北朝鮮
国際社会における取組:拉致問題の解決のためには、我が国が主体的に北朝鮮側に対して強く働きかけることはもちろん、拉致問題解決の重要性について各国からの支持と協力を得ることが不可欠である。政府は、あらゆる外交上の機会をとらえ、拉致問題を提起している。
北朝鮮による拉致の被害者は、韓国にも多数いることが知られているが、帰国した日本人拉致被害者等の証言から、タイ、ルーマニア、レバノンにも北朝鮮に拉致された可能性のある者が存在することが明らかになっている。このほか、北朝鮮から帰還した韓国人拉致被害者等の証言では、中国人等の拉致被害者も存在するとされている。
このように、拉致問題は、基本的人権の侵害という国際社会の普遍的問題である。
1 国際連合
国連総会において一般討論演説を行う菅総理(当時)(2021年9 月)
- (1)国連においては、拉致問題への言及も含む北朝鮮人権状況決議が、人権理事会では15年連続15回、国連総会では17年連続17回採択されている(2022年4月現在)。2022年4月の人権理事会で採択された決議において、拉致問題については、拉致被害者及び家族が高齢化している中、深刻な人権侵害を伴う国際的な拉致問題及び全ての拉致被害者の即時帰国の緊急性及び重要性を深刻な懸念をもって改めて強調し、拉致被害者及び家族が長きにわたり被り続ける多大な苦しみ、特に2014年5月の日朝政府間協議に基づき北朝鮮が全ての日本人に関する調査を開始して以降、北朝鮮が何ら具体的かつ前向きな行動をとっていないこと、並びに、強制的失踪作業部会からの複数回の情報提供要請に対して同一かつ実質的な内容がない回答をしていることに対し深刻な懸念を表明し、北朝鮮に対し、全ての強制失踪の申立てへの対処、その被害者の家族に対する失踪者の安否及び所在に関する正確かつ詳細な情報の誠実な提供、全ての拉致被害者に関する全ての問題の即時の解決、特に全ての日本人及び韓国人拉致被害者の即時帰国の実現を改めて強く要求する内容となっている。さらに、他国からを含め、大規模かつ国家の政策として行われた北朝鮮による組織的な拉致、本国への帰還の拒否、及びそれに伴う強制失踪を最も強い表現で非難し、即時帰国の実現を確保することを含め、拉致又はその他強制的に失踪させられた全ての者及びその子孫の問題を誠実かつ透明性をもって至急解決することを北朝鮮に要求する内容も含まれている。
- (2)2013年3月の人権理事会においては、新たに北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)を設置することを含む決議が無投票で採択され、国連調査委員会(COI)は、日本、韓国、米国、英国、タイを訪問するなどして拉致問題を含む北朝鮮の人権状況の調査を行い、2014年2月に最終報告書(COI報告書)を公表している。
- (3)また、国連安保理においても、2014年12月、人権状況を含む北朝鮮の状況が包括的に議論されて以降、「北朝鮮の状況」に関する国連安保理会合が、4回開催され、我が国から拉致問題の一刻も早い解決を求めてきている。2021年12月には、安保理非公式協議において北朝鮮の人権状況について協議が行われ、同協議後、日本を含む有志国は、拉致問題の解決、特に拉致被害者の即時帰国を要求するとの内容を含む共同ステートメントを発出した。
拉致問題に関するオンライン国連シンポジウムにおいて基調講演を行う 加藤内閣官房長官兼拉致問題担当大臣(当時)(2021年6月)
- (4)さらに、日本政府は、国連本部等において政府主催の国際シンポジウムを開催するなど国際社会に向けた情報発信と連携強化に取り組んでいる。2021年6月には、日本、米国、豪州及びEUの共催により、拉致問題に関するオンライン国連シンポジウムを開催し、日本の拉致被害者の御家族を含めた当事者からの「生の声」を国際社会に訴えていただくとともに、日本、米国、韓国の北朝鮮問題の専門家によるパネル・ディスカッションを行い、拉致問題の一刻も早い解決に向けて国際社会の理解と協力を呼びかけた。
2 六者会合

六者会合(2007年9月)
我が国は、六者会合においても、拉致問題を取り上げてきており、2005年9月に採択された共同声明においては、拉致問題を含めた諸懸案事項を解決することを基礎として、国交を正常化するための措置をとることが、六者会合の目標の一つとして位置づけられた。これを受けて、2007年2月の成果文書においては、日朝国交正常化のための作業部会の設置が決定され、10月の成果文書においては、日朝双方が、日朝平壌宣言に従って、「不幸な過去」を清算し懸案事項を解決することを基礎として早期に国交を正常化するため誠実に努力すること、また、そのために日朝双方が精力的な協議を通じて具体的な行動を実施していくことが確認された。ここでいう「懸案事項」に拉致問題も当然含まれている。
3 多国間の枠組み
G7 コーンウォール・サミット(2021年6月)
日ASEAN首脳会談(2021年10月)
日本政府は、G7サミット、日米豪印首脳会合、ASEAN関連首脳会議等の多国間の枠組みにおいても、拉致問題を提起しており、拉致問題解決の重要性とそのための政府の取組は、諸外国からの明確な理解と支持を得てきている。
例えば、2021年6月のG7コーンウォール・サミットでは、菅総理(当時)から、政権の最重要課題であるとしてG7の全面的な理解と協力を要請し、G7各国から支持を得るとともに、首脳コミュニケにも、G7として北朝鮮に対し拉致問題を即時に解決することを改めて求める旨記載された。
また、2021年9月の日米豪印首脳会合においても、菅総理(当時)から拉致問題の即時解決に向けた各国の理解と協力を求め、各国から支持を得た。日米豪印首脳共同声明には、我々は、国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化へのコミットメントを再確認し、また、日本人拉致問題の即時の解決の必要性を確認する旨記載された。
さらに、2021年10月のASEAN関連首脳会議においても、一連の会議等を通じて、岸田総理から拉致問題の即時解決に向け、各国の引き続きの理解と協力を求め、各国から拉致問題の解決への支持を得た結果、議長声明に拉致問題の即時解決の重要性への言及が盛り込まれた。
4 二国間協議
トランプ大統領と拉致被害者御家族の面談(2019年5月)
我が国は、米国、韓国、中国、ロシアを始めとする各国との首脳会談、外相会談等においても拉致問題を取り上げており、各国から我が国の立場への理解と支持が表明されている。
例えば、米国については、トランプ大統領(当時)が、安倍総理(当時)からの要請を受け、2018年6月の第1回米朝首脳会談において金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長に対して拉致問題を取り上げたほか、2019年2月の第2回米朝首脳会談では、トランプ大統領(当時)から金正恩国務委員長に対して初日の最初に行った一対一の会談の場で拉致問題を提起し、拉致問題についての安倍総理(当時)の考え方を明確に伝え、また、その後の少人数夕食会でも拉致問題を提起し、首脳間での真剣な議論が行われた。トランプ大統領(当時)は、2017年11月及び2019年5月の訪日の際に、拉致被害者の御家族と面会し、御家族の方々の思いのこもった訴えに熱心に耳を傾け、御家族の方々を励まし、勇気づけている。
菅総理(当時)は2021年4月のバイデン大統領との間で行われた日米首脳会談において、拉致問題の即時の解決に向けて引き続きの理解と協力を求め、バイデン大統領から、拉致問題の即時解決を求める米国のコミットメントが改めて示された。
また、岸田総理は2021年9月の就任後、10月に行われたバイデン大統領との日米首脳電話会談において、拉致問題の即時解決に向けて引き続きの理解と協力を求め、バイデン大統領から支持を得たほか、2022年1月の日米首脳テレビ会談においても、拉致問題の即時解決に向けて引き続きの理解と協力を求め、バイデン大統領から、改めて支持を得た。
また、韓国についても、2018年4月の南北首脳会談を始めとする累次の機会において、北朝鮮に対して拉致問題を提起しており、2019年12月の日韓首脳会談においても、文在寅大統領から、拉致問題の重要性についての日本側の立場に理解を示した上で、韓国として北朝鮮に対し拉致問題を繰り返し取り上げている旨の発言があった。岸田総理は2021年10月、文大統領との日韓首脳電話会談において、拉致問題について引き続きの支持と協力を求め、文大統領から、日本の立場への支持が示された。さらに、中国についても、2019年6月の日中首脳会談において、習近平(しゅう・きんぺい)国家主席から、同月の中朝首脳会談で日朝関係に関する安倍総理(当時)の考えを金正恩国務委員長に伝えたとの発言があり、その上で、習主席から、拉致問題を含め、日朝関係改善への強い支持を得た。岸田総理は2021年10月、習主席との日中首脳電話会談において、拉致問題を含む北朝鮮への対応について提起し、引き続き日中が連携していくことを確認した。
北朝鮮に拉致された可能性のある米国人に関する決議案
米国議会においては、北朝鮮に拉致された可能性のある米国人について、日本、中国及び韓国政府と連携して調査を進めるよう米国政府に求める決議案が2016年9月に下院本会議で可決・成立したほか、同様の内容の決議案が2018年11月に上院本会議でも可決・成立した。