2025年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 05

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JICA海外協力隊員によるキノコ栽培技術の普及と産業振興

孤立集落でナメコ栽培を紹介する熊田氏(写真左から1人目)(写真:NMC)

孤立集落でナメコ栽培を紹介する熊田氏(写真左から1人目)(写真:NMC)

ヨンテン・プンツォ農業・畜産大臣にナメコの試作商品を説明する熊田氏(写真左から2人目)(写真:NMC)

ヨンテン・プンツォ農業・畜産大臣にナメコの試作商品を説明する熊田氏(写真左から2人目)(写真:NMC)

「国民総幸福量」という独自の理念を掲げることで知られ、ヒマラヤ山脈の麓に位置するブータンは、平地が少なく広い農地の確保が難しく、主食のコメを始め大半の農産物を輸入に頼っています。そのような中、山間地で栽培できるキノコ類は農家の収入源として注目されています。首都ティンプーにあるブータン国立キノコセンター(NMC)では、生産者向けに、キノコ類の栽培・育種の支援活動を行っています。従来は主にシイタケやヒラタケが栽培されてきましたが、いずれも他国との価格競争や憲法に基づく森林利用の制約などにより収穫量が伸び悩んでおり、新たなキノコの栽培に活路を求めていました。

そこで着目されたのが、日本人にも馴染み深いナメコです。これまでナメコの栽培や食用の文化がなかったブータンで新たに始まったこの取組の一翼を担ったのがJICA海外協力隊員の熊田淳(あつし)氏です。同氏は、福島県農林水産部職員としてキノコ類に関する研究・普及に長年携わってきましたが、定年退職を機に、現役時代に果たせなかった「国際協力の現場で専門知識を社会還元したい」との夢を実現すべく、JICA海外協力隊に応募しました。「自分の専門性を最もいかせそうなのがブータンだった。世界有数の生物多様性を持つ山岳国であり、キノコ類も豊富で、多くの発見があるだろうと期待していた。」と、ブータンへの赴任を希望した理由を語ります。

赴任後間もなく、山中で自生するナメコを発見し、福島大学との形態や遺伝子解析等の共同研究により、日本原産のナメコと同種であることが分かり、ブータンにおけるナメコ栽培普及の第一歩となりました。熊田氏は、派遣先機関のNMCを拠点として、地元農家に向けたナメコ栽培の指導プロジェクトを開始し、2024年6月には国連食糧農業機関(FAO)の支援事業として正式に採択され、現在ではブータン国内3県、約40人の生産者がナメコの栽培に取り組んでいます。

地元農家の方々にこの新たな取組に積極的に関わってもらうべく、技術指導は実際の栽培地となる山間部に赴いて行われ、指導以外の時間においても地元の人々との交流を深め、信頼関係を構築しました。NMC職員のカルマ・ティンレイ氏は「食事や衛生状況など、ブータン人の私たちでも尻込みするような山村の厳しい環境下で、日本人の熊田さんが誰よりも現地の人々に馴染んでいた。」と、当時の感動を語ります。

ブータンでは原木栽培が可能なことも利点の一つです。風味が良く高品質な原木栽培のナメコは、輸出品としても期待が高まっています。NMCのプログラム・ディレクターであるチェンチョ・ドゥクパ氏は「希少で高品質な原木栽培のナメコのニッチなニーズがある国への輸出を視野に、加工業者や輸出業者と連携し、販路の見込みが立ってきた。僅かな生産量ですが、一味違うブータンのナメコをぜひ日本の皆さんにも味わってほしい。」と、海外市場へ熱い視線を向けます。

さらに、ナメコを核とした新たな国際交流も始まっています。熊田氏は、東日本大震災の際に日本への支援を行ったブータンと、ナメコの栽培地として知られる福島県の絆(きずな)を深めたいとの思いから、2025年4月にNMC職員とFAOブータン事務所の職員の来日を実現し、福島県内の生産現場や大学などで約2週間の研修を行いました。民間企業への訪問も通じて、最新の栽培技術や流通過程への知見を深め、今後の栽培拡大へ弾みをつけました。「付加価値の高い作物を生産できれば、山間部であっても地域に収入をもたらし、コミュニティの活性化につなげることができる。こうした知見は、日本の地域振興にもいかせるのではないか。」と、熊田氏はブータンでの活動を日本にも還元する可能性について語ります。一粒一粒は小さなナメコですが、日本とブータンを力強く結び付け、地域社会の活性化に向けた新たな可能性をもたらしています。

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