国際協力の現場から 03一般公募
心の回復を支える現場から─ウクライナでの心理社会的支援─
~紛争で傷ついたこどもたちを支える日本のNGOと現地スタッフの活躍~
地下シェルターに避難しながら行うPSSセッションの様子(写真左中央がピシャンスキー氏)(写真:GNJP)
PSSセッションの中で、夢中で絵を描くこどもたち(写真右中央がピシャンスキー氏)(写真:GNJP)
ロシアによるウクライナ侵略の開始から3年半が経ちます。多くの人々が避難生活を余儀なくされ、紛争が長期化する中、現地の状況は刻々と変化し、必要とされる支援は多様化・複雑化しています。
こうした中、こどもたちの心と体を守る支援活動を行う日本のNGOグッドネーバーズ・ジャパン(GNJP)と、現地の協力団体The Tenth of April(TTA)は、ジャパン・プラットフォーム(JPF)注1の助成を受け、国内で多くの避難民を受け入れているウクライナ東部のドニプロペトロウスク州で、脆(ぜい)弱な人々を対象に緊急人道支援を行いました。本事業を開始した2024年末時点で同州では約44万人が支援を必要とする中、GNJPとTTAは、一人ひとりの個別状況に応じた医療を含む支援を行うケースマネジメントを通じた保護活動に加え、心理社会的支援(PSS)を通じて、紛争で被害を受けた人々が尊厳を回復できるように心のケアを行うなど、現地の人々に寄り添う支援を行いました。
国内避難民の中には、こどもが9.6万人以上います。GNJPの池田裕美(ひろみ)氏は、「ウクライナのこどもたちは、家族との離別や死別、空襲の恐怖や将来への不安など、心理的ダメージを抱えている。私たちは現地のファシリテーターを介して、こどもたちに日本の心療内科・精神科医でPSSの専門家である桑山紀彦(のりひこ)医師が提唱する手法を基にトラウマケアを行った。」と説明します。その手法とは、絵や粘土を用いたアート表現を通じ、これまでの人生のつらい経験と向き合い未来への希望をグループの仲間同士で語り合うなどして、記憶や感情を整理し、心的外傷後ストレス障害(PTSD)発生の防止や心の健康を回復させる手法です。池田氏は本プログラムのコーディネーターを務め、現地ファシリテーターにPSSを効果的に行うためのスキルアップ研修を行いました。「日本の手法が受け入れられるか不安はあったが、ウクライナのこどもたちは表現意欲が旺盛で、積極的に取り組んでくれた。また、現地心理士が成人向けにPSSを応用してくれたことにより、1年余りで延べ2,267人、うちこども667人にPSSを提供することができた。」と、池田氏は取組の成果を語ります。
TTAのボグダン・ピシャンスキー氏は、現地ファシリテーターの一人として、地下シェルターや学校でPSSを行い、こどもたちを支えてきました。「PSSのセッションを行う中で、困っている子を周囲のこどもたちが自然に助ける姿が見られた。PSSを実施した学校では、生徒同士がお互いを受け入れ合うようになり、普段の学校生活にも良い影響を与えている。」と手応えを語り、「こどもたちが自己肯定感を高め、自ら回復する力を身につけられるよう支援していきたい。」と今後の取組にも意欲を見せています。
ピシャンスキー氏は、「日本からの現地NGOも活用した支援により、ウクライナの人々は安心して心のケアを受けることができた。ウクライナが大変な時に日本が隣にいてくれたことを私たちは一生忘れない。」と、日本への感謝を述べます。池田氏もまた、「日本のNGOの強みとしては、地元団体と協力しながら、複雑で幅広いニーズに柔軟かつ迅速に応え、顔の見える支援が提供できる点だ。」と、日本ならではの支援の意義を語ります。その上で、「ウクライナの支援ニーズは復興段階に移行しつつあると言われることもあるが、依然として緊急支援が必要な地域は多い。両方の視点から今後の支援を考えていく必要があり、PSSを含めた複合的な支援を継続していきたい。」と強調します。
ウクライナのこどもたちや人々は日々の困難を、希望を失わずに懸命に乗り越えようとしています。日本による、現地の人々に寄り添う支援は、今後も彼らが日常を取り戻す活力を生み出すことに貢献していきます。
注1 用語解説を参照。
