世界貿易機関(WTO)

令和2年7月22日
(写真1 ヘスス・セアデ氏。写真はWTOホームページより)
(写真2 ンゴジ・オコンジョ=イウェアラ氏。写真はWTOホームページより)

 7月8日、次期事務局長選の候補者8名が出揃い、本格的に戦いの火蓋が切られた。二回にわたり、各候補者に注目しながら、その混戦模様をお伝えしたい。
 WTO事務局長の役割や責任は「WTOを設立するマラケシュ協定」第6条3及び4で定められている。加盟国に意思決定権のあるWTOでは、事務局は交渉や通報、紛争解決が円滑に行われるよう「縁の下の力持ち」の役割を担う。その事務局を率いるのが事務局長。任期は4年で再選は一度だけ可能である。現事務局長のアゼべド氏は、第6代目であり、2013年に就任した(第7回:WTO改革の舵取り役アゼベド事務局長の横顔と改革への熱意)。
 今回の事務局長選は、未だかつてない形での幕開けとなった。
 今年5月、アゼべド事務局長が、「個人的な決断」として、任期より1年早い8月31日での退任を表明したのである。新型コロナへの国際貿易上の対応と切迫するWTO改革の重荷に耐えかねたのであろうか。これには誰もが不意を突かれた。
 事務局長選出の手続に話を進めると、手続は3つの段階に分かれている。
 まずは加盟国が自国から候補者を指名する「出馬」期間、これに各候補者が加盟国に働きかけるキャンペーン期間が続き、そして最後に一般理事会議長(現在はニュージーランド代表部大使)が加盟国と協議の上、候補者を絞り込んでいく。
 注目すべきは、米国大統領選などの通常の「選挙」とは異なり、投票を行い、最多票を獲得した者が勝つ、というわけではないことである。加盟国のコンセンサス(全会一致)を重視するWTOでは、一般理事会議長が各国の考えを個別に聴き、何ラウンドかを経て最後の一人に絞り込むという、やや手間のかかる手続をとっている。
 この手続は、規定に従えば、選出に半年を要する。喫緊の新型コロナ対応やWTO改革に空白を生じてはならないと、加盟国は全会一致で、通常よりも期間を短縮することを決定した。すなわち、7月8日に出馬が締め切られ、各候補は夏休み返上で2か月間(通常は3か月)精力的に活動する。9月7日から絞込みが始まり、11月には晴れて新事務局長が誕生するだろう。なお、どう急いでも生じてしまう9月1日からの不在期間は、事務局次長4人のうちのひとりが事務局長職を代行する。
 早速、7月15日から17日の3日間、8名の候補者がジュネーブのWTO本部に勢揃いし、所信表明演説及び加盟国との質疑応答に応じた。いよいよ、この8名の横顔を届出順に見てみよう。
 まず一人目は、ヘスス・セアデ氏(下記写真1)。早くも出馬受付初日の6月8日にはメキシコの指名候補者として登録された。セアデ氏は73歳と候補者の中では最年長者であり、現在はメキシコ外務次官兼米国・メキシコ・カナダ協定首席交渉官を務めている。また、1993年から1999年まではWTO事務局次長を務めたという大ベテランでもある。なお、2018年までの10年間は香港の大学で副学長を務め、自らを「世界市民(citizen of the world)」と評している。
 二人目は、ナイジェリア出身のンゴジ・オコンジョ=イウェアラ氏(下記写真2)。現在は感染症対策に取り組むGaviワクチンアライアンス理事会議長を務めている。オコンジョ氏は世界銀行の専務理事も務めた国際派であるが、国内でも財務相や外務相を務めた経験豊かな政治家である。金融・経済・開発分野での豊富な経験を有する一方、15の大学から名誉学位を取得し、4人の子供と3人の孫をもつという側面もある。選出されれば、初のアフリカ出身かつ女性の事務局長誕生となる。

 強者ぞろいのジュネーブでの熱戦、次回は残りの6名を一気にとりあげたい。


世界貿易機関(WTO)へ戻る