第3節 北米
1 概観
現在、国際社会は歴史の転換点にあるといえる。イスラエル・パレスチナをめぐる情勢の緊迫化やロシアによるウクライナ侵略の継続などに見られるように、国際社会の分断と対立は深まっている。また、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)級を含む弾道ミサイルなどの発射や、東シナ海・南シナ海における力を背景とした一方的な現状変更の試みの継続・強化など、日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しており、基本的価値観や原則を共有するG7を含めた同盟国・同志国との結束は、その重要性を大きく高めている。米国は日本にとって唯一の同盟国である。強固な日米同盟は、日本の外交及び安全保障の基軸であり、インド太平洋地域の平和と安定の礎である。また、G7のメンバーであり、普遍的価値を共有するインド太平洋地域の重要なパートナーであるカナダとの協力も不可欠である。日本が長年紡いできた信頼関係に基づくこうした国々との連携は、地域と国際社会の平和と安定を堅持するために不可欠である。
米国は、2022年にインド太平洋戦略及び国家安全保障戦略を発表し、日本を含む同盟国・同志国と連携しつつ、国際社会が直面する様々な課題に取り組んでいく姿勢を打ち出した。こうした戦略に基づき、米国は積極的に外交活動に取り組んでいる。2月、バイデン大統領はウクライナ・キーウを電撃訪問し、10月には、ハマスなどによるテロ攻撃を受け、イスラエルを含む中東地域を訪問した。また、米国は2023年のAPECの議長国を務め、11月にはサンフランシスコに各国の首脳や閣僚を招き、首脳会合や閣僚会合に加え、日米首脳会談や米中首脳会談といった会談を行った。さらに、5月のG7広島サミットや、8月にバイデン大統領が初めてキャンプ・デービッドに外国の首脳を招待し開催された日米韓首脳会合に象徴されるように、2023年は、米国が同志国との連携を一層強化した1年でもあった。
カナダは、2022年に発表されたインド太平洋戦略の達成に向けた取組を一層加速させる1年となった。4月にマッケイ駐日カナダ大使をインド太平洋特使に任命し、ASEANや太平洋島嶼(しょ)国との積極的な外交を展開した。また、地域におけるカナダ軍のプレゼンスを一層強化し、経済及び人的交流の面においても、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)1の推進やASEANとの連携を強化するなど、同戦略に基づいて地域への関与を一層強化した。10月、ジョリー外相は外交政策に関するスピーチを行い、カナダが地理的条件から安全を享受できた時代は終焉(えん)し、サイバーや偽情報などの様々な脅威への対処が重要なこと、また(1)軍事への投資増強、(2)対米連携、(3)NATO・欧州との連携、(4)インド太平洋政策、(5)北極政策、(6)外国による内政干渉への対抗を重点とすることを述べた。とりわけ、カナダが従来重視していた英国・フランス・ドイツ・イタリアとの関係と同様に日本・韓国とも緊密な関係を築くべきこと、ASEANとの関係への投資などについて強調し、引き続きインド太平洋地域への関与を重視していく姿勢を示した。
こうした背景の中、2023年は日本と米国及びカナダの関係が更に深化した年となった。唯一の同盟国である米国との間では、安全保障や経済にとどまらず、あらゆる分野で重層的な協力関係にあり、日米関係はかつてないほど強固で深いものとなっている。日米両国は2023年1月から2024年1月末まで、首脳間で4回、外相間で9回(うち電話会談2回)会談を行うなど、あらゆるレベルで常時意思疎通し、連携して地域と国際社会の平和と安定を堅持する努力を尽くしてきている。1月の日米首脳会談における日米共同声明の発出や11月の米国・サンフランシスコで行われた日米首脳会談における、バイデン大統領から岸田総理大臣に対する2024年早期の国賓待遇での公式訪問の招待があったことにも見られるように、日米間の連携は一層幅広く、強固なものとなっている。今後も日米韓などの多国間枠組みを含め、日米間で連携し、日米安全保障協力の強化やインド太平洋地域における経済秩序の維持・強化に努めていく。
また、日本とカナダの間では、2023年1月から2024年1月末まで、首脳間で3回、外相間で5回会談が行われた。2022年10月に発表した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)に資する日加アクションプラン」を基に、「瀬取り」2対応や共同演習の実施のほか、バッテリーサプライチェーン及び産業科学技術に関する二つの協力覚書が署名されるなど、FOIPの実現に向けた数多くの取組において進展があった。また、カナダ貿易ミッション「チームカナダ」の訪日、CPTPPなどの多岐にわたる外交の推進を通じて、日加関係はより一層強化された。
1 Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership
2 ここでの「瀬取り」は、2017年9月に採択された国連安保理決議第2375号が国連加盟国に関与などを禁止している、北朝鮮籍船舶に対する又は北朝鮮籍船舶からの洋上での船舶間の物資の積替えのこと