
ルール交渉
テキスト及び議長報告書の概要
平成23年4月26日
1.概要
- (1)ルール分野においては,WTOにおけるルール面の強化を目的として,アンチ・ダンピング(AD)協定,一般補助金協定及び地域貿易協定(RTA)の規律の更なる強化,漁業補助金に関する新たな規律の導入について交渉が行われている。
- (2)4月21日,フランシス・ルール交渉議長(トリニダード・トバゴ大使)は,これまでの会合の結果を踏まえ,(ア)ADについては新しい議長テキスト,(イ)一般補助金及び漁業補助金については議長報告書,(ウ)RTAについては議長テキスト(透明性メカニズム)及び議長報告書(システミック・イシュー)をそれぞれ発出した。ポイントは以下のとおり。
【参考】
AD,一般補助金及び漁業補助金については,昨年10月から本年4月まで全体会合及び少数国会合がほぼ毎月行われるとともに,これらの会合と併せ,本年1月からは主要論点について作業部会(「議長の友」及び「コンタクトグループ」)が集中的に行われてきた。RTAにおいては,透明性メカニズム,システミック・イシューについて議論が積み重ねられている。
2.ポイント
(1)AD(新議長テキスト)
- ア AD協定の改正交渉は,各国が外国産品に対するアンチ・ダンピング課税を濫用することがないよう,発動の要件や課税額の計算手続き,発動後の終了要件などについて規律の強化を図るもの。
- イ 新議長テキストは,各国の意見が大きく分かれる「ゼロイング」(ADマージンを嵩上げする計算方法)や「サンセット」(AD課税の終了規定)などの主要12項目について,前回の議長テキスト(2008年12月)と同様,改正条文案を盛り込まず,本年3月までの「議長の友」や「コンタクト・グループ」からの報告を踏まえ,異なる見解を併記している。
- ウ 他方,前回の議長テキストにおいて条文案が示された,各国の意見がある程度収れんしている論点(AD調査手続の透明性強化や適正手続確保のための条文など)については,議論の進捗を反映し,一部の条文の変更が行われている。
(2)一般補助金(議長報告書)
- ア 一般補助金は,各加盟国の国内産業への補助金が貿易歪曲的効果を及ぼすことのないよう,現行の補助金協定の規律を強化することを目的に交渉が行われている。
- イ 一般補助金の議長報告書は,2008年12月に発出された議長テキストをベースとしており,ルール交渉グループにおいてこれまで行われてきた議論をおおむね反映したものとなっている。我が国は,「輸出信用」(供与条件の規律),「コスト割れ融資」(国営企業に対する長期のコスト割れ融資に対する規律)など異なる立場が併記された論点の今後の扱いに高い関心を有している。
(3)漁業補助金(議長報告書)
- ア 漁業補助金の交渉は,漁業資源の保全と持続可能な利用を目的に,加盟国が漁業補助金によって過剰漁獲能力・過剰漁獲を引き起こすことのないよう一定の規律(特定の補助金を禁止すること等)を新たに導入しようとする交渉である。
- イ 全ての主要論点について加盟国間の意見の隔たりが大きく,現時点で新 議長テキストを提示する状況には無いとして,ほぼ全ての論点について,各国の様々な意見を詳細に議長報告書の形で記している。
- ウ 規律の基本的な骨格である補助金の「禁止の範囲」及び「一般例外」については,1)どの補助金を禁止・例外とすべきかについて加盟国で意見の隔たりが大きいことを認めており,2007年議長テキストにコンセンサスが無いこと,また,2)途上国の特別かつ異なる扱い(S&D)についても,S&Dの必要性自体は認めつつも,その方途については様々な意見が出され,未だ方向性について収れんが見られないとの認識が示されている。
- エ 更に,1)小規模漁業の特例を先進国に対しても認めるか否か,2)地域漁業管理機関を含めた漁業管理強化の必要性等についても継続検討課題として言及がなされている。
(4)RTA(議長テキスト及び議長報告書)
- ア RTA交渉は,FTAやEPAなどの二国間や地域間の貿易協定をWTOに通報し,WTOの諸規定との整合性に関するルールを策定することを目的としている。
- イ RTAの通報・審査に係る透明性メカニズムについては,議長テキストが発出されたが,1)早期報告や通報をRTAの全ての当事国が共同で行うべきか否か,2)二重通報(それぞれの当事国が別々の通報根拠に基づき通報を行うために同一RTAについて二度通報がなされること)から派生する審査主体(どの委員会で審査を行うか)の問題,3)審査のタイムフレームの改訂等主要国間で立場の乖離がある論点については,それぞれの立場が併記されている。
- ウ RTAのWTO協定上の規律に係るシステミック・イシューについては,「実質上のすべての貿易」等GATT第24条の重要な概念や途上国の特別かつ異なる扱い(S&D)に関する議論がなされてきたが,各国の立場は未だ収れんされておらず,議長報告書もかかる現状を反映したものとなっている。また,DDA後に何を議論すべきかについての「作業計画」をDDAにおける具体的成果とすべきとの主要先進国の提案についても,途上国側の立場も併記しつつ言及している。