北朝鮮
国際社会における取組:拉致問題の解決のためには、我が国が主体的に北朝鮮側に対して強く働きかけることはもちろん、拉致問題解決の重要性について各国からの支持と協力を得ることが不可欠である。政府は、あらゆる外交上の機会をとらえ、拉致問題を提起している。
北朝鮮による拉致の被害者は、韓国にも多数いることが知られているが、帰国した日本人拉致被害者等の証言から、タイ、ルーマニア、レバノンにも北朝鮮に拉致された可能性のある者が存在することが明らかになっている。このほか、北朝鮮から帰還した韓国人拉致被害者等の証言では、中国人等の拉致被害者も存在するとされている。
このように、拉致問題は、基本的人権の侵害という国際社会の普遍的問題である。
1 国際連合
国連総会において一般討論演説を行う岸田総理(2023年9月)
- (1)国連においては、拉致問題への言及も含む北朝鮮人権状況決議が、人権理事会では16年連続16回、国連総会では18年連続18回採択されている(2023年11月現在)。2023年4月の人権理事会で採択された決議は、拉致被害者及び家族が高齢化している中、深刻な人権侵害を伴う国際的な拉致問題及び全ての拉致被害者の即時帰国の緊急性及び重要性を深刻な懸念をもって改めて強調し、拉致被害者及び家族が長きにわたり被り続ける多大な苦しみ、特に2014年5月の日朝政府間協議に基づき、北朝鮮が全ての日本人に関する調査を開始して以降、北朝鮮が何ら具体的かつ前向きな行動をとっていないこと、並びに、強制的失踪作業部会からの複数回の情報提供要請に対して同一かつ実質的な内容がない回答をしていることに対し深刻な懸念を表明し、北朝鮮に対し、拉致被害者及びその家族の声に真摯に耳を傾け、即座にその被害者の家族に対する失踪者の安否及び所在に関する正確、詳細かつ完全な情報の誠実な提供、全ての拉致被害者に関する全ての問題の即時解決、特に全ての日本人拉致被害者の即時帰国の実現を改めて強く要求し、関係者と建設的な対話をすることを要求する内容となっている。
- (2)2013年3月の人権理事会においては、新たに北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)を設置することを含む決議が無投票で採択され、国連調査委員会(COI)は、日本、韓国、米国、英国、タイを訪問するなどして拉致問題を含む北朝鮮の人権状況の調査を行い、2014年2月に最終報告書(COI報告書)を公表している。
- (3)また、国連安保理においても、2014年12月、人権状況を含む北朝鮮の状況が包括的に議論されて以降、「北朝鮮の状況」に関する国連安保理会合が、累次開催され、我が国から拉致問題の一刻も早い解決を求めてきている。2022年12月には、安保理非公式協議において北朝鮮の人権状況について協議が行われ、その後、日本を含む有志国は、拉致問題等の解決及び拉致被害者等の即時帰国を強く要求するとの内容を含む共同ステートメントを発出した。また、2023年8月には、拉致問題を含む北朝鮮の人権状況について協議するための安保理公開会合が、2017年以来6年ぶりに開催された。本会合後に行われた、同志国によるプレス向け共同発言には安保理内外の52か国等が参加し、拉致問題にも言及しつつ、北朝鮮による人権侵害の責任を追及するよう、すべての国連加盟国に呼びかける等の旨を発信した。
拉致問題に関するオンライン国連シンポジウムにおいて基調講演を行う松野内閣官房長官兼拉致問題担当大臣(2023年6月)
- (4)さらに、日本政府は、国連本部等において政府主催の国際シンポジウムを開催するなど国際社会に向けた情報発信と連携強化に取り組んでいる。2023年6月には、日本、米国、豪州、韓国及びEUの共催により、拉致問題に関するオンライン国連シンポジウムを開催し、日本の拉致被害者家族連絡会及び特定失踪者家族会(北朝鮮による拉致の可能性を排除できない失踪者家族有志の会)の方々を含めた当事者からの「生の声」を国際社会に訴えていただくとともに、英国の元駐北朝鮮大使及び韓国の前北朝鮮人権問題国際協力大使によるパネル・ディスカッションを行い、拉致問題の一刻も早い解決に向けて国際社会の理解と協力を呼びかけた。
2 六者会合

六者会合(2007年9月)
我が国は、六者会合においても、拉致問題を取り上げてきており、2005年9月に採択された共同声明においては、拉致問題を含めた諸懸案事項を解決することを基礎として、国交を正常化するための措置をとることが、六者会合の目標の一つとして位置づけられた。これを受けて、2007年2月の成果文書においては、日朝国交正常化のための作業部会の設置が決定され、10月の成果文書においては、日朝双方が、日朝平壌宣言に従って、「不幸な過去」を清算し懸案事項を解決することを基礎として早期に国交を正常化するため誠実に努力すること、また、そのために日朝双方が精力的な協議を通じて具体的な行動を実施していくことが確認された。ここでいう「懸案事項」に拉致問題も当然含まれている。
3 多国間の枠組み
G7広島サミット(2023年5月)
日米韓首脳会合(2023年8月)
日ASEAN首脳会議(2023年9月)
日本政府は、G7サミット、日米豪印首脳会合、ASEAN関連首脳会議等の多国間の枠組みにおいても、拉致問題を提起しており、拉致問題解決の重要性とそのための政府の取組は、諸外国からの明確な理解と支持を得てきている。
2023年5月のG7広島サミットではG7首脳との間で、拉致問題を含む北朝鮮への対応において引き続き緊密に連携していくことを確認するとともに、首脳コミュニケにも、G7として拉致問題を即時に解決するよう求める旨記載した。
また、G7広島サミットの機会に開催された日米豪印首脳会合においても、岸田総理から拉致問題の即時解決に向けた各国の理解と協力を求め、各国から支持を得た。日米豪印首脳共同声明には、北朝鮮に対し、拉致問題を即時に解決するよう求める旨記載された。
2023年8月、米国のキャンプ・デービッドで開催された日米韓首脳会合では、拉致問題等の即時解決に向けた共通のコミットメントを再確認した。
2023年9月のASEAN関連首脳会議においては、一連の会議等を通じて、岸田総理から拉致問題の即時解決に向け、各国に引き続きの理解と協力を求め、議長声明に拉致問題の即時解決への言及が盛り込まれた。
4 二国間協議
バイデン大統領と拉致被害者御家族の面会(2022年5月)
我が国は、米国、韓国、中国を始めとする各国との首脳会談、外相会談等においても拉致問題を取り上げており、各国から我が国の立場への理解と支持が表明されている。
例えば、米国については、トランプ大統領(当時)が、安倍総理(当時)からの要請を受け、2018年6月の第1回米朝首脳会談において金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長に対して拉致問題を取り上げたほか、2019年2月の第2回米朝首脳会談では、トランプ大統領(当時)から金正恩国務委員長に対して初日の最初に行った一対一の会談の場で拉致問題を提起し、拉致問題についての安倍総理(当時)の考え方を明確に伝え、また、その後の少人数夕食会でも拉致問題を提起し、首脳間での真剣な議論が行われた。
また、岸田総理は2021年9月の就任後、10月に行われたバイデン大統領との日米首脳電話会談において、拉致問題の即時解決に向けて引き続きの理解と協力を求め、バイデン大統領から支持を得た。その後、2022年1月、5月、10月、11月、2023年1月及び5月の日米首脳会談等においても、岸田総理から、拉致問題の即時解決に向けた米国の引き続きの理解と協力を求め、バイデン大統領から、改めて全面的な支持を得ているた。また、2023年1月の首脳会談の機会に発出された日米共同声明において、バイデン大統領は拉致問題の即時解決への米国のコミットメントを改めて確認した。さらに、2022年5月の訪日の際に、バイデン大統領は、岸田総理出席の下、拉致被害者の御家族と面会し、拉致被害者を想う御家族としての心情や拉致問題の一刻も早い解決のための米国の支援を求める発言等に、じっくり、真剣に耳を傾けた。両首脳からは、拉致問題の解決に向け、日米で緊密に連携して取り組んでいくとの強い決意が示された。
また、韓国についても、岸田総理は、2022年3月、9月、10月、及び11月、2023年3月、5月及び11月の日韓首脳会談等において、拉致問題の解決に向け韓国の引き続きの理解と協力を求め、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領から支持を得ている。
さらに、2023年8月の日米韓首脳会合後の記者会見でバイデン大統領は、拉致被害者の御家族との面会に触れつつ、拉致された人全員を取り戻すため共に取り組む旨の決意を述べた。
中国についても、岸田総理は2021年10月、習近平(しゅう・きんぺい)国家主席との日中首脳電話会談において、拉致問題を含む北朝鮮への対応について提起し、引き続き日中が連携していくことを確認した。2022年11月及び2023年11月の日中首脳会談においても、両首脳は、拉致問題を含む北朝鮮情勢について意見交換を行った。
北朝鮮に拉致された可能性のある米国人に関する決議案
米国議会においては、北朝鮮に拉致された可能性のある米国人について、日本、中国及び韓国政府と連携して調査を進めるよう米国政府に求める決議案が2016年9月に下院本会議で可決・成立したほか、同様の内容の決議案が2018年11月に上院本会議でも可決・成立した。