経済

WTOドーハ・ラウンド交渉
(交渉議長報告書等の発出)

平成23年4月26日

 4月21日,スイス・ジュネーブにてWTOドーハ・ラウンド交渉の議長報告書等の文書が発出されたところ,同文書(全体で約600頁)の概要と交渉分野ごとのポイントは以下のとおり。

1.全体の概要 

  1. (1)2001年に開始されたWTOドーハ・ラウンド交渉は,下記2.の9つの交渉分野から構成されており,この内の(1)~(8)までの8つを「一括受諾」の原則によって妥結させることを目指してジュネーブでの交渉が続けられている。
  2. (2)21日に各交渉議長による報告書等の一連の文書が発出された(ラミーWTO事務局長による冒頭説明文書と各交渉議長による報告文書等の合計で全約600頁)。これらの報告文書は,全交渉分野を横断的に評価する機会として,今後の交渉を進めていく上での一つのステップとなる。
  3. (3)各文書の評価については,今後更に内容を精査していく必要があるが,多くの部分について各国の異なる主張が併記されており,交渉妥結には更なる協議が必要であることが示唆される内容となっている。交渉全体に責任を有するラミー事務局長は,文書の冒頭部分において加盟国の立場の違いがいまだ大きく(特に鉱工業品分野),交渉は深刻な危機に置かれており,各国の歩み寄りが不可欠である旨を指摘している。

2.各交渉分野の概要 

(1)農業

 2008年に出された前回の議長テキストから何ら変更はされておらず,現在までの議論を総括する議長報告書が付されており,市場アクセス,国内支持(国内補助金)などの未解決の主要論点が概説されている。

(2)NAMA(鉱工業品等)

 議長報告書では,現在までの議論の進捗を総括するとともに,2008年の前回テキストが同じ内容で添付されている。また,電気や化学製品等の分野別関税撤廃についてラミー事務局長が別途報告書を作成し,先進国と新興国の対立は現時点では橋渡しできない状態,と評価。

(3)サービス

 市場アクセス(外資参入制限の撤廃等)については,2008年7月以降ごく限られた進展しか見られていないことを指摘。サービス業の資格や免許等についての国内規制を巡る議論やサービス貿易のルール面(セーフガードなど)の交渉状況並びに後発開発途上国(LDC)向けの特恵措置等の交渉の現状についても報告されている。

(4)ルール

 WTOルールを強化する上でアンチダンピング協定及び補助金協定の規律強化(協定改正)が交渉されてきており,前者については,これまでの議論を反映した協定案がテキストの形で提示され,後者については,これまでの議論の現状状況が報告されている。また,新しいWTOルールとしての漁業補助金の規律策定についての協議の現状についても報告されている。

(5)貿易円滑化

 通関手続き等の貿易手続の更なる円滑化を目的に新たな協定を策定するための交渉が行われてきた結果,これまでの議論を反映した協定案がテキストの形で提示されている。

(6)TRIPS(知的財産権)

 ワイン(ぶどう酒)と蒸留酒の地理的表示を保護するために通報登録制度を整備することが交渉されており,これまでの議論を反映した形のテキストが提示されている。

(7)環境

 多国間環境条約と貿易ルールの調整や,環境保護に資する物品の関税大幅削減を目的とした交渉が行われてきており,これまでの議論の現状が報告されている。

(8)開発

 途上国向けの義務の免除・緩和についての交渉についてこれまでの議論の現状が報告されている。また,途上国向けの義務免除をモニターするメカニズムについての議論が報告されている。

(9)DSU改正(紛争解決了解)

 WTOの紛争解決制度の手続規則の改善と明確化を目的に行われている交渉の状況について報告されている。(注:上記の(1)~(8)は一括受諾の対象となるのに対し,この交渉は一括受諾の枠外の扱いであるが,交渉状況について上記と併せて報告されたもの。)


【参考】

議長報告書等(WTOウェブサイト)(他のサイトヘ)

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