世界貿易機関(WTO)

令和3年4月20日
(写真)オコンジョ=イウェアラ新事務局長

 何事もはじめが肝心というが、新年度が始まり読者の皆様も気持ちも新たに目標に邁進されていることだろう。WTOでは、オコンジョ=イウェアラ新事務局長が3月1日に就任した。この人の辞書に「五月病」という言葉もないだろうと思うほど、その活動は精力的である。「成果を挙げるためには今までの方法を一新しなくてはならない」と就任直後に述べ、ナイジェリア財務相や世銀専務理事として大ナタを振るった「改革家」の表情を見せた。今回は、「最初の100日間(ファースト・ハンドレッド・デイズ)」の中間点を駆け抜けつつあるWTO新事務局長の意欲的な言動を紹介したい。

 ジュネーブに着任して直ぐの3月1日と2日に開催されたWTO一般理事会。オコンジョ=イウェアラ事務局長は所信表明別ウィンドウで開くとして、約4年ぶりの開催となる年末の第12回WTO閣僚会議(MC12)に向けて達成すべき目標の絵柄を示した。まず新型コロナを受けた保健と経済回復に貿易がどのように貢献できるか、そのために具体的な政策と行動をとっていこうと熱く訴えた。また、長く交渉が続いている漁業補助金交渉の早期妥結、紛争解決制度の改革に向けた加盟国のさらなる努力を求めた。最近の連載でもご紹介した「4つのJSI」についても、より多くの国が参加し質の高い内容を目指すべきことを呼びかけた。

 オコンジョ=イウェアラ事務局長は、途上国出身で初めて、そして女性初のWTOのトップである。3月24日の「貿易のための開発(Aid for Trade)ストックテイキングイベント」や3月8日のWTO国際女性デーには、ポストコロナの回復では「どの国も誰も取り残さない」として女性のエンパワーメントや開発支援を後押しした。また、日本もメンバーのカナダ主催WTO少数国(オタワ・グループ)閣僚会合(3月22日)にも出席し、途上国におけるワクチンを含む医療品へのアクセス改善や漁業補助金に関する交渉の早期妥結を呼びかけた。さらに、茂木外務大臣と梶山経産大臣が出席したG7貿易大臣会合(3月31日)でも、新型コロナ危機の中で貿易が果たす役割やWTO改革に向けた協力を呼びかける声には熱がこもっていた。

 オコンジョ=イウェアラ事務局長は、各国にもひっぱりだこだ。自身も、カマラ・ハリス米副大統領、ナイジェリアのムハンマド・ブハリ大統領、シャルル・ミシェル欧州理事会議長などとオンラインで議論したことをツイートしている。日本も、現地で日夜連携して働く山﨑ジュネーブ代表部大使が就任と同時に面会、続いて茂木大臣が電話会談し、医療品の円滑な貿易や日本が「大阪トラック」を牽引するデジタル分野でのルール作り、紛争解決制度改革などWTO改革への認識を共有し、今後の協力を確認した。

 MC12を年末に控え、WTOにとってはその存在意義がかかった重要な年になる。日本も新しい事務局長を支え、成果を挙げることに注力しWTOの様々な交渉分野で引き続き主導的役割を担っていきたい。


世界貿易機関(WTO)へ戻る