3 カナダ
(1)カナダ情勢
7月、トルドー首相は、低迷する政府支持率の回復を目指し、内閣改造を実施した。引き続きフリーランド副首相兼財務相やジョリー外相など、内閣の重要ポストに女性閣僚を起用し、男女同数内閣を維持した。国民の関心の高い経済問題によりフォーカスした陣容を敷き、トルドー政権は中間層の雇用創出と大胆な気候変動政策の両立に重点を置いているほか、先住民族やLGBTQ、移民に配慮した多様で包摂的な社会を目指すことに力を入れている。
経済面では、世界経済の減速を背景に鈍化傾向にあり、11月のカナダ財務省の経済ステートメントによれば、2023年の実質GDP成長率は1.1%(前年3.4%)、失業率は5.4%(前年5.3%)、消費者物価指数(CPI)の年間平均値は3.8%の見通し(前年平均値6.8%)となっている。物価上昇圧力の緩和のため、カナダ中央銀行は、2022年に政策金利を7回引き上げたが、2023年も政策金利を4.25%から5.0%まで3回引き上げた。引き続きインフレ動向が注目される。
外交面では、2022年11月に発表したインド太平洋戦略に基づき、インド太平洋地域へ軍艦3隻を派遣し、カナダ軍のプレゼンスを強化したほか、経済・貿易分野においては、同地域の同志国とサプライチェーンの強靱化やCPTPPのハイスタンダードの維持などにおいて連携を更に強化し、引き続きインド太平洋地域への関与を一層強化した。ASEANとは9月に「戦略的パートナーシップ」を確立し、サイバーセキュリティ、海洋安全保障及び核不拡散などの安全保障課題への対応における協力、加・ASEAN自由貿易協定(FTA)について2025年までの最終合意を目指すことで合意するなど、協力関係の強化を掲げた。ウクライナ情勢への対応では、トルドー首相は6月、2022年5月に続き2回目となるウクライナ訪問を行い、9月にはゼレンスキー・ウクライナ大統領夫妻もカナダ訪問を行うなど、引き続き強力な対露制裁やウクライナ支援を積極的に実施したほか、近代化された加・ウクライナ自由貿易協定に署名した。
対中関係も緊張が続いており、5月には、両国が双方の領事に「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」を通告したほか、10月にカナダ政府は、中国軍機によるカナダ軍機やカナダ軍ヘリコプターへの接近事案や妨害行為が発生したことを発表した。一方、中国とは8月のギルボー環境・気候変動相の訪中など、環境分野などでの連携事案も見られた。台湾との関係では、12月に駐台北カナダ貿易代表部と駐カナダ台北経済文化代表処との間で投資の促進及び保護に関する取決めの署名が行われ、同月には駐モントリオール台北経済文化弁事処が開設された。イスラエル・パレスチナ情勢への対応に関し、ジョリー外相は中東地域を訪問し、カナダ政府として総額6,000万カナダドル(約66億円)の人道支援を発表した。
(2)日・カナダ関係
2023年1月から2024年1月末までに日・カナダ間では首脳会談が3回、外相会談が5回実施された。
1月11日から12日まで、岸田総理大臣はオタワを訪問し、トルドー首相と日加関係及び地域情勢について意見交換を行った。トルドー首相から日本の新たな国家安全保障戦略やG7広島サミットに向けた連携について全面的な支持を得た。
4月18日、林外務大臣は、G7外相会合出席のため来日したジョリー外相と会談を行い、ウクライナ及び東アジア情勢などについて意見交換を行い、林外務大臣からカナダの「瀬取り」監視活動の延長を歓迎した。

5月19日、岸田総理大臣はG7広島サミット出席のため来日したトルドー首相と会談を行い、国際社会が直面する諸課題に対するG7の揺るぎない結束を世界に示すため両国でも連携していくこと、FOIPの実現に向けた連携や日加刑事共助条約の正式交渉の開始などで一致した。

11月7日、上川外務大臣は、G7外相会合出席のため来日したジョリー外相と会談を行い、イスラエル・パレスチナ情勢、中国や北朝鮮をめぐる諸課題への対応や、FOIP実現に向けた取組を確認した。また、上川外務大臣及びジョリー外相の双方が取り組み、前年10月に発表した「FOIPに資する日加アクションプラン」にも含まれるWPSに関して、日・カナダ間で連携を深めていくことで一致した。
11月16日、岸田総理大臣はAPEC首脳会議に出席した際、トルドー首相と会談し、イスラエル・パレスチナ情勢や地域情勢への対応やCPTPPにおける連携で一致した。また、カナダ軍のプレゼンス強化に伴う安全保障分野での連携強化、経済安全保障分野での協力覚書の署名、貿易ミッションの訪日など2023年の両国のFOIP実現に向けた取組の進展を評価したほか、2025年大阪・関西万博の成功に向けた協力を確認した。
2024年1月13日、上川外務大臣はジョリー外相の出身地であるモントリオールを訪問し、同外相と日加外相会談を行った。上川外務大臣は、能登半島地震及び羽田空港での航空機衝突事故に関してカナダ政府からお見舞いを受けたことに対して謝意を伝えた。両外相は、インド太平洋地域情勢や中東情勢といった諸課題について意見交換を行ったほか、ロシアによるウクライナ侵略に関して、上川外務大臣から、自身のウクライナ訪問に触れつつ、WPSの視点を踏まえた取組における貢献を始め日本が率先してウクライナへの連帯を示していくと述べた。両外相は、「FOIPに資する日加アクションプラン」の進捗状況を確認したほか、CPTPP、人的交流、2025年大阪・関西万博の成功及び「核兵器のない世界」に向けて、緊密に連携していくことで一致した。
経済分野においては、9月に、両国の関係閣僚などの間でバッテリーサプライチェーン及び産業科学技術に関する二つの協力覚書が署名された。10月末から11月初旬にかけては、イン輸出促進・国際貿易・経済開発担当相率いるカナダ貿易ミッション(150社を超えるカナダ企業が参加)が訪日し、日本企業との更なる協力の可能性を協議した。
日加間で初の経済連携協定となるCPTPPの発効から5年を迎え、両国の貿易投資関係の更なる深化が見られた。2024年1月には第33回日加次官級経済協議(JEC)16をオタワで開催し、CPTPPや世界貿易機関(WTO)を含む最近の国際経済情勢やFOIPの実現を含む日加協力に関する意見交換に加えて、六つの優先協力分野((ア)エネルギー、(イ)インフラ、(ウ)科学技術協力とイノベーション、(エ)観光・青年交流、(オ)ビジネス環境の改善・投資促進、(カ)農業)などについて議論を行った。
16 JEC:Joint Economic Committee