2025年版開発協力白書 日本の国際協力

2 平和・安全・安定な社会の実現、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化

(1)平和構築と難民・避難民支援

パレスチナ・ガザ地区で新鮮な野菜を含む食料バスケットの配給を受ける市民(写真:特定非営利活動法人パルシック)

パレスチナ・ガザ地区で新鮮な野菜を含む食料バスケットの配給を受ける市民(写真:特定非営利活動法人パルシック)

国際社会では、依然として、民族・宗教・歴史の違いなど様々な要因や、貧困や格差などの影響によって、地域・国内紛争が発生しています。近年の地政学的な国家間競争の激化や緊張の高まり、既存の国際的秩序への挑戦的な主張を強める国々の台頭も、世界の経済・社会の発展と安定に大きな負の影響をもたらしています。

紛争は、多数の難民や避難民を発生させ、人道問題を引き起こし、長年にわたる開発努力の成果を損ない、大きな経済的損失をもたらします。ある国や地域の紛争の影響は、世界全体に何らかの形で影響を及ぼすものであり、このような紛争の長期化も課題となっています。2022年に発生したロシアによるウクライナ侵略や2023年以降の中東情勢の悪化は、ますます深刻な人道危機をもたらしており、国際社会全体にとっての大きな課題となっています。このように国際社会の課題が複雑化・多様化する中で、持続的な平和の定着のため、開発の基礎を築くことを念頭においた平和構築の取組はますます重要になっています。

●日本の取組

■平和構築支援

紛争などによる人道危機への対応として、日本は初期の段階から、緊急に必要とされる人道支援を中長期的な開発協力を見据えて行う「人道・開発・平和の連携(HDPネクサス)」注39を推進しています。人道危機が長期化・多様化する中、平時から中長期的な観点に立った強靭(じん)な国造りや社会安定化といった平和の持続のための支援を行うアプローチで、紛争などの影響により脆(ぜい)弱な状況が続く各国・地域において、難民の自立を支援し、さらなる危機の根本要因に対処するため、人道支援から、貧困削減・経済開発、平和構築、紛争予防までにわたる支援を継ぎ目なく展開しています。

継ぎ目ない支援を展開するため、日本は、国際機関を通じたものを含む無償資金協力と技術協力を組み合わせて、紛争下における難民・避難民に対する人道支援や、紛争終結後の和平(政治)プロセスに向けた選挙支援を実施しています。平和の定着と紛争の再発防止を目的とした、元兵士の武装解除、動員解除および社会復帰(DDR)、治安部門改革、行政・司法・警察機能の強化に関する支援も実施しています。基礎インフラの復旧や制度の整備支援、保健や教育などの社会開発も行っているほか、ホストコミュニティとの共存を促す取組、難民・避難民の帰還・再定住に向けた取組といった復興支援にも取り組んでいます。なお、これらの取組においては、国連安全保障理事会(安保理)決議第1325号を始めとした、平和構築における女性の役割が重要であるとする一連の国連安保理決議に基づいて、紛争の予防や解決、平和構築への女性の参画促進に積極的に取り組んでいます(女性・平和・安全保障(WPS)については注88を参照)。

国際社会では、国連平和構築委員会(PBC)用語解説などの場において、紛争の解決や予防、紛争後の復旧や国造りに対する支援の在り方に関する議論が行われています。日本は設立時からPBCに参加し、制度構築や人材育成に取り組む重要性や、関係機関(国連安保理、国連総会、PBCなどの国連機関、ドナー国、地域的機関、世界銀行・国際通貨基金(IMF)などの国際金融機関、民間セクターなど)の間での連携強化の必要性を訴えるなど、積極的に貢献してきています。国連平和構築基金(PBF)用語解説にも、2025年12月時点で総額7,133万ドルを拠出し、主要ドナー国として貢献してきています。また、日本は2024年末の安保理理事国任期終了後も、引き続き平和構築・紛争予防を国連における優先課題の一つとして、積極的に貢献しています。

日本は、以前から、国連平和維持活動(国連PKO)などの国際平和協力活動と開発協力の連携にも努めてきています。実際、国連PKOが行われている国や地域では、紛争の影響を受けた避難民や女性・こどもの保護、基礎インフラの整備などの取組が多く行われており、その効果を最大化するために、このような連携を推進することが引き続き重要です。例えば、日本はアフリカ連合(AU)委員会人道問題・保健・社会開発局(HHS)への拠出を通じて、中央アフリカとモザンビークにおいて、紛争や災害に起因した強制移住により教育機会が得られなかった若者に対して、ポスト初等教育(初等後教育)へのアクセスを促進する事業などを実施しています。

日本は、国連、ドナー国および要員派遣国の3者が互いに協力し、国連PKOなどに派遣される要員の訓練などを行う協力枠組みである「国連三角パートナーシップ・プログラム(TPP)」にも積極的に貢献しています。同枠組みの下、自衛隊員などを派遣して重機操作や野外救急の訓練を実施しているほか、国連PKOミッションの遠隔医療体制整備や派遣要員の爆発物対応能力向上などに貢献しています。

その他、平和構築に従事する人材に求められる資質が多様化、複雑化していることに鑑み、日本は「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」注40を通じて、現場で活躍できる国内外の文民専門家を育成しています。これまでに実施した国内研修には延べ1,000人以上が参加しました。修了生の多くが、世界各地の平和構築・開発の現場で活躍しています。

■難民・避難民支援

シリアでは難民が帰還する動きが見られるものの、スーダンを始め、アフガニスタンやウクライナ、ミャンマーなどの国々では引き続き多くの人々が避難を強いられており、2024年末の時点で難民、避難民の数は約1億2,320万人注41に達するなど、人道状況は依然として厳しい状況にあります。日本は、2025年4月に国連大学において、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)日本事務所と外務省の共催により、2023年12月にジュネーブで行われた第2回グローバル難民フォーラム(GRF)のフォローアップとなる第2回日本グローバル難民フォーラム・ネットワーク会合を開催しました。国際機関、NGO、民間企業・団体等の関係者が参加し、それぞれのプレッジの実施状況や取組などを共有し、難民の社会的包摂についての意見交換を行いました。人間の安全保障の観点からも、日本は、最も脆弱な立場にある人々の生命、尊厳および安全を確保し、一人ひとりが再び自らの足で立ち上がれるように、難民・避難民などに対するものを含む人道支援を行っています。

具体的には、主にUNHCR、世界食糧計画(WFP)、国際移住機関(IOM)を始めとする国際機関と連携して、シェルターや食料など基礎生活に必要な物資の配布を世界各地で継続的に実施しています。例えば、日本はUNHCRを通じて、ブラジルに対する無償資金協力として「ベネズエラ難民及び移民女性の生活向上及び社会経済的包摂促進計画」を実施し、ブラジルにとどまるベネズエラ難民・移民女性に対して、職業訓練や就職斡(あっ)旋、マイクロ・ファイナンスやマーケティングに関する研修を含む起業支援などを行っています。上記の国連機関やパレスチナ難民への支援を行う国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、赤十字国際委員会(ICRC)などと連携することにより、治安上危険な地域においても、それぞれの機関が持つ専門性や調整能力などを活用し、難民・避難民などに対する人道支援を実施しています。例えば、2024年には、ロシアのウクライナ侵略によって発生した周辺国のウクライナ避難民およびウクライナ国内避難民のため、UNHCRなどを通じて人道支援を実施しています。また、スーダンにおける武力衝突により発生した難民および国内避難民などに対して、WFPやICRCなどを通じた人道支援を実施しています。また、ジャパン・プラットフォーム(JPF)注42を通じた日本のNGOによる難民・避難民などへの支援も行われています。

日本は、こうした国際機関を通じて難民・避難民などに対する人道支援を行う際、NGOや民間企業等とも連携を図っています。例えば、UNHCRが行う難民支援に際しては、JICAがUNHCRと連携し、HDPネクサスの観点から、緊急フェーズと復興フェーズを継ぎ目なく連携させた支援を実施しています。

案件紹介3

パレスチナ

SDGs2

パレスチナへの緊急食料支援
国際機関拠出金(2024年2月~2025年2月)
ガザ地区及び西岸地区で食料不安に直面する人々への緊急食料支援

2023年のイスラエルとパレスチナ武装勢力間の衝突発生以降、パレスチナのガザ地区では食料へのアクセスが極端に制限され、特に女性やこどもなど脆(ぜい)弱な立場にある人々の栄養状態が悪化しました。また、ヨルダン川西岸地区においても、ガザ地区での緊迫した情勢の影響を受け、移動制限や経済の混乱により食料不安に直面する人々が増加しました。

こうした状況の中、日本は、国連唯一の食料支援機関である世界食糧計画(WFP)を通じ、食料そのものが不足するガザ地区の住民約38万人に対しては、域外で調達した缶詰食品やナツメヤシなどの保存性の高い食品を提供しました。また、市場が機能している西岸地区では、栄養価の高い食料へのアクセスを改善すべく、食料引換券(電子バウチャー)の配布を通じて各家庭のニーズに沿った支援を目指すとともに、現地の食料の購入を促すことにより、地域経済の活性化につなげる工夫を行いました。

食料を受け取ったガザ地区の男性からは、「妻とこどもたちの食料を求めて商店を転々と歩き回ったが、果物も野菜もなく、小麦粉しか手に入らなかった非常に厳しい時期に、この支援に救われた。」との言葉が寄せられています。

日本は今後も、パレスチナの深刻な人道状況の改善と、SDGsの目標の一つである「飢餓の撲滅」の実現に向け、現地のニーズに基づいた人道支援を継続していきます。

WFPから受け取った食料を運ぶガザ地区の男性(写真:WFPパレスチナ事務所)

WFPから受け取った食料を運ぶガザ地区の男性(写真:WFPパレスチナ事務所)

ヨルダン川西岸地区で食料を電子バウチャーで購入する様子(写真:WFPパレスチナ事務所)

ヨルダン川西岸地区で食料を電子バウチャーで購入する様子(写真:WFPパレスチナ事務所)

■対人地雷・不発弾対策および小型武器対策
カンボジア地雷対策センター(CMAC)の研修機能を担う地雷対策技術研究所の施設(写真:JICA)

カンボジア地雷対策センター(CMAC)の研修機能を担う地雷対策技術研究所の施設(写真:JICA)

ウクライナ地雷対策会議(UMAC2025)の集合写真

ウクライナ地雷対策会議(UMAC2025)の集合写真

かつて紛争があった国・地域には対人地雷や不発弾がいまだ残るとともに、非合法な小型武器が現在も広く流通しています。これらは、一般市民などに対して無差別に被害を与え、復興と開発のための活動を妨げるだけでなく、対立関係を深刻にする要因にもなります。そのため、対人地雷や不発弾の処理、地雷被害者の支援や対人地雷・不発弾対策関係者の能力強化、小型武器の適切な管理などを通じて、こうした国・地域を安定させ、治安を確保するための持続的な協力を行っていくことが重要です。

日本は、「対人地雷禁止条約」および「クラスター弾に関する条約」の締約国として、HDPネクサスの観点から、地雷除去や被害者への支援に加え、リスク低減教育などの予防的な取組を通じた国際協力も着実に行っています。また、日本は、2025年の対人地雷禁止条約第22回締約国会議で議長国を務め、1年間を通じて、同条約の履行や普遍化につき主導的な役割を担いました。

例えば、カンボジア地雷対策センター(CMAC)に対しては、国内外に対する研修機能の強化、組織運営部門の職員の育成や情報システム構築など、今後さらに国際的に貢献する組織となっていくためのCMACの組織全体の能力向上への協力や、地雷対策関係者に対する教育訓練環境の改善および訪問者への地雷問題の理解促進・啓発を図るため、CMACの研修施設や広報施設を建設する支援を行っています。こうした包括的な支援により、CMACは2009年以降2025年12月までに、日本の協力の下、アンゴラ、イラク、ウクライナ、エチオピア、コロンビア、ザンビア、ソマリア、ナイジェリア、南スーダン、ラオスの10か国に対して地雷・不発弾対策に従事する職員の研修を実施しており、南南協力・三角協力注43の実現にも貢献しています(コロンビアにおける取組については「案件紹介」を参照)。

2024年7月に上川外務大臣(当時)がカンボジアを訪問した際、CMACを視察し、「地雷対策支援に関する包括的パッケージ」注44を発表しました。同時に、これを体現する新たな協力アプローチとして、カンボジアと協力して、「日カンボジア地雷イニシアティブ」注45を立ち上げることを発表しました。これを踏まえ、日・カンボジア連携による第三国での地雷対策支援や、民間企業の最新技術を用いた機材開発に関する協力も進められています。

不発弾の被害が大きいラオスに対しては、CMACでの研修以外にも不発弾対策機関への専門家の派遣により、活動計画策定やモニタリングに関する実施能力の強化を行っているほか、同機関の活動を促進するための設備整備や地雷検知センサーなどの必要機材の供与を行っています。

多数の地雷・不発弾の埋設があるとされるウクライナに関して、日本は、2025年10月に、東京でウクライナ地雷対策会議(UMAC2025)を開催し、地雷対策がウクライナの復旧・復興の出発点との認識の下、他ドナー、関係国、国際機関を総動員して、今後の復旧・復興の前提となる地雷対策分野に関する議論をリードするとともに、地雷対策を加速化させるための日本の取組として「ウクライナ地雷対策支援イニシアティブ」を発表しました。日本は、同イニシアティブの下で、地雷対策分野における人材育成と技術向上につながる能力強化支援、地雷対策から復旧・復興への円滑な移行(HDPネクサス)のための支援、地雷対策を支援する国際ネットワークの多角化・重層化の三つの取組を柱としたウクライナ地雷対策支援を実施していきます。

さらに、アフリカに関しては、2025年8月に行われたTICAD 9において、日本は「アフリカ地雷対策プラットフォーム」を表明しました。この下でアフリカ各国の地雷除去に向けた取組を後押しすべく、CMACや国連地雷対策サービス部(UNMAS)などのパートナーとも連携しつつ、地雷除去、危険回避教育、地雷除去後の農業開発など幅広い地雷・不発弾対策支援を行ってきています。

地雷・不発弾が依然として埋設されているスリランカおよび中東・アフリカ地域の複数国においては、草の根・人間の安全保障無償資金協力注46を活用し、知見を有する国際NGOを通じた地雷除去活動の実施や、地雷除去機、油圧ショベルなどの地雷除去関連機材の整備を行いました。

ほかにも、児童教育の専門性を有する国連児童基金(UNICEF)との連携で、2025年には、パレスチナ、ミャンマーにおいて危険回避教育に関する事業を実施しています。ICRCを通じて、アフガニスタン、ウクライナ、シリア、ミャンマーなどでも危険回避教育などの支援を行っています。

小型武器は実際の紛争の場面で今もなお使われ、多くの人命を奪っていることから「事実上の大量破壊兵器」とも呼ばれており、日本は、グテーレス国連事務総長の「軍縮アジェンダ」(2018年)に基づいて設置された「人命を救う軍縮(SALIENT)」基金へのドナー国であるなど、小型武器対策の議論に積極的に貢献しています。

用語解説

国連平和構築委員会(PBC:Peacebuilding Commission)
2005年の安全保障理事会(安保理)決議および総会決議に基づき設立された国連の安保理および総会の諮問機関。紛争後の平和構築と復旧のための統合戦略を助言・提案することを目的とし、安保理、総会などに対してブリーフィングの実施や書面の提出を通じた助言を提供する。日本はPBC設立時から一貫して、PBCの中核である組織委員会のメンバーを務めている。
国連平和構築基金(PBF:Peacebuilding Fund)
2006年に設立された紛争予防・平和構築のための基金。具体的には、和平プロセス・政治対話への支援、経済活性化、国家の制度構築、基礎的な社会インフラの整備に焦点を当てている。特に、政治的移行プロセスの支援、女性・若者の国造りへの参加支援、紛争の影響を受ける地域への包括的なアプローチを重視している。

  1. 注39 : 人道(Humanitarian)、開発(Development)、平和(Peace)の頭文字をとったもの。人道支援と並行して、難民の自立支援や受入れ国の負担軽減のための開発協力を行い、さらに根本的な原因である紛争の解決・予防に向けた平和の取組を進めるアプローチ。
  2. 注40 : 2007年度に「平和構築人材育成事業」を開始し、2015年度には同事業の内容を拡大、「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/peace_b/j_ikusei_shokai.html)となった。現場で必要な知識や技術を習得するための国内研修と国際機関の現地事務所での海外実務研修とを行う「プライマリー・コース」に加え、平和構築・開発分野に関する一定の実務経験を有する方のキャリアアップを支援する「ミッドキャリア・コース」を実施。
  3. 注41 : パレスチナ難民約600万人を除く。
  4. 注42 : 用語解説を参照。
  5. 注43 : 用語解説を参照。
  6. 注44 : ODAを触媒に、国際機関、NGO、日本企業などの多様なパートナーと連携し、地雷に関する様々なニーズ、段階に応じた包括的な支援を進めるというビジョンを示したもの。支援のアプローチとして、(1)カンボジアをハブとした三角協力の推進、(2)同志国・国際機関との連携、(3)日本の科学技術の活用を挙げている。
  7. 注45 : 長年にわたる地雷対策分野における協力の実績を基盤として、(1)地雷の非人道性の認知向上・地雷削減に向けた国際的な機運醸成、(2)カンボジア関係機関に地雷なき世界のための国際協力チームを創設、(3)日・カンボジア連携による第三国での地雷対策支援、(4)最新技術を用いた機材開発の四つを柱とした協力強化を示したもの。
  8. 注46 : 第Ⅴ部2(2)を参照。
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