンドスティルとラチェット
法的安定性を高めるため、いわゆるスタンドスティルやラチェットと呼ばれる規律を含むEPAもあります。
スタンドスティルの義務がかかっている措置を改正・更新する際には、協定発効時の当該措置の自由化レベルを下回らない範囲で行わなければなりません。これに対して、ラチェット義務がかかる措置を改正・更新する際には、より制限的でない方向への改正・更新しかできません。たとえば、スタンドスティルの義務がかかる場合、協定発効時に外資率上限を49%とする規制措置を、一度外資率70%まで自由化し、再び49%に戻しても義務違反とはなりません。しかしながら、ラチェット義務がかかる場合、一度70%まで自由化したものを70%を下回る方向に改正することはできません(図解 スタンドスティルとラチェット(PDF))。
発効済み・署名済みのEPAにおけるサービス貿易の規律
日・シンガポールEPA(2002年11月発効、2007年9月改正議定書発効)
- 第7章 サービスの貿易
- 第9章 自然人の移動
- 附属書4A 金融サービス
- 附属書4B 電気通信サービス
- 附属書4C (日本国の約束表、シンガポールの約束表)
- 附属書6 (自然人の移動についての特定の約束)
日・メキシコEPA(2005年4月発効、2007年4月追加議定書発効、2012年4月改正議定書発効)
- 第8章 国境を越えるサービスの貿易
- 第9章 金融サービス
- 第10章 商用目的での国民の入国及び一時的な滞在
- 附属書6 現行の措置に関する留保
- 附属書7 将来の措置に関する留保
- 附属書10 商用目的での国民の入国及び一時的な滞在に関する区分
日・マレーシアEPA(2006年7月発効)
- 第8章 サービスの貿易
- 附属書5 金融サービス
- 附属書6 第99条に関する特定の約束に係る表
- 附属書7 第101条に関する最恵国待遇の免除に係る表
日・チリEPA(2007年9月発効)
- 第9章 国境を越えるサービスの貿易
- 第10章 金融サービス
- 第11章 商用目的での国民の入国及び一時的な滞在
- 附属書6 現行の措置に関する留保
- 附属書7 将来の措置に関する留保
- 附属書10 第108条1に関する表
- 附属書11 第120条1に関する表
- 附属書12 第120条2に関する表
- 附属書13 商用目的での国民の入国及び一時的な滞在に関する区分
日・タイEPA(2007年11月発効)
- 第7章 サービスの貿易
- 第9章 自然人の移動
- 附属書5 第77条に関する特定の約束に係る表
- 附属書7 自然人の移動に関する特定の約束
日・インドネシアEPA(2008年7月発効)
- 第6章 サービスの貿易
- 第7章 自然人の移動
- 附属書7 金融サービス
- 附属書8 第81条に関する特定の約束に係る表
- 附属書9 第82条に関する最恵国待遇の免除に係る表
日・ブルネイEPA(2008年7月発効)
- 第6章 サービスの貿易
- 附属書6 金融サービス
- 附属書7 第68条に関する特定の約束に係る表
- 附属書8 第79条に関する最恵国待遇の免除に係る表
日ASEAN・EPA(2008年12月から順次発効)
- 第6章 サービスの貿易
日・フィリピンEPA(2008年12月発効)
- 第7章 サービスの貿易
- 第9章 自然人の移動
- 附属書5 金融サービス
- 附属書6 特定の約束に係る表及び最恵国待遇の免除に係る表
- 附属書8 自然人の移動に関する特定の約束
日・スイスEPA(2009年9月発効)
- 第6章 サービスの貿易
- 第7章 自然人の移動
- 附属書3 留保に係る表
- 附属書4 サービスの国内規制に関する規律
- 附属書5 サービス提供者の資格の承認
- 附属書6 金融サービス
- 附属書7 電気通信サービス
- 附属書8 自然人の移動に関する特定の約束
日・ベトナムEPA(2009年10月発効)
- 第7章 サービスの貿易
- 第8章 自然人の移動
- 附属書4 金融サービス
- 附属書5 第62条に関する特定の約束に係る表
- 附属書6 第63条に関する最恵国待遇の免除に係る表
- 附属書7 自然人の移動に関する特定の約束
日・インドEPA(2011年8月発効)
- 第6章 サービスの貿易
- 第7章 自然人の移動
- 附属書4 金融サービス
- 附属書5 電気通信サービス
- 附属書6 第62条に関する特定の約束に係る表
- 附属書7 自然人の移動に関する特定の約束
日・ペルーEPA(2012年3月発効)
- 第7章 国境を越えるサービスの貿易
- 第8章 電気通信サービス
- 第9章 商用目的の国民の入国及び一時的な滞在
- 附属書5 (日本国の表、ペルーの表)
- 附属書6 (日本国の表、ペルーの表)
- 附属書7 金融サービス
- 附属書8 商用目的の国民の入国及び一時的な滞在に関する特定の約束
日豪EPA(2015年1月発効)
- 第9章 サービスの貿易
- 第10章 電気通信サービス
- 第11章 金融サービス
- 第12章 自然人の移動
- 附属書6 第9・7条1及び第14・10条1の規定に関する適合しない措置
- 附属書7 第9・7条2及び第14・10条2の規定に関する適合しない措置
- 附属書8 サービス提供者の資格の承認
- 附属書9 金融サービス
- 附属書10 自然人の移動に関する特定の約束
日・モンゴルEPA(2016年6月発効)
- 第7章 サービスの貿易
- 第8章 自然人の移動
- 附属書4 金融サービス
- 附属書5 電気通信サービス
- 附属書6 特定の約束に係る表及び最恵国待遇の免除に係る表
- 附属書7 自然人の移動に関する特定の約束
TPP12(環太平洋パートナーシップ協定)(2016年2月署名、日本は2017年1月締結)
- 第10章 国境を越えるサービスの貿易
- 附属書10-A 自由職業サービス
- 附属書10-B 急送便サービス
- 附属書10-C 適合しない措置の適合性の水準の低下を防止する制度
- 第11章 金融サービス
- 附属書11-A 国境を越える貿易
- 附属書11-B 特定の約束
- 附属書11-C 適合しない措置の適合性の水準の低下を防止する制度
- 附属書11-D 金融サービスに責任を負う当局
- 附属書11-E
- 第12章 ビジネス関係者の一時的な入国
- 附属書12-A ビジネス関係者の一時的な入国
- 第13章 電気通信
- 附属書13-A 地方の電話のサービス提供者(アメリカ合衆国)
- 附属書13-B 地方の電話のサービス提供者(ペルー)
- 附属書I 投資・サービスに関する留保(現在留保)
- 附属書II 投資・サービスに関する留保(将来留保)
- 附属書III 金融サービスに関する留保
TPP11(包括的・先進的TPP協定)(日本は2018年12月30日発効)
日EU・EPA(2019年2月1日発効)
- 第8章 サービスの貿易、投資の自由化及び電子章取引
- 附属書8-A 金融規制に関する協力
- 附属書8-B 第8章に関する表
- 附属書I 現行の措置に関する留保
- 附属書II 将来における措置に関する留保
- 附属書III 設立を目的とした商用訪問者、企業内転勤者、投資家及び短期の商用訪問者
- 附属書IV 契約に基づくサービス提供者及び独立の自由職業家
- 付録IV 日本国における契約に基づくサービス提供者及び独立の自由職業家の業務活動の制限
- 附属書8-C 自然人の商用目的での移動に関する了解
地域的な包括的連携協定(RCEP)(2020年11月署名)
- 第8章 サービスの貿易
- 附属書8A(金融サービス)
- 附属書8B(電気通信サービス)
- 附属書8C(自由職業サービス)
- 第9章 自然人の一時的な移動
- 附属書II サービスに関する特定の約束に係る表
- 附属書III サービス及び投資に関する留保及び適合しない措置に係る表
- 附属書IV 自然人の一時的な移動に関する特定の約束に係る表
日英EPA(2021年1月発効)
- 第8章 サービスの貿易、投資の自由化及び電子章取引
- 附属書8-A 金融規制に関する協力
- 附属書8-B 第8章に関する表
- 附属書I 現行の措置に関する留保
- 附属書II 将来における措置に関する留保
- 附属書III 設立を目的とした商用訪問者、企業内転勤者、投資家及び短期の商用訪問者
- 附属書IV 契約に基づくサービス提供者及び独立の自由職業家
- 付録IV 日本国における契約に基づくサービス提供者及び独立の自由職業家の業務活動の制限
- 附属書8-C 自然人の商用目的での移動に関する了解