2 領事サービスと日本人の生活・活動支援
(1)領事サービスの向上とデジタル化の推進
ア 領事サービスの向上
海外の日本人に良質な領事サービスを提供できるよう、在外公館の領事窓口・電話での職員の対応や業務実施状況などが在留邦人にどのように受け止められているかについてのアンケート調査を実施しており、2025年1月にも151公館を対象とした調査を実施した。アンケートで寄せられた利用者の声を真摯に受け止め、利用者の視点に立ったより良い領事サービスを提供できるよう、サービスの向上・改善に引き続き努めていく。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/questionnaire/index.html

イ デジタル化の推進
外務省は、利用者の利便性向上及び領事業務合理化の観点から、領事サービスのオンライン申請及び領事手数料のオンライン決済を導入し、その対象を拡充してきており、これにより窓口への往訪回数を減らすなどの成果が見られている。これを踏まえ、更なる利便性の向上を目指して領事手続のデジタル化を進めており、4月1日からは、法務省の戸籍情報連携システムとの連携により、戸籍に係る在外公館への届出時に、これまで申請者が本籍地市区町村から取り寄せていた戸籍謄本などの添付が原則として不要となった。外務省としては、領事業務のデジタル化を通じて、邦人保護といった「人」による対応が不可欠な業務に領事担当官が専念できる環境を整備することで、領事実施体制を強化していく。
(2)旅券(パスポート):信頼性の維持と利便性向上・業務効率化
新型コロナ終息後、諸外国における入国制限措置などが撤廃され、日本人の海外渡航も増加する中、旅券申請数は、前年に続き回復傾向が顕著であるものの、新型コロナ流行下以前の水準には達していない(2024年の旅券発行数は約382万冊、2023年比108.3%増。新型コロナ流行下前の2019年は約449万冊発行)(2)。

旅券発給に関しては、2023年3月27日から開始されたオンライン申請がその範囲を徐々に拡大してきたが、2025年3月24日から、全ての都道府県において新規発給・切替発給のいずれもオンライン申請・オンライン納付の利用が可能となった。あわせて、戸籍情報がシステム上自動的に連携されることとなり、戸籍謄本の原本提出が省略され、申請者にとっての利便性が向上した。国外においても、オンライン在留届のシステム(ORRネット)からのパスポート申請が可能となっている。
また、同3月24日から、独立行政法人国立印刷局において偽変造対策を大幅に強化した「2025年旅券」(顔写真ページがプラスチック製になりレーザーで印字・印画)の発給を開始した(332ページ コラム参照)。
他人になりすます方法によって旅券を不正取得する事案は引き続き発生しており(3)、対面での交付などを通じた本人確認や顔認証技術による写真照合などによる、不正取得防止対策の更なる強化にも努めた。
引き続き、旅券の国際標準を定める国際民間航空機関(ICAO)での検討を踏まえつつ、旅券の信頼性の維持、申請者の利便性向上及び旅券業務の効率化に取り組んでいく。
(3)在外選挙
在外選挙制度は、海外に在住する有権者が国政選挙で投票するための制度である。在外選挙制度を利用して投票するためには、事前に市区町村選挙管理委員会が管理する在外選挙人名簿への登録を申請の上、在外選挙人証を入手する必要がある。2018年6月から、国外転出の届出と同時に市区町村選挙管理委員会の窓口で在外選挙人名簿への登録を申請することが可能となり、手続の簡素化が図られた。2024年には、7月に申請に係るデータを在外公館と市区町村選挙管理委員会との間で直接送受信する取組が始まり、これにより在外選挙人証の交付手続の大幅な迅速化が図られた。

在外公館では、管轄地域での在外選挙制度の広報や遠隔地での領事出張サービスなどを通じて、制度の普及と登録者数の増加に努めているほか、選挙が実施される際は、事前の広報を含め、在外公館投票事務も担う。10月には、第50回衆議院議員総選挙の実施に伴い、17回目となる在外公館投票を231公館・事務所で実施した。また、衆議院議員総選挙と同一の日程で、参議院議員補欠選挙のほか、在外では初めてとなる最高裁判所裁判官国民審査が実施された。2025年においても、引き続き登録者数増加や在外公館投票に向けた広報活動などに取り組んでいく。
(4)国外転出者向けマイナンバーカードの申請・交付
デジタル化の進展に伴うマイナンバーカードの普及及び利用の促進のため、5月27日から、国外転出時に市町村で手続を行うことでカードの国外継続利用ができるほか、そのような手続をせずに出国した場合でも、市町村又は在外公館宛てに郵送等で申請を行うことで、在外公館などで新たにカードを受領することが可能となる。同カードの更なる利用促進について、外務省は、関係省庁と連携しながら引き続き検討を進めていく。
(5)海外での日本人の生活・活動に対する支援
ア 日本人学校、補習授業校
海外で生活する日本人にとって、子供の教育は大きな関心事項の一つである。外務省は、日本国憲法の精神及び2022年に成立・施行された「在外教育施設における教育の振興に関する法律」に基づき、義務教育相当年齢の児童・生徒が海外でも日本と同程度の教育を受けられるよう、文部科学省などと連携して日本人学校への支援(校舎借料、現地採用教師・講師謝金、安全対策費などへの支援)を行っており、また、主に日本人学校が存在しない地域に設置されている補習授業校(国語などの学力維持のために設置されている教育施設)に対しても、日本人学校と同様の支援を行っている。
特に、海外においても日本の児童・生徒が安心して学べる環境を守ることは、最も重要な点である。2024年6月に中国の蘇(そ)州で、9月に深圳(せん)で発生した日本人学校児童等殺傷事件を受け、外務省としては、補正予算の必要な予算措置を講じた上で、スクールバス同乗を含む警備員の増強など、中国各地の日本人学校の安全対策の強化を支援している。引き続き、こうした取組を通じて、日本人学校、補習授業校といった各在外教育施設における安全確保に万全を期していく。
イ 医療・保健対策
外務省は、海外で流行している感染症などの情報を収集し、海外安全ホームページや在外公館ホームページ、領事メールなどを通じ、広く提供している。また、在外公館ホームページでは、日本語が通じる現地の医療機関についての情報を提供しているほか、在外公館で勤務する医務官が現地で収集した情報を「世界の医療事情」として外務省ホームページに掲載している。さらに、医療事情の悪い国に滞在する日本人に対する健康相談を実施するため、国内医療機関の協力を得て巡回医師団を派遣している。
ウ その他のニーズへの対応
外務省は、海外に在住する日本人の滞在国での各種手続(運転免許証の切替え、滞在・労働許可の取得など)の煩雑さを解消し、より円滑に生活できるようにするため、滞在国の当局に対する働きかけを継続している。
例えば、在留邦人が滞在国の運転免許証を取得する際に試験を課している国・州に対して、手続が簡素化されるよう働きかけを行っている。
また、日本国外に居住する原子爆弾被爆者が在外公館を経由して原爆症認定及び健康診断受診者証の交付を申請する際の手続の支援も行っている。
さらに、在外邦人の孤独・孤立対策については、外務省は「海外での滞在や生活等に関する基礎調査」を行い、2024年6月にその結果を公表した。同時に、国内NPOと連携しながら海外の個別案件にきめ細かに対応している。
(2) 出典:日本政府観光局(JNTO)
(3) 2019年は8冊、2020年は3冊、2021年は3冊、2022年は3冊、2023年は5冊、2024年は2冊のなりすまし不正取得事案を把握