第1節 自由で開かれた国際経済システムを強化するためのルール作りの推進
1 経済外交の概観
国際社会においては、政治・経済・軍事の各分野における国家間の競争が顕在化する中、パワーバランスの変化がより加速化・複雑化するとともに、既存の国際秩序をめぐる不確実性が高まっている。特に経済面での保護主義の台頭、貿易上の紛争といった課題に加え、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)は、経済活動の停滞や需要の急減、人の移動の制限といった形で世界経済に甚大な影響を与えた。また、特定の産品を特定国に依存するサプライチェーンにおける課題も明らかとなった。
こうした中、日本は、経済連携による貿易自由化とルール作りの努力を継続した。その結果、2020年は日英包括的経済連携協定(日英EPA)の締結(151ページ 特集参照)、地域的な包括的経済連携(RCEP)1協定の署名に至った。これにより、発効済みの日米貿易協定、環太平洋パートナーシップ協定(TPP11協定)2、日・EU経済連携協定(日EU・EPA)と合わせて世界のGDPの8割をカバーする自由な経済圏が形成されることになる。また、世界貿易機関(WTO)3については、多角的貿易体制の礎でありつつも、新興国の台頭やデジタル化の進展に対応できておらず、新型コロナで世界貿易が縮減する中、その改革(157ページ 特集参照)は待ったなしである。2021年に延期された第12回閣僚会議に向けて、関係国と連携して改革を先導しなければならない。
日本は、①経済連携協定の推進や多角的貿易体制の維持・強化といった、自由で開かれた国際経済システムを強化するためのルール作りや国際機関における取組、②官民連携の推進による日本企業の海外展開支援及び③資源外交とインバウンドの促進の三つの側面を軸に、外交の重点分野の一つである経済外交の推進を加速すべく取組を進めてきた。
1 RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership
2 CPTPP:Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific
3 WTO:World Trade Organization