第7節 アフリカ
1 概観
アフリカは、54か国に13億人を超える人口を擁し、高い潜在性と豊富な天然資源により国際社会の関心を集めてきた。国連などの多国間の枠組みにおける影響力は大きく、また、5月にはアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA1)設立協定が発効するなど、経済成長に向けたアフリカ自身の取組が進展した。さらに、アビィ・エチオピア首相のノーベル平和賞受賞に象徴されるように、地域の安定化に向けたアフリカ主導の紛争解決努力が進められている。
一方、政情不安、深刻な格差・貧困、脆弱(ぜいじゃく)な保健システム、若者を中心とする失業を含む従来の課題に加え、テロ・暴力的過激主義は引き続き活発であり、また、一部の国では公的債務の増加に伴う財政状況の悪化など、新たな課題が顕在化している。こうした課題の克服は、アフリカだけでなく、国際社会全体の平和と繁栄にとっても重要である。
日本は1993年に、アフリカのオーナーシップ(自助努力)の尊重と日本を含む国際社会とのパートナーシップ(協調)の推進を基本理念としてアフリカ開発会議(TICAD2)を発足させ、アフリカの取組を後押ししてきた。
8月に横浜で開催されたTICAD7では、42人の首脳級を含むアフリカ53か国、開発パートナー国・国際機関、市民社会が参加する中、「経済」、「社会」、「平和と安定」の三つの柱の下、アフリカの開発に関する議論を行った。特に、今回のTICADでは、ビジネスの促進を議論の中心に据えた(6ページ 巻頭特集及び134ページ 特集参照)。
一つ目の「経済」では、民間部門のより積極的な関与、質の高いインフラ投資を通じた連結性の向上、人材育成、ブルーエコノミー3の推進を含む産業の多角化、債務の透明性及び持続可能性を含む健全な財政運営といった点がアフリカの持続可能な経済成長に向けた鍵になることが確認された。
二つ目の「社会」では、持続可能で強靱(きょうじん)な社会の深化に向け、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)推進を含む保健、科学技術イノベーション(STI4)、環境・防災、気候変動、人材育成と教育、女性と若者のエンパワーメントへの支援が重要であることが議論された。
三つ目の「平和と安定」では、アフリカの角地域やサヘル地域などでアフリカ主導の取組が進展していることが確認されるとともに、それらを後押しするための国際社会の支援の必要性について議論が行われ、サヘル地域などにおいて更なる開発及び平和・安全保障のための後押しが必要であるとの認識が共有された。
TICAD7の機会をとらえ、日本は、「TICAD7における日本の取組」を発表した。この中で、日本は、①200億米ドルを超える民間投資の拡大に向けアフリカにおけるビジネス環境改善に貢献するとともに、日本企業の進出とイノベーションを促進し、アフリカで生じつつある経済構造転換を後押しすること(経済)、②生活の向上や経済成長の基盤となる人間の安全保障とSDGsの実現に向けて、保健分野などで強靭かつ持続可能な社会の構築に貢献すること(社会)、③経済成長・投資や生活向上の前提となる平和と安定の実現に向けたアフリカ自身による前向きな動きを後押しすべく、アフリカ連合(AU5)などが主導する調停・紛争解決努力や制度構築支援を行う「アフリカの平和と安定に向けた新たなアプローチ(NAPSA)」6を実施するとともに、日本らしい支援、特に地道で息の長い人造り支援を行うこと(平和と安定)などを表明した。
さらに、茂木外務大臣が議長を務めた11月のG20愛知・名古屋外務大臣会合でも、アフリカの開発を国際社会が直面する喫緊の課題の一つとして取り上げ、TICAD7の成果を踏まえ、アフリカ自身の取組を国際社会として支援していく必要性を念頭に議論を行った。参加国からは、TICAD7に対する高い評価が表明されたほか、アフリカの開発に関して、G20を含む国際社会が緊密に連携していくことの重要性が指摘された。また、G20メンバーからは、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」の着実な普及・定着のため、G20が主導的役割を果たす必要があることを確認した。
日本国外では、11月にダカール(セネガル)で行われた第6回アフリカの平和と安全に関するダカール国際フォーラム及び12月にアスワン(エジプト)で行われた「持続可能な平和と開発に関するアスワン・フォーラム」に中谷真一外務大臣政務官が出席した。中谷外務大臣政務官は、両フォーラムにおいて、TICAD7での議論や成果を紹介しつつ、アフリカの平和と安定に向け、NAPSAを始めとする日本の具体的な取組をアピールした。
21世紀最大のフロンティアと呼ばれるアフリカは、その経済成長と急速な人口増加を背景に、潜在力の高い未来の成長大陸と考えられており、革新的な技術を用いた新たな製品やサービスが次々と生まれています。このようなアフリカ諸国とのビジネス関係の拡大は、日本にとっても今後の成長の大きな鍵になると考えられ、実際に欧米やアジア各国はアフリカ市場に急速に進出しつつあります。
このような状況を背景として、日本とアフリカ間の貿易及び投資を含むビジネス関係を促進するため、日本企業・国内関係省庁・政府関係機関が恒常的にアフリカビジネスに関して情報共有・意見交換を行う常設のプラットフォームとして、6月6日にアフリカビジネス協議会が設立されました。

(6月6日、東京)
同協議会は、3月に採択された「民間からの提言書」で設置が提言されたものです。この提言書は、TICAD7(8月)を前に、TICAD Ⅵ以降のビジネス環境の変化や国際社会の取組の進捗状況を踏まえ、アフリカへの日本企業の進出を促進するための方策について議論するために設置された「TICAD7官民円卓会議」により採択されました。既存の様々な官民連携の枠組みが協調・協働し、アフリカへの進出を検討している日本企業の背中を押すことが提言のねらいです。具体的活動として、協議会では、民間企業・団体からアフリカでビジネスを展開するための優先課題や提案の吸い上げを行い、これらをもとに、関係省庁・政府関係機関が支援策の追加や強化を検討、実施します。
TICAD7では、躍進するアフリカを共に成長するパートナーと捉え、日本の民間セクター及びアフリカ側の要望を踏まえ、ビジネスを議論の中心に据えました。特に、全体会合3「官民ビジネス対話」は、TICADの歴史上初めて、日本とアフリカの民間セクターが正式なパートナーとして参加した画期的なものとなりました。アフリカビジネス協議会も同対話に積極的に参加し、同協議会の下に設置されている分野別ワーキンググループ(インフラ、ヘルスケア、農業、中小・スタートアップ企業支援)から、各分野の具体的な取組やアフリカ側への提案を発表しました。これに対しアフリカ側出席者から、日本の民間企業とのパートナーシップへの強い期待が表明されました。
また、「民間からの提言書」では、アフリカで事業活動を行う民間企業が直面する様々な課題を解決すべく、日本とアフリカ諸国の官民が継続的に議論し具体的解決策を検討する場として、「ビジネス環境改善委員会」の設置も提言されました。そこでTICAD7を機に、日本政府は、アフリカ7か国(エジプト、ガーナ、ケニア、コートジボワール、セネガル、ナイジェリア、南アフリカ)との間で二国間ビジネス環境改善委員会を立ち上げることで合意しました。これを受けて、アフリカビジネス協議会側でも「ビジネス環境改善ワーキンググループ」を設置し、上記7か国を含むアフリカ諸国のビジネス環境を取り巻く状況をフォローアップしています。
日本政府は、アフリカビジネス協議会の活動を様々な政策ツールを駆使してオールジャパンで後押しすることで、次のTICAD8に向けて日本とアフリカ間のビジネス関係強化を図っています。
1 AfCFTA:African Continental Free Trade Area
2018年3月にルワンダ・キガリで開催されたアフリカ連合(AU)の臨時首脳会合でアフリカ各国が署名。2019年5月30日に正式に発効し、13億人を超える人口とGDP2.5兆米ドルを擁するアフリカにおける大規模FTAが成立した。
2 TICAD:Tokyo International Conference on African Development
3 海洋資源などの活用により、持続可能な経済成長を推進するコンセプト
4 STI:Science, Technology and Innovation
5 AU:African Union
6 NAPSA:New Approach for Peace and Stability in Africa
8月に横浜で開催されたTICAD7で安倍総理大臣から提唱した新たなアプローチ。アフリカのオーナーシップの尊重及び紛争やテロの根本原因に対処するとの考えの下、①AUや地域経済共同体(RECs)などによる紛争の予防、調停、仲介といったアフリカ主導の取組、②制度構築・ガバナンス強化、③若者の過激化防止対策や地域社会の強靱化に向けた支援を行うもの