外交青書・白書
第2章 しなやかで、揺るぎない地域外交

第4節 中南米

1 概観

(1)中南米情勢

中南米諸国の多くは、自由、民主主義、法の支配、人権などの基本的価値や原則を共有する重要なパートナーである。現在、国際社会において法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が深刻な挑戦を受けている中で、こうした中南米諸国との連携がますます重要になっている。同地域は、約6億6,000万人の人口と、約6.25兆ドルの域内総生産を抱えており、大きな経済的潜在力を有している。また、脱炭素化のために重要な鉱物資源やエネルギー、食料資源を豊富に有し、日本を含む国際社会のサプライチェーン強靱(じん)化や経済安全保障の観点からも重要性が増している。

経済面では、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)により中南米経済は深刻な影響を受けたものの、その後回復基調にあり、2023年のGDP成長率は2.3%と2022年の4.1%と比較して鈍化したものの、プラス成長を続けている。また、インフレ率(ベネズエラとアルゼンチンを除く。)も2022年の7.8%から2023年には5%と低下するなど、緩和傾向にある。一方、新型コロナやロシアによるウクライナ侵略に伴う世界的な物価上昇などにより、中南米の以前からの課題である貧富の格差が縮小せず、所得格差を測るジニ係数も高止まりしている。

政治面では、パラグアイ、グアテマラ、エクアドル、アルゼンチンで大統領選挙が行われた。また、ベネズエラについては、10月にバルバドスにおいてベネズエラの与野党対話が再開し、次回大統領選挙が2024年下半期に行われることで合意されたが、同国の政治経済社会情勢の悪化により避難民として周辺国に流出したベネズエラ人は2023年12月時点で770万人を超え、引き続き地域的課題となっている。ハイチにおいては、2021年の大統領暗殺以降、武装集団(ギャング)の活動などによりハイチ全土の治安情勢が悪化し、国内避難民も増加した。また、行政サービスの停滞によって国民の生活環境は悪化しており、地域的課題となっている。

中南米地域には、世界の日系人の約6割を占める約310万人から成る日系社会が存在している。日系社会は100年以上に及ぶ現地社会への貢献を通じ、中南米地域における伝統的な親日感情を醸成してきた。一方、移住開始から100年以上を経て、日系社会の世代交代が進み、若い世代を含め日本とのつながりを今後どう深めていくかが課題となっている。

(2)日本の対中南米外交

日本の対中南米外交は、安倍総理大臣が2014年に提唱した「3つのJuntos!!(共に)」(「共に発展」、「共に主導」、「共に啓発」)の指導理念の下で展開されてきた。2018年12月には、同理念の成果を地域全体として総括し、次なる協力の指針として日・中南米「連結性強化」構想を安倍総理大臣が発表した。日本は本構想も踏まえつつ、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」や法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化のための連携、国際場裡(り)における協力、気候変動など地球規模課題への対応及び経済関係などにおいて、中南米諸国との協力関係の深化を目指してきている。

2023年には、日本がG7議長国及び2024年まで国連安全保障理事会(安保理)非常任理事国を務めること、並びにG20メンバー国であることを念頭に、岸田総理大臣は、G7、G20、国連総会などの多国間会合の機会を捉え、ブラジルやペルーの首脳と会談を行った。林外務大臣も、1月に、メキシコエクアドルブラジル及びアルゼンチンといった安保理非常任理事国やG20メンバー国である中南米4か国を、また、4月から5月にかけては、2024年の「日・カリブ交流年」に向けた連携強化なども念頭に、トリニダード・トバゴ及びバルバドス、並びに南米のペルーチリ及びパラグアイの5か国を訪問し、首相や外相など各国要人と会談を行った。さらに上川外務大臣は、9月の国連総会ハイレベルウィークの機会にブラジル、メキシコ及びバルバドスと、また、11月にはAPEC閣僚会議の機会にペルー及びチリと、首相との意見交換や外相会談を行った。さらに、武井俊輔外務副大臣が、5月にジャマイカ及びセントルシアを、7月にドミニカ共和国を、8月にウルグアイ及びパラグアイを訪問するなど、日本から多くの外務省や関係省庁の大臣・副大臣・大臣政務官が中南米諸国を訪問した。

経済分野においては、日系企業の中南米地域拠点が2011年の約2倍に達するなど、サプライチェーンの結び付きが強化されており、日本は、メキシコ、ペルー、チリが参加する「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」1などを通じ、中南米諸国と共に自由貿易の推進に取り組んでいる。

開発協力の分野においては、経済成長を遂げた一部の中南米地域では、経済協力開発機構(OECD)2開発援助委員会のODA受取国リストからの「卒業国」、又は「卒業」を控えた国々により南南協力が進められており、日本はこれらの国々との間の三角協力を推進している。

1 CPTPP:Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership

2 OECD:Organisation for Economic Cooperation and Development

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