第Ⅲ部 課題別の取組
パラグアイにおいて農牧業バリューチェーン強化のために現地の農家を指導するJICA専門家(写真:JICA)
1 新しい時代の「質の高い成長」とそれを通じた貧困撲滅
(1)経済社会の自律性・強靭性の強化
日本はこれまで経済成長を実現すること、そしてその成長を「質の高い成長」用語解説とすることにより、最も基本的な開発課題である貧困撲滅を目指してきました。「質の高い成長」のためには、発展の基盤となるインフラ(経済社会基盤)の整備が重要です。また、民間セクターが中心的役割を担うことが鍵となり、産業の発展や貿易・投資の増大といった民間活動が活発になることが不可欠です。しかし、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢などの影響を受けて、世界経済は、エネルギーや食料価格の高騰、サプライチェーン注1の混乱といった課題に直面しています。とりわけ開発途上国では、貿易を促進し民間投資を呼び込むための能力構築や環境整備を行うことが困難な場合があり、開発途上国の経済社会の自律性・強靭(じん)性の強化の観点から、国際社会からの支援が求められています。
●日本の取組
■サプライチェーンの強靭化・多様化、経済の多角化
日本が整備・機能強化を推進するモザンビークのナカラ港の様子(写真:Penta-Ocean Construction Co., Ltd. & Toa Cooperation Joint Venture)
太平洋島嶼国における技術協力「WCO連携 税関リスク管理・事後調査」において、2025年9月にフィジーにて開催されたマスタートレーナー育成研修の様子(写真:JICA)
日本は開発途上国の輸出能力や競争力を向上させるため、開発途上国が貿易を行うために重要な港湾、道路、橋などの輸送網の整備、発電所・送電網など産業関連インフラの整備といったハード面での協力に加えて、貿易管理・輸出入手続の円滑化に向けて、税関職員や知的財産権の専門家の能力向上などの貿易関連分野における技術協力といったソフト面からも、開発途上国の貿易・投資環境や経済基盤の整備に向けた協力を行っています。
こうした協力を通じて、開発途上国の経済強靭性と経済安全保障を強化していくことは、開発途上国の質の高い成長を確保しつつ、日本経済への裨(ひ)益という成長の好循環を確保していく上で喫緊の課題となっています。
こうした観点も踏まえ、2025年6月に開催された経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会では、経済強靭性の構築に向けて、多様化および重大な依存関係の削減により、リスクを軽減する重要性が確認されました。また、サプライチェーンを強化し、グローバルバリューチェーンを改良すべく、G7サミットで確立された「強靱で信頼性のあるサプライチェーンに関する原則」注2等に基づき、パートナーおよび民間セクターと積極的に関わり、協調的な取組を行う必要性も強調されました。
同月のG7カナナスキス・サミットでは、「経済成長、経済安全保障・経済強靱性」が主要な議題の一つとして取り上げられ、石破総理大臣(当時)から、重要鉱物のサプライチェーンの強靭化・多角化は喫緊の課題であり、G7やパートナー国と緊密に連携して対応することの必要性を強調しました。また、資源国の役割は非常に重要であり、サプライチェーン多角化のための新規プロジェクトの立ち上げや、開発途上国の現地高付加価値化に向けた「RISE(強靭で包摂的なサプライチェーンの強化)パートナーシップ」などにおける協力が重要である旨述べました。同サミットにおいて発出された「G7重要鉱物行動計画」において、G7首脳は、能力構築支援などを通じて、鉱物資源が豊富な新興国・開発途上国のパートナーとの協力を深めることにコミットしました。
また、2025年3月の日英経済版2+2閣僚会合では、四閣僚が、サプライチェーンの強靭化や重要・新興技術の課題に係る協力を含め、経済的強靭性・経済安全保障に関する協力を強化していく共同の野心を表明しました。さらに、9月の日米韓外相会合においても、重要鉱物を含むサプライチェーン強靭化を始めとする経済安全保障の分野でも緊密に連携していくことを確認しました。
サプライチェーン強靭化に資するインフラ整備の一例として、内陸国のザンビア、マラウイからモザンビークのナカラ港を経てインド洋とつながるナカラ回廊の整備が挙げられます。2025年8月、石破総理大臣(当時)は、第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)の機会に、モザンビーク、マラウイ、ザンビアに対する広域オファー型協力「ナカラ回廊開発によるグローバル・サプライチェーンの強靭化」を立ち上げることを発表しました(TICAD 9については「開発協力トピックス」、オファー型協力については第Ⅴ部2(2)を参照)。日本は、円借款によるナカラ港開発事業を始め、発電所や道路の整備などを進めてきました。同回廊のさらなる活用のため、今後オファー型協力を通じて、民間企業、国際機関、市民社会等を始めとする様々な関係者のアイデアもいかしながら、同地域の輸送インフラ整備や産業振興を推進していきます。域内の連結性強化により同回廊の輸送ルートとしての価値を高め、日本の資源に係るグローバル・サプライチェーンの強靭化に貢献することが期待されます。
重要鉱物分野において、日本は10年以上にわたり、「資源の絆(きずな)プログラム」を通じて、持続可能な資源開発を担う人材の育成と人的ネットワークの強化を実施しています。これまで累計32か国から246人の行政官等を対象に、法制度の整備から資源探査・開発、保安、鉱害・環境対策、閉山に至るまで、幅広い能力に関する長期研修を実施し、開発途上国における持続的な鉱業開発を支援しています。
また、全世界を対象にサプライチェーン強靭化、持続的な物流システムの構築およびフードバリューチェーン注3強化に関する研修も実施しており、2024年度には計147人の行政官等が参加しました。インドネシアにおいては、2018年から、国境付近の離島6島で、水産施設の整備に加え、離島経済活性化のため水産物の高付加価値化や島外への流通などを整備するための技術協力を実施しています。
開発途上国の貿易を促進するための協力としては、日本は開発途上国産品の日本市場への輸入を促進するため、最恵国税率より低い税率を適用するという一般特恵関税制度(GSP)を導入しています。特に後発開発途上国(LDCs)用語解説に対して特別特恵関税制度を導入し、無税無枠措置用語解説をとっており、2025年3月、特別特恵関税制度の適用をLDCs卒業後1年以内から最長3年延長して受けることができるように制度改正の上、2025年度から措置しています。
また、日本は開発途上国との経済連携協定(EPA)用語解説や投資協定も積極的に推進しています。これらの協定により、貿易・投資の自由化(物品の関税やサービス貿易の障壁の削減・撤廃、税関手続の円滑化など)および海外に投資を行う企業やその投資財産保護を通じたビジネス環境の整備が促進され、日本企業の開発途上国市場への進出を後押しし、ひいては開発途上国の経済成長にも資することが期待されます。なお、EPAの円滑な実施に関しては、開発途上国の税関に対し、その適正な運用に必要な税関手続に関する技術支援も実施しています。
日本を含む先進国による支援をさらに推進するものとして、世界貿易機関(WTO)やOECDを始めとする様々な国際機関などにおいて「貿易のための援助(AfT)」用語解説に関する議論が活発になっています。日本は、AfTを実施する国際貿易センター(ITC)などに拠出し、開発途上国が貿易交渉を進め、国際市場に参入するための能力を強化すること、およびWTO協定を履行する能力を付けることを目指しています。2025年には、日本はITCを通じて、アフリカの女性起業家に対する電子商取引の活用に向けた支援、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の下での貿易・投資の促進に向けた現地政府関係者等への支援、ウクライナにおける避難民の就労および起業支援などを行っています。
税関への支援に関しては、ASEAN諸国を中心に、開発途上国の税関職員を対象とした研修や日本の税関職員を現地に派遣し、開発途上国の税関の能力向上を目的とした支援を行っています。特にASEAN 6か国注4には日本の税関職員をJICA専門家として長期派遣し、ニーズに応じた支援を実施しています。さらに、カンボジア、タイ、ラオスでは2024年7月から3か国の広域プロジェクトとしてメコン地域の連結性向上に向けた支援も実施しています。また、世界税関機構(WCO)への拠出を通じて、WCOが有する国際標準の導入や各国のベスト・プラクティスの共有により、国際貿易の円滑化および安全確保の両立などに貢献しています。さらに、JICA/WCO合同プロジェクトであるマスタートレーナープログラムを、アフリカのみならず、太平洋島嶼(しょ)国および中央アジア・コーカサス地域にも対象を拡大しており、これまで累計37か国において教官養成や研修教材作成を支援し、持続的な研修能力の向上に貢献しています。2025年8月のTICAD 9の機会には、AfCFTAに関する公式テーマ別イベントをWCOおよびAfCFTA事務局と共催で実施し、AfCFTAの進捗状況や現状の課題およびAfCFTA活用に向けて内外の関係者が協力していくことの重要性について、国際機関、地域経済共同体、アフリカ諸国、民間事業者、ドナー国など多様な視点から議論を行いました。また、同イベントにおいて、アフリカにおける日系企業のビジネス環境改善に向けた日本の取組を紹介しました。
■金融・資本市場制度整備支援等
開発途上国の持続的な経済開発にとって、健全かつ安定的な金融システムや円滑な金融・資本市場は必要不可欠な基盤です。金融のグローバル化が進展する中で、新興市場国における金融システムを適切に整備し、健全な金融市場の発展を支援することが大切です。こうした考えの下、JICAの課題別研修を通じて、金融規制監督等に関する研修を実施しました。また、金融庁は、金融インフラ整備支援および海外金融当局との協力強化を目的にグローバル金融連携センター(GLOPAC)において、2014年の設立以降、これまで38の国・地域から計243人の支援対象地域の金融当局者を日本に招聘(へい)し、銀行・証券・保険に関する計26回の研修を実施しました。
■国内資金動員支援
開発途上国が、自らのオーナーシップ(主体的な取組)で様々な開発課題を解決し、質の高い成長を達成する上で、開発途上国が必要な開発資金を税収などの形で、自らの力で確保していくこと、すなわち「国内資金動員」が重要となっています。持続可能な開発目標(SDGs)用語解説を達成するための開発資金不足が指摘される中、日本は、国際機関などとも協働しながら、この分野の議論に貢献するとともに、国内資金動員に関連した支援を開発途上国に対して提供しています。例えば、日本は、開発途上国の税務行政の改善などを目的とした技術協力に積極的に取り組んでおり、2025年には、納税者管理、国際課税、徴収などの分野について、フィリピンおよびベトナムで、国税庁の職員がJICA専門家として活動しました。さらに、開発途上国の税務職員などを対象に、国際税務行政セミナー(ISTAX)や国際課税研修なども実施しています。また、タイでは固定資産評価能力プロジェクトが2022年11月から実施されています。国際通貨基金(IMF)、世界銀行、OECDやアジア開発銀行(ADB)が実施する税分野を含む国内資金動員の技術支援についても、人材面・知識面・資金面における協力を行っています。
また、多国籍企業などによる課税逃れの防止に取り組むOECD/G20税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクト用語解説の実施も、開発途上国の持続的な発展にとって重要です。このプロジェクトを各国が協調して実施することで、開発途上国は多国籍企業の課税逃れに適切に対処し、自国において適正な税の賦課徴収ができるようになります。また、税制・税務執行が国際基準に沿ったものとなり、企業や投資家にとって、安定的で予見可能性の高い、魅力的な投資環境が整備されることとなります。現在、OECD/G20「BEPS包摂的枠組み」(BEPSプロジェクトで合意された事項を実施する枠組み)には、開発途上国を含む147の国・地域が参加しています。経済のグローバル化およびデジタル化に伴う課税上の課題に対応するため、2021年にこの枠組みの下で合意された「2本の柱」の解決策の実施に向けて、「第2の柱」グローバル・ミニマム課税に係る各国内での法制化などの作業などが進められており、日本としても国際機関への拠出を通じて支援を行っています。
■産業人材育成、雇用創出を含む労働分野の支援
トルコに対する技術協力「アグロインダストリー競争力強化プロジェクト」において、JICA専門家がカラジャダー地域開発庁職員に対して農産物のブランディングに関する研修を実施する様子(写真:JICA)
カメルーンに対する技術協力「包括的 BDS 提供システムの展開を通じた企業競争力強化プロジェクト」において、関係省職員が企業視察を通じてカイゼンの手法について学ぶ様子(写真:JICA)
質の高い成長の実現には、産業発展を支える産業人材の育成が重要です。日本は、教育・訓練を受ける機会が限られがちな開発途上国において、多様な技術や技能を有する産業人材を育成するため、各国で拠点となる技術専門学校および職業訓練校への支援や、日本企業と連携した現地産業人材に対する日本への受入れおよび専門家派遣を通じた育成研修などを実施しています。支援の実施に当たり、日本の知見・ノウハウをいかし、教員・指導員の能力強化、訓練校の運営能力強化、カリキュラム・教材の開発・改訂支援などを行い、教育と雇用との結び付きをより強化する取組を行っています。
2016年から2024年の間に、産業界と連携するなどし、15か国21事業を通じて、19の職業技術教育訓練機関などに対して、施設および機材の整備を含む複合的な支援を行いました。2025年には、日本は、国連女性機関(UN Women)を通じて、15か国・地域14案件で、女性の生計向上を目的とした技能開発にも貢献しました。
アジア地域では、2023年9月に発表した「日ASEAN包括的連結性イニシアティブ」において、今後3年間で5,000人の人材育成を実施することを示しており、課題別研修など様々な事業を通じて、ASEAN諸国の国造りを担う人材育成に協力しています。
厚生労働省では、インドネシア、カンボジア、ベトナム、ラオスを対象に、質の高い労働力の育成・確保を図るため、これまでに政府および民間において培ってきた日本の技能評価システム(日本の国家試験である技能検定試験や技能競技大会)のノウハウを移転する研修注5を日本国内および対象国内で行っています。2024年度にこれらの研修に参加したのは、4か国合計98人で、これにより、対象国の技能評価システムの構築・改善が進み、現地の技能労働者の育成が促進されるとともに、雇用の機会が増大して、技能労働者の社会的地位も向上することが期待されています。
アフリカ地域では一人ひとりの持続的な成長に向けて、産官学連携によるABEイニシアティブ(アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ)注6やアフリカ・カイゼンイニシアティブ注7、国際機関と連携した技術支援などを通じて、産業人材の育成を支援しています(ABEイニシアティブについては第Ⅳ部8および第Ⅴ部1(6)を参照)。
日本は、国際労働機関(ILO)への拠出を通じて、アフリカ、中東、アジアにおいて、若者や女性の雇用の創出、児童労働対策、労働環境の改善等に関する、グローバル・サプライチェーンにおける労働者の人権尊重の取組促進に向けた協力を行うなど、世界の様々な地域においてディーセント・ワーク注8の実現に貢献しています。
■資源・エネルギーへのアクセス確保
第3回アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合で発言する高市総理大臣(写真:内閣広報室)
パラオに対する無償資金協力「送電網整備計画」において、公共事業公社職員に対して地中ケーブルの端末処理方法を指導する日本企業技術者(写真:株式会社トーエネック国際事業統括部)
世界で電力にアクセスできない人々は2023年時点で約6.66億人に上ると言われています注9。電気やガスなどのエネルギー供給の欠如は、産業発達の遅れや雇用機会の喪失を引き起こし、貧困をより一層深めるといった問題につながります。今後、世界のエネルギー需要は、アジアを始めとする新興国や開発途上国を中心にますます増えることが予想されています。同時に気候変動対策は喫緊の課題です。そのような状況下、エネルギー供給源の多角化やエネルギー源の多様化などを通じて、2050年ネット・ゼロ排出目標達成に向けて脱炭素化を図りつつ、エネルギー安全保障を確保していくことが重要です。日本は、各地域の経済・開発状況も重視しつつ、地域の特質に沿った支援を続けています。第3回アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合では、高市総理大臣から、脱炭素化、経済成長、エネルギー安全保障を同時に実現し、産業構造やエネルギー構成等の各国の事情を踏まえた多様な道筋の下でネット・ゼロを達成すべく、AZEC原則の重要性およびこの1年の進捗を確認しました。
日本は、途上国の持続可能な開発を推進するため、近代的なエネルギー供給を可能にする協力を提供し、産業育成のための電力の安定供給に取り組んでいます。省エネルギー設備や再生可能エネルギー(水力、太陽光、太陽熱、風力、地熱など)を活用した発電施設など、環境に配慮したインフラ整備にも協力しています(気候変動に関する日本の取組については第Ⅲ部3(1)を参照)。
とりわけ日本は、国土が広い海域にまたがり、気候変動の影響に脆(ぜい)弱な太平洋島嶼国地域において、エネルギー安全保障および低・脱炭素社会実現の観点から、グリッド接続型の再生可能エネルギーの主流化に向けた支援を行っています。例えば、気象等の自然条件に出力が大きく左右される再生可能エネルギー導入の際、電力システムが不安定化することを防ぐため、太平洋島嶼国5か国注10に対して電源計画の策定などに関する能力強化を実施しており、同地域のエネルギー移行を後押ししています。
案件紹介1
タジキスタン
乾燥地で地中熱を活用 エネルギーアクセスと地球温暖化を解決!
地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)(2022年5月~2027年4月)
地中熱利用による脱炭素型熱エネルギー供給システムの構築
中央アジアのタジキスタンは、石油などの炭化水素資源に乏しく、電力の96%を水力に依存しているため、安定したエネルギーへのアクセスが課題となっています。特に暖房需要が高まる冬季は、雪解け水の減少や流域河川の凍結によって出水率が低下し、発電量が落ち込むため、電力供給が逼(ひっ)迫し、地方・農村部では電気の使用が1日2時間に制限される地域もあります。旧ソ連時代から石炭による火力発電も利用されてきましたが、設備は老朽化しており、地球温暖化の観点からも活用は望ましくありません。
こうした課題の解決に向け、タジキスタンの豊富な地下水資源に着目した同国と日本の研究機関が連携して、2022年から「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」を通じ、ICT技術も利用しつつ、「先進乾燥地帯対応型地中熱ヒートポンプ(GSHP)システム(タジキスタンモデル)」の構築を開始しました。同モデルは、年間を通して温度の変化が少ない地盤や地下水などを熱源とする省エネ技術を導入することで、エネルギーアクセスの向上を目指しています。
同事業の下、首都ドゥシャンベ市を中心に、地下水の分布状況をデータベース化した結果、同国がGSHP導入に高い適性を有することが確認されました。2025年9月に実施された第1デモサイト(ドゥシャンベ市)における1か月間の冷房の試運転では、消費電力が47%削減されていることが実証されました。
エネルギーへの安定的なアクセスは、人々の日常生活を支える基盤です。エネルギーアクセス強化と地球温暖化対策を両立するGSHPシステムには、周辺国や国際機関も強い関心を示しており、今後は、中央アジア諸国も含めた世界各地の乾燥地帯に同技術を広めていくことで、地中熱の活用を始めとする脱炭素型エネルギー技術の普及にさらに貢献することが期待されます。
第1デモサイト(ドゥシャンベ市)に設置したGSHPシステム(写真:秋田大学)
第2デモサイト(マチトン)での井戸掘削工事(写真:日本地下水開発株式会社)
■食料安全保障および栄養の確保に向けた取組
JICA専門家の指導を受け、農産物の市場調査を実施するボリビア人コンサルタント
UNDPを通じた支援により新たな農業用設備が導入され、農閑期も収穫が可能となったネパール人農家(写真:UNDPネパール事務所)
「世界の食料安全保障と栄養の現状2025」注11によると、2024年には6.38億人から7.2億人が飢餓状態に直面したと推測されています。また、同報告書では、2030年になっても、約5.12億人が慢性的な栄養不足に陥る可能性があると予測しています。さらに、ロシアによるウクライナ侵略の長期化により、ウクライナ国内では人口の15%に当たる500万人が食糧援助を必要としているとされているほか注12、2023年10月に発生したハマスなどによるテロ攻撃以降、食料安全保障の状況は悪化しており、ガザ市およびその周辺で、食料不足の程度として最も深刻な飢饉(きん)状態が発生しています注13(ガザ地区への緊急食料支援については「案件紹介」を参照)。
飢餓や貧困への国際社会による取組の加速が急務である中、日本は様々な二国間会談や多国間会議の場において、国際社会と連携しつつ、積極的に同問題に取り組む姿勢を示しています。日本は、G7食料システム作業部会における議論に積極的に貢献したほか、G20の一員として、飢餓と貧困の撲滅への取組を加速することを目的とした「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンス」に参加しており、アフリカにおける農業振興や稲作振興の取組等を積極的に行っています。さらに、国際的な農産品市場の透明性向上を通じた食料安全保障の向上に貢献すべく、データ提供や事業費の拠出などを通じて、「農業市場情報システム(AMIS)」の活用を支援する取組も行っています。
日本は、食料不足に直面している開発途上国からの要請に基づき、食糧援助注14を行っています。2024年度には、27か国・地域に対し、コメ、豆類、魚缶詰等を中心とする食料を調達する総額80億円の無償資金協力を行いました。
また、国際機関と連携した開発途上国に対する食料供給にも取り組んでいます。例えば、世界食糧計画(WFP)を通じて、栄養の改善や教育の機会を促進する学校給食プログラムや、食料配布を通じてコミュニティの農地および社会インフラの整備への参画を促す取組を実施しています。2025年9月には、武力衝突等の影響により深刻な食料不安に直面するスーダンに対して、WFPを通じて4億円の無償資金協力を行うことを決定しました。日本は、2024年、世界120以上の国と地域で約1億2,400万人に対し、約250万トンの食料供給配布やバウチャー・現金給付を通じた食料支援などの活動を行ったWFPに対して、総額約1億5,548万ドルを拠出しました。
さらに、日本は、開発途上国の食料生産基盤の強化など、強靭で持続可能な食料システム構築のための取組を進めています。
例えば、アフリカの経済成長において重要な役割を果たす農業を重視しており、その発展に積極的に貢献しています。具体的には、アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)用語解説フェーズ2の下、RICEアプローチ用語解説に基づいて、灌漑(かんがい)施設の整備や、アジア稲とアフリカ稲を交配したネリカ(NERICA)用語解説を含む優良品種の開発とそれらの種子の増産・流通、生産技術の普及、農業機械化など、コメ生産の量と品質の向上に向けた取組を進めています。CARDの対象は、これまでに32か国に拡大しています。2022年8月に開催したTICAD 8では、CARDを通じて15万人の人材育成を行い、2030年までのコメ生産量倍増(5,600万トン)を目標として掲げ、ウガンダを始めとする各国において取り組んでおり、2025年8月に開催されたTICAD 9でも、その進捗報告が行われました。
日本は、小規模農家の自給自足から「稼ぐため」の農業への転換を推進するため、市場志向型農業振興(SHEP)アプローチ用語解説に基づく取組を実施しています。SHEPアプローチは、野菜や果物を生産する農家に対し「売れるものを作る」への意識変革を起こし、営農スキルや栽培スキルの向上によって農家の所得向上を目指しています。ケニアとの技術協力の中で生まれたこのプロジェクトは、世界約60か国で広がり、研修事業や専門家派遣などを通じて自給自足型農業からの転換を推進してきました。TICAD 9では、「革新的な課題解決策の共創」のテーマの下、日本は、農業を含む幅広い分野において今後3年間で30万人の人材育成に取り組むことを表明しました。
日本は、農業・食料分野の強靭性強化に向けて、国際機関とも積極的に連携しています(ジンバブエにおけるWFPとの連携については「国際協力の現場から」を参照)。例えば、日本は、国連食糧農業機関(FAO)を通じて、開発途上国の農業・農村開発に対する技術協力や、自然災害や紛争の影響を受けた農業・漁業従事者に対する支援、食料・農業分野の国際基準・規範の策定、統計の整備に対する協力などを実施しています。また、15の国際農林水産研究を実施する機関を有する国際農業研究協議グループ(CGIAR)が行う、品種開発や環境負荷の軽減に資する栽培技術の実証などの生産力の向上と持続可能性の両立に向けた研究開発を支援しています。このほか、2023年4月のG7宮崎農業大臣会合にて、日本は、「民間セクター・小規模生産者連携強化(ELPS)」イニシアティブの下、国際農業開発基金(IFAD)と連携し、日本企業と開発途上国の小規模農業者などをつなぎ、輸入農産物の安定的で持続可能なサプライチェーンの構築・強化に取り組んでいます。具体的には、ELPS第1号案件であるタンザニアにおける「持続可能なコーヒー生産プロジェクト」に続けて、2025年8月に、ELPS第2号案件として、ルワンダにおける「マカデミアナッツのバリューチェーン強化プロジェクト」を立ち上げました。ルワンダの23地域における能力構築支援などを通じて、農家のスキルや生産性の向上、有機認証取得による付加価値や品質の向上のみならず、民間企業もルワンダからマカダミアナッツを安定的かつ持続的に調達できるようになることを目指しています。さらに、2025年11月に、ELPS第3号案件として、バングラデシュにおける「輸出用ゴマのバリューチェーン強化プロジェクト」を立ち上げました。ゴマの品質向上や能力構築などを通じて、高品質なゴマの安定的な調達と農家の生計向上を可能にし、安定的な輸出バリューチェーンを強化することを目的としています。
日本は、こうした農業生産に関する協力に加えて、国際獣疫事務局(WOAH)やFAOを通じた動物衛生の向上にも貢献しています。例えば、鳥インフルエンザ、口蹄疫(こうていえき)、アフリカ豚熱(ASF)などの国境を越えて感染が拡大する動物の感染症に対処するため、WOAHとFAOが共同で設置した「越境性動物感染症の防疫のための世界的枠組み(GF-TADs)」の下、アジアおよび太平洋地域を中心に、動物衛生分野での国際機関の取組を支援しています。
また、国際開発金融機関(MDBs)用語解説への拠出などを通じ、開発途上国における栄養改善も支援しています。例えば、世界銀行のグローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)用語解説を通じた母子保健・栄養分野への効果的な資金動員の推進や、栄養改善拡充のための信託基金用語解説を通じた開発途上国における栄養改善に係る政策策定の取組に貢献しています。日本は、2021年12月に「東京栄養サミット2021」を主催し、岸田総理大臣(当時)は、3年間で3,000億円以上の栄養関連支援を表明し、2022年から2024年までの3年間で約3,593億円規模の支援を行いました。
用語解説
- 質の高い成長
- 開発協力大綱では、「成長の果実が社会全体に行き渡り、誰ひとり取り残さない『包摂性』、世代を超えた経済・社会・環境が調和する『持続可能性』、自然災害や経済危機などの様々なショックへの耐性および回復力に富んだ『強靭性』を兼ね備えた成長」と記載。
- 後発開発途上国(LDCs:Least Developed Countries)
- 国連による開発途上国の所得別分類で、開発途上国の中でも特に開発が遅れている国々であり、一人当たりの国民総所得(GNI)などの基準に沿って3年ごとに見直しが行われている。2025年現在、アジア・中東8か国、大洋州3か国、中南米1か国、アフリカ32か国の44か国が該当する。
- 無税無枠措置
- 後発開発途上国(LDCs)からの輸入産品に対し、原則無税とし、数量制限も行わないとする措置。日本はこれまで、同措置の対象品目を拡大してきており、全品目の約98%を無税無枠で輸入可能としている。
- 経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)
- 特定の国や地域の間で物品の関税やサービス貿易の障壁などを削減・撤廃することを目的とする自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)に加え、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野での協力の要素などを含む、幅広い経済関係の強化を目的とする協定。このような協定によって、国と国との貿易・投資がより活発になり、さらなる経済成長につながることが期待される。
- 貿易のための援助(AfT:Aid for Trade)
- 開発途上国が世界貿易機関(WTO)の多角的貿易体制の下で、貿易を通じて経済成長と貧困削減を達成することを目的として、開発途上国に対し、貿易関連の能力向上のための支援やインフラ整備の支援を行うもの。WTOでは、開発途上国が多角的な自由貿易体制に参加することを通じて開発を促進することが重視されている。
- 持続可能な開発のための2030アジェンダ/持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)
- ミレニアム開発目標(MDGs、2001年)の後継として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成される。
- OECD/G20税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクト
- 2012年6月に経済協力開発機構(OECD)租税委員会が立ち上げたもので、公平な競争環境(Level Playing Field)確保という考えの下、多国籍企業が課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行うこと(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)がないよう、国際課税ルール全体を見直し、世界経済および企業行動の実態に即したものにするとともに、各国政府・グローバル企業の透明性を高めることを目指している。
- アフリカ稲作振興のための共同体(CARD:Coalition for African Rice Development)
- アフリカにおけるコメ生産拡大に向けた自助努力を支援するための戦略(イニシアティブ)であると同時に、関心あるコメ生産国と連携して活動することを目的としたドナーによる協議グループ。2008年のTICAD IVにおいて日本が国際NGOのアフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)と共同で立ち上げ、2019年のTICAD 7ではフェーズ2を立ち上げた。
- RICE(Resilience, Industrialization, Competitiveness, Empowerment)アプローチ
- CARDフェーズ2で採用されたサブサハラ・アフリカのコメ生産量倍増のための取組。具体的には、気候変動や人口増に対応した生産安定化、民間セクターと協調した現地における産業形成、輸入米に対抗できる自国産米の品質向上、農家の生計・生活向上のための営農体系の構築が挙げられる。
- ネリカ(NERICA:New Rice for Africa)
- 国際農業研究協議グループ(CGIAR)のアフリカ稲センター(Africa Rice Center)が、高収量のアジア稲と雑草や病虫害に強いアフリカ稲を交配することによって開発した稲の総称。従来の稲よりも(1)収量が多い、(2)生育期間が短く、短い雨季での栽培や、干ばつのリスクを回避できる、(3)耐乾性・耐病性が高く、アフリカ特有の高温で乾燥した気候にも負けない、などの特長がある。日本は、1996年以降、国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(JIRCAS)、JICAから研究者、専門家を派遣し、品種開発・普及を支援している。
- 小規模農家向け市場志向型農業振興(SHEP:Smallholder Horticulture Empowerment & Promotion)アプローチ
- 2006年に日本がケニアで開始した小規模農家支援のためのアプローチ。野菜や果物などを生産する農家に対し、「作ってから売り先を探す」から「売れるものを作る」への意識変革を促し、営農スキルや栽培スキルの向上によって農家の所得向上を目指すもので、アフリカを中心に世界約60か国で同アプローチを取り入れた活動を実践している。
- 国際開発金融機関(MDBs:Multilateral Development Banks)
- 開発途上国の貧困削減や持続的な経済・社会的発展を、金融支援や技術支援、知的貢献を通じて総合的に支援する国際機関の総称。一般的にMDBsと言えば、全世界を支援対象とする世界銀行グループ(World Bank Group)と、各所轄地域を支援するアジア開発銀行(ADB)、米州開発銀行(IDB)、アフリカ開発銀行(AfDB)、欧州復興開発銀行(EBRD)の四つの地域開発金融機関を指す。
- グローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF:Global Financing Facility)
- 母子保健分野の資金リソースを拡充するために、2015年に世界銀行や国連などが立ち上げたイニシアティブ。女性やこどもの栄養状態改善を含む母子保健分野の政策の策定や、実施能力の向上のための技術支援を実施している。策定された計画の実行について、世界銀行の低利融資などを受けることをGFFによる支援の条件とすることで、資金動員効果を企図している。
- 栄養改善拡充のための信託基金
- 重度栄養不良国での栄養対策への投資を拡大し、栄養不良対策の実施のための能力開発を行うことを目的に、2009年に設立された基金。重度栄養不良国に対し、栄養改善に係る政策の策定や、実施能力向上のための技術支援を行い、当該国や世界銀行などによる栄養関連の投資を後押ししている。
- 注1 : 原材料の調達から生産、加工、流通、そして販売により需要者に提供されるまでの一連の流れのこと。
- 注2 : G7広島サミットにおいて、透明性、多様性、安全性、持続可能性、信頼性が、G7内外の信頼できるパートナー国との間で強靭なサプライチェーンネットワークを構築および強化する上で不可欠な原則であることが確認された。
- 注3 : 農家、種・肥料・農機などの資機材の供給会社、農産物の加工会社、輸送・流通会社、販売会社など、多くの関係者の連携を通じて、生産から製造・加工、流通、消費に至る各段階の付加価値を連鎖させたもの。
- 注4 : カンボジア、タイ、フィリピン、マレーシア、ミャンマー、ラオスの6か国。
- 注5 : 「試験基準・試験問題等作成担当者研修」、「試験・採点等担当者研修」などがある。上記本文中の参加者数は、これらの研修の合計値。
- 注6 : 用語解説を参照。
- 注7 : どうすれば少しでも生産過程の無駄を省き、品質や生産性を上げることができるか、生産現場で働く一人ひとりが自ら発案し、実行していく手法。戦後の高度成長期の日本において、ものづくりの品質や生産性を高めるために製造業の現場で培われた取組で、「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」(5S)などが基本となっている。
- 注8 : SDGsの目標8で設定された、働きがいのある人間らしい仕事。
- 注9 : 国際エネルギー機関(IEA)「Tracking SDG7:The Energy Progress Report, 2025」(「SDG7の進捗状況の追跡:エネルギー進捗報告書2025」) https://www.iea.org/reports/tracking-sdg7-the-energy-progress-report-2025#overview
- 注10 : サモア、ツバル、フィジー、ミクロネシア連邦、パラオの5か国。
- 注11 : FAO、IFAD、UNICEF、WFPおよびWHOが共同で作成した報告書 https://www.who.int/publications/m/item/the-state-of-food-security-and-nutrition-in-the-world-2025
- 注12 : WFPホームページ https://www.wfp.org/news/three-years-war-ukraine-one-third-population-frontlines-regions-struggle-find-enough-eat#:~:text=KYIV%2C%20Ukraine%20%E2%80%94%20As%20the%20war%20in%20Ukraine,greatest%20needs%20concentrated%20in%20areas%20near%20the%20frontlines
- 注13 : 総合的食料安全保障レベル分類(IPC)ホームページ https://www.ipcinfo.org/ipc-country-analysis/details-map/en/c/1159696/?iso3=PSE
- 注14 : 貧困削減を含む経済社会開発努力を実施している開発途上国に対し、食糧援助規約に関連して行われる食糧援助を実施するため、必要な生産物および役務の調達のための資金を贈与する無償資金協力。
