2 日米安全保障(安保)体制
(1)日米安保総論
日本を取り巻く安全保障環境が格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増している中、日米安保体制を強化し、日米同盟の抑止力を向上させていくことは、日本の平和と安全のみならず、インド太平洋地域の平和と安定にとって不可欠である。日米両国は、首脳間の強力な信頼関係の下で日米同盟がかつてなく強固である中、ガイドライン及び平和安全法制の下で、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化しており、弾道ミサイル防衛、サイバー、宇宙、海洋安全保障などの幅広い分野における協力を拡大・強化している。さらに、普天間(ふてんま)飛行場の移設や在沖縄海兵隊約9,000人のグアムなどへの国外移転を始めとする在日米軍再編についても、在日米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄を始めとする地元の負担を軽減するため、日米で緊密に連携して取り組んできている。
(2)日米安保各論
ア 日米安保・防衛協力の概観
2015年4月の日米安全保障協議委員会(「2+2」)において公表した日米防衛協力のための指針(ガイドライン)は、日米両国の防衛協力について、一般的な大枠及び政策的な方向性を見直し、更新したものである。同ガイドラインの下で設置された同盟調整メカニズム(ACM)を通じて、日米両国は緊密な情報共有及び共通情勢認識の構築を行い、平時から緊急事態まで「切れ目のない」対応を実施してきている。2019年4月に開催された「2+2」において、日米の4閣僚は、日米同盟がインド太平洋地域の平和、安全及び繁栄の礎であること、日米両国が共に「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に取り組むこと、また、宇宙、サイバー及び電磁波といった新たな領域における能力向上を含む領域横断(クロス・ドメイン)作戦のための協力を強化していくことで一致するとともに、一定の場合にはサイバー攻撃が日米安全保障条約第5条にいう武力攻撃に当たり得ることを確認した。また、同会合において同第5条が尖閣諸島に適用されること及び両国が同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対することを再確認した。また、2019年1月にリチャードソン米国海軍作戦部長、3月にネラー米国海兵隊司令官、6月にシャナハン米国国防長官代行、8月にエスパー米国国防長官及びバーガー米国海兵隊司令官、10月にデービッドソン米国インド太平洋軍司令官、11月にミリ-米国統合参謀本部議長が訪日するなど、ハイレベルの人的交流が活発に行われている。加えて、6月及び12月には日米拡大抑止協議を開催し、日米同盟の抑止力を確保する方途について率直な意見交換を行った。このような多層的な取組を通じ、米国との間で安全保障・防衛協力を引き続き推進し、同盟の抑止力・対処力を一層強化していく。
イ 弾道ミサイル防衛(BMD)
日本は、2006年以降実施している能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックIIA)の日米共同開発及び共同生産の着実な実施を始め、米国との協力を継続的に行いつつ、2017年には陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)の導入を決定するなど、BMDシステムの着実な整備に努めており、いかなる事態においても日本に対する弾道ミサイルの脅威から国民の生命・財産を守るべく、万全の態勢をとっている。
ウ サイバー
日米両国は、10月に第7回日米サイバー対話を東京で開催した。日米両国の政府横断的な取組の必要性を踏まえ、2018年7月に開催された第6回対話などのフォローアップを行うとともに、日米双方の関係者が、情勢認識、両国におけるサイバー政策、国際場裡(じょうり)における協力、能力構築支援など、サイバーに関する日米協力について幅広い議論を行った。
エ 宇宙
日米両国は、7月の包括的宇宙対話第6回会合などにおいて、宇宙に関する幅広い協力の在り方について議論を行った。日米両国は、宇宙状況監視(SSA)情報などの相互提供、ホステッド・ペイロード(人工衛星へのミッション器材の相乗り)協力の具体的検討など、宇宙の安全保障分野での協力を引き続き進めている。
オ 3か国間・多数国間協力
日米両国は、インド太平洋地域における同盟国やパートナーとの安全保障・防衛協力を重視している。4月の日米「2+2」では、日米韓で緊密に連携していくことで一致した。5月の日米首脳会談などにおいても、日米印、日米豪、日米豪印を含め、地域における同盟国・友好国のネットワークを引き続き強化・拡大することで一致した。6月には第2回日米印首脳会合が行われ、「自由で開かれたインド太平洋」の維持・推進における3か国の協力が極めて重要な意義を有することを改めて確認し、特に海洋安全保障、宇宙・サイバー空間を含む新たな領域における安全保障、質の高いインフラ投資の推進などを含む分野において、協力を強化していくことで一致した。また、9月には日米豪印閣僚級協議が行われ、4か国は、自由で開かれ繁栄し、包摂的なインド太平洋を推進するための共同の努力について意見交換を行った。
カ 情報保全
情報保全は、同盟関係における協力を進める上で決定的に重要な役割を果たすものである。こうした観点から、日米両国は、情報保全に係る協力を強化すべく、引き続き協議を行っている。
キ 海洋安全保障
日米両国は、東アジア首脳会議(EAS)やASEAN地域フォーラム(ARF)などの場で、海洋をめぐる問題を国際法にのっとって解決することの重要性を訴えている。2015年4月に公表したガイドラインにおいても、日米両国は、航行の自由を含む国際法に基づく海洋秩序を維持するための措置に関し、相互に緊密に協力するとしている。また、2019年4月の「2+2」で、日米の4閣僚は、共同訓練や寄港などを通じ、地域のパートナー国とも連携しつつ、日米が共同で地域におけるプレゼンスを高めていくことを確認した。
(3)在日米軍再編
政府は、早期の辺野古(へのこ)への移設と普天間飛行場の返還を含む在日米軍再編を着実に進め、在日米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄を始めとする地元の負担軽減に引き続き全力で取り組んでいく。

2017年2月の日米共同声明において、日米両政府は、普天間飛行場の代替施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に建設することが、普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策であることを首脳レベルの文書で初めて確認した。また、2019年4月の「2+2」共同声明において、日米両政府は、普天間飛行場代替施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に建設する計画が、普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策であることを再確認し、同計画を可能な限り早期に完了するとの強い決意を強調した。
在沖縄海兵隊約9,000人のグアムなど国外への移転(グアム移転は2020年代前半に開始)や、2013年4月の「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」に基づく嘉手納(かでな)以南の土地返還などについても、引き続き、着実に計画を実施すべく日米間で緊密に連携していく。
2017年12月に北部訓練場の過半(約4,000ヘクタール)、2018年3月にはキャンプ瑞慶覧(ずけらん)西普天間住宅地区(約51ヘクタール)の引渡しが行われたほか、2017年7月には普天間飛行場の東側沿いの土地(約4ヘクタール)、2018年3月には、牧港補給地区の国道58号線沿いの土地(約3ヘクタール)、2019年3月には同地区の第5ゲート付近の区域(約2ヘクタール)の返還が実現した。また、2006年5月の「再編の実施のための日米ロードマップ」に基づく米海兵隊の空中給油機KC-130部隊の鹿屋(かのや)基地へのローテーション展開については、2019年9月から開始した。これにより、KC-130部隊及び空母艦載機部隊の岩国飛行場への移駐に伴う運用の増大による影響が緩和されることになる。
(4)在日米軍駐留経費負担(HNS)
日本を取り巻く安全保障環境が格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増している中、日本は、在日米軍の円滑かつ効果的な運用を支えることが重要であるとの観点から、日米地位協定で定められた範囲内で、在日米軍施設・区域の土地の賃料、提供施設の整備(FIP)費などを負担している。このほか、特別協定を締結し、駐留軍等労働者の労務費、光熱水料等及び訓練移転費を負担している。
日本政府は、日米地位協定及び2016年4月1日に発効した特別協定(2020年度末まで有効)に基づき、在日米軍駐留経費負担(HNS)を負担している。
(5)在日米軍の駐留に関する諸問題
日米安保体制の円滑かつ効果的な運用とその要である在日米軍の安定的な駐留の確保のためには、在日米軍の活動が周辺の住民に与える負担を軽減し、米軍の駐留に関する住民の理解と支持を得ることが重要である。特に、在日米軍の施設・区域が集中する沖縄の負担軽減を進める重要性については、2018年4月の日米首脳会談や2019年4月の「2+2」を始め、累次の機会に日米間で確認してきている。日本政府は、在日米軍再編に引き続き取り組む一方で、2015年に締結された日米地位協定の環境補足協定、2017年に締結された日米地位協定の軍属補足協定の着実な実施を含め、米軍関係者による事件・事故の防止・対応、米軍機による騒音の軽減、在日米軍の施設・区域における環境問題などの在日米軍の駐留に関する様々な具体的な問題について、地元の要望を踏まえ、改善に向けて最大限の努力を払ってきている。2019年7月には、在日米軍の施設・区域外での米軍機事故に関するガイドラインを改定し、日米の関係者による制限区域内への立入りが、迅速かつ早期に行われることを明記した。
また、2019年4月には、沖縄県の24人の高校生・大学生などを米国に派遣する第2回「アメリカで沖縄の未来を考える」(TOFU:Think of Okinawa's Future in the United States)プログラムを実施した。このプログラムは、沖縄の若者が同盟国・米国のありのままの姿や国際社会における日本の役割を目の当たりにする機会を設け、現地の要人・若者らと英語で交流することを通じ、相互理解の増進を図ることを目的としたものである(コラム参照)。
~アメリカで沖縄の未来を考える~
外務省では、2018年からTOFU(Think of Okinawa's Future in the U.S.)(アメリカで沖縄の未来を考える)プログラムの下、グローバルな視点で日米関係を見つめ、国際社会で活躍する人材を育成するため、沖縄の未来を担う高校生・大学生を米国に派遣しています。第2回目となる2019年3月、24人の学生たちが沖縄県の代表として約1週間ワシントンD.C.とニューヨークを訪れました。このコラムでは、プログラム参加者の感想を紹介します。
ワシントンD.C.では国務省を訪問し、「ある国で火山噴火やデモが起こっている中で、日本大使館とアメリカ大使館のチームに分かれて、自分たちの国民をどのように避難・救助させるか」という議題で、外交官の業務を体験するロールプレイングをしました。限られた時間の中で最善策を考えるのはとても難しく、学生一同頭を悩ませましたが、楽しく取り組むことができ、とても貴重な体験となりました。また、ホワイトハウス、米国議会議事堂、国立公文書館、在米国日本国大使館を訪問したほか、地元の中高生と交流して、空手、琉球舞踊、茶道、漢字などの日本・沖縄の文化や魅力について発表しました。ニューヨークでは、別所国連代表部大使や小松原国連開発計画(UNDP)アフリカ局TICADプログラムアドバイザーの話を伺った後、ケネディ元駐日米国大使にお会いしました。私達は沖縄の基地問題について意見や質問を述べました。沖縄県内では、世代別で基地に対する見方が違うので、基地の撤去や移設など非常に難しい問題だと沖縄県民も感じています。ケネディ氏は「米軍関係者は常に最善策を考えている。」とおっしゃり、基地の存在を沖縄の強みに変える必要があると思いました。

(3月21日、米国・ワシントンDC)
プログラム終了後は、経験したことを沖縄に持ち帰り、SNSで情報を発信したり、母校で報告会を実施しました。また、TOFUを通じて、ニュースを見たり、新聞を読む回数も増えました。
日常生活では決してお会いすることのできない方々とお会いし、意見交換ができ、この経験は私の人生の財産になりました。
今回のプログラムではケネディ元駐日米国大使を始め、普段政治の第一線で活躍される方々に私たちの思いを直接届けることができた嬉(うれ)しさに加え、遠い存在だと思っていた政治や社会問題に私たちも関与しているという実感が湧きました。私が特に印象に残っていることは、ホワイトハウスで私が質問したこととケネディ氏との交流です。私たちが渡米したのはホワイトハウスの嘆願書サイトに辺野古(へのこ)移設反対の署名が数多く寄せられた時期でした。私はこの署名活動が本当に届いているのか半信半疑でしたが、署名はしっかり届いており、国外でもこの問題をどうにかしようと検討していることを再認識しました。また、ケネディ氏は政治問題だけでなく沖縄と米国の高校生間の交流や伝統文化を大切にされており、心から沖縄を愛してくれている様子に親近感を感じました。

意見交換を行ったTOFUプログラム参加者
(3月25日、米国・ニューヨーク)
今回の経験を通して沖縄は世界に誇れる島だということを強く感じました。だからこそ沖縄の良さも課題点も発信することで様々な視点から捉えることができ、沖縄のより良い未来のために貢献できるのではないかと感じました。今回学んだことを忘れず、これからも沖縄のためにできることを精一杯努めていきたいです。
(6)朝鮮国連軍と在日米軍
1950年6月の朝鮮戦争の勃発に伴い、同月の国連安保理決議第83号及び同年7月の同決議第84号に基づき、同年7月に朝鮮国連軍が創設された。1953年7月の休戦協定成立を経た後、1957年7月に朝鮮国連軍司令部が韓国・ソウルに移されたことに伴い、日本に朝鮮国連軍後方司令部が設立された。現在、同後方司令部は、横田飛行場に設置され、司令官ほか4人が常駐しているほか、9か国の駐在武官が朝鮮国連軍連絡将校として在京各国大使館に常駐している。朝鮮国連軍は、日本との国連軍地位協定第5条に基づき、朝鮮国連軍に対して兵たん上の援助を与えるため必要な最小限度の在日米軍施設・区域を使用できる。現在、朝鮮国連軍には、キャンプ座間、横須賀海軍施設、佐世保海軍施設、横田飛行場、嘉手納飛行場、普天間飛行場及びホワイトビーチ地区の7か所の使用が認められている。
2019年5月には、エイブラムス国連軍・米韓連合軍・在韓米軍司令官が河野外務大臣を表敬し、両者は日本と国連軍の長きにわたるパートナーシップについて再確認した。また、7月には、合同会議が日本政府と国連軍との間で開催され、施設・区域の使用に関する事項を除けば、60数年ぶりに実質的な議論が行われた。同会議では、朝鮮半島情勢について議論するとともに、日本における国連軍に係る事件・事故発生時における通報手続に合意した。引き続き国連軍と緊密に連携していく。