外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

5 西部アフリカ地域

(1)ガーナ

2017年に発足したアクフォ=アド政権は、「援助を超えるガーナ(Ghana Beyond Aid)」構想を掲げ、投資の促進や産業の多角化を進めてきた。新型コロナの感染が拡大して以降は、新型コロナ対策や国内経済の立て直しに力を入れている。12月7日に実施された大統領選挙では、新愛国党(NPP)のアクフォ=アド大統領が再選を果たした。

日本は、ODAを通じて、長年にわたり、野口記念医学研究所を支援してきた。両国の友好の象徴とも言える同研究所は、同国のPCR検査の最大約8割を担い、新型コロナ対策の拠点として中心的な役割を果たした。

(2)ギニア

肥沃な土壌と豊富な鉱物資源を有するギニアでは、コンデ大統領の下で社会経済開発に向けた取組が進められている。内政面では、3月、国民議会選挙及び憲法改正に関する国民投票が実施された。10月、新憲法に基づき大統領選挙が実施され、12月にはコンデ大統領の就任式が行われた。

コンデ大統領は大統領就任以来3回訪日し(2013年2017年及び2019年)、日・ギニア関係は良好である。ジャンベ(伝統的太鼓)を通じた交流も行われるなど、草の根レベルでの交流も行われている。

(3)ギニアビサウ

ギニアビサウは、豊かな土地、水産資源や鉱物資源をいかし、貧困と政情不安からの脱却を目指している。同国では、2019年11月に大統領選挙が実施され、2020年1月、エンバロ候補が新大統領に選出された。

日本はギニアビサウに対し、貧困削減に資する基礎的生活分野を中心に支援を実施している。上記大統領選挙の際には、UNDPと連携し選挙関連機材の供与を実施した。

(4)コートジボワール

西アフリカ地域の中核国であるコートジボワールでは、10月に大統領選挙が実施され、ウワタラ大統領が再選を果たした。ウワタラ大統領は、与野党間の和解の促進など、同国の更なる発展の礎を強固なものとするための取組を進めている。

日・コートジボワール関係は良好であり、2020年、両国は外交関係樹立60周年を迎えた。1月に署名された日・コートジボワール投資協定により、今後、二国間のビジネス関係が促進されることが期待される。

(5)セネガル

セネガルには、2月、日本から中谷外務大臣政務官を団長とするアフリカ貿易・投資促進官民合同ミッションが派遣され、日本企業20社が参加した。サル大統領を始めとするセネガル側から、日本企業の投資促進への期待が表明された。また、同ミッションの派遣に合わせ、2019年8月の第7回アフリカ開発会議(TICAD7)により設置された日・セネガル経済委員会の第1回会合が開催された。

2020年、日・セネガル両国は、外交関係樹立60周年及び国際協力機構(JICA)海外協力隊のセネガル派遣開始40周年を祝賀し、両国において記念行事が行われた。10月にダカールで行われた在セネガル日本国大使館主催の記念レセプションには、セネガル政府から外相及び経済相が出席した。また、11月に東京で行われた駐日セネガル大使館主催の記念式典には、鷲尾英一郎外務副大臣が出席した。

2021年1月には、茂木外務大臣がセネガルを訪問し、サル大統領への表敬やタル外相との2度の外相会談などを行った。茂木外務大臣の訪問を通じ、両国は、長年の友好関係を礎として、重層的な協力関係を強化していくことで一致した。

日・セネガル外相会談(2021年1月11日、セネガル・ダカール)
日・セネガル外相会談(2021年1月11日、セネガル・ダカール)

(6)トーゴ

トーゴは、2月の大統領選挙で4選を果たしたニャシンベ大統領の強い指導力の下、民主化の進展、国民生活の改善、西アフリカ地域の安定などに積極的に取り組んでいる。9月、ドグベ首相が任命され、10月には新内閣が組閣された。

日・トーゴ関係は良好であり、2020年、両国は外交関係樹立60周年を迎えた。ニャシンベ大統領は、東日本大震災被災地を2度にわたり慰問するなど親日家として知られている。9月には宮崎県日向市、駐日トーゴ共和国大使館、一般社団法人日本トーゴ友好協会の間で相互協力協定が締結された。

(7)ナイジェリア

2019年の大統領選挙で再選を果たしたブハリ大統領は、経済、治安、汚職対策という三つの柱に優先的に取り組んでいる。特に、治安面では、「ボコ・ハラム」や「イスラム国(IS)西アフリカ州」(ISWAP)4による同国北東部におけるテロ問題について、周辺国と連携して対策に当たっている。

2020年、日・ナイジェリア両国は、外交関係樹立60周年を迎えた。日本は、ナイジェリアの新型コロナ対策で重要な役割を担うナイジェリア疾病予防センター(NCDC)などへの支援を実施している。また、多くの日本企業がナイジェリアの高い経済的潜在性に関心を示している。こうした中、2021年1月、茂木外務大臣は、オンエアマ外相と電話会談を行い、新型コロナ対策や開発課題、ビジネス関係を含め、協力を推進していくことで一致した。

(8)ニジェール

ニジェールでは、12月に大統領選挙第1回投票が平和裡に行われ、上位2候補が2021年の決選投票に進んだ。

日・ニジェール関係は良好であり、2020年、両国は外交関係樹立60周年を迎えた。9月、同国において全国的な大規模洪水の被害が発生した際、日本は、テントや浄水器などの緊急援助物資を供与した。

(9)ブルキナファソ

ブルキナファソでは、2015年にカボレ大統領が就任して以来、政治情勢は比較的安定している。一方、近年テロが度々発生し、治安の悪化に直面している。カボレ大統領は、11月の大統領選挙において、治安改善を優先課題として取り組むことを表明し、再選された。同選挙は平穏裡に実施され、同国における民主主義の進展が裏付けられた。

日・ブルキナファソ関係は良好であり、2020年、両国は外交関係樹立60周年を迎えた。日本は3月及び8月、同国の国内避難民の増加を受けた緊急無償資金協力を実施した。

(10)マリ

マリでは、8月、国軍の一部兵士が武装蜂起し、ケイタ大統領が辞任、反乱指導者のゴイタ大佐が権力を掌握した。その後、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)調停団との協議を経て、9月にンダオ暫定大統領が就任し、10月にウアンヌ暫定首相率いる暫定内閣が発足した。暫定政権は、18か月以内に大統領選挙及び国民議会選挙を実施すべく、準備を進めている。マリには、国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA)5、フランス軍などが展開し、平和維持やテロ対処のため活動している。

日・マリ関係は良好であり、2020年、両国は外交関係樹立60周年を迎えた。日本は、治安対策機材供与や国連平和維持活動(PKO)訓練センター支援などを実施し、マリの治安改善に向けた取組を支援している。

(11)モーリタニア

モーリタニアは、2019年8月に就任したガズワニ大統領の下、安定した政権運営を行っている。同国は、サヘル地域における平和と安定のための取組を重視しており、2020年にはG5サヘル6の議長を務めた。また、経済面では、豊富な水産資源及び鉱物・エネルギー資源の輸出を基盤としている。近年は、沖合の石油・ガス開発への期待が高まっている。

日本とモーリタニアは水産分野を始め良好な関係にあり、2020年、両国は外交関係樹立60周年を迎えた。日本はモーリタニアに対し、水産分野での能力強化支援に加え、食糧援助を通じ同国の食料安全保障に向けた取組を支援している。

「アフリカの年」から60年目の日本外交
立命館大学国際関係学部教授 白戸圭一
立命館大学国際関係学部教授 白戸圭一

アフリカ大陸で17か国が独立した1960年は「アフリカの年」として知られています。西側の一員としての地位の確保と戦後処理が最優先課題であった当時の日本に、体系的な対アフリカ外交は存在しなかったといっても過言ではないでしょう。

そうした状況が変わり始めたのは、1970年代前半でした。65年の日韓基本条約と72年の日中国交正常化で戦後処理に一定の目処が立ったことに加えて、73年に第1次石油危機が発生したために、日本政府はアフリカを石油供給源として位置付けます。さらに国連における「票田」としてアフリカ諸国との関係を強化すべきとの考えも強まり、当時の木村俊夫外務大臣が74年10月から11月にかけて、日本の外務大臣として初めてアフリカ5か国を歴訪しました。日本の対アフリカ外交は、それまで事実上視界の外にあったアフリカに初めて目を向け、アフリカとの関係強化から若干の「利益」を得ることから始まったと言えるでしょう。

対アフリカ政策の大きな転機は、80年代後半から90年代初頭の冷戦終結期に訪れました。世界の構造が激変する中、従来の敗戦国としての「受け身の外交」ではなく、国際社会の秩序形成に関与するProactive Diplomacy(打って出る外交)を実践すべきという考えが外務省内で強まりました。そうした考えを具現化したのが、1993年に始まったアフリカ開発会議(TICAD)プロセスです。1回目となるTICADIでは「アフリカをどう援助するか」ではなく、「国際社会がアフリカ諸国と開発の理念を共有すること」が重視され、日本はその議論の先頭に立とうとしました。これ以降の日本の対アフリカ外交は10年以上にわたり、開発の在り方や人間の安全保障などの「価値」や「理念」を重視したものとなりました。

こうして展開されてきた日本の対アフリカ外交は21世紀に入り、アフリカ諸国の高度経済成長という新たな状況を反映し、民間投資の促進を重視する方向に変容してきました。アフリカ開発の資金の主役が援助から投資へ変わったことにより、日本企業をアフリカビジネスの世界へ誘い、日本とアフリカ諸国の双方に「利益」をもたらすことが、近年の日本の対アフリカ外交の柱となっています。

「アフリカの年」から60年目の2020年。このように「利益」に強くコミットする対アフリカ外交が志向されている中で、私たちは新型コロナウイルス感染症のパンデミックに遭遇しました。コロナ禍は、経済成長による「利益」の追求だけでは人間社会は立ち行かず、格差や貧困といった問題に取り組むことの重要性を改めて浮き彫りにしたでしょう。2022年にチュニジアで開催される8回目のTICADに向けて、日本の対アフリカ外交が「利益」と「価値」を共に追求していくことを期待しています。

4 ISWAP:Islamic State West Africa Province

5 MINUSMA:United Nations Multidimensional Integrated Stabilization Mission in Mali

6 サヘル地域5か国(ブルキナファソ、チャド、マリ、モーリタニア及びニジェール)による、治安、開発及びガバナンスなどに関する協力の枠組み

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