2025年版開発協力白書 日本の国際協力

(2)日本の強みをいかした協力ときめ細やかな制度設計~「共創」に向けた開発協力~

日本が自国の伝統を大切にしつつ、民主的な経済発展を遂げた歩みの中で構築してきた人材、知見、質の高い技術力、制度などは、途上国が様々な課題を解決し、発展する際の鍵の一つとなり、日本と相手国との信頼関係の構築にもつながってきました。留学や研修を始めとする様々な機会に日本の習慣や文化、技術などを習得した人々のネットワークは日本企業の海外進出を支えるようにもなっています。このように、日本は、途上国との間で時間をかけて積み上げた開発協力を通じて、日本と途上国のいずれもが課題を解決し発展する、「共創」に向けた開発協力の実施に努めています。

■人への投資

日本は、1954年にODAを開始して以来、研修員受入事業や専門家派遣など、日本の技術やノウハウを伝える「人への投資」を一貫して重視し、きめ細やかな人づくりに取り組んでいます。開発途上国の課題解決に貢献することを目指して、行政、農林水産、鉱工業、エネルギー、教育、保健・医療、運輸、通信など多岐にわたる分野で研修員受入事業を実施しており、2024年度は、139か国・地域から新規に8,648人が日本国内で実施される本邦研修に参加、開発途上国・地域で実施される現地国内研修には、7か国で新規に1,460人、第三国研修は、118か国・地域から新規に2,000人がそれぞれ参加しました。また、開発途上国政府に対する高度な政策提言や現地に適合した技術の開発などを通じて、当該国の人材の能力構築を行うことにより、開発効果を顕在化させることを目的とする専門家派遣では、2024年度は、1,951件の新規および継続契約に基づきJICA専門家を108か国・地域に派遣しました(専門家・調査合わせた派遣数は10,055人)。

■JICA海外協力隊(JICAボランティア事業)
バヌアツに派遣され、同国の卓球ナショナルチームを指導するJICA海外協力隊員(写真:JICA)

バヌアツに派遣され、同国の卓球ナショナルチームを指導するJICA海外協力隊員(写真:JICA)

1965年に発足したJICA海外協力隊は、99か国に延べ58,000人以上が派遣されており、2025年12月現在、74か国で1,658人の隊員が活動中です。2025年で60周年を迎えたJICA海外協力隊は、まさしく国民参加型の事業であり、日本の「顔の見える開発協力」として開発途上国の発展に貢献してきました。人と人との心のこもった人間関係と信頼で日本の経験、知見や技術を伝え、開発途上国の経済・社会の発展のみならず、現地の人たちの日本への親しみを深めることを通じて、日本とこれらの国との相互理解・友好親善にも寄与しており、国内外から高い評価を得ています。

また、2012年以降、民間企業・団体(以下「民間企業等」)、地方自治体および大学との連携による派遣が本格的に行われるようになりました注21。民間企業等との連携では、隊員の派遣を通じて、日本での業務経験を開発途上国の開発にいかすとともに、派遣された隊員が現地での活動を通して把握したその国特有の商習慣や市場ニーズを帰国後の企業活動へ還元することなどにより、企業の海外展開を積極的に支援しています。民間企業等からの隊員については、2025年12月までに141人が40か国に派遣されています(ブータンにおける隊員の活動について「国際協力の現場から」を参照)。自治体との連携では、日本の地域づくりの知見を開発途上国の地域づくりに役立てるとともに、隊員活動における地域づくりの経験が、帰国後に日本の地域づくり、ひいては日本の国造りにつながると期待されており、2025年12月までに86人が14か国に派遣されています。大学との連携では、日本の学生による開発途上国での協力活動の経験が学生自身の成長にも資するという、日本と開発途上国の双方における効果的な人材育成につながっており、2025年12月までに1,231人が46か国に派遣されています。

JICAボランティア事業では、グローバルな視野を身に付けた協力隊経験者が日本の地方創生や民間企業の開発途上国への進出に貢献するなど、協力隊経験の社会還元という側面も注目されています。2022年からは、その一環として、協力隊派遣前の選考合格者のうち、帰国後も日本国内の地域が抱える課題解決に取り組む意思を有する希望者を対象に、自治体などが実施する地方創生や多文化共生等の取組に参加機会を提供する「グローカルプログラム(派遣前型)」を実施しており、2024年度は12道県19地域で101人が参加しました。参加者からは、初めての土地で人間関係を築く実体験ができたことに加えて、プログラム終了後も地域との関係が継続し、帰国後の選択肢が広がったとの声が聞かれるとともに、受入れ自治体からは、地域外の人ならではの視点での気づきを通して、住民が地元の良さを再認識することにつながると高い評価が得られました。このように、隊員の帰国後の進路開拓支援を行うとともに、現職参加の普及・浸透に取り組むなど、より多くの人が本事業に参加しやすくなるよう努めています(JICA海外協力隊の60年の歩みについては第Ⅰ部を参照)。

■オファー型協力

日本が有する高い技術や科学技術は大きな強みである一方で、新興国や開発途上国の技術も発展し、求められるニーズも多様化しており、機材供与、施設整備などの質の高いハード面での協力に、運営・維持管理への関与や制度構築、人材育成を含めたソフト面での協力などを組み合わせた、付加価値のある開発協力の実践が重要になっています。このような現状も踏まえて、2023年6月に改定した開発協力大綱において、外交政策上、戦略的に取り組むべき分野において、ODAとOOF(その他公的資金)や民間資金も含む形で、日本の強みをいかした魅力的なメニューを積極的に提案していくオファー型協力の強化を打ち出しました。また、同年9月、戦略文書「パートナーとの共創のためのオファー型協力」注22を策定し、(i)気候変動への対応・GX(グリーン・トランスフォーメーション)、(ii)経済強靭(じん)化、(iii)デジタル化の促進・DX(デジタル・トランスフォーメーション)を、戦略的に取り組む分野と定めました。さらに、2025年8月には、世界中で自然災害が頻発化・激甚化する傾向が見られると同時に、持続可能な国際保健分野の取組が一層重要となってきている状況を踏まえ、この戦略文書を改定し、戦略分野として「防災」を追記し「気候変動への対応・GX・防災」とするとともに、新たな分野として「保健」を選定しました。

オファー型協力は、この戦略文書に基づき、被援助国との間で行われる政策対話などを通じ、分野ごとの開発協力目標、開発シナリオ、協力メニューを協働で策定します。協力メニューについては、日本からの中長期的な投入量(資金面・人材面の目安、日本の異なるスキームの案件を組み合わせた協力事業の概要など)を示しつつ、被援助国側が政策面で取り組む内容などについても議論し、必要に応じ、包括的に合意するものです。また、被援助国ごとに日本と開発途上国の双方の関係するステークホルダーとの対話の場(プラットフォーム)の設定を重視しています。これらの取組を通じ、開発協力目標の実現を図り、開発途上国の課題を解決すると同時に、様々なステークホルダーとの「共創」によって、日本の課題解決や経済成長にもつなげていきます。

オファー型協力の具体例としては、フィジーを中心とする大洋州地域の防災・早期警戒体制強化を進めています。これは、同時期に行われた第10回太平洋・島サミット(PALM10)において発表した「気候変動強靭化イニシアティブ」の一環であり、無償資金協力や技術協力を始めとする様々なスキームを活用して、太平洋地域全体の災害リスクの削減と災害対処能力を強化し、気候変動や自然災害に対して持続可能かつ強靭な社会の構築を促進することを目指しています(フィジーにおけるオファー型協力の具体的取組については第Ⅳ部3を参照)。

また、ブラジルでは、2024年に立ち上げた「日・ブラジル・グリーン・パートナーシップ・イニシアティブ(GPI)」の下で、劣化牧野回復やアマゾン違法森林伐採対策を柱として協力を進めています。さらに、2025年8月のTICAD 9の機会に、モザンビーク、マラウイ、ザンビアに対する広域オファー型協力であるナカラ回廊開発によるグローバル・サプライチェーンの強靭化や、ナイジェリアにおけるスタートアップ支援による社会課題の解決と経済強靭化の立ち上げを発表しました。ナカラ回廊開発広域オファー型では、ナカラ回廊地域の輸送インフラ整備・強化および産業振興を図り、域内の連結性強化によりナカラ回廊の鉱物資源等の輸送ルートとしての価値を高め、同地域への投資促進や雇用創出により持続的な発展を実現することを通じて、日本の各種資源に係るグローバル・サプライチェーンを強靭化することを目的としています。また、ナイジェリアに対するオファー型協力は、ものづくりや社会課題解決に携わるナイジェリアのスタートアップへの資金供給を通じ、イノベーションによる社会課題の解決と新規産業創出による産業多角化を図り、同国の経済強靭性を高めることにより、日・ナイジェリア間で相互に相乗効果が発揮されるようにすることを目的とするものです(ブラジルにおけるオファー型協力については第Ⅳ部4、アフリカにおけるオファー型協力については第Ⅳ部8も参照)。

■草の根・人間の安全保障無償資金協力
エクアドル・ピンダル市消防署への消防車両の引渡式におけるデモンストレーション(草の根・人間の安全保障無償資金協力)

エクアドル・ピンダル市消防署への消防車両の引渡式におけるデモンストレーション(草の根・人間の安全保障無償資金協力)

日本は、1989年度に開始された「小規模無償」を前身とする、草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じ、人間の安全保障の理念を踏まえて、開発途上国・地域の行政サービスの届きにくい地域に住む人々のために、住民生活に根ざす教育、保健・医療、水・衛生、地雷除去、災害対策など、基礎生活(BHN)分野において、比較的小規模な開発事業注23を直接的かつ機動的に展開しています。その中で、日本の企業や地方自治体が事業実施に関与し、技術講習などのサービスを無償で提供する特定型の事業も実施しており、日本の有する知見や技術力を活用して開発途上国・地域の社会課題解決のために一層効果的に取り組むことを推進しています。2024年度は、113か国・地域で422件を実施しました。

■有償資金協力

かつて被援助国だった日本は、戦後復興に必要な多岐にわたる分野で世界銀行などから多額の資金を借り入れ、戦後の高度成長の基盤を築きました。このように、自力で返済することで被援助国から経済発展した自国の経験を背景に、開発途上国の自助努力を支援し、自立的発展を促すことが、効果的な開発協力のために重要であるとの考えに基づき、日本のODAは、返済義務のある有償資金協力が占める割合が一貫して多くなっています。その際、日本の優れた技術やノウハウを活用し、開発途上国への技術移転を通じて「顔の見える援助」を促進するため、本邦技術活用条件(STEP:Special Terms for Economic Partnership)を導入するなどの制度改善を継続的に行っています。これらを通じ、日本企業の借款事業の受注比率は6割を超える水準で推移しており、日本企業の海外展開の後押しにもなっています。


  1. 注21 : 2023年4月、「民間連携」、「自治体連携」、「大学連携」の各派遣制度は、「連携派遣」として整理・統合された。
  2. 注22 : オファー型協力を通じて戦略的に取り組む分野と協力の進め方「パートナーとの共創のためのオファー型協力」
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100553362.pdf
  3. 注23 : 1件当たり2,000万円以下を目安とし、最大1億円。
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