外交青書・白書
第4章 国民と共にある外交

2 領事サービスと日本人の生活・活動支援

(1)領事サービスの向上

外務省は、海外で日本人に良質な領事サービスを提供できるよう、在外公館の領事窓口や電話での職員の対応、情報発信などについてのアンケート調査を毎年実施している。2018年は148在外公館を対象に調査を行い、2万8,874人からの回答を得た。その結果、領事窓口・電話対応を始め、在外公館が提供する領事サービス全般に対しては、おおむね満足しているとの評価が示された。一方、職員の対応に対する厳しい評価や改善を求める意見も寄せられたことから、外務省としては、利用者からの声を、在外公館の領事サービス向上・改善に反映し、利用者の視点に立った領事サービスを提供できるよう、引き続き改善に努めていく考えである。

(2)旅券(パスポート)の発給と不正取得等の防止

2018年には431万冊の一般旅券が発行された。2018年12月末時点で、約2,998万冊の一般旅券が有効であり、全てIC旅券3である。

旅券発行数の推移
旅券発行数の推移

IC旅券の発行により、偽変造など旅券の不正使用は困難になっているが、他人になりすますなどの方法によって旅券を不正取得する事案4は引き続き発生している。日本人又は不法滞在外国人が、不正取得した他人名義旅券を使って出入国する例が見られるほか、名義人の知らないところで金融機関に借金をしたり、他の犯罪をたくらむ者に売り渡す目的で銀行口座が開設されたり、携帯電話が契約されるなどの事例が報告されている。こうした2次・3次の犯罪を助長するおそれのある旅券の不正取得を未然に防止するため、各都道府県にある旅券窓口では、なりすましによる不正取得防止のための審査強化期間を設けるなど、旅券の発給時の本人確認の強化に一層の力を入れている。さらに、刑事訴追されている者、執行猶予中の者、旅券法に違反した者等に対する一般旅券の発給を制限しているほか、逮捕状が発行されている者等で関係機関から外務大臣に通報があった者に対しては、返納を命ずる等の措置を講じている。

一方、日本の旅券に搭載されているICチップには、顔画像や人定事項等の情報が記録されているが、諸外国では更に指紋等の生体情報を追加するなど、偽変造防止対策を向上させたIC旅券の普及が進んでおり、国際民間航空機関(ICAO)及び国際標準化機構(ISO)でも、IC機能のより効果的な利用が検討されている。また、2016年1月4日から在外公館で運用を開始した「ダウンロード申請書」につき、2018年10月1日から国内でも受付を開始し、申請者の利便性の向上に努めた。

2006年以降、申請の受理や交付などの旅券事務を都道府県から市町村へ再委託することが可能となった。2018年12月末現在、その数は、837市町村に達し、全国の約5割近くの市町村で旅券事務を行っている状況である。

COLUMN
査証官の奮闘
在中国日本国大使館領事部

2018年の訪日外国人数は、過去最高の3,119万人となりました。外国からの観光客等のますますの増加に伴い、2018年のビザ発給数は約695万件にのぼり、そのうち78%が中国国籍者に対する発給でした。日本政府は、観光立国の実現に向けた取組を進めており、ビザの発給要件緩和も訪日外国人の増加を後押ししています。一方、日本の利益を害するおそれのある外国人の入国を阻止するため厳格なビザ審査も重要であり、世界各国の日本大使館や総領事館でビザ発給を担当している“査証官”は、日々、書類に囲まれながら奮闘しています。

査証受付窓口の様子
査証受付窓口の様子

さて、近年、観光客やビジネス客を中心に訪日する中国人は増加の一途をたどっています。在中国公館のビザ発給数は飛び抜けて多く、査証官は日々多忙を極めています。例えば、在中国日本国大使館では、年間約120万件のビザを発給しており、1日なんと約5,000件、多い時で1万件を超えるビザ申請があります。2014年から18年までの5年間でビザ発給数は51万件から135万件になり、査証官の人数がビザ発給数の増加に追いつかない状況です。毎日午前中は、多くの指定旅行社(代理申請機関)の職員がビザ申請と受領のために大使館の窓口を訪れます。限られた人数で、所定の期限内に大量のビザ申請を正しくかつ迅速に処理するため、査証官は緊張感を伴う審査業務を毎日分刻みで処理していかなければなりません。

代理申請機関でにぎわう査証待合室
代理申請機関でにぎわう査証待合室

このような状況の下、外務省と在中国公館は、審査業務の効率化や合理化を日々追求しています。例えば、審査業務合理化のための第一の試みとして、2018年秋から、全ての指定旅行社から在中国大使館へのビザ手数料の納付方法を現金から銀行振込みに変更する取組を進めています。これは全世界の日本の在外公館の中で初めての試みで、査証官は前例のない中、旅行社向け説明会の開催、館内での業務手順や役割分担の見直し等の準備につき、万全を期して奔走しました。その結果、大量の現金に偽造紙幣が紛れ込んでいないかを確認する作業や現金計算業務が解消されるなど、業務効率が向上しました。

業務合理化の第二の試みとして、査証申請書類の提出を受けて審査を行う従来の方法を改め、申請を電子化することにより、在中国大使館での入力作業を合理化し、ペーパーレス化を図る取組を積極的に進めています。2020年4月から全中国公館において電子的な手続による電子ビザを導入する予定ですが、在中国大使館がパイロット事業の実施公館となり、取組を進めています。

しかしながら、このような業務の効率化や合理化による効果は、現地職員たちが担当しているデータ入力作業やビザシールの印刷等に限られます。つまり、査証官自らが行わなければならない最も重要な審査業務については、水際対策の観点からも引き続き厳格な審査が求められています。

在中国大使館のみならず、全世界の査証官は、それぞれの国と日本との人的交流を促進し、日本への適正な人の流れを円滑化するとの使命の下、分刻みの審査業務に日夜、奮闘しています。

(3)在外選挙

在外選挙制度は、海外に在住する有権者が国政選挙で投票するための制度である。2007年6月以降の選挙では、衆議院と参議院それぞれの比例代表選挙に加え、衆議院小選挙区選挙及び参議院選挙区選挙(これらの補欠選挙及び再選挙を含む。)も対象となっている。在外選挙制度を利用して投票するためには、事前に市区町村選挙管理委員会が管理する在外選挙人名簿への登録を申請し、在外選挙人証を入手する必要がある。2018年6月からは、国外転出後に在外公館を通じて申請する従来の方法に加え、国外転出の届出と同時に市区町村窓口で申請することが可能になった。これにより、国外転出後に在外公館に出頭する必要がなくなるなど、手続の簡素化が図られ、登録者数の増加につながることが期待される。有効な在外選挙人証を持っていれば、在外公館投票郵便投票又は日本国内における投票のいずれかを選択して投票することができる。

在外公館では、管轄地域での在外選挙制度の広報や遠隔地での領事出張サービスなどを通じて、制度の普及と登録者数の増加に努めているほか、選挙が実施される際は、事前の広報を含め、在外公館投票の事務を担っている。

在外選挙
在外選挙

(4)海外での日本人の生活・活動に対する支援

ア 日本人学校、補習授業校

海外で生活する日本人にとって、子女教育は大きな関心事項の一つである。外務省では、義務教育相当年齢の子女が海外でも日本と同程度の教育を受けられるよう、文部科学省と連携して日本人学校への支援(校舎借料、現地採用教師謝金、安全対策費などへの一部援助)を行っている。また、主に日本人学校が存在しない地域に設置されている補習授業校(国語などの学力維持のために設置されている教育施設)に対しても、日本人学校と同様の支援を行っている。加えて、最近の国際テロ情勢の変化等を踏まえ、安全対策に関連する支援を更に強化・拡充している。今後もこうした支援を継続していく考えである。

イ 医療・保健対策

外務省は、海外で流行している感染症などの情報を収集し、海外安全ホームページや在外公館ホームページ、メールなどを通じ、広く提供している。さらに、医療事情の悪い国に滞在する日本人に対する健康相談を実施するため、国内医療機関の協力を得て巡回医師団を派遣している(2018年度は1か国7都市)。また、感染症や大気汚染が深刻となっている地域に専門医を派遣し、健康安全講話を実施している(2018年度には12か国13都市)。

ウ その他のニーズへの対応

外務省は、海外に在住する日本人の滞在国での各種手続(運転免許証の切替え、滞在・労働許可の取得など)の煩雑さを解消し、より円滑に生活できるようにするため、滞在国の当局に対する働きかけを継続している。

例えば、外国の運転免許証から日本の運転免許証へ切り替える際、外国運転免許証を持つ全ての人に対し、自動車等を運転することに支障がないことを確認した上で、日本の運転免許試験の一部(学科・技能)を免除している。一方、北米及び南米の一部の国のように、在留邦人が滞在国の運転免許証に切り替える際に取得試験を課している国・州もあるため、日本と同様に手続が簡素化されるよう働きかけを行っている。

また、日本国外に居住する原子爆弾被爆者が在外公館を経由して原爆症認定及び健康診断受診者証の交付を申請する際の手続の支援も行っている。

3 IC旅券は、旅券の偽変造や第三者による不正使用を防止するため、生体情報である顔画像を電磁的に記録したICチップを搭載した旅券。2006年から発行

4 2014年41冊、2015年31冊、2016年22冊、2017年21冊、2018年35冊の不正取得事案を把握

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