外交青書・白書
第2章 しなやかで、揺るぎない地域外交

7 地域協力・地域間協力

世界の成長センターであるインド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた秩序を実現することにより、地域全体、ひいては世界の平和と繁栄を確保していくことが重要である。こうした観点から、日本は、日米同盟を基軸としながら、オーストラリア、インド、ASEAN、欧州などの同志国とも連携し、日・ASEAN、日・メコン協力、ASEAN+3(日中韓)、東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、アジア太平洋経済協力(APEC)などの多様な地域協力枠組みを通じ、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた取組を戦略的に推進してきている。特に、2019年にASEANが採択した「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」39は、FOIPと開放性、透明性、包摂性、国際法の尊重といった本質的な原則を共有しており、日本としては、ASEANの中心性と一体性を尊重しつつ、AOIPに対する国際社会の支持を一層広げ、AOIPの掲げる原則に資する具体的な日・ASEAN協力を実施し、「インド太平洋国家」としてインド太平洋地域全体の安定と繁栄に寄与する考えである。

(1)東南アジア諸国連合(ASEAN)情勢全般

インド太平洋の中心の地政学的要衝に位置するASEANは、FOIP実現の要である。2015年11月のASEAN関連首脳会議では、「政治・安全保障」、「経済」及び「社会・文化」の三つの共同体によって構成されるASEAN共同体が同年内に設立されることが宣言され(ASEAN共同体設立に関するクアラルンプール宣言)、加えてASEAN共同体の2016年から2025年までの10年間の方向性を示す「ASEAN2025:Forging Ahead Together(共に前進する)」が採択された。2019年6月には、AOIPが採択された。

ASEANが地域協力の中心として重要な役割を担っている東アジア地域では、ASEAN+3(日中韓)、EAS、ARFなどASEANを中心に多層的な地域協力枠組みが機能しており、政治・安全保障・経済を含む広範な協力関係が構築されている。

経済面では、ASEANは、ASEAN自由貿易地域(AFTA)を創設し、また、日本、中国、韓国、インドなどとEPAやFTAを締結するなど、ASEANを中心とした自由貿易圏の広がりを見せている。ASEAN加盟国と日本、オーストラリア、中国、韓国及びニュージーランドが参加するRCEP協定は、2022年1月1日に発効した。日本は、参加国と緊密に連携しながら、本協定の透明性のある履行の確保に取り組むと同時に、署名を見送ったインドの本協定への将来的な復帰に向けて、引き続き主導的な役割を果たす考えである。

(2)南シナ海問題

南シナ海においては、領有権をめぐる問題があり、そのような中で中国は、係争地形の一層の軍事化(199ページ 第3章第1節3(4)エ参照)、沿岸国等に対する威圧的な活動など、法の支配や開放性に逆行した力による一方的な現状変更の試みや地域の緊張を高める行動を継続・強化し、また比中仲裁判断40を受け入れないとの立場を変えておらず、国連海洋法条約(UNCLOS)と整合的でない海洋権益に関する主張を続けている。2023年は、フィリピン船舶と中国船舶の衝突事案が発生したことなどを受け、フィリピン政府は、南シナ海におけるフィリピン船舶に対する中国船舶の行動を非難する声明を複数発表した。

南シナ海をめぐる問題は、地域の平和と安定に直結し、国際社会の正当な関心事項であり、資源やエネルギーの多くを海上輸送に依存し、南シナ海を利用するステークホルダー(利害関係者)である日本にとっても、重要な関心事項である。

中国によるこうした一方的な現状変更の試みや現場での累次の危険な行動を含め、地域の緊張を更に高める行動に対し、日本を含む国際社会は深刻な懸念を表明している。日本としては、力による一方的な現状変更の試みや緊張を高めるいかなる行為にも強く反対し、また、「海における法の支配の三原則」(238ページ 第3章第1節6(2)参照)を貫徹すべきとの立場から、南シナ海をめぐる問題の全ての当事者がUNCLOSを始めとする国際法に基づく紛争の平和的解決に向け努力することの重要性を一貫して強調している。また、中国による南シナ海における基線に関する主張がUNCLOSの関連規定に基づいていないこと、比中仲裁判断で領海や領空を有しない低潮高地と判断された海洋地形の周辺海空域も含め、航行と上空飛行の自由が守られることが重要であること、中国が主張する「歴史的権利」は国際法上の根拠が明らかではなく、比中仲裁判断では中国が主張する「九段線」に基づく「歴史的権利」の主張がUNCLOSに反すると判示され、明確に否定されたことなども指摘してきている。日本は、比中仲裁判断から5年の節目に当たる2021年に続き、2022年7月及び2023年7月にも外務大臣談話を発出し、国際法に従った紛争の平和的解決の原則や法の支配の重要性を始めとする日本の立場を改めて表明した。岸田総理大臣が9月にジャカルタでマルコス・フィリピン大統領及びハリス米国副大統領と懇談し、南シナ海情勢を取り上げるなど、日米比での連携も強化している。7月及び9月には、日米比外相会合を行い、南シナ海情勢を含む厳しい戦略環境を踏まえ、引き続き日米比間での連携を一層強化し、3か国の協力の具体化を進めていくことで一致した。

2018年には、中国とASEANの間で南シナ海行動規範(COC)41の交渉が開始された。7月の中・ASEAN外相会議で、COCドラフトの第二読の完了とCOCの早期妥結を加速させるための「ガイドライン」の採択が発表されており、交渉に一定の進展が見られる模様である。日本としては、COCは実効的かつ実質的でUNCLOSに合致し、南シナ海を利用する全てのステークホルダーの正当な権利と利益を尊重するものとなるべきとの立場を表明してきている。

(3)日・ASEAN関係

FOIP実現の要であるASEANがより安定し繁栄することは、地域全体の安定と繁栄にとって極めて重要である。日本は、2013年の日・ASEAN友好協力40周年を記念する特別首脳会議で採択された「日・ASEAN友好協力に関するビジョン・ステートメント」を着実に実施しつつ、ASEAN共同体設立以降も「ASEAN共同体ビジョン2025」に基づくASEANの更なる統合努力を全面的に支援してきている。さらに、2020年に採択した「AOIP協力についての第23回日・ASEAN首脳会議共同声明」を指針として、海洋協力、連結性、国連持続可能な開発目標(SDGs)、経済等というAOIPの優先協力分野に沿って具体的な協力を積み上げてきている。同声明は、AOIPに関してASEANが域外国との間で採択した初の共同声明であったが、それに続く形でASEANとほかの対話国との間で同様の共同声明が採択されている。日本ASEAN友好協力50周年を迎えた2023年3月には、岸田総理大臣がFOIPの新プランを発表し、東南アジアを重要地域と明確に位置付け、「日・ASEAN統合基金(JAIF)」への1億ドルの新規拠出に加え、「日・ASEAN連結性イニシアティブ」を刷新することを表明した。

7月の日・ASEAN外相会議では林外務大臣から、さらに9月の日・ASEAN首脳会議では岸田総理大臣から、それぞれASEAN中心性・一体性に対する一貫した支持を改めて表明した。また特に9月のジャカルタでの首脳会議に際してサイドイベントとして開催された「ASEANインド太平洋フォーラム(AIPF)」において、ハード・ソフト両面で連結性を一層強化するため、「日・ASEAN包括的連結性イニシアティブ」を新たに発表した。さらに9月の日・ASEAN首脳会議では、「日・ASEAN包括的戦略的パートナーシップ(CSP)」を立ち上げる共同声明を採択した。

ASEAN諸国からは、長年にわたる幅広い分野での日本の協力、ASEAN中心性やAOIPへの支持、JAIFへの1億ドルの拠出に対する謝意が示された。また、CSP立ち上げ及び「日・ASEAN包括的連結性イニシアティブ」への歓迎やアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想への評価の意が示されたほか、FOIPとAOIPのシナジー効果(相乗効果)への言及もあった。また、同年12月の特別首脳会議において、新たな関係のビジョンを打ち出し、さらに関係を強化することへの期待が多くの首脳から示された。

また、岸田総理大臣は、地域・国際情勢についても、この地域が成長の中心であり続けるためには、地域・国際社会の平和と安定が維持されることが不可欠であると指摘した上で、ミャンマー、ロシアによるウクライナ侵略、東シナ海・南シナ海、台湾海峡の平和と安定の重要性、経済的威圧、北朝鮮、ALPS処理水などについて取り上げ、日本の立場を明確に述べた。

これに対し、ASEAN諸国からは、南シナ海における航行・上空飛行の自由の重要性、法の支配に基づく国際秩序の重要性、朝鮮半島の非核化や拉致問題の解決の重要性について発言があった。

12月には東京において日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議を開催し、過去半世紀の日・ASEAN関係を総括した上で、新たな協力のビジョンを示す「日・ASEAN友好協力に関する共同ビジョン・ステートメント」とその具体的な協力の「実施計画」を採択した。共同ビジョン・ステートメントは、副題として「信頼のパートナー」を掲げ、半世紀に亘(わた)り築かれた信頼こそが、日・ASEAN関係の根幹であることを示した。また、日・ASEANが目指す世界のビジョンとして、全ての国が平和と繁栄を追求でき、民主主義、法の支配、グッド・ガバナンス(良い統治)、人権と基本的自由の尊重といった原則が守られる世界、を掲げた。さらに、日・ASEANが、第一に、「世代を超えた心と心のパートナー」として、長年の信頼関係を次世代につなぎ、強化していくこと、第二に、「未来の経済・社会を共創するパートナー」として、共通の課題への解決策を見いだしていくこと、第三に、「平和と安定のためのパートナー」として、自由で開かれたインド太平洋を推進することを示した。さらに日本は、これらの三つの柱に対応して、次の具体的なアクションを打ち出した。すなわち、第一に、知的・文化交流・日本語パートナーズなどを含む包括的な人的交流プログラムとなる「次世代共創パートナーシップ-文化のWA2.0-」を立ち上げること、また、若手ビジネスリーダーなどの双方向の交流を更に推進すること、第二に、連結性強化、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想の実現を含む気候変動対策、中小零細企業・スタートアップ支援を重点に、オファー型協力などODAの新しい取組も活用して民間投資を一層後押しし、官民の連携に取り組むこと、さらに、「日・ASEAN次世代自動車産業共創イニシアティブ」を立ち上げること、第三に、「ヒロシマ・アクション・プラン」に基づく核軍縮・不拡散や、司法分野協力、女性・平和・安全保障(WPS)、サイバーセキュリティ、防衛交流・協力、政府安全保障能力強化支援(OSA)の展開を進めることを発表した。

日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議で共同議長を務めたジョコ・インドネシア大統領と共同記者発表に臨む岸田総理大臣(12月17日、写真提供:内閣広報室)
日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議で共同議長を務めたジョコ・インドネシア大統領と共同記者発表に臨む岸田総理大臣(12月17日、写真提供:内閣広報室)

これに対し、ASEAN諸国からは、幅広い分野における長年にわたる日・ASEAN協力の実績について、高い評価が示された。さらに、日本の新たな取組について、高い期待が示された。特別首脳会議では、上記三つの柱に対応した議論の中で地域・国際情勢についても扱い、岸田総理大臣からは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化が不可欠であると述べた上で、日本の立場を改めて説明した(87ページ 特集参照)。

特集日本ASEAN友好協力50周年
●日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議

2023年に日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)は友好協力50周年の歴史的節目を迎えました。12月にはASEAN諸国の首脳を東京に招いて特別首脳会議を開催し、成果文書として、新たな協力のビジョンを示す共同ビジョン・ステートメントとその実施計画を採択しました(85ページ 7(3)参照)。

特別首脳会議でのASEAN式集合写真(12月17日、東京 写真提供:内閣広報室)
特別首脳会議でのASEAN式集合写真(12月17日、東京 写真提供:内閣広報室)
●日・ASEAN関係の発展

日本は世界に先んじて1973年にASEANとの対話を開始しました。それから半世紀、ASEANは拡大し、統合し、飛躍的に発展しました。日・ASEAN関係には紆(う)余曲折もありましたが、日本は開発協力を通じて様々な分野でASEAN自身のイニシアティブを後押しし、その発展と統合の道のりを共に歩んできました。また、日本は長年にわたりASEANの主要な貿易相手であり、直接投資国です。近年、日本からASEAN諸国に対し、毎年平均して約2.8兆円規模の直接投資を行っています。さらにASEANにおける日本企業の事業所数は約1.5万に上り、各国で製品、サービスそして雇用を生み、経済発展に貢献する一方、成長著しいASEANの活力を日本経済に取り込む役目を果たしています。

日本とASEANの関係はビジネスにとどまりません。その関係の基盤となっているのは、「心と心」の触れ合う相互信頼関係です。それは1977年の「福田ドクトリン」1以来、長年にわたる幅広い分野での協力・交流によって育まれてきました。

また日本とASEANは、アジア通貨危機、スマトラ沖大地震及びインド洋大津波、東日本大震災、近年では新型コロナウイルス感染症の世界的流行拡大(パンデミック)など、試練に際して互いに手を差し伸べ合ってきました。こうした協力の積み重ねもあり、ASEANのある著名なシンクタンクの調査では、日本は主要国のうち、ASEANの最も信頼できるパートナーとして、5年連続で選ばれています。

●日本とASEANが直面する課題

現在、国際社会は歴史の転換点にあり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は重大な挑戦を受けています。また世界は、気候変動や格差、公衆衛生危機、デジタル化、AIガバナンスなど、複雑で複合的な課題に直面しています。

こうした中、武力行使禁止原則、法の支配やグッド・ガバナンス(良い統治)、民主主義、基本的自由や人権といった本質的な原則を共有する日本とASEANが、これまで以上に緊密に協力していくことが求められています。

ASEANは日本が掲げる法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現の要であり、日本はASEAN中心性・一体性を一貫して強く支持し、また、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」の主流化を後押ししていきます。

共同議長を務める岸田総理大臣(12月17日、東京 写真提供:内閣広報室)
共同議長を務める岸田総理大臣(12月17日、東京 写真提供:内閣広報室)
●日・ASEAN関係の未来

2023年には、日本とASEANの間で、実に13もの閣僚級会合が開催され、協力の幅広さを示しました。また官民双方で多くの記念行事や交流事業が実施されました。50周年を締めくくる特別首脳会議で採択された共同ビジョン・ステートメントは、第一に「世代を超えた心と心のパートナー」として、長年の信頼関係を次世代に繋(つな)ぎ、強化していくこと、第二に「未来の経済・社会を共創するパートナー」として、共通の課題への解決策を見いだしていくこと、第三に「平和と安定のためのパートナー」として、FOIPを推進することを掲げています。今後とも日本はASEANと共に、「信頼のパートナー」として、地域と世界の平和と安定、持続可能で繁栄した未来の「共創」のために取り組んでいきます。

1 福田赳夫総理大臣が、訪問先のフィリピン・マニラで表明した三つのASEAN外交原則を指す:(1)日本は軍事大国にならない、(2)ASEANと「心と心の触れあう」関係を構築する、(3)日本とASEANは対等なパートナーである。

(4)日・メコン首脳会議(参加国:カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム及び日本)

メコン地域(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ及びベトナム)は、インド太平洋の中核であり、力強い経済成長と将来性が見込まれる、日本の戦略的パートナーである。メコン地域の平和と繁栄は、ASEAN域内の格差是正や地域統合にも資するものであり、日本を含むアジア全体にとって極めて重要である。その観点から、2009年以降、日・メコン首脳会議を毎年開催してきた。2021年以降、新型コロナやミャンマー情勢などの事情により延期され、開催に至っていないが、日本は引き続き、日・メコン協力を着実に実施し、地域へのコミットメントを堅持する考えである。今後も日本は、メコン地域諸国にとって信頼のおけるパートナーとして、同地域の繁栄及び発展に貢献していく。

(5)ASEAN+3(参加国:ASEAN 10か国+日本、中国、韓国)

ASEAN+3は、1997年のアジア通貨危機を契機として、ASEANに日中韓の3か国が加わる形で発足し、金融や食料安全保障などの分野を中心に発展してきた。現在では、金融、農業・食料、教育、文化、観光、保健、エネルギー、環境など24の協力分野が存在し、「ASEAN+3協力作業計画(2023-2027)」の下、各分野で更なる協力を進めている。

7月に開催されたASEAN+3外相会議では林外務大臣から、日本は、引き続きAOIPの主流化を全面的に支持しており、AOIPの四つの優先分野に沿って以下のような具体的協力を進めていくと述べた。その内容は、(ア)海洋協力について、船舶の通航を支援する管制官の育成、海洋プラスチックごみ対策の計画策定や海洋モニタリングの支援、(イ)連結性について、日・ASEAN連結性イニシアティブの刷新を予定、(ウ)SDGsの達成に向けた、ASEAN+3緊急米備蓄やASEAN食料安全保障情報システム、ASEAN感染症対策センターの早期稼働、気候変動対策への支援の実施、(エ)経済・金融について、災害リスクファイナンス、アジア債券市場育成イニシアティブや、金融デジタル化の域内への影響の議論への貢献、となっている。また、ALPS処理水の海洋放出について、国際原子力機関(IAEA)報告書の結論を踏まえ、国際基準及び国際慣行に則(のっと)り実施するとの日本の立場を明確に説明した。

首脳会議では、岸田総理大臣から、インド太平洋地域が成長の中心(Epicentrum of Growth)であり続けるためには、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化することが不可欠であると強調した上で、ASEAN+3における日本の積極的な貢献の例として、地域金融協力、食料安全保障、ポスト・コロナ対策の取組を紹介し、日本はASEANの一体性・中心性を支持し、AOIPに沿った協力を重視していると述べた。

地域・国際情勢に関しては、岸田総理大臣から、北朝鮮、ミャンマー情勢について、日本の立場を明確に述べ、拉致問題の即時解決に向けて、各国に引き続き理解と協力を求めた。また、ALPS処理水の海洋放出に関し、国際基準及び国際慣行に則り、安全性に万全を期した上で実施されていることを説明した。最後に、ASEANが中心となり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた取組が進むよう、ASEAN+3の下での協力を強化していく決意を述べた。

(6)東アジア首脳会議(EAS)(参加国:ASEAN 10か国+日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、米国及びロシア)

EASは、政治・安全保障・経済に係る地域共通の懸念事項に関する戦略的対話及び協力を実施することを目的として、2005年に発足した。首脳主導の地域のプレミア(主要な)・フォーラムとして、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に貢献することが期待されている。

7月に開催されたEAS参加国外相会議では、林外務大臣は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を強調し、力による一方的な現状変更の試みは世界のどこであれ決して認められないと述べた上で、ロシアによるウクライナ侵略や台湾海峡、拉致問題を含む北朝鮮情勢、東シナ海及び南シナ海情勢、ミャンマー情勢について日本の立場を述べた。また、ALPS処理水の海洋放出について日本の立場を明確に説明した。

第13回EAS参加国外相会議に出席する林外務大臣(7月14日、インドネシア・ジャカルタ)
第13回EAS参加国外相会議に出席する林外務大臣
(7月14日、インドネシア・ジャカルタ)

9月に開催された第18回EASでは、岸田総理大臣は、ASEAN中心性・一体性及びAOIP主流化への支持を表明したほか、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化し、分断や対立ではなく、協調の国際社会を実現することの重要性を指摘し、力による一方的な現状変更の試みは世界のどこであれ決して認められないと述べた。

地域・国際情勢について、岸田総理大臣から、ロシアのウクライナ侵略により世界経済が直面する困難が深刻化しており、一日も早くロシアが部隊を撤退させ、ウクライナにおける公正かつ永続的な平和を実現することが重要であると述べた。また、ロシアによる核の威嚇は断じて受け入れられず、ましてやその使用はあってはならないと強調した上で、「核兵器のない世界」の実現に向けて「ヒロシマ・アクション・プラン」の下で現実的かつ実践的な取組を進めていくと述べた。

北朝鮮情勢について、岸田総理大臣は、北朝鮮による核・ミサイル活動の活発化を深刻に懸念し、北朝鮮の全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄の実現に向けて、国際社会が一体となり、安保理決議を完全に履行することが不可欠であると述べた。また、拉致問題の即時解決に向け、理解と協力を求めた。

東シナ海では、日本の主権を侵害する活動が継続・強化されており、強く反対すると述べ、南シナ海でも軍事化や威圧的な活動が継続しているとして、海洋権益の主張や海洋における活動は、国連海洋法条約(UNCLOS)の関連規定に基づきなされるべきであると指摘した。また、台湾海峡の平和と安定の重要性について指摘した上で、習近平(しゅうきんぺい)国家主席と共に日中両国の「建設的かつ安定的な関係」の構築を双方の努力で進めていくと発言し、そのために引き続きあらゆるレベルで緊密に意思疎通を図っていくと述べた。

ミャンマー情勢について、岸田総理大臣は、ミャンマー情勢が悪化の一途を辿(たど)っており、アウン・サウン・スー・チー国家最高顧問を含む被拘束者の解放などの政治的進展が見られないことへの深刻な懸念表明し、事態の打開に向けたASEANの取組を最大限後押ししていくと述べた。

最後に、ALPS処理水の海洋放出に関し、国際基準及び国際慣行に則り、安全性に万全を期した上で実施されていることを説明した。

(7)日中韓協力

日中韓協力は、地理的な近接性と歴史的な深いつながりを有している日中韓3か国間の交流や相互理解を促進するという観点から引き続き重要である。また、世界経済で大きな役割を果たし、東アジア地域の繁栄を牽引する原動力である日中韓3か国が、協力して国際社会の様々な課題に取り組むことには大きな潜在性がある。

11月26日には、韓国・釜山(プサン)において、4年ぶりに日中韓外相会議が開催された。この会議で、3か国の外相は、日中韓で未来志向かつ実務的な協力を進めていくことが、大局的な視点から、地域及び世界の平和と繁栄に重要であることを改めて確認した。また、今後の具体的な協力の方向として、(ア)人的交流、(イ)科学技術、(ウ)持続可能な開発、(エ)公衆衛生、(オ)経済協力・貿易、(カ)平和・安全保障の6分野を始めとする様々な分野における取組を進め、日中韓サミットに向けて3か国で議論を進めていくことで一致した。

第10回日中韓外相会議(11月26日、韓国・釜山)
第10回日中韓外相会議(11月26日、韓国・釜山)

地域・国際情勢に関しては、11月21日に衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射を行った北朝鮮を始め、イスラエル・パレスチナ情勢、ロシアによるウクライナ侵略など、現下の国際情勢についても議論した。特に北朝鮮については、上川外務大臣から、朝鮮半島の完全な非核化に向け、国連安保理決議の完全な履行を含め、しっかりと取り組むべきと述べ、拉致問題の即時解決に向けた引き続きの理解と協力を改めて求めた。

(8)アジア太平洋経済協力(APEC)(288ページ 第3章第3節3(3)参照)

APECは、アジア大洋州地域にある21の国・地域(エコノミー)で構成されており、各エコノミーの自主的な意思によって、地域経済統合と域内協力の推進を図っている。「世界の成長センター」と位置付けられるアジア太平洋地域の経済面における協力と信頼関係を強化していくことは、日本の一層の発展を目指す上で極めて重要である。

11月にサンフランシスコ(米国)で開催されたAPEC首脳会議では、首脳宣言「ゴールデンゲート宣言」が採択されたほか、米国からウクライナ情勢、イスラエル・パレスチナ情勢などに関する議長声明が発出された。首脳会議に出席した岸田総理大臣は、アジア太平洋地域の持続可能な成長に貢献していく決意を表明した。

(9)南アジア地域協力連合(SAARC)42

SAARCは、南アジア諸国民の福祉の増進、経済社会開発及び文化面での協力、協調などを目的として、1985年に正式発足した。2023年12月時点で、加盟国はインド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、ブータン、モルディブ、アフガニスタンの8か国、オブザーバーは日本を含む9か国・機関で、首脳会議や閣僚理事会(外相会合)などを通じ、経済、社会、文化などの分野を中心に、比較的穏やかな地域協力の枠組みとして協力を行ってきている。ただし、首脳会議は2014年、閣僚理事会は2016年を最後に開かれていない。日本は、SAARCとの間の青少年交流の一環として、2023年末までに8,758人を招へいしている。

(10)環インド洋連合(IORA)43

IORAは、環インド洋地域における経済面での協力推進を主な目的とした地域機構であり、日本は1999年から対話パートナー国として参加している。10月に開催された第23回IORA閣僚会合には高村正大外務大臣政務官が出席し、FOIPの実現に向けて、パートナー国としてIORAと引き続き協力していくとのスピーチを行った。

アジア大洋州地域の主要な枠組み
アジア大洋州地域の主要な枠組み

39 AOIP:ASEAN Outlook on the Indo-Pacific
2019年6月、ASEAN首脳会議において採択された、ASEANのアジア太平洋・インド洋地域への関与の指針。インド太平洋地域におけるASEAN中心性の強化に加え、開放性、透明性、包摂性、ルールに基づく枠組み、グッド・ガバナンス、主権の尊重、不干渉、既存の協力枠組みとの補完性、平等、相互尊重、相互信頼、互恵、国連憲章及び国連海洋法条約その他の関連する国連条約を含む国際法の尊重といった原則を基礎として、海洋協力、連結性、SDGs及び経済等の分野での協力の推進を掲げている。

40 2013年1月、フィリピン政府は、南シナ海をめぐる同国と中国との間の紛争に関し、国連海洋法条約(UNCLOS:United Nations Convention on the Law of the Sea)に基づく仲裁手続を開始した。比中仲裁判断は、2016年7月12日に、同手続において組織された仲裁裁判所が示した最終的な判断のこと。日本は、同日に外務大臣談話を発出し、「国連海洋法条約の規定に基づき、仲裁判断は最終的であり紛争当事国を法的に拘束するので、当事国は今回の仲裁判断に従う必要があり、これによって、今後、南シナ海における紛争の平和的解決につながっていくことを強く期待する」との立場を表明してきている。

41 COC:Code of Conduct in the South China Sea

42 SAARC:South Asian Association for Regional Cooperation

43 IORA:Indian Ocean Rim Association

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