世界貿易機関(WTO)

令和3年2月19日
(写真1)ンゴジ・オコンジョ=イウェアラ氏 ンゴジ・オコンジョ=イウェアラ氏:WTOホームページより

 2月15日、WTO特別一般理事会が開催され、ンゴジ・オコンジョ=イウェアラ氏が、164すべての加盟国の総意(コンセンサス)でWTOの第7代事務局長に任命された。本連載第17回18回で群雄割拠の選挙情勢をお届けしたが、アゼベド前事務局長の辞任表明ではじまった9か月の選出プロセスに終止符がうたれ、昨年9月以降の空席を埋めるべく、オコンジョ氏は3月1日から2025年8月31日までの4年半、多角的貿易体制の礎である国際機関のトップを務めることとなる。
 オコンジョ=イウェアラ事務局長は、史上初のアフリカ出身かつ女性のWTO事務局長ということで大きく取り上げられている。多くの途上国も参加し多様性を体現するWTOに相応しい人物だ。彼女は30年超のキャリアにおいて、WTOで今まさに求められている「改革」を様々な利害関係と「交渉・調整」して断行してきた人物だ。茂木敏充外務大臣は、同氏の任命を歓迎し、その手腕に期待し、取組を支援していくとの談話を発出した。今回は、オコンジョ氏の経歴をたどり、これからの活躍に期待を寄せたい。

 まず、一つ目は財務大臣としての実績。オコンジョ=イウェアラ事務局長は、2003年から2006年及び2011年から2015年の2回、母国ナイジェリアの財務大臣を務めている。主要債権国との交渉に辣腕を振るい、2005年にはナイジェリアの対外債務の大幅な削減に尽力し、在任中にナイジェリアは初めての債務支払い能力の格付けを獲得した。また、反汚職にも熱心に取り組んだことで知られている。その経験は、その名も「改め難きを改める:ナイジェリアの教訓(Reforming the Unreformable: Lessons from Nigeria)」の著作に詳しい。
 次に、世界銀行専務理事としての実績。同氏は世界銀行で25年間キャリアを積み2007年から2011年には組織のNo.2である専務理事を務めている。2010年には、経済成長促進・格差是正・生活水準向上のためのプログラムに融資と贈与を行う国際開発協会(International Development Association)の基金について出資国と交渉し約500億ドルの資金を確保したことで知られる。
 最後はGaviワクチンアライアンス理事会議長としての実績。オコンジョ=イウェアラ事務局長は最近までGavi理事会議長を務めていた。新型コロナの感染拡大にともない予防接種支援を行うGaviの名を聞いた方も多いかもしれない。Gaviでは同氏のリーダーシップのもと、ワクチンを共同購入・分配する仕組みであるCOVAXファシリティを立ち上げ、ワクチンの安定供給に大きく寄与している。
 なお、オコンジョ=イウェアラ事務局長は、最近では、2019年8月のアフリカ開発第7回首脳会議(TICAD VII)の機会に日本が主催したGavi増資準備会合に出席するために訪日し、TICADの「女性と少女が変えるアフリカの未来」というイベントで基調講演を行った。国際協力機構(JICA)アドバイザリーボードの委員も務めた。2012年から数えただけでも7回訪日しており、日本の友人も多いと聞く。
 これまで一貫して「全ての加盟国の利益のためにWTOは機能しなくてはならない」と主張してきた新事務局長。最重要課題として掲げる新型コロナへの対応をはじめとして、上級委員会の改革と機能回復、電子商取引等新しいルールづくり、通報・透明性の強化、途上国・先進国間の対立など対処すべき問題は山積している。強い意志であらゆる組織で改革を断行してきたオコンジョ=イウェアラ新事務局長が、加盟国との協力の下で手腕を発揮し、新型コロナ禍から道半ばの世界経済の回復や喫緊のWTO改革に指導力を発揮することを期待し、日本も支援を惜しまない。


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