(3)質の高いインフラ
開発途上国の自立的発展には、人々の生活や経済活動を支え、国の発展の基盤となるインフラが不可欠です。しかし、開発途上国では依然として膨大なインフラ需要があり、2040年までのインフラ需給ギャップは約15兆ドルとも推計されています注27。開発途上国において、「質の高い成長」注28を実現するためには、この膨大なインフラ需要に応える必要がありますが、ただ多くのインフラを整備するだけでなく、開放性、透明性、ライフサイクルコストから見た経済性、債務持続可能性などを考慮していくことが非常に重要です。
日本は、海上・航空等の安全管理、防災・強靭(じん)化技術、気候変動・環境問題の対応に資する都市開発、安全・安心の交通システム、電力・エネルギーインフラや水供給などに強みを有しています。これらの強みをいかして相手国の社会課題解決につなげるため、開発途上国の経済・開発戦略に沿った形で、インフラ整備というハード面の支援に、制度整備、運営・維持管理、人材育成などのソフト面での協力を組み合わせることにより、「質の高いインフラ」用語解説の整備を推進しています。日本政府の「インフラシステム海外展開戦略2030」注29においても、日本企業による「質の高いインフラ」の整備を通じて持続的なインフラシステムの海外展開を推進していくこととされています。
●日本の取組
2013年以降、日本が建設・改修に携わっているリベリア国内の幹線道路「ジャパン・フリーウェイ」(写真:JICA)
ブータンに対する技術協力「建設人材育成システム構築プロジェクト」において、建設分野における技術者の能力強化を実施(写真:株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル)
円借款「マニラ首都圏地下鉄計画」において、トンネルの掘削に活用されているトンネルボーリングマシン(写真:三井住友建設株式会社)
第28回日ASEAN首脳会議で発言する高市総理大臣(写真:内閣広報室)
日本は、より多くの人々が良質なインフラを利用できるよう「質の高いインフラ」の国際スタンダード化を目指し、国際社会と連携して「質の高いインフラ」の重要性を発信してきました。2016年5月のG7伊勢志摩サミットで合意された「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」が、「質の高いインフラ投資」の基本的な要素について認識を共有する第一歩となり、2019年6月のG20大阪サミットでは、質の高いインフラ投資の促進に向けた戦略的方向性を示す「質の高いインフラ投資に関するG20原則」注30が承認されました。日本は、各国や国際機関とも連携し、その普及・実施に取り組んでおり、「質の高いインフラ投資」の重要性については、様々な二国間会談や多国間会議の場において確認されてきています。2025年6月のG7カナナスキス・サミットにおいても、石破総理大臣(当時)から、日本が率先して提唱してきた質の高いインフラ投資の重要性を指摘しました。
2022年6月のG7エルマウ・サミットでは、世界のインフラ投資ギャップを埋めるため、G7が連携して質の高いインフラ投資を促進するためのイニシアティブであるグローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)注31が立ち上げられました。G7は、PGIIの下、5年間で、質の高いインフラに特に焦点を当てた公的および民間投資において最大6,000億ドルを共同で動員することを目指すことを表明しました。2025年10月のG7開発大臣会合の議長サマリーでは、G7がPGIIに向けてこれまで4,100億米ドル以上を動員したことが記載され、同会合において、宮路外務副大臣(当時)は、PGIIは途上国の繁栄を実現し、民間資本動員のための投資を促進する新たな成長の起爆剤である旨強調しました。
質の高いインフラ案件に国際的な認証を与えるための枠組みであるブルー・ドット・ネットワーク(BDN)注32も「質の高いインフラ投資」を促進する上で重要な取組です。2024年4月に経済協力開発機構(OECD)にBDN事務局が設置された後、2026年1月末までに七つのインフラ案件が承認されました。その中には、株式会社国際協力銀行(JBIC)や株式会社三井住友銀行(SMBC)が協働融資し、株式会社日本貿易保険(NEXI)が保険を引き受け、日本電気株式会社(NEC)が海底ケーブルの敷設に参画する官民連携プロジェクト「パラオ国営海底ケーブル公社海底ケーブルプロジェクト」も含まれます。日本は、今後もBDNを始めとする枠組みを活用しながら「質の高いインフラ投資」を国際社会全体に普及させることで、日本企業の海外展開を後押ししていきます。
ASEANにおいては、カンボジアのシハヌークビル港、インドネシアのパティンバン港やジャカルタ都市高速鉄道、フィリピンのマニラ首都圏地下鉄、ベトナムのホーチミン市都市鉄道など、2023年に発表された「日ASEAN 包括的連結性イニシアティブ」の下、デジタル、交通インフラ整備、電力連結性などハード・ソフト両面の幅広い分野でプロジェクトが進展しています。
さらに、2025年10月の第28回日ASEAN首脳会議で、高市総理大臣は、AIを含むデジタル、脱炭素化や持続可能な農林水産業を含むグリーン、自動車分野を含むサプライチェーン強靭化、連結性、地域金融協力を始め、幅広い分野で協力を強化することを表明しました。日本は、2025年にASEANが発表した、今後20年のASEAN共同体の統合の方向性を示す「ASEAN共同体ビジョン2045」も踏まえつつ、ASEAN共同体のさらなる統合と地域の安定に資するような質の高いインフラ協力を推進していきます。
太平洋島嶼(しょ)国における取組としては、2021年12月に日本、米国、オーストラリア、キリバス、ナウル、ミクロネシア連邦の6か国が連名で発表した、東部ミクロネシア海底ケーブルの日米豪連携支援が挙げられます。2025年6月には、東部ミクロネシア海底ケーブル事業に関する第6回プロジェクト理事会が日本で開催され、6か国間で事業の進捗が確認されました。また、日本と米国で連携する新たな海底ケーブル事業として、2025年3月、日本とミクロネシア連邦との間で、無償資金協力「経済社会開発計画」に関する書簡の署名・交換が行われました。同計画により、ミクロネシア連邦に対して、ケーブルシステムと同国内通信網をつなぐ陸揚げ施設が整備されます。2024年7月の第10回太平洋・島サミット(PALM10)注33で発表された首脳声明および「共同行動計画」注34も念頭に、日本は、米国やオーストラリアを始めとする同志国などと連携しつつ、情報通信技術(ICT)分野を始めとして、インド太平洋地域における連結性を強化する「質の高いインフラ」整備に引き続き協力していきます。
アフリカ地域においては、アフリカの開発課題に対処するためにはバランスの取れた安定的な「質の高い成長」を実現する必要があり、そのためには「質の高いインフラ」整備を進めていくことが重要であるとの考え方に基づき、2025年8月のTICAD 9で採択された「TICAD 9横浜宣言」では、道路、鉄道、海上、航空の各輸送形態にわたる持続可能かつ強靭なインフラネットワークへの投資を加速することにコミットする旨が示されました。2025年3月、日本との友好の象徴として「ジャパン・フリーウェイ」と名付けられたリベリアの幹線道路の強化を目的とした無償資金協力に関する書簡の署名・交換が行われました。本計画は、南北縦断道路の一部区間の改修を通じて、同区間の円滑かつ安全な道路交通の確保を図り、首都圏を含むリベリア国内および隣国との人流・物流を活性化させるもので、同国における「質の高いインフラ」の整備に寄与することが期待されます。
日本政府は今後も、世界の質の高い成長のため、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を国際社会全体に普及させ、アジアを含む世界の国々や世界銀行、アジア開発銀行(ADB)、OECDなどの国際機関と連携し、「質の高いインフラ投資」の実施に向けた取組を進めていく考えです。
用語解説
- 質の高いインフラ
- 自然災害などに対する「強靭性」、誰一人取り残されないという「包摂性」、社会や環境への影響にも配慮した「持続可能性」を有し、真に「質の高い成長」に資するインフラのこと。2019年6月のG20大阪サミットにて、(1)開放性、(2)透明性、(3)ライフサイクルコストから見た経済性、(4)債務持続可能性といった、「質の高いインフラ」への投資に当たっての重要な要素を盛り込んだ「質の高いインフラ投資に関するG20原則」が承認された。
- 注27 : G20グローバル・インフラストラクチャー・ハブ(GIH)による推計。
- 注28 : 用語解説を参照。
- 注29 : 2024年12月24日に開催された第58回経協インフラ戦略会議(議長:内閣官房長官)において、近年のインフラ市場の構造的変化を踏まえた今後の取組の方向性を示す「インフラシステム海外展開戦略2030」を決定。2030年のインフラシステムの海外受注額45兆円を目指すほか、今後日本が重点的に取り組むべき事項等が記載されている。https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/keikyou/index.html
- 注30 : 用語解説を参照。
- 注31 : Partnership for Global Infrastructure and Investmentの略称。持続可能で包摂的、かつ強靭で質の高いインフラへの公的および民間投資を促進するためのG7のコミットメント。
- 注32 : 2019年11月、日本、米国、オーストラリアが提唱した。2023年以降、英国、スペイン、スイス、トルコが参加し、具体的な制度設計について議論している。
- 注33 : 第Ⅳ部3を参照。
- 注34 : PALM10において、日本と太平洋島嶼国地域の首脳は、太平洋諸島フォーラム(PIF)の「ブルーパシフィック大陸のための2050年戦略(2050年戦略)」に沿い、(1)政治的リーダーシップと地域主義、(2)人を中心に据えた開発、(3)平和と安全保障、(4)資源と経済開発、(5)気候変動と災害、(6)海洋と環境、(7)技術と連結性の7つの分野を重点分野として承認し、今後3年間に共同で実施する具体的な行動をまとめた「共同行動計画」を採択した。東部ミクロネシア海底ケーブル事業を始めとする質の高いインフラ案件は分野(7)の具体化に資するもの。
