(4)債務問題への取組
公的金融による支援は、開発途上国の経済成長を促進するために活用されますが、経済・財政政策の失敗や国際的な経済環境の変化などによって、開発途上国の債務の返済が困難となった場合には、開発途上国の債務は、本来必要とされる、保健、教育、環境などの分野のための財政支出を圧迫するため、持続的成長を阻害する要因となります。本来は、債務国が自ら解決しなければならない問題ですが、過大な債務が開発途上国の発展の足かせになっている場合には、国際社会による対応が必要になります。
債務問題への国際的な取組としては、これまでも重債務貧困国(HIPC)に対する拡大HIPCイニシアティブ注35やパリクラブ用語解説のエビアン・アプローチ注36などで債務救済が実施されてきました。しかし、近年、一部の低所得国においては、債務救済を受けたにもかかわらず、公的債務に加え、民間債務が累積し、債務持続可能性の悪化が再び懸念されています。この背景として、債務国側では、債務を適切に管理する能力が不足していること、債権者側では、資金供給の担い手が多様化しており、パリクラブによる貸付割合が減少する一方で、新興債権国や民間債権者による貸付割合が増加していることが指摘されています。さらに、近年では、欧米各国の政策金利の引上げによる、開発途上国の資金調達コストの上昇に伴い、開発途上国は資金流動性の問題に直面しています。開発途上国の債務問題は、借り手のみならず、貸し手の経済にも影響を及ぼしかねないため、国際社会が一体となって取り組む必要があります。
G20およびパリクラブは、2020年4月に「債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)」用語解説を立ち上げ、低所得国が新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で抱えた公的債務の支払いを一時的に猶予する措置を実施しました。その後はDSSIの後継として2020年11月に合意された「DSSIを超えた債務措置に係る共通枠組み」用語解説の下で、G20およびパリクラブの債権国が協調して債務措置を実施する取組が進められています。これまで共通枠組みの適用を要請した四つの低所得国のうち、チャドは2022年11月、ザンビアは2023年10月、ガーナは2024年6月にそれぞれG20およびパリクラブの債権国と既に債務再編に合意していましたが、2025年7月にはエチオピアについても合意が成立しました。2025年のG20議長国である南アフリカは、低所得国に対する債務持続可能性の確保を優先分野の一つとして取り上げ、同年7月のG20開発大臣会合においては、国際スタンダードを遵守した透明で公正な開発金融を促進していく重要性が確認されました。さらに、同年11月のG20ヨハネスブルグ・サミットにおいては、低中所得国の債務脆(ぜい)弱性に対処する取組の支援やG20「共通枠組」のさらなる実施強化が重要であるとの認識で一致しました。
低所得国を始めとする各国の債務持続可能性に大きく影響を与え得る要素の一つとして、インフラ投資が挙げられます。インフラ案件は投資額が大きく、その借入金の返済は借りた国にとって大きな負担となることがあります。インフラ案件への融資を行う場合には、貸す側も借りる側も債務持続可能性について十分に考慮することが必要です。債務持続可能性を考慮しない融資は、「債務の罠(わな)」として国際社会から批判されています。「質の高いインフラ投資に関するG20原則」注37には、個々のプロジェクトレベルでの財務面の持続可能性に加え、国レベルでの債務持続可能性を考慮することの重要性が盛り込まれており、G20各国は自らが行うインフラ投資においてこれらの原則を国際スタンダードとして実施すること、また融資を受ける国においてもこれらの原則が実施されるよう努めることが求められています。
●日本の取組
日本は、円借款の供与に当たって、被援助国の協力体制、債務返済能力および運営能力、ならびに債権保全策などを十分検討して判断を行っており、ほとんどの場合、被援助国から返済が行われています。しかし、例外的に、円借款を供与する時点では予想し得なかった事情によって、返済が著しく困難となる場合もあります。そのような場合、日本は、前述の拡大HIPCイニシアティブやパリクラブにおける合意などの国際的な合意に基づいて、限定的な形で、債務の猶予、繰延注38、免除、削減といった債務救済措置を講じています。スリランカに対する債務救済に関して、日本は、スリランカ債権国会合の共同議長として債務再編プロセスを主導してきましたが、2025年3月、ほかの債権国会合メンバーに先駆け、スリランカとの間で債務繰延に関する二国間合意を締結しました。
2025年8月に開催したTICAD 9においては、2026年から2028年を対象期間とする「アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ」用語解説第6フェーズ(EPSA6)において、G20「共通枠組」やIMFプログラムの下で債務問題に取り組む国への支援などを強化していく旨表明しました。また、JICAおよび国際通貨基金(IMF)がテーマ別イベント「債務管理で開発加速!アフリカの持続可能かつ強靭(じん)な成長に向けて」を共催し、アフリカの債務国政府、債権国、民間セクター、多国間機関を含む国際的なステークホルダーが集い、債務脆弱性を含むアフリカの経済的課題と、その解決に向けた国際協調の在り方について議論が行われました。
日本は、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」の重要な要素である債務持続可能性の確保の観点からも、JICAによる研修や専門家派遣、国際機関への拠出などを通じ、開発途上国の財務省幹部職員の公的債務・リスク管理に係る能力の向上にも取り組んでいます。例えば、2024年度は、ケニア、エチオピアなど30か国34人の行政官に対する偶発債務リスク管理に係る世界銀行との連携による研修、IMF・世界銀行の各信託基金への新たな資金拠出など、債務国の能力構築に向けた支援を実施しています。
用語解説
- パリクラブ
- 債務危機に直面した開発途上国の救済措置について協議する非公式グループ。主要債権国22か国で構成されており、フランスが議長国であり、パリで会合を開催している。
- 債務支払猶予イニシアティブ(DSSI:Debt Service Suspension Initiative)
- 新型コロナウイルス感染症の拡大による影響から流動性危機に直面する低所得国につき、その債務の支払いを一時的に猶予する枠組み。2020年4月にG20およびパリクラブは、2020年5月から同年12月末までの間に支払期限が到来する債務を猶予することに合意し、その後、支払猶予期間を二度延長した(2020年10月に2021年6月までの期間延長、2021年4月に2021年12月末までの期間延長に合意)。
- DSSIを超えた債務措置に係る共通枠組み
- 低所得国に対する債務救済をG20およびパリクラブの債権国が協調して実施するメカニズム。中国を始めとする非パリクラブ国がパリクラブと合同で債務措置を実施することを初めて約束したもの。
- アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ(EPSA:Enhanced Private Sector Assistance for Africa)
- 日本が、2005年にアフリカ開発銀行(AfDB)と共に、民間主導の経済成長を促進していくため立ち上げた協調枠組み。2025年8月のTICAD 9における取組の一つとして、日本とAfDBは、2026年から2028年を対象期間とする第6フェーズ(EPSA6)の下で、最大55億ドルの資金協力を行うことを決定。
- 注35 : 重い債務を負っている最貧国に対する債務救済の枠組み。1999年のケルン・サミット(ドイツ)で合意されたもので、経済・社会改革などへの取組が一定の段階に達した場合、債務削減を実施。アフリカ地域を中心とする39か国が適用対象。
- 注36 : 「パリクラブの債務リストラに関する新たなアプローチ(エビアン・アプローチ)」。重債務貧困国(HIPC)以外の低所得国や中所得国が適用対象となり、従来以上に債務持続性に焦点を当て、各債務国の状況に見合った措置を個別に実施する債務救済方式。
- 注37 : 用語解説を参照。
- 注38 : 債務救済の手段の一つであり、債務国の債務支払の負担を軽減するために、一定期間債務の返済を延期する措置。
