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草の根無償資金協力・プログラム評価

1.国名: ミャンマー、カンボジア、ベトナム
 視察対象案件(すべて草の根無償資金協力)

(ミャンマー)
ヤンゴン四肢障害者職業訓練施設整備計画
(2000年度 9.3百万円)
インレー湖流域環境共生型農林業訓練センター計画
(1998/99年度、8.0/9.5百万円)
ムスリム慈悲病院眼科医療機材改善計画
(2000年度、5.2百万円)

(カンボジア)
シェムリアップ州アンコール小児病院検査室拡充計画
(1999年度、5.8百万円)
日本カンボジア有効技術訓練センター支援計画
(1998/99年度、1.8/5.7百万円)
プノンペン市エンクリエン障害者職業訓練センター改修計画
(1999年度、10.0百万円)

(ベトナム)
ナムホン部落上水道建設支援計画
(1999年度、7.4百万円)
ヴーヴァン小学校改修計画
(1999年度、6.3百万円)
ビンフック省メリン病院医療機材改善計画
(1999年度、9.5百万円)
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2.評価者:
 下岡明子 グローバル リンク マネージメント(株) 社会開発部研究員
 小川陽子 グローバル リンク マネージメント(株) 社会開発部研究員
3. 現地調査実施期間: 2001年7月16~10月31日
4. 評価の目的:
 草の根無償資金協力は、1989年度に小規模無償資金協力として導入されて以来、その実施件数は1989年度の95件(2億9,400万円)から2000年度には1,523件(84億8,847万円)へと飛躍的に拡大している。2001年度には100億円の予算が計上され、増加の一途を辿っている草の根無償プログラムの実績を評価するために、2000年度に中南米地域(キューバ、グアテマラ、チリ、ペルー)を対象に評価調査が実施された。引き続き2001年度はアジア地域(ミャンマー、カンボジア、ベトナム)を対象に、草の根無償資金協力の実施状況、実施体制、代表的な個別案件の評価を通じ、「草の根無償資金協力プログラム」全体の評価を行い、2000年度の評価調査の提言を踏まえつつ、今後の草の根無償資金協力に有用な教訓を引出すことを目的としている。
5. 評価結果:
(1) 開発途上国にある多様なニーズに対応:今回評価対象となった9案件だけを見ても、草の根無償資金協力の支援分野は多岐にわたっており、農林業技術の普及を草の根レベルで展開するための訓練センターの建設、病理検査業務を手作業に頼っていた地方病院への検査器機供与、洪水の時期に常に浸水・冠水を受ける村での2階建て小学校建設、貧困層への奉仕を目的にした慈善病院への最新の手術機材供与、開発途上国政府の限られた資源では対応の困難な障害者支援分野での職業訓練校の施設整備、下痢などに悩まされていた村への衛生的な水の供給などがあった。このように、草の根無償資金協力は横断的な分野における多様なニーズに対応しており、また、スキーム自体もこういった多様化するニーズに応えるために1件あたりの供与額を引上げ、対人地雷・リサイクル・マイクロクレジット原資など新分野への支援を開拓することで対応している。
(2) 開発事業実施主体の多様化に対応:草の根無償の実績を額でみると無償資金協力実績額の3%(2000年度)程であるが、件数では圧倒的な割合を占め、1989年度で無償資金協力実績総件数(1,617件で実績額約2,028億円)の約70%、99年度では1,670件中の約76%であった。これは、無償資金協力の主な対象である社会開発分野において、こういった小規模な案件の需要が多いことを示唆している。このような小規模案件の実施主体は、その半数以上がNGO、2割が地方公共団体(2000年度)で、地方の教育・医療機関も多く、草の根無償スキームが地方分権化やNGOの事業実施主体としての役割の増大といったトレンドに対応していることがわかる。
(3) 一般無償との役割を分担する草の根無償:一般プロジェクト無償と草の根無償は、前者が中長期的な課題に対応し、後者が緊急性をもった草の根レベルのニーズに対応するという大まかな役割分担が考えられる。例えば、災害で壊れた学校施設の建て替えなど、早急に対応する必要がある場合、草の根無償協力が最も早く対応できる。反対に、災害被災地であっても災害時の避難民の収容が適う耐久性の高い施設建設が優先される場合は、設計及び資材に十分な設備投資が可能な一般プロジェクト無償協力が利点を発揮できる。このような役割分担がベトナムのタイビン省で実現しており、2つのスキームが補完する形で連携する開発協力は他国でも実現できると思われる。
(4) 「顔の見える援助」としての草の根無償支援:2000年度の中南米における評価調査では、「庶民レベルの親日感情」が芽生えていることが指摘された。今回調査を実施したアジア3カ国では、草の根無償案件が現地のメディアを通じて報道される例が多く見られた。当該国の多くの人々に日本の支援のことを知ってもらうことができ、高い広報効果が期待できる。在外公館では、特に交通が不便な地方にあるプロジェクトサイトを日本人が訪問すると大変喜ばれることから、大使や公使をはじめとする日本人の大使館員が努めて「顔を見せる」ように配慮している。落成式典などに当該国政府の要人が参加する例も見られ、日本のODAの代表的スキームとして今後も高い「外交効果」が期待できる。
(5) 「草の根レベル」での裨益効果と在外公館での実施体制:ODAをめぐる内外環境が変化し、援助の「成果」がより一層重視される中で、「足が速く」「顔が見える」だけではない草の根無償の役割も問われ始めている。草の根無償プログラムの長所は、途上国の住民により直接的に裨益効果が期待できることであり、その「効果」がより効率的に、困窮している人々に届くかたちで発現されるためには、必要とされているものを、必要なときに、必要なだけ、適切な団体に支援することが重要になってくる。各国内でも地方によって異なっている多様なニーズに応え、且つ多種多様な事業実施主体とそれを取りまく環境にも適切に応対することが求められており、主旨に見合うスキーム展開と一定の効果を実現・継続するためには、各国の状況に適合した柔軟な実施体制の確立が極めて重要である。今回訪問した3カ国では、各国の開発課題、援助環境のユニークな概況を勘案しつつ、それぞれが実施方法を模索し、工夫しながら実施していた。現場(在外公館)での実施体制強化とその継続的な改善を可能とするような体制サポートの重要性が痛感された。
6.提言(今後のフォローアップ、改善すべき点など):
(1) 多様化するニーズに迅速に応える体制サポートの必要性
2000年度の中南米における評価調査でも指摘があったように、拡充・多様化されたスキームが有効に活用されるためには、適度な採択プロセスの簡略化や業務量に見合う人材の配置などに配慮することが重要であると思われる。
草の根無償業務に携わっている在外公館の担当官や外部委託調査員などが、実施上参考になる事例を発表し合い、意見交換を行う地域別セミナーの開催を提案したい。ユニークな援助環境をもった各国の状況や異なる実施体制を比較検討し、教訓と提言を引出す「自己評価」を当事者間で行うことにより、実施体制に迅速にフィードバックしてゆくことが可能となる。
(2) より裨益効果の高い案件の発掘・形成のために
事業効率の向上効果が認められる外部委託調査員制度をより有効に活用してゆくために、適材適所の人材の発掘・確保を可能にする体制的サポートが必要である。前年度の評価結果でも提言のあった専門性をもった調査員の派遣や、貴省国際機関人事センターに蓄積された有望な人材に関して、在外公館に情報を提供することなどを検討されたい。
技術協力専門家や青年海外協力隊員によって発掘・形成された案件は、供与機材や施設の使途目的が明確で、有効利用に繋がる技術指導が行われる可能性が極めて高い。また、一般無償案件の調査報告書を有効利用することによって、設計計画、施設の規格や基準、工法などを参考に出来、且つ地域開発計画やニーズとの整合性が確保された案件形成が可能である。こういった連携を効果的に促進するためには、スキームの活用を検討する専門家・協力隊員やコンサルタントらに対し、その主旨及び手続き事項についてきちんと指導することが課題となろう。
(3) 日本のNGOに期待すること
今回の評価調査対象国では、社会・政治活動に対する政府の厳しい統制から実力のあるNGOが育たない、また、逆に規制・統制が皆無で莫大な数は存在するが組織体制や実力を持つNGOの把握が困難な状況であるなどの理由から、日本のNGOを含む国際NGOの果たす役割が大きいという事業環境が観察された。この点、2000年度の中南米における評価調査の結果と対照的であった。中長期的な視野で実施される人から人への技術移転事業や、ローカル・スタッフの積極的活用を伴う協力は、支援を受けた人々の自立に繋がり、また親日感情の醸成にも効果があると見られる。支援効果の持続性や事業の自立発展性という観点からも、こういった側面で、日本のNGOが更なる活躍をすることを望む。
長期的な事業の持続的運営のためには経常的な財源の確保が必須であるが、この点で他の国際NGO、現地のNGOが一般・法人寄付、事業収入を主たる財源とするのに対し、日本のNGOがODAを積極活用しているのが対照的であった。日本のNGOには、自己財源の確保の面でさらなる工夫と改善が期待される。
(4) 費用対効果の高いモニタリング・評価活動の必要性
草の根無償スキームは1カ国で扱う案件数が多く供与額も小額であることから、その主旨に見合った費用対効果の高い実施方法の導入が望まれる。一つの提案としては、個別案件のモニタリング・評価の実施主体を、事業実施団体へと移してゆくことである。具体的には、在外公館がセルフ・モニタリング・簡易評価などのガイドライン化を進め、モニタリングのポイントを列記したチェックシートにして現地語でまとめたものを配布するなど適切な形で指導することを提案したい。
継続プロジェクトに対して、複年にわたり草の根無償協力が要請される場合ならびにフォローアップ支援の要請を受ける場合、個別案件評価の励行を薦めたい。前回支援した案件でガイドラインが守られていたかを評価し、再支援を決める際の判断基準にする事で、投入の有効性を高められるのではないか。
上記に加え、分野・テーマ別に無作為抽出した案件をサイト訪問した上、実施団体の自己評価をもとに事業の効率や効果を確認をする形をとれば、在外公館や外部委託先によるモニタリング・評価業務の負担を大幅に軽減させることができる。この際、適宜事業分野の主管省庁の参加を呼びかけ、合同評価を実現させることも一考である。
(5) 草の根無償評価の今後に提言
草の根無償は継続プロジェクトのハード面への支援が中心であり、ソフト面及びプロジェクト運営全体に必要なインプットの一部にすぎない場合が多い。このため、評価の際に何を以って草の根無償の効果なり効率性を計るかが問題となる。一つのアプローチはプロジェクト全体の効果を「代替指標」として、草の根無償がその全体結果に与えた影響をみることである。もう一つの試みとして、草の根無償が「もしなければ」を想定し、支援が成されなかった場合に支援対象プロジェクト及びその便益対象グループが被る正負の影響を計る方法が考えられよう。
今後の評価調査は、テーマ別事例研究、実施団体別評価、国別・地域別評価、ドナー別評価など異なる評価形態の使い分けや幾つかの調査を複合的に組み合わせ実施し、実施体制や支援方針および連携を進める上での判断材料を体系的に分析することも検討する必要がある。
7.外務省からの一言:
(1) 草の根無償は、導入以来、件数・金額共に増加の一途をたどっており、途上国での需要・評価が高いことを示している。
(2) 今回の提言を踏まえ、更に良い制度にするために必要な見直し・改善を早急に行っていきたい。
(3) 特に、実績の増加に対応するために、1)適材適所の人員配置・人員補充などによる実施体制の強化、2)専門家・青年海外協力隊員、及び他スキームとの連携を深めることによる効率的かつ効果的な案件形成・モニタリング・評価活動、などを行いたい。
(4) 事業実施団体自身による「セルフ・モニタリング」は、うまく活用されれば、在外公館や委託先によるモニタリング等の業務負担を大幅に軽減させることができ、また事業実施団体自身の意識・能力向上にもつながる有効なアイディアであり、興味深い。


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