(6)ジェンダー平等で包摂的な社会
開発途上国における社会通念や社会システムは、一般的に、男性の視点に基づいて形成されていることが多く、女性は様々な面で脆(ぜい)弱な立場に置かれやすい状況にあります。一方、女性は開発の重要な担い手であり、女性の参画は女性自身のためだけでなく、開発のより良い効果にもつながります。例えば、これまで教育の機会に恵まれなかった女性が読み書き能力を向上することは、公衆衛生やHIV/エイズなどの感染症予防に関する正しい知識へのアクセスを向上させるとともに、適切な家族計画につながり、女性の社会進出や経済的エンパワーメントを促進します。さらには、開発途上国の持続可能で包摂的な経済成長にも寄与するものです。
SDGsでは、「ジェンダー平等の実現と女性と女児の能力向上は、全ての目標とターゲットにおける進展において死活的に重要な貢献をするもの」であると力強く謳(うた)われています。また、SDGsの目標5において、「ジェンダー平等を達成し、全ての女性および女児の能力強化を行う」ことが掲げられています。「質の高い成長」を実現するためには、ジェンダー平等と女性の活躍推進が不可欠であり、ジェンダー主流化注84を通じて、開発協力のあらゆる段階に男女が等しく参画し、等しくその恩恵を受けることが重要です。
また、貧困・紛争・感染症・テロ・災害などの様々な課題から生じる影響は、国や地域、女性やこどもなど、個人の置かれた立場によって異なります。感染症、紛争、大規模災害などにより、世界の貧困人口は増加に転じるとともに、一部の国では格差の拡大や人道状況の悪化が見られており、脆弱な立場に置かれやすい人々への支援が一層求められています。SDGsの理念である「誰一人取り残さない」社会を実現するためには、一人ひとりの保護と強化に焦点を当てた人間の安全保障の考え方が重要です。
●日本の取組
■女性の能力強化・参画の促進
スリランカにおける女性の経済的エンパワーメント促進プロジェクトにおいて、キックオフミーティングを行う様子(写真:インテムコンサルティング株式会社)
「女性の活躍推進のための開発戦略」注85では、(ⅰ)女性の権利の尊重、(ⅱ)女性の能力発揮のための基盤の整備、(ⅲ)政治、経済、公共分野への女性の参画とリーダーシップ向上を基本原則に位置付け、日本は国際社会において、ジェンダー主流化、ジェンダー平等、女性および女児のエンパワーメント推進に向けた取組を進めています。
日本は、女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)注86に2018年に5,000万ドル、2023年6月に500万ドル、2025年9月に追加で500万ドルの拠出を行いました。We-Fiは2024年6月時点で、83か国で約40万社の女性が経営・所有する中小企業に対し、総額約53億ドルの支援を実施しています。具体的には、約37万社の女性が経営・所有する中小企業が資金援助を受け、約4.5万社が経営に必要な技術や知識習得のための研修を受講しました。また、世界銀行によると、開発途上国では女性が経営する中小企業の70%が金融機関から資金調達ができない、もしくは劣悪な借入条件を課されてしまうため、We-Fiを通じて、性差別のない法制度整備の促進や、女性経営者が資金や市場に平等にアクセスできるよう支援を行っています。
このほか日本は、国連女性機関(UN Women)を通じた支援も実施しており、2025年には約1,300万ドルを拠出し、女性の政治的参画、経済的エンパワーメント、女性・女児に対する性的およびジェンダーに基づく暴力撤廃、平和・安全保障分野の女性の役割強化、政策・予算におけるジェンダー配慮強化などの取組を支援しています。また、2025年はアフリカ、中東、アジア、東欧、中米地域において、紛争や災害などで経済的・社会的影響を受けた女性たちの緊急支援や生計手段の確保等の支援を行いました。例えば、アフガニスタンでは、人道や社会経済、気候変動のリスクに対する女性と女児の対応力を強化するための支援を行ったほか、パレスチナおよびレバノン南部では、危機の影響を受けている女性に対し、生活における基本的なニーズや救命サービスへのアクセス向上のための支援を行いました。
紛争下の性的暴力に関しては、日本としても看過できない問題であるという立場から、紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所(OSRSG-SVC)との連携を重視しています注87。2025年、日本は同事務所に対し、約37万ドルを拠出し、コンゴ民主共和国において、紛争関連性的暴力の捜査、訴追のための警察、軍への技術的支援、被害者の法的支援へのアクセス強化などを実施しています。
また、日本は、紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)用語解説に対し、2025年に200万ユーロを追加拠出し、これまでに計1,200万ユーロを拠出しました。理事会メンバーとして、アフガニスタンやウクライナ、コンゴ民主共和国を始めとする紛争地域での紛争関連の性的暴力生存者支援に積極的に貢献しています。
■女性・平和・安全保障(WPS)
WPSフォーカルポイント・ネットワーク・ハイレベル・サイドイベントで発言する岩屋外務大臣(当時)
女性と平和・安全保障(WPS)注88の問題を明確に関連付けた初の国連安全保障理事会(安保理)決議として、2000年に採択された国連安保理決議第1325号および関連決議の実施のため、日本は2015年から行動計画を策定しています。2023年4月には政府関係省庁、有識者との意見交換、NGO・市民社会との意見交換、パブリックコメントを踏まえ、第3次行動計画(2023-2028)注89を策定しました。具体的には、日本は関係省庁の協力の下、主に国際機関や二国間支援を通して紛争影響国や脆弱国の女性支援を実施しています。
日本は、ノルウェーと共に2025年WPSフォーカルポイント・ネットワークの共同議長を務め、2025年2月にはWPSフォーカルポイント・ネットワーク注90東京会合を開催し、防災の適用推進を含むWPSアジェンダの展開、和平調停・平和構築における女性の役割および人権擁護者としての女性の役割、国家行動計画・地域行動計画の策定および実施を中心に議論しました。9月には、岩屋外務大臣(当時)がWPSフォーカルポイント・ネットワーク・ハイレベル・サイドイベントに出席し、日本は本ネットワークの共同議長としての経験をいかし、今後もWPSを外交政策の主要な柱の一つとして力強く推進し、WPSの国際的な推進に一層貢献していく旨述べました。
外務省では、2024年1月、省内横断的な連携を目的としたWPSタスクフォースを設置し、WPSに関連する情報を省内に共有するプラットフォームとして活用しています。
2025年8月に開催されたTICAD 9では、「革新的な課題解決策の共創」のテーマの下、分野横断的な重要項目の一つとして、若者・女性に焦点を当てた議論が行われました。議論の成果をまとめて採択された「TICAD 9横浜宣言」では、WPSアジェンダの実施にコミットし、アフリカ全土における平和の追求および維持、ならびに人道的な緊急事態への対応において女性が果たす重要な役割を強調しました。また、石破総理大臣(当時)からは、日本が若者・女性に焦点を当てた人材育成・人材交流などにおける取組を加速させることを表明しました。
■脆弱な立場に置かれやすい人々への支援
(障害と開発)
障害のある人々は、社会において困難な立場に置かれやすい状況にあります。日本のODAでは、障害のある人を含めた、社会において公平な参加を阻害されている人々の状況に配慮しています。障害者権利条約注91第32条も、締約国は国際協力およびその促進のための措置を取ることとしています。
障害者施策は福祉、保健・医療、教育、雇用など、多くの分野にわたっており、日本はこれらの分野で積み重ねてきた技術や経験を、ODAを通じて開発途上国の障害者施策に役立てています。
日本は、鉄道建設、空港建設の設計においてバリアフリー化を図るとともに、リハビリテーション施設や職業訓練施設整備、移動用ミニバスの供与を行うなど、現地の様々なニーズにきめ細かく対応しています。また、障害と開発に携わる組織や人材の能力向上を図るために、開発途上国からの研修員の受入れや、社会参加や就労促進を目的とした専門家、JICA海外協力隊の派遣など、幅広い技術協力も行っています。例えば、パラグアイの五つの都市において、地方自治体レベルで障害に関する対話を実施するためのプラットフォームの確立・強化や、障害者の対話参加を促進するためのプロジェクト関係者の能力強化に取り組んでいます。
(こどもへの支援)
東ティモールでこどもたちに環境教本の読み聞かせを行うJICA海外協力隊員(写真:JICA)
無償資金協力で供与した小学校校舎の引渡しを心待ちにするエチオピアのこどもたち
こどもについては、一般的に脆弱な立場に置かれやすく、今日、紛争や自然災害などにより、世界各地で多くのこどもたちが苛酷な状況に置かれています。日本は二国間の協力や国際機関を経由した協力など、様々な形でこどもを対象に人道支援や開発協力を行っています。2025年には、国連児童基金(UNICEF)を通じて、アジア、東欧、中東、アフリカ地域などの約40か国において、貧困、紛争、気候変動により増大する自然災害などの影響を受けるこどもへの支援を実施しました。
草の根レベルの経済社会開発の取組を支援する草の根・人間の安全保障無償資金協力注92では、学校の建設や改修、病院への医療機材の供与、水供給設備の整備などを通じて、こどもたちの生活環境の改善に貢献するプロジェクトを実施しています。
例えば2025年10月には、ベナンにおいて、草の根・人間の安全保障無償資金協力の署名式が行われ、計6校の小学校に学校給食調理場を整備することで、安全かつ衛生的な環境での調理の実現を図り、児童の栄養失調の改善に寄与することが期待されています。
また、5歳から17歳のこどもの約6.5人に1人が児童労働に従事していると言われる注93ネパールでは、日本のNGOを通じて、児童労働の送り出し地域・受入れ地域と言われるマクワンプール郡において、教育とソーシャルワークを通じた児童労働削減事業を行っています。
案件紹介7
エチオピア
尊厳と希望を紡ぐ~三者協働を通じたエチオピア人女性・女児のエンパワーメント計画~
無償資金協力(2025年2月~2026年2月)
声を高める:エチオピアにおける女性と女児の尊厳とエンパワーメントの推進
エチオピアは、アフリカ大陸第2位の人口を擁し、「アフリカの角」地域の安定の要となる大国です。一方、2022年まで続いた同国北部地域における紛争や深刻な干ばつによる被害が重なり、人道状況は深刻化しており、2025年現在でも1,900万人以上が人道支援を必要とする状況にあります。このような厳しい状況の中、ジェンダーに基づく暴力など、特に脅威にさらされやすい女性と女児が尊厳の守られた環境で生活し、安定的な収入を得られるようにするための支援が求められます。
国連人口基金(UNFPA)エチオピア事務所は、同国北部地域のうち、紛争や自然災害による影響が特に深刻な地域の女性と女児を対象として、月経に関わる衛生支援を通じた社会的・経済的エンパワーメントを実施しています。この事業は、UNFPAが日本政府からの資金協力を受け、伊藤忠商事株式会社との技術的連携の下で実施する三者協働のプロジェクトです。同事業では、日本の草の根・人間の安全保障無償資金協力によりアディスアベバ市内に建設された職業訓練施設において、北部で活動する月経用吸水ショーツの製作者を養成するとともに、ビジネス・スタートアップ・キットの提供を含む生計向上研修や、性と生殖に関する健康の啓発活動を実施しています。
2025年8月時点で、175名のエチオピア人が月経用吸水ショーツの製作者養成研修を修了しました。修了者から、「これまで、このような再利用できる生理用品があることを知らなかった。今では自分で作れるようになり、人にも作り方を教えられるようになった。」といった喜びの声が寄せられています。また、日本企業から学んだ高品質な吸水ショーツの製作技術を他の地域に広めることで、脆(ぜい)弱な立場に置かれた女性や女児のエンパワーメントを促進するとともに、現地の雇用創出にも貢献しています。日本は今後も、官民および国際機関との連携を通じて、エチオピアの女性たちが自らの力で未来を切り拓(ひら)けるよう支援していきます。
伊藤忠商事㈱にて訓練を受けたエチオピア人指導者が技術指導する様子(写真:UNFPA)
技術研修受講者と受講者が作成した吸水ショーツ(写真:UNFPA)
(紛争下にある人々への支援)
パレスチナにおける若者の社会参画支援および青少年、こども支援の拡充プロジェクトにおいて、研修を受けた若者がこどもを指導する様子(写真:国境なき子どもたち)
紛争下においては、女性や女児のみならず、障害者やこどもを含む社会において脆弱な立場にある人々が最も影響を受けやすい点も看過できません。紛争や地雷などによる障害者、孤児、寡婦、児童兵を含む元戦闘員に加え、急増するこどもの難民や避難民などの社会的弱者は、紛争の影響を受けやすいにもかかわらず、紛争終了後の復興支援においては対応が遅れ、平和や復興の恩恵を受けにくい現実があります。
こうした観点から、日本は、児童兵の社会復帰や紛争下で最も弱い立場にある児童の保護のため、UNICEFを通じた支援を行っています。例えばパレスチナ・ガザ地区では、障害を負ったこどもたちも含める形で、心のケアや学習支援、家族と離ればなれになってしまった際の保護を実施し、新生児集中治療室を整備しています。また、ミャンマーにおける爆発物危険回避教育と地雷被害によるものを含む障害を持つこどもの支援、アフガニスタンやレバノンにおける性暴力の防止と被害を受けたこどもや女性の保護、シリアにおける教育支援や職業訓練等を実施しています。
また、日本は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて、難民・避難民の保護活動を行うとともに、その中でも脆弱な立場に置かれやすい人々のニーズに沿った人道支援を実施しています。例えば、ウガンダでは、難民に対する心理社会的支援を通じて、暴力や虐待、搾取からの保護活動や保健サービスの提供を行っているほか、ウクライナでは、戦火により住む場所を失った高齢者や女性が世帯主となっている世帯等、脆弱な立場におかれる人々に対して、居住シェルターの支援や法的支援等を実施しています(ウクライナにおける日本NGOの取組については、「国際協力の現場から」を参照)。
用語解説
- 紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF:Global Survivors Fund)
- 2018年ノーベル平和賞受賞者であるデニ・ムクウェゲ医師およびナディア・ムラド氏が中心となって創設した基金。紛争関連の性的暴力によって傷ついた生存者の多くが本来受けられるべき償いを受けていないという状況を背景に、生存者に対する償いや救済へのアクセスの促進を目的としている。生存者支援や救済のための司法制度の整備に関する啓発活動を行っている。
- 注84 : あらゆる分野でのジェンダー平等を達成するため、全ての政策、施策および事業について、ジェンダーの視点を取り込むこと。開発分野においては、開発政策や施策、事業は男女それぞれに異なる影響を及ぼすという前提に立ち、全ての開発政策、施策、事業の計画・実施・モニタリング・評価のあらゆる段階で、男女それぞれの開発課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセスのこと。
- 注85 : 2016年に策定された、開発協力における女性活躍推進のための課題別政策。
- 注86 : 2017年のG20ハンブルク・サミットで立ち上げを発表。開発途上国の女性起業家や、女性が所有・経営する中小企業などが直面する、資金アクセスや制度上の様々な障壁の克服を支援することで、開発途上国の女性の迅速な経済的自立および経済・社会参画を促進し、地域の安定、復興、平和構築を実現することを目的としている。
- 注87 : 紛争下の性的暴力防止に関する日本の取組については、外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pc/page1w_000129.html)も参照。
- 注88 : 女性の保護に取り組みつつ、女性自身が指導的な立場に立って紛争の予防や復興・平和構築に参画することで、より持続可能な平和に近づくことができるという考え方。2000年、国連安全保障理事会において、同理事会史上初めて、国際的な平和と紛争予防、紛争解決には女性の平等な参画や紛争下の性的暴力からの保護、ジェンダー平等が必要であると明記した「女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security:WPS)に関する安保理決議第1325号」が全会一致で採択された。
- 注89 : 第3次WPSに関する行動計画(2023-2028年度)の行動計画構成(5本柱):(1)女性の参画とジェンダー視点に立った平和構築の促進、(2)性的暴力およびジェンダーに基づく暴力の防止と対応、(3)防災・災害対応と気候変動への取組、(4)日本国内におけるWPSの実施、(5)モニタリング・評価・見直しの枠組み。
- 注90 : 国連加盟国のWPSに関する最大のネットワークで、教訓や好事例を共有。政府以外に北大西洋条約機構(NATO)、欧州安全保障協力機構(OSCE)、アフリカ連合(AU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)等の地域機構も参加。2025年11月現在、96か国・10地域機構の合計106のメンバーが参加。
- 注91 : 障害者の人権および基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等について定める条約。日本は2014年に締結した。
- 注92 : 第Ⅴ部2(2)を参照。
- 注93 : 「ネパール児童労働報告書2021」(Nepal Child Labour Report 2021) https://www.ilo.org/publications/nepal-child-labour-report-2021
